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シャーリー  作者: カメレオン
サブエピソード
44/47

S12後編⑩

流石に次で終わるはずです。本当は今回で完結させるつもりでした。

「それで攻めると言っても攻め手はあるんですか?」

 燃え盛る炎の前で作戦会議は行われた。あのあとのひと悶着もどうにか落ち着いたものの未だ部隊の空気は悪い。

 「あると言えばある。ないと言えばない」

 「とんちですか?」

 「ちげぇよ馬鹿。実際にないから言ってんだ。まずこっちの兵力は元が50。それが5人死んで45。一人抜けて44だ。もう一人いるにはいるが連絡のつけようがない。数えんでいいだろう」

 S12と指揮官である沖田のことだ。

 「そこから残ってる武装はいくらだ?爆薬、手榴弾、スモークグレネードの類は売り切れ。ハンドガン、アサルトライフル、ナイフなどの武器はあるが精々そんなもんだ。バイクもあるが使い物にならん。こんな状況で取れる手は?」

 「分かりません。普通なら撤退です」

 「頭使え。簡単な話だ。敵の指揮官取りに行く。それだけの話だ。恐らく敵は指揮官の指揮があって撤退したんだろう。つまりまだ指揮官は生きている。残りの敵の戦力は恐らく中隊一個程度だろう。それ相手に正面からやるのも阿保らしい。結局は奇襲。これに終わるのさ」

 郷田の言っていることは事実だった。兵も少なく武装も少ない。加えて撤退が許されない状況下において取れる選択肢は少数。指示を無視しての逃亡か奇襲と言う名の特攻。幸いにも日が昇るまでまだ時間はある。それを実行することは可能だ。

 ただ武器も地形的有利もない状況でどのように奇襲を行うのか。その方法だけが分からない。結局は相手の隙を伺って味方を殺し、敵を殺し肉の壁を踏みつけて敵を殺しに行く。それ以外の方法は残されていなかった。

 「結局は特攻じゃないですか」

 「そうだな。でも頼みの武器がな。ほら」

 そう言って郷田は後ろを振り向かせる。そこには恐らく大量の爆薬も装備もあったのだろう。よく燃える炎がそれを証明していた。

 「さて…問題は特攻でも普通にやったんじゃただの集団自殺だ。これから限界まで勝率あげるぞ。死にたくなけりゃ真面目にやれ」

 「真面目にやったところで変わらんがな」

 それはすぐ傍から聞こえてきた。それは郷田達の警戒の外から来た。今まで眠っていたガーデックが突如として動き出したのだ。

 「おいおいまじかよ」

 「特攻か。確かに良い手だ。だがそれをさせる気はない!」

 ガーデックが立ち上がる。爆風とS12にやられたダメージのおかげか動かすのも一苦労している。だけどその威圧感は郷田達に油断させることをさせなかった。

 「全員!隊列を組め!すぐに敵の増援が来るぞ!」

 郷田が指示を飛ばす。それは現状における最適解だった。もしここに、郷田達に事前の情報があればこの選択は取らなかっただろうが。

 「もう来ている」

 それは頭上からの射撃だった。聞きなれた乾いた音が突如として頭上に降りかかったのだ。

 パンッという音共に味方の頭が弾けた。それは潰れたザクロのようだった。

 思わず郷田達は上を見る。そこには奇妙な物が空を飛んでいた。色は銀色。小さなスラスターを短く噴射しながら空を自由に飛ぶ。

 カメラと思しき顔があり、体には不釣り合いな大きな銃。それは醜悪な兵器だった。今まで見てきたアンドロイドとは異なりただ人を殺すことに特化した空飛ぶ銃。虫のような体がそれをなお際立たせる。

 気づけば空はそんな奇妙な兵器に支配されていた。数にして30。たった30体の兵器が郷田達に絶望を運んできた。

 「ホーネットだ。正直まだまだ問題点が多く使い勝手が悪いのだがこんな状況なら十分すぎる兵器だ。よろしく頼むよ」

 ガーデックとホーネット二つの恐怖が郷田達を襲った。



 「全員散れ!一人でも多く逃げろ!」

 それが郷田の出した指示だった。ホーネット一つで郷田達は苦戦どころか窮地に陥っていた。地上からは類まれなる火力を保持するガーデックが。空からはホーネットが。この二つの組み合わせが予想をはるかに超える火力を生み出していた。

 地上のガーデックの攻撃を避けながら上のホーネットを打ち落とす。それは人間では困難なことだった。同時に二つのことを行うのは難しい。よく認知症の予防テストなどでじゃんけんをして右手で負けて左手で勝つなどという訓練があるがこれはその何倍も難しい。

 上からの狙撃に怯えながら地上の化物の相手をする。しかも地上の化物はとんでも火力だ。郷田達は次々と死者を出していた。

 「やった!一体落とした!」

 「馬鹿!気を緩めるな!」

 ごくまれにホーネットを一体落とす者も現れるがそれは本当に稀だった。大抵の者は空を自由に飛ぶこの生き物のような兵器に銃弾を掠らせることすら出来ないのだ。

 「よくもさっきは追いかけまわしてくれたな」

 「あっ?根に持ってんのか?ならもう一回やってやろうか?」

 郷田とガーデックが相対する。だが郷田一人ではその火力を受け止めることなど出来ない。現に郷田がどれほど発砲してもガーデックは他の武装を使い確実に味方を削るのだ。アンドロイドであるS12を相手にするならともかくとして人間相手にガーデックは過ぎた兵器だった。

 「いらんわ!それに今お前たちを追いかけるのはどっちだ?」

 「おっしゃる通りで!」

 そして郷田自身も既に余裕はなかった。度重なる連戦、指揮官の不在これらのトラブルは確実に部隊の人間を弱らせていた。それはグレイブのメンバーとて例外ではない。

 (弾倉はあといくつある?残りの弾数すらもう分らん!)

