S12後編⑤
サブエピソードクライマックスです!長かった。ここまでくればあと一話のはず!(時間が取れれば)
「人質だとぉ?」
車の前部、フロントガラス部分くぉ縦に割る形で合理派の兵士が縛り付けられていた。
「助けることは出来るか?」
指揮官は狙撃用アンドロイドに尋ねる。
「人質を避けて撃つことは可能です。ですが車の速度はおよそ160キロは出ていると推測されます。その状態でもし横転するなどのことがあれば確実に人質は死亡するものと推測します」
沖田率いる自由派の装甲車は二台。その後ろにはバイクに乗った自由派の兵士がぴったりとくっついてる。恐らく装甲車を打ち抜いて足を止めたとしても運転手はハンドルを素早く切り確実に人質もろとも死ぬ道を選ぶだろう。そうしなければ玉突き事故となり折角の特攻が無駄になるからだ。
「だよなぁ。あれはヤバイ。確実に目がトンでやがる。死ぬことなんざ躊躇しねぇ。そういう目だ」
指揮官の目に沖田と郷田がどのように映ったのかは分からない。だが確実に指揮官は恐怖していた。こんな馬鹿げた作戦を行う沖田達に恐怖していた。
「敵到着までおよそ20秒」
会話しているうちにも敵は迫ってくる。後ろのバイクを打ち抜いて止めることは出来るだろうがそうなれば装甲車の侵入を許す。わざわざ目の前に装甲車を置いている以上装甲車にはなにか仕掛けられている。そんな潜在的恐怖が指揮官の判断を遅らせた。
「残り15秒」
「くそ!撃て!二台とも撃て!」
ついにはやけくそになり叫んだ。だがその判断は正しい。危険な存在である沖田達を入れないことの方が味方を殺すより優先されるのだ。腐ってもキャンプ地を運営するだけの指揮官間違えることはない。
「了解」
指示を受けたアンドロイドがトリガーを引く。照準は最初から合わせていた。狙いを定めた位置に銃弾を放つ。
それは銃の射撃音と呼ぶにはあまりにも大きすぎた。破裂した空気は空間を叩きその衝撃をキャンプ地に響き渡らせる。戦車すらも貫く鉄の一撃が今放たれた。
銃弾は人質の肉体を抵抗なく貫き装甲車の装甲を打ち抜いた。狙いはエンジンだ。
銃弾を貰った車はその動きを慣性にまかせて緩やかに落としていく。だが銃を撃つのが遅すぎた。判断をするのが遅すぎた。
それはキャンプに侵入するのに十分なエネルギーを保有していた。
車は進む。エンジンから火を噴いてもその歩みが止まることはない。
アンドロイドはもう片方の車も貫く。だがこちらも止まらない。それは沖田達の覚悟の表れだった。
装甲車は火を纏ってキャンプ地に突っ込んだ。沖田の乗る車はキャンプ地に着くなり足を止める。だが郷田の方は止まらない。
「おい!誰かその車止めろ!」
兵士の一人が叫ぶ。だが火を纏い速度をあげた車を止められる存在などこの場にはいなかった。
「こんなもんか」
車のサイドミラーを破り郷田が出てくる。手には武器の代わりに何かのリモコンが握られていた。
「あばよ!」
郷田がリモコンを押した瞬間車が爆発した。
爆発の威力そのものは大きなものではなかった。だが郷田の狙いは別にあった。
「おい!見張り塔が倒れるぞ!」
それはキャンプ地に四本あるうちの一本だった。鉄筋で出来ているそれは極めて丈夫そうだ。だが装甲車のエネルギーと爆発のエネルギーを受けて見張り塔は今根元から折れ曲がろうとしていた。
「おい、当たるぞ!」
見張り塔が折れようとしている方角はもう一本の見張り塔がある方向だった。
「逃げろー!倒れるぞー!」
キャンプ地の兵士が逃げまどう。見張り塔に居る兵士のなかには飛び降りる者もいた。そしてこの瞬間キルゾーン最大の敵が二つ崩れた。
「生きてるか?」
「どうにかな」
