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シャーリー  作者: カメレオン
サブエピソード
38/47

S12後編④

ようやく…ここまで書けた。あとすこし…あとすこしです。

「何をしてるんです?隊長」

 そう沖田に声を掛けてきたのは沖田の部下の一人だ。

 「準備は終わったのか郷田」

 「今迫撃砲の用意に残した連中が到着したところです。そこから使える装甲車を見積もつて部隊編成決める感じです」

 郷田と呼ばれた男は気安く返事をした。二人の間には軍隊としての礼節はなく友人のような気軽さで言葉を返していた。

 「よく燃えていますねぇ」

 郷田は火に飲まれた街を見てそう言った。

 「人がいないことは確認してたんだろ?」

 「へぇ。そりゃ勿論。ですがここに住んでいた人たちのことを思うとだから良いとは言えませんがねぇ」

 住民の大部分は東北地方などに引っ越しており住居なども軍が用意した。ほとんどの住民は主戦場である関東から撤退済みである。でもだからと言って街を無秩序に破壊していい理屈はない。そんなことは沖田も分かっていた。郷田の言葉が今はただうっとおしく思えた。

 「嫌味でも言いに来たか」

 「そんなつもりはありませんよ。作戦を聞いたときそれに賛成もしましたからね。ただどっかの馬鹿が煽ったせいで今後に影響が出そうな人がいるのが心配でね」

 「作戦はきっちりこなすさ」

 「その言葉はもう少しカッコいい面のときに言って欲しいなぁ」

 郷田の言葉が沖田の心を揺さぶる。郷田も分かっているのだろう。その顔は笑っていた。

 「喧嘩なら買うが?」

 「喧嘩して元に戻るならいくらでも売りましょう!大安売りします!でもまぁそんな単純な性格してないでしょ、あんたは」

 「何が言いたい」

 「今更ビビんなバーカ!俺が言いたいのはこんだけです。そんじゃ」

 そう言って郷田は沖田の元を去り職務に戻った。

 「無茶言うなハゲ」

 沖田の言葉は火の爆ぜる音と共に消えた。



 「隊長どうでした?」 

 「うーん?ありゃあ駄目かもなぁ」

 郷田は隊の割り振りをしながら質問に答える。

 「元々が善良な人ですからね。そもそもこんな作戦考えたのが嘘みたいな話ですし」

 「その癖人には悩むなとか言って自分が悩むタイプだからな。面倒くさいたらありゃしない」

 「そもそもあの人なんで軍なんて入ったんでしょうね」

 「うん?そりゃ入った当初は戦争どころか内戦なんて起きる様子すらなかったからな。ただ親のためを思って安定した仕事に就いたらそれすらも怪しくなった。よくある話だ」

 近年日本は拡大する格差によりその給金はフルタイムで仕事をしても大人一人食っていけるか怪しい状況下にあった。そんなことから公務員含む公的機関の職種に需要が集まった。

 だが高い倍率競争を勝ち抜いても親や家族を養えるとは限らなかった。それほどまでに日本という国は貧困を極めていた。

 「こんな状況だからな。真面目な奴ほど弱るのさ。特に俺たちと合流してからは汚れ仕事が多くなっただろう。真面目な奴がはっちゃけたら逆に弱って行った。真面目君がグレて良心の呵責に耐え切れなくなった。結局はそれだけの話なんだよ」

 「作戦までに治る見込みは?」

 「あると思う?」

 「ですよね」

 二人はため息をつく。指揮官が精神に異常をきたすのは組織、特に戦闘をする職種には迷惑な話だった。

 「まぁ俺たちもあいつに押し付けすぎたわな。今までは俺たちの無茶をあいつがフォローする形になってたからな。正直適正がないのに無茶させたと思ってる。」

 「で?改善案は?」

 「あいつの分まで俺たちが頑張る。古典的だけどこれがシンプルだと思う。何より仲間が弱ってるときは助けないとな」

 


