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シャーリー  作者: カメレオン
サブエピソード
45/47

S12後編⑪

すいません。予想を超えてボリュームアップしたのであと一話だけ増やします。大変申し訳ないです。

「でどうやって攻めます?」

 無事に和解を済ました私たちは戦闘の準備を進めている。

 「あ~やっぱり行く?」

 「行かない理由ある?」

 「そんなカラオケ行くみたいなノリで言われても困るんだが」

 カラオケは資料で読んだことがある。普通の女の子の暮らしに興味はないけど行けるなら行ってみたいところだ。

 「まず状況を整理するぞ。敵の戦力は?」

 「分からないけどアンドロイドは大方倒したと思う。銃声は聞こえないし多分小休止状態だと思う」

 アンドロイドもそこまで残ってなかったから精々20体前後居れば良い方だろう。それくらいなら武器があれば勝てる。

 「歩兵が何人残ってるかそこが問題だな。半分は先に殺してるからここに居るのが300超えるか超えないかそれくらいだとして半分は倒してると考えるか」

 雑な推定だがあながち間違いでもないと思う。こういう時の感というのが大事なのはここに来てから良く理解している。勿論基本の偵察、索敵も重要なのだがそれが出来ない状況ではざっくりと数を絞ることも必要だ。てか二人で索敵しても大して変わらない。

 「そこからあのデカブツなんかの超兵器が何体残ってるかそれが問題だな」

 そう。あのデカブツはすごく硬い。パイロットがお粗末なせいでその実力を半分も出し切れてないけどあの火力にあの硬さなら普通の敵なら十分すぎる戦力だ。恐らくフル装備の私でも倒し切ろうと思えばそれなりに手こずる。相手が熟練のパイロットなら負けも考える必要がある。

 「でもここで見たのはあの一体だけだよね?」

 「俺はここに居たから知らんがそうだとしても警戒を疎かにしていい理由にはならんさ」

 おっしゃる通りで。

 「それで一番厄介なのが例の狙撃アンドロイドか」

 「確か一体残ってるんだっけ?」

 「あぁ。お前の情報を基に考えるなら敵は第四監視塔傍の武器庫にいるんだろう。補給を後ろにして戦う方が安定するからな。最悪なことにそこのアンドロイドは生きてる。ここを攻略しないとどうしようもない。これが第一段階」

 「第二段階は?」

 「推定150もの兵隊の殺しをどうするか。二人じゃ無理だな。機関銃でもあれば別だが。

 でも他の皆もいるしなぁ。

 「他の連中をアテにするなよ。どれだけ消耗しているかもわからないんだ。多分来るとは思うが確定じゃないからな。敵の戦力の推定も命知らずな行為だが自分の戦力はさらに命知らずだ」

 考えを読むなよ。

 「じゃあどうすんです。特攻?」

 「それこそ馬鹿だ。郷田辺りが指揮を執ってたら最悪だな」

 言われてますよ郷田さん。多分私と同じこと考えてますよね。

 「そもそも二人で150人相手にしようって言うんだ。どうしてもリスクは負わなきゃいかんのだが気が進まん」

 言い渋るな。前からだ。前から勝手に考え込んで勝手に決めて郷田さんに殴られて。皆で話し込んで無茶な作戦を成功させてきた。まだ分かってなのかこの馬鹿は。

 「すまん。そんな目で見るな。だけど危険だぞ?」

 「今更でしょ?」

 無駄に死ぬような作戦なら止めるけど可能性あるなら賭けるさ。

 私の言葉に根負けしたのか隊長は深いため息をつく。

 「じゃあお前…狙撃やれ」

 「はい?」

 そんな会話から作戦はスタートした。



 「言ったのは私だけどさぁ。普通アサルトライフルで狙撃させるか?」

 現在私は第四監視塔の真ん前の建物の陰にいる。監視塔までの直線距離は200m。監視塔そのものの高さは分からないが恐らく10mほどだろうか。私はここから目の前の狙撃アンドロイドを狙撃しなければならない。しかもアサルトライフルでだ。

 出来るかと言われれば勿論できる。それがアサルトライフルではなくスナイパーライフルなら余裕だ。

 だけど本来アサルトライフルは狙撃に使うような銃でない。至近距離でドンパチするためのものだ。そりゃ後ろで後方支援しながらアサルトライフルで狙撃したこともあってけど普通こういう状況下でさせるかという話だ。しかも有効射程2㎞の化物相手にだ。

