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シャーリー  作者: カメレオン
サブエピソード
40/47

S12後編⑥

すいません。時間が取れず…本当に申し訳ない。

キャンプにいた兵士から情報を聞き出した私はそのまま兵器保管庫のバイクを盗んで司令官の待機地に向かった。そこには仰々しい兵器とアンドロイド部隊があった。

 要領を得ないのらりくらりとした司令官を殴り飛ばしそのままキルゾーンに向かった私を待っていたのは死を受け入れた隊長の姿と臆病者に死刑を執行するこれまた臆病者の姿だった。

 「いきなりなんだぁおい!」

 バイクで殴り飛ばしたのにピンピン動く黒い鎧。声を出して会話が通じるようにも見えるけど不思議と同類の気配はしない。うざいのでとりあえず撃つことにした。こっちはそれどころじゃない。

 「動くな。後で相手してやるから待ってろデカブツ」

 デカブツが動かないことを確認してから隊長を確認する。目立った外傷は脇腹と足のみ。並みの人間なら動けないだろうがこの程度の傷ならこいつらは笑いながら立ち上がる。そんな連中だ。

 だが目の前の男は動かない。それどころか私が来てなお死を受け入れようとしている。その光景に私は心の底から殺意を覚えた。

 「起きろ!このゴミ!」

 脇腹の傷を抉るように足で踏み潰す。傷は内臓に達しておらず銃弾が貫通していることも確認済み。痛いだろうがこの程度なら問題ない。

 「誰が…ゴミだ。てめぇなんでここに居やがる?」

 私の足を払いのける。

 「怪我したから研修切り上げて戻ってきたら馬鹿なことをしてる奴らがいるって聞いたんでね。殴りに来た」

 「あぁ?なんでテメェに殴られなきゃならんのだ?舐めたこと言ってんと潰すぞガキ?」

 「上等だよこのアル中。そんな状態でやれるならやってみて欲しいもんだねぇ?」

 売り言葉に買い言葉ということは分かっているがそれ以上にムカつくのだ。やっぱり殴っておこう。

 「ゴフッ!…テメェ銃で殴りやがったな!」

 「文句あるなら来いよ!この程度のデカブツにもやられる程度の腕で私をやれるならかかってこいや!」

 私の煽りに対して隊長は立ち上がる。足と脇腹の出血が酷くなったけど…まぁ大丈夫だろう。

 「周りの人間が必死こいて銃握って暴れてる最中にテメェはなんだ。あぁ?僕おねんねしまちゅうってか?冗談も顔だけにしろよこの腐れアル中」

 「人が気持ちよく人生リタイアしようとした瞬間なに邪魔しに来てんだこのクソガキ。お前を先にリタイアさせてやろうかっ!」

 銃を構える隊長。良い、さっきと違って目に生気がある。体から殺気が溢れてる。先に死ぬことなんて許さない。どうせ死ぬならやり切って死ね。あんたになにがあったかは知らないし興味もない。でもせめて私が憧れた、夢見たあんたで死ね。それ以外の死なんてものは私が許さない。