 「郷田の野郎、好き勝手言いやがって」

 沖田は郷田との会話のあと部隊の編制が完了するのを待っていた。このあとは敵のキャンプ地の強襲。恐らく既に敵は襲撃があったことを感づいている。今まで以上に敵の裏をかく必要がある。

 沖田は地図と拷問によって得た情報を基に作戦の立案を行っていた。

 (敵の狙撃型アンドロイドの有効射程は二キロ。人間と違うのは二キロ以内なら自動照準から狙撃までをほぼノータイムでこなせるという所か。そしてキャンプ地を安全に侵入sる場合の出入り口は二つ。だけど当然そこは狙撃がしやすいように作られている。どうしたもんか。)

 火事による陽動作戦により敵キャンプ地の内部戦力は大幅にダメージを与えるをことが出来た。だけどもそれだけで攻略したことにはならない。敵兵を一人残らず殲滅して味方到着まで死守する。それが出来て初めて今回の作戦は成功したことになる。

 味方側は敵本隊との交戦のために戦力を維持することを目的として沖田達を送り込んだことを考えると沖田達が攻略に失敗した際は当然救援は来ない。使い捨てだ。かと言って途中帰還が許されることもないだろう。恐らく敵前逃亡を理由に処刑すらあり得ると沖田は考えていた。

 沖田は今回の作戦の目的を沖田達含む不穏分子の排除と考えていた。駄目で元々、無理でも面倒な人間の死を利用して軍の団結力を高める。そんなところだろうと。

 だからこそ沖田達は負けるわけにはいかない。

 (街に火まで点けて無駄死にで終わるわけにもいかないしな)

 酒瀬川の言葉が頭をよぎる。確かに沖田は戦時下のこの状況を楽しんでいた。だが一度たりともその状況をよしとしたことはなかった。

 非人道的な作戦を目にしたときは心が痛んだ。銃を握ることに興奮を覚えるのも事実。結局は自分の心持一つで変わることを沖田は悟っていた。

 だが悟ったからといって自身の心の重りがとれるわけではない。

 沖田は頭を回転させる。酒瀬川や郷田になにを言われたとしてももう引き返せる地点はとっくに過ぎているのだ。ならやれるところまで堕ちてみるしかなかった。沖田はもう少し先の地獄を覗く覚悟を決めた。



 「郷田、捕虜は何人生かしている」

 「あんたが指揮官を殺したから残りは四人です」

 「悪かったよ。こっちもイラついてたんだ。許してくれ」

 郷田は沖田の様子が変わったことに気付いた。だがそれはいい方向に変わったと思うことが郷田にはできなかった。

 「顔…酷いことになってるぞ」

 「もう夜中だ。夜中に元気に暴れてたらこんな顔にもなるさ」

 「やけくそか?」

 「そうだけど?」

 郷田は思わずため息をつく。うじうじとされるのも迷惑だが自暴自棄になられるのも困るのだ。郷田はこの後沖田が出す作戦次第では殴ってでも止めようと思った。

 「てかこんな話をしにきたわけじゃない。捕虜はどこ?やりたいことがあるんだ」

 そう言って沖田は郷田に捕虜の元にまで案内させた。



 「要はさ、あの狙撃アンドロイドの恐ろしいところは恐ろしいほどの精密さとスナイパーライフルの領域をはるかに超えた威力にあるわけだ」

 「それで?」

 二人は地図を広げながら今後の作戦について語る。攻略班である小隊メンバー50人は誰一人として欠けることなくそろっている。

 勿論グレイブ以外の面子もここにはいる。

 「侵入経路は二つしか用意されてないから大概はここでハチの巣になるのがこれまでここを攻略できなかった理由だ」

 「じゃあ迫撃砲で遠距離攻撃か?」

 「その程度で全滅させてたらとっくに東京に攻め込めてる。恐らく対空攻撃も出来るって考える方が自然だ。状況一つ揃えたら絶対の守護神になるスナイパー。防衛線では無敵だ」