 隊長曰く「そのアサルトライフル多分人間が使うこと想定してないから普通より飛ぶぞ」とのことだった。確かにここの武器は良い。私には丁度良すぎるくらいだ。だけど隊長たちからすれば反動が強すぎて逆に扱いずらいそうな。なんでそんな銃を人間が持っているのかとか気になる点は山ほどある。だけど問題は狙撃を成功させてからだ。

 敵は視界に入った物を自動照準して素早く打ち抜く。AIの自動計算で必ず当てる。しかも威力は装甲車を貫けるほど。正直やってられない。加えてこっちはアサルトライフル。これはこれで良い銃だ。うちに欲しい。でもこれでアンドロイドの頭部を打ち抜くのは無理だ。腐ってもアンドロイド。金属だ。至近距離ならともかくこれだけの距離があったら打ち抜けるかまでは保証できない。

 だから私がやるのはカメラの破壊。相手は単眼アンドロイド。デカい目玉がついている。そこに当てれば私の勝ち。

 正直怖い。カメラは半分死んでるし、いつもの白い模様も見えない。弾道予測も正しいのか分からない。訓練では外したことは無い。実戦でもだ。でもこれだけ悪条件がそろった中の射撃がこんなに怖いとは思ってもなかった。

 昔、桜になんで訓練なんてするのか聞いたことがあったけどハッキリ言う。やっぱりこんな状況だと訓練しても意味ない。ないはずの血液が体中をめぐってる。心拍数まで聞こえてきそう。汗なんて出ないのに緊張して汗が出そう。

 あぁ。お前は良いよなぁ。多分私みたいに心なんて積んでないだろう。それ正解だよ。こんなものあっても無駄だ。ない方が確実に当てれる。こんなものがあるせいで余計に怖いし余計に辛い。

 「おい大丈夫か!」

 でも不思議だよな。すごく怖いのにすごく嬉しいんだよ。私を信じているその事実がたまらなく嬉しい。だから私はお前に勝つよ。

 私は建物から出て引き金を引く。時間はかけない。一撃で全てが決まるんだ。



 それが起きたのはS12が物陰に隠れているときだった。第四監視塔傍の武器庫にそれは現れた。全身血まみれで体には負傷しているのだろうか包帯が上から杜撰に巻かれている。恐らく敵に襲われたのだろう。彼の右肩にはもう一人男がいた。だけどその男は動かない。まるで死んでいるかのように。

 「誰か…助けてくれ」

 やっとの思いで彼が絞り出したのは助けを求める言葉だった。足元もおぼつかずゆらゆらと武器庫に迫ってくる。

 「おい誰か見てこい!」

 だがそんな男たちの様相を見てすぐに動く者はいなかった。当然だ。さっきまで戦闘をしていたのだ。敵は非道で残虐だった。味方を盾にして突っ込み、街に火を点けた。きっと今回も敵の罠なのではないか。そう疑う者が多かった。例え目の前の男たちが味方の軍服を着ていてもだ。

 「痛くて…すごく辛いんだ。こいつももうさっきから動かない」

 男はゆっくりと進んでくる。それはまるで死者の行進だった。

 「頼む。助けてくれ。俺たちは死にたくないっ」

 恐らく肩の男は死んでいた。そんなことは皆分かっていた。だけどその男は肩の男を手放さなかった。まるで生きているように彼を支えるのだ。

 「俺ちょっと見てくるよ」

 「おい!敵の罠だったらどうするんだ!」

 それは当たり前に起きる言い争いだ。どんなに可哀想でも死にそうでもこの状況下で後から来た奴を信じられるか。そんな彼らの思いが起こした言い争いだった。

 「じゃあなにか!死にそうな味方を罠の可能性があるから見殺しにしました!そんな言い分が通用するのかよっ」

 「そうだ!敵はクズだぞ!俺たちの仲間を盾にしたクズだぞ!そんな奴らがまだいるこの場所でどうして味方だからと無条件で信用できる!」

 どちらの言い分にも正当性があった。片方は倫理から。片方は合理性からの意見だ。両者共に正しく間違っている者などいなかった。だからこそ揉めるのだ。

 そんなことをしている間にも彼はゆっくりと迫ってくる。血を垂らしながら死にそうな息で。事切れた味方を支えて彼は来た。

 近くで見ればそれはさらに惨たらしものだった。恐らくはナイフで刺されたのだろう。事切れた彼には無数の傷がついていた。頭には銃弾のあとが。恐らくは何度もいたぶられたのだ。