 「俺を無視してなにガチャガチャと喚いてやがる!」

 後ろのデカブツが叫ぶ。せっかく良いところだったのに。

 「「邪魔すんな!」」

 私のアサルトライフルと隊長が持つ見慣れぬアサルトライフルが火を噴いた。アサルトライフルは共にフルオート。デカブツの顔面を削り取る。

 弾が体感で半分程度になったことを確認して銃を下した。同様に隊長も銃を下す。

 「とりあえず…色々言いたいことはあるけど」

 「あぁ考えることは同じだな」

 二丁のアサルトライフルの威力はそれぞれ全くメーカーも技術体系も異なるためばらつきこそあるがまず普通のアンドロイドなら十分すぎる威力だ。

 「効かんなぁ。でもまぁようやく俺を見たな?」

 だけどデカブツはピンピンしていた。何故か喜んでる。私と隊長は腰を落とす。

 「「逃げるぞ!」」

 そして二人して走った。



 二人して走ったのは良いけど肝心の隊長はすぐにお荷物になった。見れば足から血がボタボタと垂れている。

 「世話がかかる人ですね!」

 私は隊長を肩に垂らして走った。消防士搬送ってやつだ。普通に担いだのでは両手がふさがる。脇腹の穴が心配だがとりあえず後だ。道具がない。

 「逃がすか!」

 デカブツも追いかけてくる。脚部のかかと部分に小さなタイヤが付いている。そのせいか私の身体能力でも正直ギリギリどころか少し負けている感じ。

 空いた手を使い発砲するが効かない。それどころか上のお荷物がさっきから「ウっ」とか言うから応戦すらできない。煩わしい。

 右手の無駄に大きい銃がこれでもかと弾を浴びせてくる。正直ここが平地ならもう五回は殺されていた。

 「借りますよ」

 隊長のホルスターから手榴弾を盗み放り投げる。

 「させるか!」

 残念なことに途中で打ち抜かれる。最悪だ。これで手持ちが尽きた。

 「せめてもう少し武器を用意してからくれば良かった!」

 上の荷物を無視して銃をバラまく。なるべく全身に均等にだ。アサルトライフルが効かないならせめて走行妨害ぐらいはしてやらなきゃ面白くない。

 「無駄な弾使ってんじゃねえ」

 「なんです?今こっちは精一杯なんですが…てか文句言うなら歩けよ」

 「テメェが散々殴ったり踏んだりしなきゃもう少し動けたよ」

 「そうしなきゃあんた死んでたからその言い分は無効だ」

 私の言葉が効いたのか黙り込む。黙り込むくらいなら言うなって話だ。

 「死ねぇ!」

 デカブツの脇腹が開く。そこには多数の銃口が収められていた。そのうちの一つが火を噴く。その瞬間白い模様がぐっと小さくなった。あれはヤバイ。

 隊長を強く握り狭まる模様に飛び込む。ギリギリだ。後ろから複数の音がした。振り向いた先には多数の銃痕。

 「ショットガンかよ…」

 「正解だ!」

 私は全力で走った。手に持っている銃も捨ててただひたすらに。脚部に負担が掛かっていることを感じるが気にしている場合ではなかった。連射可能な銃、近距離対応可能な小銃、なにより撃っても効かないボディ。そしてボディから出るビックリ玩具。まともに相手をするのは馬鹿らしい。

 「痛い」

 「我慢してください。止まったら即死ですよ私達。大体なんですあれ?」

 「分からんが…恐らく操縦型の遠距離パワードスーツだ」

 「分からない物に分からない返事をするのはやめてください!」

 話を聞くところによると元々は宇宙開発や深海の探索に使われていた無人機を人型にする計画は前々からあったそうな。それを軍事に転換しようとしたものが遠距離パワードスーツ計画。

 その後アンドロイドの開発によりお蔵入りとなった化石が出てきてるらしい。

 「じゃあ何です?近くに悪趣味なおっさんがいるってことですか?」

 「恐らくな。ここにはいくつも建物がある。そのうちのどれかだろう」

 あぁもう!面倒くさい!

 私は隊長を抱えて建物の一つに入り込んだ。



 「ウっ!」

 私は隊長の口を塞いだ。どうやら入った建物は敵の宿舎らしき建物で中にはベッドがあった。私は隊長の口にシーツを詰めてベッドに押し込んだ。

 窓を確認して相手が中に入ったのを見計らい窓を破る。

 「ここか!」

 デカブツが中を探索する。

 「窓を破って逃走したか?追いかけっこが好きなのかぁ?」

 好きな訳ねぇだろタコ!