 「じゃあどうするんです?」

 傍聴していた隊員の一人が聞く。

 「簡単な話だよ。撃てない状況を作れば勝てるって話だよ」

 そう言いながら沖田が語った作戦は周りを驚愕させるのに十分なものだった。



 「お前…それ博打じゃねぇか。そんな自殺行為に俺たちを巻き込ませる気か?」

 作戦を聞いた郷田は完全に引いていた。周りの隊員もあり得ない物を見る目で見ている。人間に対する目ではない。

 「誰かさんに煽られたからねぇ。これくらいは付き合える度胸があってあのセリフ吐いたんでしょう?」

 沖田は郷田をおちょくる。さっきの仕返しだろう。

 「…成功する確率は?」

 「あいつらは人道を口にしたんだ。成功しなきゃ嘘つきはあいつらのほうだ」

 沖田の目には覚悟があった。ここで死んでも構わないという覚悟が。それは人から見ればやけくそで自暴自棄に。本人には決死の覚悟に捉えられる厄介なものだった。

 「分かった。その代わりアンドロイドはもうない。特攻隊は俺たちでやるぞ。いいな」

 「あぁ。それでいい」

 沖田は静かに答えた。



 出撃前最後のブリーフィングを兼ねて郷田たちは集まっていた。

 「隊長の様子はどうです?」

 「良い感じに壊れ始めた。今まであった良心なんかも綺麗にゴミ箱に捨てたみたいだ」

 「それ大丈夫なんです?」

 「大丈夫じゃない。正直この戦闘が最後だろう。これが終わったらどこか遠いところに逃げさせるさ」

 郷田と沖田そして坂本は幼馴染だった。とんとん拍子で出世をしてきた坂本と違い沖田は優秀なほうではなかった。

 清濁併せ吞むことが出来た坂本と違い、沖田はどうでもいいことで悩む厄介な性格の持ち主だった。決して人が集まるような性格ではなく毎日を生きづらそうに過ごしていたことを郷田は覚えていた。

 そんな彼と自由派の軍の募集地で再会したとき郷田は驚いた。あんなにも何かに押しつぶされそうな彼がどこか吹っ切れた様子でいたからだ。

 だがそれは勘違いであったことに直ぐに気づいた。結局彼は自分の中のバランスが取れない下手くそなガキであることに郷田はすぐに気づいた。

 毎日のように増えていく酒、無茶な特攻。気づけばそんな彼についていける人間しか残っていなかった。

 そして今日とうとう終わりを迎えた。完全にバランスが壊れたのだろう。郷田はかつての友人の変貌を思いながらライフルに弾を込めた。



 千葉前線キャンプに中隊に対する強襲の知らせが届いたのはちょうど迫撃砲の攻撃を受けているころだった。

 知らせを聞いた指揮官はすぐさま警戒態勢を引き上げた。夜間哨戒に出している部隊も戻し敵の襲撃に備えていた。

 だが一個中隊ほどの戦力の穴を埋めるのは難しく結局は東京にいる本隊に頼るしかないのが現状だった。

 「こちら千葉前線キャンプ、敵の襲撃あり至急応援求む」

 「敵の戦力は?」

 「戦力は不明。だが現在一個中隊が襲撃を受けている。恐らく帰還は困難と思われる。このままだと東京への侵攻ルートが確立する。至急東京から応援が欲しい」

 いくら防衛線に優れたアンドロイドがいるとはいえ敵は一個中隊に喧嘩を吹っ掛けるほどの戦力を保有しているのは確かだった。現状の戦力だけで相手をしたくはないのがキャンプ地の本音だった。

