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シャーリー  作者: カメレオン
サブエピソード
43/47

S12後編⑨

時間が(以下略)

 「敵部隊が引き上げていく?」

 出入り口付近を固めていた部隊が敵の異常に気付いたのはS12が巨大爆発を起こしてからのことだった。

 「追撃しますか?」

 「いや…これ以上はやめとこう。こっちの弾薬も残り少ない。インカムで隊長たちと連絡をとろう。損害確認急いで!」

 現場の指揮担当がそう言うなり彼らはそそくさと行動する。現場は敵の銃弾を浴びた者が多数おり死屍累々と言って差し支えない有様だった。これが沖田や郷田達ならもっと損害も少なく、なおかつその状態でも戦闘を続行するあたり彼らとの練度の差が伺える。

 だが彼らとて無能ではなかった。わずか40人程度の人数でここまでの善戦をしたことは褒められるどころか勲章すら貰ってもいい話だ。実際千葉の戦いで彼らは沖田達ほどではないが立て続けに戦闘に繰り出されている。経験は他の者より豊富だった。

 「隊長連絡取れません!」

 「戦死したか?いや…あの化け物共が死ぬとも思えないよなぁ?」

 思わず周りに確認を取る。周りの反応もそれはないといった感じだ。

 「とりあえずグレイブの人たちに連絡とって。それが無理なら一度戦線を離脱しよう。正直ここまでやれば十分でしょ」

 だがいくら経験が豊富とはいえ好き好んで戦場に出たがるほどの変態でもない。あくまで彼らは普通なのだ。ごく普通の中の優秀。通知表で言えば上の下といった感じのそんな存在なのだ。戦闘だけとはいえどいつもこいつも通知表でオール5取るような連中と比べると一歩物足りないそんな存在。

 「連絡とれました!」

 「…あっ、そっか」

 そんな彼らだからこそこれ以上の戦闘行為はごめんだった。だが神は無常である。そんな彼らにもまだ試練を与えるのだから。



 「おう!無事かお前ら!」

 「無事じゃありませんよ!こっちは5人も死んでるんですよ!」

 今はすっかり真夏のキャンプファイヤーのごとく燃え盛る武器庫で彼らは再会した。味方部隊から死人が出ているのにも関わらずこの気楽さはグレイブの連中独特の感性だった。

 郷田曰く「戦争やってんだ。死ぬときは死ぬ。命を惜しむことは大事だが散ったもんは仕方がない」とのことだ。

 その発言に呆れる者、憤る者様々な反応があったが皆心のなかでは理解していた。こいつらに常識は通用しないと。それがここ数日彼らに付き合ってきた者達の学びだった。

 「それでこれからどうします?てか隊長はなにしてんですか?」

 「隊長は負傷が酷すぎて現在避難させている。これからは俺が指揮をとる。で…これからの目的だが敵の殲滅これは変わりない。よって武装を整えたあと再び攻勢に出る」 

 それは彼らにとって信じられないことだった。あのグレイブの指揮官である沖田が負傷したこともそうだが何よりこの状況下でもう一度攻撃することが信じられなかった。

 「本気ですか?お言葉ですが既に敵部隊の半数以上は削ってます。当初の目的だった敵スナイパーも三体倒しています。これで本隊の侵入は十分可能なはずです!なぜこれ以上戦うんですか!」

 自然と声が大きくなる。当然だ。沖田達と違い人死にが出ている彼らからすればこれ以上の戦闘は余計な物であり今ある戦果だけでも大手を振るって帰れるものだからだ。

 「本隊に攻め込む気があれば…それでもいいんだがな」

 郷田の言葉に呆気に取られる後続組。

 「いいか?よく考えろよ?確かにここは強固な所だ。敵の新兵器は強くビックリ工場のごとく次々と武器が出てくる。兵も豊富で守りも硬い。だがなぁ今日のでわかったろ?それでも決して攻略できないほどの難易度じゃないと」

 それは事実だった。確かに敵の兵器含む兵は強かった。兵の練度そのものはお粗末なものだが兵器は優秀。そんな敵部隊を崩すことは多少の損害を覚悟すれば十分に可能だった。なにもこんな少人数で攻略する必要はない。人数が多ければもっと楽に攻略できるはずだった。