 そう言いたい衝動を堪えてロッカーのなかに潜む。古典的な手だが引っかかると確信していた。余計なことさえしなければだが。

 「それともここかなぁ?」

 デカブツがベッドをなぞる。残念そこじゃない。だがこの様子だと三つあるベッド全てに触れるのは時間の問題だろう。

 「それともここかぁ?……ビンゴ!」

 デカブツはそう言いながら銃をぶっ放す。ベッドの羽毛が飛び去りベッドが真ん中から折れる。大気が震え硝煙と火薬が部屋を覆う。匂いが感じられないアンドロイドでも銃を撃った後の空気の重さは心に来るものがあった。

 「ふぅ…まっこんなとこに隠れてるわけないかっ。一度こういう遊びやってみたかたんだが…思ったよりつまらんな」

 車輪が回転し部屋から去っていく。どうやら他のところを捜索し始めたらしい。音が小さくなるのを待ってからロッカーを出た。

 「相手が間抜けで助かりましたね隊長」

 私はそう言い隊長をベッドから出した。三分の一の確率。我ながらリスキーだ。

 「お前…あいつがとりあえず部屋を潰したらどうするつもりだった?」

 「それはないでしょう。そのつもりならとっくに殺されてますよ。あいつただのナルシストですよ。力に酔ってるタイプです。それより今は傷の手当をしましょう。ロッカーに良い物あったんで」

 この部屋の人間は真面目だったのだろう。それなりに良い救急道具が置いてあった。ちゃんと使えるように手入れもされてる。男だらけの軍隊では考えられないことだった。

 「弾は抜けてますからね。やれることは消毒と包帯巻くぐらいしかないですが…一応痛み止めも飲んどきますか」

 正直敵の薬を使うことにはかなり抵抗があるが流石に薬のラッピングまで偽造しないだろう。

 そう思い私は隊長に痛み止めを飲ました。傷の縫合は流石に不可能だ。プロの医者がいる。

 「落ち着いた?」

 私の問いに深呼吸で答える。流石にこういう時の立て直しは早い。だけどその目はまた死んでいる。私の言葉も彼自身の怒りも呼吸と血液と共に流れている。今は生きていることも死ぬことも拒絶している。

 意識は死を望み、体は生きることを望んでいる。互いに互いが引かれあい意識と体に矛盾が生まれている。この状態は屍だ。動く屍だ。

 「なぁ…なにがあったのか教えてはくれませんか。あんなに毎日楽し気に銃を握ってたあなたはどこに行ったんですか?風穴が空いても笑ってたあなたはどこに消えたんですか」

 私は問いかける。正直答えが返ってくることは期待してない。でも少しでもあの時の隊長に戻るなら戻って欲しい。煽って一瞬戻ったのならきっと効果はあるはず。そこに賭けるしかない。

 「…別にどこにも消えちゃあいないよ。ただ疲れただけさ」

 それは小さな声だった。生きることを放り投げた声。この世界を拒絶する声だった。小さな、小さな声は自分も世界も拒絶していた。

 「分かるように言ってくださいよ」

 隊長の向いに座り込んで目を覗き込む。その目は遠くを見ていた。目の前の私を見ていない。どこか遠く。虚構を見ている。その目が捉えるものは本人にしか分かっていない。

 「…お前今楽しいか?」

 「はぁ?」 

 「…分からんか。仕方ないよなぁ。まだ生まれて間もないもんな。…俺はさぁこの世に生を受けてから楽しいことなんて一度もなかった」

 それは重苦しい語りから始まった。重苦しさと肩を包むような独特なリズムが銃声と悲鳴をBGMにして踊りだす。

 「この国はさ、ろくでもない国なんだよ。大人がどんなに働いても子供に飯食わすのもきつくてなぁ。お前たちが出来たり確実に裕福になってるのにな」

 それは悲壮感をたっぷりと含んでて。

 「そんな国でもおふくろは毎日働いてな。俺に言うんだよ。正しい人間になりなさいって。ストリートチルドレンがいるような国で言うことじゃねぇよな」

 でもどこかリズミカルで軽く。

 「俺はそんなおふくろが大好きだった。毎日ボロボロになっても目だけは宝石みたいだった。坂本も郷田もそんなおふくろによくしてもらってたんだ。あいつらもおふくろが大好きだった」