 「そちらにはいくつか新兵器を渡しているはずだ。それで対応できないか?」

 本部は姿の見えない敵に餌をやるのが嫌なのか応援を渋る。

 「狙撃用アンドロイドだけで敵の侵攻を防げと?無茶を言うなよ!」

 「他にも渡したものがあっただろう」

 「他?」

 確かにいくつかの新兵器を貰っていた。だが現状防衛に役立つのは狙撃用アンドロイドだけで他は運用方法も分からずに使いあぐねているのが実態だった。

 「こちらから応援は送るがもう深夜だ。敵の奇襲を警戒したりと時間がかかる。どんなに頑張っても朝にはなる。朝までそれで耐えきって欲しい」

 そう言って電話は切られた。

 「クソ!ここを落とされたら困るのは向こうだってことになんで気が付かねぇ!」

 男は無線機を殴る。自分の命がかかっているためか顔には油汗が浮かび必死さが伝わってくる。

 「誰か!こないだ本部から来た兵器の説明書と目録を持ってこい!」

 「はい!」

 どのみち朝まで味方が来ないことは確定していた。男は本部が残した最後の切り札にかける他なかった。


 

 「お前らに対して言っておくことがある」

 沖田は出発前部隊を並ばせた後全員の前で語り始めた。

 「今から俺たちがやることは前人未到の小隊単位での敵キャンプ攻略だ。今回の火付けもそうだが今からやる作戦もハッキリ言って無茶苦茶だ。多分キャンプ地に侵入するまでに何人か死ぬだろう。だが…これをやらなければ全員死ぬ」

 沖田の言葉は隊員一人一人に優しく声を掛けるように広がる。

 「ハッキリ言おう。俺たちは軍部の爪弾きだ。軍からいらねぇと捨てられた身だ。ここで逃げれば帰っても死ぬだけだ」

 だけどその声は次第に速さと熱を増して。

 「指揮官のごみ野郎は人選は任せるとか言いながら渡してきたリストにはほとんど優秀な人間が残っていなかった。どいつもこいつも欠陥品だ!」

 あまりの言い草に怒りを覚える者まで出てきている。

 「だがなぁ。欠陥品にも意地がある。使い走りの道具で終わってためるか!っていう意地がある。…ハッキリ言って今から俺たちがやることは人の道からそれた行為だ」

 だがそんな者たちも沖田の目を見れば黙る。自分たち以上に沖田はキレているからだ。こんなことをするしかない自分に。こんな命令を出した上に。何より敵に。

 「でもな例え人の道から逸れたとして今生きることの方が大事だ。下手な意地張って死ぬ方があほらしい。この作戦に納得してない人間もいるだろう。でもとりあえず今は言うことを聞いてくれ」

 言うだけ言って沖田は装甲車に乗り込んだ。あまりに下手くそな演説に怒りを通り過ぎて笑う者も出てきた。

 「野郎ども聞いたな!とりあえず生きてりゃ文句言えるんだ!必ず生きて帰るぞ!」

 「おう!」

 男たちの最後の戦いが始まった。



 そのアンドロイドが捉えたのは友軍の装甲車だった。消火活動に出かけていた部隊のものだ。だが行った時より明らかに数が減っていた。事前に情報を貰っていたため恐らくは敵の部隊に拿捕されたのだろうとの結論に達した。

 アンドロイドは照準を敵装甲車に合わせる。このアンドロイドの腕部に取り付けられたライフルは本来戦車すらも打ち抜くために作られたものだった。装甲車程度打ち抜けない道理はなかった。本来ならば。

 「司令官、応答求む」

 このアンドロイドには心理機能こそついてないが簡素な判断用AIは搭載されていた。予め事前に決められたケース以外の状況が起きたときは司令官に対応を求めるようになっていた。

 「どうしたなにがあった?」

 だがアンドロイドに詳しい状況説明は出来ない。そのため資格情報を直接指令室のPCに映し出した。

 「あん?っておい!」

 映し出されたPCに映っていたのは装甲車に括りつけられた味方兵士の姿だった。


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