 「いや…でも大部隊なら行軍速度も低下しますしなにより敵に見つかって余計な損害がっ」

 「それでもだ。ここを抑えるだけなら比較的容易にできる。それでも今回みたいな強行手段に出たのは何故だ?しかもどいつもこいつも嫌われ者ばかりだ」

 郷田が大きく深呼吸する。

 「それはここが俺たちの処刑場代わりに使われてるからに決まってんだろ!」

 郷田が吠える。そこには未だにキャンプ地でぬくぬくとしている連中に対しての怒りがあった。

 「大体おかしな話だ。ここの攻略は以前から行われてきたがそれもずっと小規模部隊だ。普通一度やって駄目なら次はもっと大きな部隊を使うか新しい戦法を試すなりするはずだ。それもしない!何故それをおかしいと思わない。俺たちはここに殺されるために送り込まれたんだよ!」

 「そんな…なんのために!」

 「お前らも覚えがあるだろう。人に言えないこと一つや二つしてきただろう。そう言うことだ」

 郷田はそう言うなり彼らに背を向けた。彼らは郷田の言葉にただ絶望していた。

 「中途半端な状態で帰っても敵前逃亡ってことで殺される。なら今ここで敵を皆殺しにする。それが俺たちの唯一の活路だ。分かったら準備しろ」

 背中を向けたまま郷田は彼らに言い放った。そこにはS12に見せた優しさはなく同じ敵を見据える味方に対する厳しい思いがあった。



 「しかし…アンドロイドならこれでも動けるけど人間なら普通病院行きだよねこれ」

 武器庫の大爆発のあと私は着替えの確保も兼ねて敵の隊舎に戻ってきていた。幸いにも道中敵に見つかることはなく難なく元の隊舎にまで戻ってこれた。

 体には無数の傷跡があり正直一度研究所に戻って体のメンテをしたいほどだがない物ねだりはできない。

 「皆人間なのに生傷だらけで動くんだもんなぁ。正直理解できない奴ばっかりだっと!」

 穴が開いたズボンを脱ぎ棄て新しいズボンに着替える。黒のスキニーだ。男物だが身長が高く設定されている私には丁度いい。

 「カメラ半分やられるだけでも遠近感狂うな。いつもの模様も見えないしどうしようかなぁ」

 正直このまま戦闘状態に入ってもいつものような動きは出来ない。それどころかむしろ邪魔になるだろう。一応本来想定されている程度の動きなら問題はない。だが私の戦闘方法だとどうしても素体の耐久力以上の戦闘を行うことになる。これ以上の戦闘はごめんこうむりたいのが本音だ。

 「でも皆のことだからどうせやるだろうしなぁ」

 靴を履き考える。茶色のブーツは足の動きを阻害することなくほどよい締め付けを与えてくれる。アンドロイドに血液はないがどこか身が締まる感覚がする。

 「どのみち行くしかないか」

 ため息をつきながら覚悟を決める。正直アンドロイドに着替えが必要なこの仕組みに疑問を持ったこともあったが体と心のスイッチを切り替えるには着替えというのは丁度いいものだ。

 「でもその前に…あっちにもケリつけないとね」

 今ならきっとできる。そんな気がした。



 沖田の耳にも爆発音は届いていた。S12が破った窓ガラスの破片が震えるほどの衝撃だった。

 「また随分と派手にやってんな」

 思わずそんな言葉が出た。沖田自身はとっくにこの戦闘からリタイアしたつもりだった。だがしみついた習性から来るものなのだろうかふと懐かしさを感じた。

 沖田自身何故自分が生きているのか分らなくなっていた。自分の業から解放されると思ったにも関わらず助けられ挙句の果てに説教までされた。

 沖田は自分にそこまでの価値があるとは思っていなかった。正義感と常識を建前に人の命を奪うとち狂った快楽殺人者にどうしてそこまで関わるのだろうかとS12が離れてからもひたすらに考えていた。

 命を奪うことを楽しんでいた。元は憂さ晴らしだった。生きていくことの苦労を自分が成功できなかったことの苦労を全て社会に押し付けていた。最初はそれで心が持った。まだ仕方がないと自分を偽ることが出来た。

 一体いつの出撃からだろうかそれすらも出来なくなったのは。敵が銃弾で苦しむのを見て顔がにやついた。信じてきた正義を打ち砕いてやったときは心が躍った。普通の人間が忌避するような戦場に旅立って生きて帰ってきたことの達成感に身を浸した。