沖田が郷田に近寄ってくる。キャンプ地は攻撃を受けたことにより烏合の衆と化していた。
「まさか本当に撃ってくるとは思ってなかったな」
「結局はあいつらにも正義なんてものはない。それだけの話だろ。なにが正しい世の中だ」
「街に火を点けたり人質をとった俺たちが言える義理はないがな」
「でも…ビビっちゃダメなんだろ?」
「今はな」
沖田と郷田は軽口を叩きながら交戦する。逃げまどう兵士を殴り倒し武器を奪う。
「スモーク焚くぞ」
そう言いながら沖田はスモークグレネードを使う。
「さぁ得意の乱戦といきましょうか!」
部隊は籠城戦から沖田達のステージへと移り変わった。
「くそ!現状はどうなってやがる!」
「現在敵装甲車二台、バイク10台が侵入しています。そのうち装甲車二台は大破。中の操縦者は生存している模様。現在応戦中ですが見張り塔が二つ潰されたこともあり現場でまともに動けている部隊はごく少数です」
「アンドロイド共は何をしている!」
「味方部隊と共に応戦していますが現状残っているのは歩兵型アンドロイド、装甲型アンドロイド、狙撃アンドロイドは四体のうち二体が撃破済み。そもそも彼らは機動力がないので現状では無意味です。そして今の敵はアンドロイドやうちの部隊の人間よりはるかに強いです。恐らく現状の部隊連携レベルだとアンドロイドが何体いても負けます」
質問を振られた部下は冷静に答える。それは現状に即した正しい理解だった。
「味方は今何人残っている?」
「300名ほどが残っていますがそのうち何人がまともに戦えているのかまでは分かりません」
「装甲型を前に置き盾にしろ。バイク相手には歩兵型を使い障害物に使え。とにかく今は味方の立て直しを優先しろ。それと護衛を数人頼む」
そう言うなり指揮官はヘルメットと銃を持ち建物から出ようとする。
「どこへ行くつもりですか?」
「あいつらが言っていた新兵器を起こしに行く。とびきりヤバいのをな」
一方その頃沖田達自由派の部隊は着実に敵を追い詰めていた。
「弾薬は敵から奪え!敵がビビっている今がチャンスだ!とにかく広く戦え!乱戦を維持しろ!」
数で劣る沖田達がまともに戦うには通常の軍隊戦争は向いてない。鍛え上げられた動きと隊列は少数での戦闘時に必ずしも有効というわけではなかった。
だからこそ沖田達は個の強さを求めた。相手を乱し、弱らせている内に叩き潰す。命を省みない大胆な作戦、そして鍛え上げられた個人の強さ、何よりも他者が一生をかけても届くことのない修羅場との出会いこそが沖田達グレイブの強さだった。
「隊長!後続の歩兵部隊到着しました!」
「よし!そのまま火を点けろ!退路を固めて逃げる兵を撃て!」
そして少ない侵入経路がここに来て仇となる。正しい経路以外でキャンプ地から脱出しようとすれば地雷の海に飲み込まれる。かといって逃げようとすれば敵の追撃が。彼らには戦う選択肢以外は残されていなかった。
「もう一本!行くぞ!」
部隊のメンバーが見張り塔に爆弾を仕掛ける。敵のキャンプ地から盗んだ物だろうかそこには山のような手榴弾と少量のプラスチック爆弾があった。
「火力が心細いが祈りましょ!」
また一つ爆発音がした。それは装甲車が突っ込んだほどではないが確かなダメージを見張り塔に与えていた。塔が大きく揺れる。倒れることは無いが大きく形を歪ませる。頭上にいる狙撃型アンドロイドは満足な射線を確保できず狼狽していた。
完全に流れは自由派にあった。
(おかしい。出来すぎている)
だがそんな状況下で一人悲観的に考える人間がいた。沖田だ。
(ここまでは作戦通りだ。強いて言うなら敵が妙に硬い連携を取り始めたくらいだが…なんか妙だ。なんで重要なキャンプ地にここまで練度の低い兵を置いた?)