 そして最後に撃たれた。拷問だったのかそれとも趣味だったのか。それは誰にも分らないがその状況だけは皆わかった。

 そして息をしている彼も耐えきれなかったのだろう。ついにその場で倒れこんだ。それは武器庫までもう少しの距離だった。

 「くそ!おい大丈夫か!」

 言い争いをしている片割れが走りこんでくる。そのときそれは起きた。銃声だ。たった一発の銃声が空間を支配した。それは遠い距離だった。距離にして200m。にその女は立っていた。

 そして女の銃口は見張り塔を向いていた。

 「狙撃アンドロイドから視覚情報送られて来ません!」

 誰がやったかは一目瞭然だった。何故か200m先の女の口が笑っているのをその場に居た全員が感じた。



 「作戦通りかな」

 隊長が負傷の兵をフリをして一旦アンドロイドの気を引かせる。あのアンドロイドは無条件で射程に入った者を攻撃するわけじゃない。味方と思わしき者なんかには必ず躊躇する。もしくは判断を仰いでるのかもしれない。だからこそこういうハッタリがよく効く。あれだけ怪我をしているように見えたら一々味方の確認なんかやっている場合じゃないからね。必ず直情型の良い人が出てくる。

 あとは私が当てるだけ。これが一番苦労したけど。

 「しかしまぁきょろきょろしてるねぇ!」

 私の狙撃を受けたアンドロイドは銃を持ちながらクルクルとその場を回転している。中々面白い光景だ。目が見えないっていうのはそんなにも怖い事のようだ。

 「まっ心理機能がなけりゃそんなものすら感じないんだけどね」

 だけどああいう光景を見ると思う。実は私達全員に心理機能があってただそれを言葉に出来るのが私達。出来ないのが彼ら。たったそれだけの違いにも思える。考えても仕方がないんだけど。

 「今はあっちをどうにかしなくちゃいけないかな」

 目の前を見れば銃を構える敵。表に出てきているのは40くらいだろうか。アンドロイド一体相手に大げさな。

 「撃てぇ!」

 そう号令がすると同時に銃弾が放たれる。遠目からだけど隊長はうまく入り込めたみたい。だとすればそろそろかな。

 敵の銃弾を避けながら相手に迫る。幸いにもここは障害物が多い。壊れた体でも十分に避けられる。きっと私たちが攻めてきたときのためにいくつか置いておいたのだろう。ありがたく利用させてもらいます。

 ときおり銃弾を敵に返す。目の前の一人が死ねばもう一人交代で出てくる。流石に数が多い。アサルトライフルの残弾も少ない。そろそろ隊長が仕事をしてくれないと厳しいのだがまだその気配はない。

 「撃て!撃ち殺せ!」

 「殺意込めすぎだろっ!」

 敵に銃弾を返す。残り100m。せめて懐に潜り込めればまた違うのだがこの距離だとよく弾が返ってくる。

 私の戦い方は大軍に潜り込んで内側から崩すやり方だ。こういう距離が空いた戦闘は弱い。それでも並みの兵よりは戦えるが正直こうも連続して撃たれると粗が出る。現に今銃弾が頬のすぐ傍を通った。いつ敵の銃弾が障害物を貫通するか分からないこの恐怖は中々辛いものがある。