 それを隠さなくなったのはいつからだったのか沖田自身覚えてない。グレイブの連中と一緒に居て落ち着きだしたときには少しの焦燥感があったが直にそれも消えた。

 どいつもこいつも社会不適合者でこんな世の中でもなければ軍に入ることなんて出来ない連中だった。不思議とそんなやつらと気が合ってしまった。

 郷田の尽力もあったがおそらくそれは性分だったのだろう。沖田自身元々はあっち側の人間だったということだ。

 それを受け入れたら楽だった。毎日のように感じていた罪悪感すら彼方に消えた。

 だけどS12が来たことで戻ってきた。彼女が子供だと聞いてふと以前の常識が、良心が頭に居座った。

 彼女が来て部隊も変わった。あんなにも粗野で乱暴で命すら惜しまない連中が優しさを見せたのだ。確かに正常に戻されている現実に沖田は吐き気を覚えた。

 殺した人間が忘れられなくなったのもその辺りだった。

 毎日のように殺して、毎日のように酒を飲んで、毎日のように清廉さを見せつけられる。そんな人生に嫌気がさした。

 何より彼女が段々と自分たちの狂気をその身に映し出したのが耐えれなかった。自分はこんなにも醜いとそう言われている気がした。

 結局のところ沖田自身割り切ることが出来なかったのだ。命を奪うことを仕方がないと思いきることが出来なかった。それだけの話だった。

 それだけのことが沖田の心を苦しめた。快楽とそれに対する罪悪感にせめぎ合いに打ち勝つことが出来ないことがどうしようもなく耐えきれなかったのだ。

 それに対する責任も取れないことを只々悔やんでいた。だから死んで逃げようと思った。だけど清廉で鏡のような彼女はそれを許さないと言った。沖田には戦うことしか許されていなかった。罪悪感と快楽の狭間で人生を生き抜くことしか許されていないのだ。

 後は立ち上がるだけ。だけどあと一つ、あと一つの動力が心からすっぽりと抜け落ちていた。

 「いつまでやってるの?」

 どこか馬鹿にした声が沖田に降りかかる。そこにいたのは片目が潰れたS12だった。

 


 「どうしたその目?」

 「爆風で潰れた。おかげで前を見るのが大変」

 よく見れば彼女の服が変わってた。

 「服まで変わって」

 「盗んだ。ボロボロになったから」

 それはとんでもない答えだった。

 「どこからそんなことを教わった」

 「あんたから」

 「俺は教えてないぞ」

 「そう?当たり前にしてたじゃない?」

 言われてみれば当たり前のようにやっていた。服ではなく武器だが。

 「皆はどうなった?」

 「返事から逃げたな…多分無事。これから無事じゃなくなるかもだけど」

 その答えに体が動きたがるのを感じた。

 「敵は強いか?」

 「弱いよ。ここの皆に比べたらずっと。でも死ぬには十分すぎるくらい強い」

 「勝てるか?」

 「勝よ。どんなにボロボロでも」

 「どうして?」

 「負けたら死ぬから。大事な人も自分も」

 それは単純な答えだった。あんなにも戦場を怯えていた彼女とは思えないくらいの単純な答え。

 「それがお前が戦う理由か?」

 昔彼女が聞いた問。それを沖田は返した。あのとき沖田達はごまかした。

 「そうよ。それが私の戦う理由。どんなに頑張っても逃げられないなら戦うそれだけ」

 でも彼女は素直に答える。沖田はそれを見てやっぱり彼女は清廉だと思った。

 「それが他人を苦しめていてもか?」

 「そうよ。だって他人が私を虐めるから」

 「それが罪深いことでも戦うのか?」

 「罪深いならあとで謝ればいい」

 「何に?」

 「さぁ?でも悪いことしたのなら謝っておこう」

 「雑だなぁ」

 「家族と自分のためだもん。仕方がないよ」

 「俺たちは狂ってるぞ?それでも家族なのか?」

 「狂ってようが悪かろうが家族だよ。自分が辛いなら家族を頼ろう?そしたらきっと受け止めてくれる」

 S12が沖田を抱きしめる。

 「狂ったところも悪いところも全部受け止めてあげる。まずは生きよう。生きてたらきっとそれとの向き合い方も分かる」

 それは優しくて厳しくて愛に満ちていた。S12は愛をもって狂気と向き合った。沖田にもそれを強いていた。

 それが残酷で厳しいことだと沖田は思った。それでも今はただそのぬくもりに溺れた。快楽の次は愛に逃げるのかとそう叫ぶ亡霊の声も今だけは気にならなかった。

 


次回戦闘を挟んでサブエピソードは終わる予定です。(時間があればですが)その後本編に戻ります。いやー長かった。

PS

最近ブックマークなどが増えて小躍りしてます。いや時間がなくてそれに見合ったクオリティをお届け出来ないのが申し訳ないのですが。

今後ともポイント、ブックマークは作者の励みになりますので何卒宜しくお願い致します。

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