現在アンドロイド達が盾となり沖田達を追い詰める。だが沖田達はこれまでゲリラ部隊として強襲を仕掛けてきた。今更この程度の連携にやられるほど軟ではなかった。他所からの兵士は負傷しているが死傷者までは出ていない。きわめて順調だった。だがそれが故に沖田は疑った。
戦略上重要な地点にここまで弱い兵を置く理由はなんなのかと。狙撃型アンドロイドのようになにかヤバい物が出てくるのではないかと。
沖田の焦りが銃にも伝わる。弾道が少しずつぶれ始めていた。
「あぶねえ!」
郷田が沖田を蹴り飛ばす。沖田の横を銃弾が通り過ぎる。
「すまん!」
沖田は直ちに体を翻し銃を構え反撃を行う。
「なに考えてやがった!」
郷田が発砲音に負けないよう強い声で叫ぶ。今戦場は不規則な発砲音に囲まれインカムでの会話か郷田のように大きな声を出さない限り通じない。
「妙に敵が弱すぎると思ってな!」
「数が多いから油断してんだろ!」
「本当にそれだけか?じゃあなんでこのキャンプにだけ見たことのない兵器がゴロゴロしてんだ?」
「さぁな!元々あっちは正規の軍属は少ないんだ!武器の力がないと勝てないんだろうよっ!」
郷田はそう言いながらアンドロイドの頭上に手榴弾を山なりに投げる。アンドロイドの向こうから悲鳴が聞こえる。
「おうおう。兵士たちがあの世に行ってんな!」
郷田の悪趣味な物言いに沖田は苦笑いする。
(そういや…指揮官はどこにいるんだ?)
沖田はふと気づいた。今回は掃討戦だったこともあり指揮官の存在をさほど重要視していなかった。
(そもそも指揮官がこの状況でするべきことはなんだ。前線に立ち味方を鼓舞することだろう)
だが一見しても指揮官と思えるような人物はおらず一般兵士たちがお世辞とも凄腕とは言えない未熟な腕で沖田達と戦ってるだけだった。
「聞こえるか!全部隊!指揮官だ!指揮官を探せ!」
「いきなりどうした!」
「なんで今この状況で指揮官がいないと思う!」
郷田はそう言われて考える。
「逃げたとか?」
「そこまで忠誠心の薄い奴をここに置かんだろ!そうじゃない!指揮官だけなにか他のことをしようとしてると考えるのが普通だ!」
「増援要請とかか?」
「そんなもんじゃねぇ。もっとヤバい何かだよ!」
沖田はそう言うなり戦場を単独離脱しようとする。
「すまんがここは任せる!」
沖田の様子を察した郷田はその指示に従う。長年の付き合いだけあってこういう時の動きは互いに素早かった。
だが素早いのは敵も同じだった。
「うわぁぁ!」
突如味方の兵士一人が叫び声をあげる。それを聞き沖田の足が止まった。
「どうした!なにがあった!」
沖田がいくら叫んでも撃たれた味方からは返事が来ず抽象的な報告ばかりが届く。
「わかりません!いきなり敵の方向外から銃弾が!」
(隠れているというわけでもなさそうだな)
沖田は止めた足を再稼働させ指揮官を探す。頭の中は味方の救出をしたかった。だが部隊の隊長としての使命が、命を預かっている身分が沖田にそれを許さなかった。
火の中をかいくぐり立て直し始めた敵兵を薙ぎ払う。だが探せど探せど指揮官は見つからない。
「俺はここだよ!」
そんなとき沖田の背後から突如声がした。その瞬間銃声と共に沖田の背中に痛みが走る。
「つっ!」
声がした瞬間沖田は身をひねっていたため銃弾は逸れ沖田の脇腹を貫通するに留まった。だが決して軽い傷ではなく間違いなく今後の戦闘に支障をきたすのは明らかだった。
「お前がこの部隊の指揮官だな?」
なにもない空間が喋る。いや違う。わずかだが火の粉がそこでとどまり消えている。火の粉がぼんやりと輪郭を映し出していた。
「ちっ気づいたか。火をつけられると使い勝手が悪いか」