 「おい!お前何をしている!」

 敵の銃弾にムラが出来た。今だ。ムラが出来た方向に向かって一気に走る。勿論手は休めない。一人でも多く殺す。いくら隊長が強くても人間だ。私よりは弱い。

 「だから一緒に戦わなきゃねっ!」

 敵の壁を崩した先に居たのは両手にマシンガンを持った隊長だった。

 「両手に銃を持つの疲れない?あとマシンガン二つはダサいよ」

 「やかましい!」

 そう言って隊長は私に片方のマシンガンを投げつけてくる。もらう前に後ろの敵を一人殺しておく。

 「また随分と殺したなぁ。何人やったの?」

 「さぁ?誰かさんが目の前でバスバス殺してたからやりやすかったよ。サンキュー」

 このクソ爺。それでもこの数は削れないだろ。30人はいるぞ。私達は弾をバラまきながらゆっくりと壁際に下がる。

 片手にマシンガン、片手にアサルトライフルを持ちながら面制圧と点の制圧を同時に行う。壁際沿いに置かれている戦車を盾にしながら的確に削っていく。

 「しかし…切りがないけどこのままマシンガンとアサルトライフルだけじゃ先にこっちが死ぬと思わない?」

 「一応起死回生の一手があるにはある」

 「なに?」

 「二階の角部屋にロケットランチャーを発見してなぁ」

 「…ここで撃ったら全員死ぬと思わない?」

 「外側の敵を吹き飛ばす分については有用だと思うが?」

 敵は内側からの攻撃と外側からの挟撃で崩れている。とはいえこの銃弾の雨の中を走るのはごめんこうむりたい。

 「行かなきゃダメ?」

 「…」

 私の懇願に対し沈黙で答えるあたり良い根性していると思う。だけど少しづつ敵も立て直し始めてる。敵に使われる前に盗まなきゃいけないのも事実だ。

 「分かりましたよ!行けば良いんでしょ!行けば!」

 「おう!頼んだぞ!」

 この戦闘が終わったらやっぱりもう一度殴ろう。そう誓って私は銃弾の雨に飛び込んだ。



 S12達が武器庫を強襲しているころガーデックはホーネットを連れて現状出せる速度の限界で武器庫まで向かっていた。

 ガーデックが急ぐには理由があった。第一の理由としては武器庫に全兵力を置いてきたからこそそこをやられるとこのキャンプ地が本当の意味で壊滅するということ。二つ目の理由としてはあそこの地下室にはガーデックのコックピットが置いてある。

 ガーデックは外部のコックピットとネットワークを繋げておりそこからの操作で動く仕組みになっていた。これはガーデックがやられてもパイロットの死亡を防ぐための仕組みである。欠点としては万全の操作を行うためにはガーデックとコックピットに物理的距離を置くことが出来ないと言う致命的な弱点があるのだがキャンプ地で運用する程度なら問題はなかった。

 だからこそ彼は急いでいた。本来なら憎い郷田達を皆殺しにしてから向かいたかったがそんなことよりも自らの命の方が大事だったのだ。

 コックピットから出て本人も応戦すればいい話ではあるが彼はS12に生身で勝てる気がしていなかった。あのアンドロイドとは思えない柔軟な動き、型にとらわれない自由な戦い、なにより攻撃が当たらない。

 ガーデックだからこそS12と渡り合えた。ガーデックでなければ彼は自らが赤い花を咲かせることを悟っていた。だからこそS12達がコックピットに気付いてない今のうちにガーデックで確実に殺す。それが今の彼の目的だった。

 「…なんだこれは」

 武器庫にたどり着いたガーデックが口にしたのは怒りでも悲しみでもなく驚愕だった。それは赤い花だった。ガーデックもS12も散々咲かせてきた赤い花だった。

 「全員殺したのか…」

 「言わないと…分からない?」

 だけどその花の数は今まで見たものの中でもっとも多い。そこは一つの花園だった。

 「どうやって…」

 「やりあえば分かるだろう」

 そして今その花園には二人の敵がいた。体を真っ赤に染めた二人の敵が。

 「…殺す…殺してやる!」

 そしてガーデックは走り出す。もう言葉は要らなかった。



 流石に二人で150人を殺すのは厳しかった。あのあと武器弾薬がある二階を押さえたところまでは良かったがやはり数の差というのは偉大だ。正直何度死を覚悟したか分からなかった。

 ロケットランチャーをぶっ放すのにも苦労した。初めて撃ったが間違いない。あれは室内で撃つものじゃない。しかも味方の援護なしで撃ったらロクな目に合わない。正直あれが一番死を覚悟した。威力は凄かったけど。

 途中から敵に人殺しとか馬鹿野郎とか散々なことを言われたけどめげずに戦った私を誰か褒めて欲しい気分にすらなった。

 「でも間違いなく目の前のこいつは褒めてくれないよなぁ」

 デカブツは虫に近い見た目をした気持ちの悪い兵器を連れている。デカブツ本体も何やらブツブツと言いながら攻撃を仕掛けてくる。これがまた恐ろしく精度が良い。正直同じ人間が操縦しているのか疑問に思う程度には良い。

 「…殺してやるっ!」

 そして極めつけはこれだ。操縦者の顔を見なくても分かる。間違いなく言葉が通じない。完全に頭に血が上っていた。なのに攻撃の精度は増している。正直虫のような兵器より今はこいつが気持ち悪かった。話が通じないほど怒っているのに攻撃の精度は上がり攻撃は多彩になる。それが今は途方もなく気持ちが悪い。