 思考が途切れたら死ぬ。そんな状況だった。だが現場は常に郷田に新たな情報を与える。

 「来るな!来るなぁ!」

 パンっと音共に肉が爆ぜる音がした。もう今日何度聞いたか分からない音だった。振り返ればそこにいたのは郷田に食ってかかった後続組の少年だった。

 「畜生っ!」

 死なせたいわけではなかった。なにも郷田も好きで死地にいるわけではなかった。戦うことは好きだった。それでも楽な現場ならそっちの方がいい。死ににくい現場の方が楽しい。郷田は戦闘狂ではあったが命をいたずらに捨てる人間ではなかった。

 ただ死なないための道を探していた。死なないために無茶をしてきた。それだけの人間だった。だが実体はどうだ。郷田達が戦う選択をしたことにより死体が積み上がり自分の命までも脅かしている。その現実がただ郷田を苦しめた。

 「郷田さん!危ない!」

 味方の一人から声がした。気が付けばホーネットとガーデックの照準は郷田に合わさっていた。

 両方避けることは不可能。避けても必ず片方が当たる。そんな位置。郷田はすかさず右に大きく飛んだ。だがホーネットの凶弾は郷田の右脚を打ち抜いた。

 「ぐあっ!」

 その凶弾は郷田の肉だけでなく大腿骨を的確に砕いていた。絶対に走ることも飛ぶことも出来なくなる。致命的な損傷だった。

 「ようやくだ。ようやくこの手でお前たちを追い込むことが出来た」

 ガーデックはゆっくりと郷田に迫る。

 「思えば長かった。街に火を点けるなんて手段で兵の半分ほどを削られ味方を盾にされ」

 ガーデックは郷田に銃弾を撃ち込んでいく。だがいずれも致命傷を避ける位置だ。

 「こんな戦争だ。特別味方意識何てものはないさ。でもなぁ多少はあるんだ。その多少っていうのが思ったより大きくてなぁ!」

 やがてガーデックは郷田を見下ろす位置にまでたどり着く。その姿からは言葉にならない怒りが伝わってきた。

 「ようやくお前たちをぶっ殺せるんだ。教えてくれよ?俺の仲間はどうやって死んで行った?」

 「郷田さん!」

 味方の一人が助けに来る。

 「邪魔をするなよ!」

 だがホーネットがそれを遮る。ホーネットの凶弾が助けに来た味方を追い込む。その凶弾は頭蓋ではなく胸部に当たった。

 「そこで大人しくしてろ」

 ホーネットは不思議と大人しく彼の周りをふわふわと飛んでいる。命令がないと動けない仕組みなのだろうか。

 「お前たち見てるとなぁすごく腹が立つんだ。さも自分たちは悪いことしてませんって面でバンバン撃ち殺して。自分たちが死ぬなんて思ってもない面でなぁ。それがたまらなく腹立たしい」

 郷田の周りをホーネットが囲む。気づけば味方の銃声が少ない。

 「だから出来るだけ惨たらしく殺そうとずっと思ってた。今日襲われてからずっとだ!」

 ガーデックの銃口が郷田を捉えた。撃つつもりだった。撃って鮮やかな花を咲かせてやるつもりだった。だけど郷田の目がそれを阻止する。郷田の目はガーデックのその先を見ていた。それをパイロットも感じ取ったのだろう。銃口がぶれる。

 「どうした?やれよ?」

 郷田が煽る。そこには凄みがあった。怒りも恐怖もない。ただ殺されるという事実を受け止めるだけの目。その目にパイロットである指揮官は確実に追い込まれていた。恐怖したのだ。沖田とは違うこの男に。自らの命を沖田とは違う意味で投げ出すこの男が只々怖かったのだ。

 両者に緊張が走った。喉元を唾液が走る。体がすくむ。操縦席越しであるにも関わらず対面しているかのような恐怖。その恐怖にパイロットは耐えきれなかった。

 「っう!」

 パイロットが引き金を引く。その瞬間だった。

 「指揮官!応答願います!指揮官!」

 それはガーデックの操縦者に向けられてのものだった。思わずトリガーから手を放す。

 「どうしたなにがあった」

 目の前の郷田には悟られないよう話す。

 「敵の攻撃です!どういうことですか!部隊の方はそちらで強襲をしかけるはずでは!?」

 それはあり得ないことだった。ホーネットを使い確かに敵の部隊がここに集結していることを確認していた。別動隊に裂けるほどの兵力はいない。そのはずだった。

 「数は!敵の兵力はいくらだ!」

 「二人です!」

 「…なんだと?」

 「だから二人です!たった二人で攻め込んで来たんですよ!」

 それは予想外の返事だった。全歩兵は全てコクピットがある第四監視塔傍の武器庫まで集めた。その数はおよそ150人。二人で殺しきれる数ではない。

 「見た目は!性別は!」

 だけど指揮官にはひとつの確証があった。あいつならやりかねないと。たった一人のアンドロイドが頭に浮かぶ。

 「女です!人型の女アンドロイドです!それと男!どちらもべらぼうにつよっ」

 味方の報告が途切れる。なにがあったのかは想像がついた。

 今指揮官の脳裏に恐怖が走った。それはガーデックに乗って初めての生命への恐怖。指揮官は今地上がどうなっているかは分からない。だがあの楽しそうに戦場を掛ける女アンドロイドが只々恐ろしかった。


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