空間にノイズが走りそれは姿を見せた。それは黒い鎧だった。腕にはバルカン銃、背中には排気口だろうかパイプのようなものが取付らえている。そして頭には小銃の発射口のようなものが。なにより特質すべきなのは腹だ。その鎧の腹は大きく膨らんでいる。恐らくそこから沖田を撃った銃が出たのだろうか。スライド出来そうなパーツがそこにはあった。
頭の悪い子供が考えたような武器のオンパレードに分厚い装甲。それが沖田を襲った敵の正体だった。
「随分と悪趣味な兵器だな」
「だろう?だから俺も使いたくなかったんだが…便利な機能があることに気づいてね」
そう言うと鎧は突如として姿を消す。また沖田の前から姿を消した。
「まだ研究中だがカモフラージュ機能がついていてな。光学迷彩とか言ってたが細かいことはわからん。だがここまでハッキリと消えるとは思ってなかったよ」
そう言うと鎧はもう一度姿を現す。
「ガーデックとか言うらしい。プロトタイプだが全然使える。うん。これは楽しいな!」
鎧が足踏みをしながら踊るその光景は気持ちが悪いものだった。
「操縦型か」
「そうだ。勿論操縦者は別にいるがね」
「随分とペラペラと教えてくれるんだな」
「まぁ本来なら教えることは出来んのだが…俺も戦場らしい戦場に立ったのは初めてでな。もっぱら今までモニターで指揮をするだけだったからこういうのは楽しくていかんのだ。正直に言って興奮してる」
そう言いながら鎧は沖田に迫る。着実にだけど焦らず。その姿は獲物にとどめを刺すライオンのようだった。
「私の部下をここまで痛めつけてくれた君とは是非とも話がしたくてね」
ガーデックが沖田を撃つ。その銃弾は沖田の足を貫く。
「私は恐らくこのままいけば降格、最悪敵をここまで接近させたことで死刑だ」
沖田の体に穴が増える。だが沖田は叫ぶことも泣くこともしない。ただじっとガーデックを見ている。
「憂さ晴らしをとでも思ったが…なんだその目は?」
沖田の目はガーデック以外の物を見ていた。遠く、遠くここではないなにかを見ていた。それは諦めのようにも見える。
「……」
沖田は反応しない。死んでいるわけではなかった。だが声を出す気力すらなかったのだ。脇腹の傷と焼けた空気は沖田の灰を蝕み確実に死への扉を叩いていた。
(…疲れたなぁ。やっぱりやめときゃ良かったんだよ。こんな無茶な作戦もそもそも自由派に来たことも間違いだったんだ。変に自分を偽って正義感かざして、そのくせ変態じみた趣味を隠して…結局俺なにがしたかったんだっけ。)
ガーデックが沖田の生死を確かめるように沖田を叩くが沖田はそれに応じない。
(どうしておふくろに飯食わすだけでこんな苦労してんだ?好きでもない銃握って、頭おかしくなって、頭おかしい連中指揮して…もっとやりたいことあったはずなのになぁ。良い女と結婚して飯作って、不幸も苦労もないそんな世界で暮らしたかっただけなのになぁ。)
沖田の目から涙がこぼれる。
「なんだお前?泣いてんのか?」
(でもこのまま死ねるならそれでもいっか…もう汚いものも綺麗なものも見なくてもいいもんな。)
ガーデックがバルカン銃の照準を合わせる。
「気持ち悪い。死ねよ」
(良かった…これで楽になれる。)
ふと沖田の頭にS12の姿が浮かんだ。あの純粋で無垢な女の姿をしたアンドロイドが頭をよぎった。
(…元気にやってるといいなぁ)
沖田は目を閉じた。それは死を迎えるための行為だった。バルカン銃が回転する音が沖田を死に導く。
「諦めてんじゃんねぇよ!」
突如回転する銃に割って入る声がした。沖田の目が開く。そこにあったのは軍用のバイクでガーデックに突っ込むS12の姿だった。
…どうでもいい話ですがサブエピソードのほうが本編より長い時点で作者の力量がごみなのが分かります…えぇ努力します