 「うるせぇよ」

 マシンガンを片手で撃つ。アサルトライフルは捨てた。こいつ相手に両手を使うのは避けたかった。今はまだ戦えているが正直隊長の方が怪しい。痛み止めが切れてきたのかさっきも危ない場面がチラホラとあった。本人も苦悶の表情を浮かべている。このまま逃げることも考えた方が良いだろう。

 「隊長、悪いですが援護するんで一度避難して貰ってもいいですか?正直隊長抱えたまま戦えるほど余裕のある相手じゃないです」

 茶化している余裕はなかった。互いにそれが分かっていたからこそそれだけで通じた。私の言葉を聞いた隊長はすぐに戦線を離脱するための準備を行う。

 だがそれをさせないと言わんばかりに虫が襲ってくる。S4姉さんのてんとう虫に近い物があるがこっちの方がよっぽど攻撃的だ。

 虫が足を止めデカブツがとどめを刺しに来る。古典的な攻撃手段だが兵器一つでこうもやっかいになるとは思わなかった。デカブツだけでも厄介な現在。隊長を逃がしたところで生き延びれる自信はない。

 「避けろ!」

 その言葉が来た時体は半歩下がっていた。顔の前を銃弾が通り過ぎる。見えなかった。視界の視覚を突かれた。

 さっきまでの戦いは良かった。背後を奪われない壁を背中に出来たのは大きかった。視界のロスを防げるからだ。だけど今回は違う。敵は立体だ。立体的に動く。見えないことが苛立たしい。本当にムカつく。せめて両目を使えたらそう思わずにはいられない。

 少しずつ虫の数を減らしてはいるが一向に攻撃が止む気配はなかった。

 「隊長弾薬の余りはどれくらいありますか」

 「悪いがそこまで余裕はない。キツイか?」

 「えぇ。正直ここでやりあってると死にます」

 隊長は私の言葉を聞き舌打ちする。隊長も分かっているのだ。このままだとまずいことを。

 「ロケットランチャーで皆殺しに出来るか?」

 「無理でしょうね。避けられて終わります。てか私が撃たれて死にます」 

 いつもの模様が見えるならそれも手だった。だけど模様が見えない。安全領域が分からない。その事実が戦闘の難易度を跳ね上げる。自分の技量不足を痛感する。

 「グレネードの類は?」

 「フラッシュグレネードならさっき盗みましたが」

 「機械には効かないよな」

 正直万事休すだった。このままだと勝てない。それが確実だと思い知らされる。

 「逃げようにもこれじゃあ無理ですよね」

 「だな。ここで生き延びるなら勝つ以外ないなぁ」

 「弾薬もないなかで?」 

 「そうだ」

 また無茶を言う。だけどそれしか選択肢がないのも事実だ。逃げようにもこの数が相手だと無理だ。しかもこいつらカメラを壊しても動く。まるで見えているかのよう動くのだ。恐らくあのランチャーアンドロイド兄弟と同じくネットワークでもあるのだろう。確実に破壊する以外で動きを止める手段はなかった。

 「せめて味方がもう少しいればどうにかなると思うんだが」

 ふと隊長がそんなことをぼやく。そう言えば皆の姿が見えない。流石にこれだけドンパチやってれば来るはずなのに一向に来る気配がない。

 「隊長そう言えばインカムは生きてますか?」

 「いや。大分前から死んでいる」

 嫌な予感がした。背中に寒気が走るのを感じた。不安が波となって襲ってくる。

 「隊長どうしてみんな来ないんですか?」

 言葉が震える。不思議と銃を握る手まで震えてきた。落ち着けと自分に言い聞かせる。

 「…分らん。だがこれだけ待っても来ないことを考えると…」

 隊長はその先を口にしなかった。不思議とその先の答えは私にもわかった。どうしてこの虫たちに傷のついた個体がいるのかも理解出来てしまった。なぜこいつらは後から来た?なぜこんなにも遅れてきた?