 期待感もあった。人を興奮させる。

 「だからさ、正しい人間になるために軍に入ったんだよ。俺たちの時はまだ平和だったから。郷田は途中で引っ越ししたけどな。でも中に入っても給料は少なくてな。必死こいて仕事したよ。血反吐を吐きながら訓練して、ありもしない緊急事態に備えて。そんな生活が20年も続いた」

 トーンが落ちる。感情が嵐のように膨れ上がる。

 「気づけば坂本だけは出世してさ。俺はほとんど出世しなかった。飯もおふくろ一人養うのがギリギリでさ。正直なんのために生きてるんだろうって思った。気づけば正しさや倫理なんてものはこの時には消えてたんだろうな」

 テンポが速まり声が大きくなる。目は虚構から遠い過去に向けられていた。

 「毎日合理派の講演聞いてるうちに幸せが欲しくなった。心の底から幸せが欲しくなった。あいつらの一生懸命な生きてる実感がたまらなく欲しかった。でもそんなものはもうこの国には残ってなくて奪うことでしかそれは満たされないって分かってたのに動けなかったよ」

 目から涙が落ちる。それでも彼の声は止まらない。話は止まらない。

 「それが…どうしようもなく辛かったんだ。たった飯が満足に食えなくて、夢すら追いかけらないこの現実がただひたすらに辛かった。そんなときテロが起きたよ。ビルが倒壊してさドミノみたいに崩れていった。俺たちから金を奪ってた企業が潰れたときは心の底から笑った。でもなぁ、そんな自分が怖くなったんだ」

 声が掠れ涙は小さな川になり彼の顔を覆う。

 「目の前の惨状を見て笑う自分がどうしようもなく怖かった。気づけば自由派に居たよ。そこではさ合理派に対して復習心持ってるやつがいてさ。自分よりかっこよく見えた。」

 体は震え、今は悔いるように一言、一言を紡ぐ。

 「初めての実戦でさ銃を撃ったときそいつは死んだよ。簡単に。敵に撃たれて。敵の前で縮こまって。でも俺は死ななかった。それどころか楽しかった。そのとき気づいたよ。これが自分の正体なんだって」

 やがて涙は止まる。その代わり今度は体に力が入る。その力はマグマのように強く熱い。

 「あほらしいよな。正義と食い扶持求めて頑張った成果がクズなんだから。そして俺はしばらくそれに溺れたよ。快楽に身を任せてありもしない復讐心を受け継いで戦った。…でもなぁたまに揺り返しがくるんだ。それでいいのか?って自分が聞いてくる」

 「それで?」

 「良いわけがない。でもなぁ!狂うことでしかやっていけないんだよ!狂うしか道はないんだよ!この部隊に郷田が来た時もそうだ!奴の目はドロドロに濁っていた!再開したときの気持ちが分かるか?喜びでも怒りでもない!同情だよ!同じものを見つけてあいつは同情した!そして俺もそれに乗っかた!そんな時だ!お前が来た!」 

 「私が来て?」

 「お前が来て途端に戻された。狂っていた自分も部隊も急に現実と理想に戻された。正しさを見せつけられた!そんなお前が少しづつ俺たちに染まるのが嫌だった!自分の汚さを見せつけられるようで!」

 「私が急に埼玉に移動することになったのもそれが原因?」

 「そうだ。俺から坂本に頼んだ。お前が行く前の戦いで確信したよ。それは正しかったと。お前が居なくなるのを見計らって死ぬこと選んだ。でも死ねなかった!だから今回の任務で死にたかった。でも俺にはそれすらできない。だからあの黒いのが撃った時良かったと思ったよ。これで死ねるって。でもお前が死なせてくれないんだ」

 ようやく彼は私を見た。私を見ている。私の何を見ているかまでは分からない。でもその目は虚構も遠い過去も見ていない。確かに私を見ていた。

 「なぜ邪魔をする?生まれて間もないお前がどうして人の人生に顔を出す?教えてくれよ?」

 だが私を見るその目は慈愛でも怒りでもなく苦悶の表情をしていた。


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