 そんなものは決まっていた。こいつらが部隊の皆を殺してから来たから。それ以外の理由はなかった。

 「隊長しばらく隠れてください。何だったら援護するので戦車の中にでも入ってください」

 隊長は一瞬迷うような素振りを見せてから走った。それでいい。

 不思議と怒りは沸いてこなかった。それどころか頭の中は段々冷たくなっている。

 きっとこれを殺意と呼ぶのだろう。隊長に感じた怒りとは違う全く別の感情だった。これだけ敵を殺しておいて我ながら虫が良いとは思う。それでも今はただ目の前のこいつらを殺したい気持ちが溢れていた。



 潰れた片目を補うように動けばいい。それだけの話だった。さっきと同じ。よく見る。ただ走る。欲しい結果を想像する。片目が潰れても、手と足が思うように動かなくてもそれを引き寄せる。

 正面の虫は15体。側面に5体。計20体。まずはこいつらからだ。マシンガンの威力に頼らない。無駄な消費を避けるために撃つ量は少量。結局アサルトライフルの方が良かったかもしれない。後で回収しよう。

 敵の攻撃のリズムを読む。ネットワークで繋がっているならあのアンドロイド達と同じようにリズムがあるはず。それを良く読む。規則性を探る。これだけの虫全てに高度なAIを積んでいるとは思えない。どこかで一括管理してるはず。ならそのリズムを読めば必ず弾は当たる。

 虫の一匹が銃弾を撃ってくる。それを避けるともう一匹が。減速したところでデカブツが。基本のコンビネーションはこれ。じゃあ動く順番は?

 一番愛用している虫はどれだ?銃を下げ様子見に徹する。足が限界なのか負担がかかっていることが分かる。警告アラートが脳をガンガンと鳴らす。痛い。酷く頭が痛む。でも負けることもここで下がるつもりもない。

 警告アラートを無理やり黙らせる。これは私の体だ。足がちぎれようが、腕がちぎれようが戦うのは私だ。黙ってろ。

 体の限界を超えて私は走った。ただひたすらに走る。自分から進んで的になる。それを追いかける虫たち。やっぱりだ。動く虫にも偏りがある。じゃあ動いてない虫はどうだ?

 体を動かしながらマシンガンを撃つ。当たった。でも落ちないからもう二発。今度も当たった。

 虫たちの動きがぶれる。やっぱりそうだ。こいつら半分手動だ。多分AIを積んでいるけど完全に自動じゃない。多分さっきの狙撃型アンドロイドみたいに決められたパターン内でしか行動できないんだ。そして肝心の捜査担当はS4姉さんみたいに操作に長けているわけでもない。

 「なら崩すのは簡単だ」

 デカブツに対してマシンガンを撃つ。弾切れを考えないでひたすらに撃つ。敵のほとんどは殺した。なら動かしているのはこいつを置いて他にない!

 「ちっ!」

 デカブツから焦りが伝わる。一生懸命踏みしめているコンクリートが割れる。動きが止まった。

 「今です!」

 戦車が動き出す。そして戦車の進路上にいるのはデカブツ。勿論動かしているのは隊長だ。虫たちが隊長に向かってひたすら発砲する。だけどその程度では戦車は止まらない。そしてデカブツ、お前対戦車武器積んでないだろ?

 最高速度時速60キロにもなる戦車が今デカブツにぶつかった。

 「舐めるなぁ!」

 デカブツも負けじと押し返す。だけどそもそもの馬力が違う。戦車は40トン近い重さの物が多い。それに捕まって押し相撲の体勢を取れるだけ大したものだが今そんなものはいらない。

 「お前の負けだよ!デカブツ」

 わたしは全ての虫を叩き落とす。恐らくこいつらは奇襲専用に開発されたのだろう。実戦配備のテストを受けている最中だったのかもしれない。

 「でもあまりにもお粗末だ」

 もっと凄い虫型ドローンを操る女を知っている身からすればただの玩具に過ぎない。当てることさえ出来ればどうとでもなる。

 デカブツがゆっくりと外に押し出される。

 味方の死体と共に。ゆっくりと着実に。片方の車輪が走っているが仲間の血肉に遮られる。

 弾切れになったマシンガンを捨て去りロケットランチャーを拾う。最後の一発だ。

 「さようなら!」

 ロケットランチャーはデカブツの顔を捉えデカブツを後方に吹き飛ばす。そしてとどめが刺される。戦車のキャタピラはデカブツを踏み潰す。戦車がデカブツを踏み潰した。最後まで力押しで戦ったこいつらしい死に際だ。

 「それじゃあ操縦者を探すか」

 隊長が戦車から出てくる。まだデカブツは戦車の下でもがいているがこうなればどうあがいても抜け出せない。結局は操縦者がお粗末なのだ。

 デカブツが抜け出せないことを確認して私達は武器庫の捜索に乗り出した。



 「ねぇ隊長」

 「なんだ?」

 「隊長は皆が殺されたのにあんまり動揺してなかったよね。それどころか随分と落ち着いてた」

 二人で武器庫の捜索をしていると地下室を発見した。だけど疲弊しているのかすぐに乗り込む気分になれず少し休憩している。

 その間にさっきのことを聞いてみた。

 「まぁな。あんまりよくはないんだが慣れるんだよ」

 「慣れる?家族の死に?」

 「あぁ。なにより自分が散々殺してきたからな。死んだらムカつくんだがそれ以上にお疲れ様っていう気分になる」

 隊長の言うことは分からない。まだ私に経験が足りてないのかもしれない。

 「お疲れ様ねぇ」

 「こんなことやってるとな自分の死にも人の死にも無頓着になる。だから俺は殺すことにも慣れてきて嫌になったんだが。それ以上に味方の死にも無頓着になるんだよ。悲しいとかムカつくとかそれ以上にあぁ死んだんだなって気持ちになる」

 味方の死に無頓着か。私には一生理解できない感覚かもしれない。少なくとも今はそんな気分になることはできない。それどころか敵に対する殺意はまだ残ってる。操縦者生きてるし。

 「まっだからって仇を討たないわけじゃないんだがな。ほら行くぞ」

 そう言って歩き出した隊長の背中は今日あった時より辛そうに見えた。



 地下室の扉は巧妙に隠されていた、というよりも戦車の初期駐車スペースにあった。きっと出入口が他にもあるのだろうがとりあえずはここから入ってみることにする。

 「隊長は怪我の調子良くないでしょ。私が行くんでバックアップお願いします」

 実はこういう潜入任務っぽいものは初めてだったりする。基本は山賊らしく奪えや殺せだ。だからこんな風にこそこそ様子を伺うのにも実は憧れがある。

 「却下だ。片目が見えないやつが先に行くなんてねぇよ。お前が後ろだ。下がれ!」

 「あう!」

 ポニーテールにまとめてある後ろを掴んで隊長は私を後ろに投げ飛ばす。アンドロイドに乙女の感覚はないが腹立たしい。

 「死んでも知りませんよ?」

 「死ぬならさっきので死んでるさ」

 戦車とはいえデカブツ相手の交通事故。体の負担は相当なものになる。私はバックアップをしながらも隊長の様子に気を付けることにした。

 


 地下室に降りると初めに目に入ったのが廊下だ。それは白い蛍光灯に照らされた長い廊下だった。部屋は一つもない。奥に一枚だけ扉がある。

 隊長は私にハンドシグナルを出す。ついてこいの合図だ。

 ゆっくりと警戒を持ちながら長い廊下を進んでいく。その扉はいかにもな雰囲気を出していた。硬くそして重そうなそんな扉。扉は両開きになっており恐らく内側から鍵をかけるようになっているのだろう。私達が押しても開かなかった。外側に鍵はない。

 ハンドシグナルで前進か後退かを聞く。現状任務の目的はこなしているはずであり本来ならそのまま信号弾を上げて味方の到着を待てばいい。だけど私たちはこの地下室に無性に惹かれていた。そこがどんなに危険でも進んでみたかった。

 隊長がハンドシグナルを出そうとしたその時だった。

 「ひっいいいい!」

 いきなり扉が開いた。

 「動くな!」

 アサルトライフルを突きつける。目の前に居たのはこれまた筋骨隆々な男だった、恐らく元々軍の所属だったのだろう。いかにも正規兵って感じだ。

 「頼む!撃たないでくれ!お願いだ!」

 とりあえず無言で床を打つ。

 「ひっい」

 「それを決めるのはこっちだ。言えここはなんだ。何故お前は怯えている」

 隊長が尋問する。

 「分かった…喋るから、喋るから撃たないでくれ」

 男はゆっくりと呼吸を整えながら言葉を発した。

 「ここは政治部から送られてくる新兵器の実験場なんだ。君たちがさっき戦ってたガーデックの操縦席もここにある」

 「ガーデック?」

 「あのデカブツのことでしょう」

 男は私の言葉に必死に頷く。

 「私は西本指揮官の操縦中の護衛兵として君たちの戦闘を見ていた。君たちがガーデックから勝つのもだ」

 「それで俺たちが勝ったから怖くなって逃げだしたと?」

 「あぁ。でもそれだけじゃない。君たちが勝った瞬間に西本指揮官が死亡したんだ」

 「「…はぁ?」」

 それは私たちにとって胸糞悪い情報だった。



 逃げようとした男を捕まえて操縦席まで案内させる。そこには良くわからない大型の機械がいくつもあった。

 そこには地下なのに窓があり窓の先にはさっき倒したガーデックが複数並んでいた。窓を覗き込むと上には開閉式の天板ありあそこから出撃するようになっていたのだろう。

 そして肝心の操縦席だがそれは靴型の構造をしていた。背中と首を固定するような仕組みになっている。腕にはいくつかの操縦レバーが。

 「こりゃ酷いな」

 そして肝心のパイロットは顔を水風船のように膨らませて死んでいた。よく見れば指も太い。だだの水膨れというわけでもなさそうだ。

 「悪いけど手伝ってくれ」

 隊長が西本を引き上げようとするが怪我もあり思うように行ってない。西本の背中を引き上げるようにして持ち上げる。

 「隊長これ?」

 「あぁこっちにもあるな」

 西本の首元には注射痕があり、首の固定具には謎の針が刺さっていた。



 「ねぇ隊長結局仇は討てなかったですね」

 私の言葉に隊長は耳を貸さない。それどころかひたすらに操縦席を調べている。

 「…はぁ」

 私もあの謎の機械のことは気になる。だけど今調べてもここで分かることはない。機材もなければ人でもない。それでも隊長が調べるのは軍への報告義務なのかそれとも討てなかった仇を他で紛らわしているのか私には判断がつかなかった。

 「あのぉ」

 「うん?」

 護衛兵が話しかけてくる。

 「私はいつになったら解放されるのでしょうか?」

 正直皆殺しにする気分で戦っていたが今はそんな気分でもない。それどころかどうでもいいと思う気持ちすらある。あんなに溢れていた殺意さえもどこかへ霧散していた。

 「さぁね。それよりここのこと聞かせてくれない?」

 「いや…それは機密の方が…やっぱり通用しませんよね?」

 私の顔を見ながら話す護衛兵。この短い期間で私の扱いを覚えたようだ。



 護衛兵と向かい合って話を聞くことになった。

 「ここは元々埼玉に送る新兵器の実験場として作られたキャンプなんです」

 「あぁそれで妙に欠陥のある兵器が多かったのか」

 単眼の知能の低い狙撃アンドロイド、どう見ても手動制御が入ってる虫、そしてガーデック。どれも戦場に出すのは厳しい兵器だ。ましてS4姉さんとS2姉さんがいる戦場ならなおさらだ。

 「えぇ。その欠点をどう直して兵器の魅力をさらに向上させるかを探る。それが私達の任務でした。そのためのテストとして選ばれたのが」

 「私達自由派の兵士ってことね」

 そう考えるとつじつまが合う。どの兵器も欠陥品ながらもその特色にあった使い方をしていた。恐らく合理派の特化型兵器の開発の一つだったんだろう。

 「それで…あれは?」

 私はブクブクに膨れ上がった西本を指差す。

 「あれは分かりません…」

 「だよねぇ」

 分かってたらとっくに情報を吐いただろう。

 「でも…」

 「なに?」

 「いや…今兵士の間で流行っている薬がありまして。こんな世の中ですからまぁ云わば覚醒剤に近い物とでも言いましょうか。もしかしたらそれの副作用かなぁなんて」

 「副作用ねぇ」

 正直あんまりあてにならなそうな話だ。

 「仕方ない…君手伝って」

 「はいっ?」

 「はい?じゃない。この辺りのコンピューター探るから手伝えって言ってんの」

 だけど彼は動かない。全く動きの悪い奴だ。

 「なに怯えてんだ。早く手伝えよ」

 段々こっちもイラついてくる。なんで私がこんな思いをしなくちゃならない。

 だけど彼は動かない、それどころかますますその怯えは大きくなる。まるで私よりも怖い物があるような。そんな表情だ。

 そんな時だった。

 「残念だけどそれは諦めて欲しいなぁ」

 その声は子供の用に無邪気だった。

 「誰だ!」

アサルトライフルを構える。隊長も武器を構えている。

「それも答えられないんだけど…まぁラスボスみたいなものかなぁ」

その声はスピーカーを通じて地下室全体に響く。

「おい!あれを見ろ!」

隊長が指を指したその先にはガーデック達がいた。ただそれはさっきまでとは様子が違う。複数のガーデック。数は10機はあろうか。それらすべてが起動していたのだ。

 「ごめんねぇ。悪いけど死んでくれない?」

 ラスボスを名乗った無邪気な声はまるで子供のようにそう言った。


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