S12前編
サブエピソードです。(タイミングはどうかと思いますが…)後編は明日投稿する予定です。
「あぁー聞こえる?聞こえるなら返事をして欲しいな」
真っ白な部屋の中私は目覚めた。体にはチューブが繋がれている。頭には何かの装置。これは何だろう。
「聞こえてますかー…駄目だなどうにも反応がない」
「お前の対応が悪いんだろ。どれ貸して見ろ」
「いや、勝手に入られちゃ…ってちょっと!」
目の前で大柄な男が私の頭を掴む。
「起きろ!この寝坊助!」
「うるさい…」
私がそう言うと男はニタニタ笑う。後ろから白衣を着たさっきの男も来る。
「ほら見ろ。お前が悪いんだ。この子はちゃんと起きてる」
「困りますよ。起動時には起動時のマニュアルがあるんだから。あぁー君大丈夫気分が悪かったりしない?」
「アンドロイドなのに気分なんてあるのか?」
「そこが心理機能の面白いところなんですよ。人間だって熱くもないのに熱さを感じたり、痛そうな光景を見て痛みを感じたりするでしょ?それと同じで彼女たちにもちゃんと痛みや不快感はあるんです。まだ世間様には理解されてませんけどね」
「あの…」
私が声をあげると男たちはこっちを見る。
「アンドロイドって?」
「…嘘だろおい。君?自分の個体名は?思い出せる?」
「個体名?」
「じゃあ何のために生まれてきたのかは?」
「…分かりません。というより今何の話をしてるのかも…よくわかりません」
私がそう言うと白衣の男は顔が真っ青になる。なにかおかしなことを言っただろうか。
「嘘だろ…最後の最後で失敗かよ…」
「おい!俺にも分かるように説明しろ。どういうことだ。」
「この子たちSシリーズは兵器です。そのため予め人に危険な行動をとらないよう行動理念だったり兵器として必要なスキルが全てインプットされてるんです。…でもこの子にはそれがない。どうやら言語プログラムは入ってるみたいだが…これじゃあとても戦争には出せませんよ」
プログラム…アンドロイド…私は人じゃない?
「なら教えりゃいい。教えてから出せば問題ない。とりあえず名前から行くかお前の名前はS12だ。Sシリーズの末の娘でS12。よろしくな!」
男の笑顔と白衣の男の顔が対照的だったことからその理屈には無茶があることは分かった。
「良いかいS12、今から君の頭の中に映像を見せる。それを見て格闘技術を勉強するんだ。君たちは正しい動きを見せればすぐに学習できるからね?よく見るんだよ」
あれから片方の男は帰っていった。どうやら仕事があるらしい。将軍なんて呼ばれたからきっと忙しい仕事についてるんだろう。私はこの白い部屋でひたすらに映像を見せられている。銃の種類、機械の構造、格闘技から応急処置まで永遠と頭の中に映像を流し込まれる。
苦しいかどうかで言えばどうでもいい。でも流石に飽きる。面白くないことは確かだ。
「良いかいS12君は戦場を変える救世主になるんだ。人より遅れてるけど頑張ればきっとどうにかなる!」
このうっとおしいのがなければなおさら良かった。
ある日、白い部屋から出ることを許された。どうやらメンタルチェックとやらをするらしい。
「S12入ります」
「どうも…私は心理士の今野って言います。今野桜です。私のことは桜って呼んでください」
桜と名乗る女はどうにも馴れ馴れしさを感じた。
「それじゃあメンタルチェックを開始しましょうか…と言っても普通にお喋りするだけなんだけどね。どう?ここでの生活は慣れた?」
慣れるも何も前の生活が分からないから慣れたとは言い難い。今はただよくわからないことが続いてる。それだけだ。それをそのまま伝えると桜という女はクスクスと小さく笑う。
「そっか…あなた確か色々欠けてるんだっけ。あなたのお姉さん達とは違うから不思議だわ」
姉?私に姉?
「あら聞いてない?自分がSシリーズの末の娘だって。」
そういえばそんなことを以前聞いた気がする。あの時はどうでもよくて忘れてたけどそっか…姉か。
「会ってみたい?」
「会えるの…間違えた。合えるんですか?」
「良いわよ。ため口で。その代わり戦場に行ったら敬語も使うのよ。で、さっきの質問だけどそれは難しいわ。中には死んだ子もいるし、生きてる子も前線で戦ってるもの。だからあなたが会うとしたらきっと前線ね」
前線か…そこに行ったら会えるのか。
「とりあえず今日はこんなものにしましょうか。またいらっしゃい」
「失礼する」
こうして私は週に何度か桜と会うことになった。
「S12君に今からこの国の歴史を見せる。それを見てこの国がどうなっているのか勉強するんだ。良いかい?戦う敵を間違えちゃだめだよ?敵は全てあいつらだ」
そう言って見せられたビデオは東京という街で人が沢山死んで行く現場だった。人々が逃げまどい沢山の建物が崩壊していく。そんな現場だった。
その中で一人の女が救助している。その姿は凛々しくて格好の良い物だった。
「東京テロのビデオ?」
桜にそのことを伝えたらポカンとしていた。皆見てるものではなかったらしい。
「あぁ女の人が凄く頑張ってた。軍から外れて一人で色んな人を助けてた」
「久留和さんか。今は少佐になったんだっけ」
「そう。久留和さん」
「会ってみたいの?」
会ってみたいと言われるとどうだろうか。でも…うん会ってみたいのかもしれない。
「そっか…じゃあ頑張って戦果をあげないとね。そしたら会う機会も出てくるでしょう」
戦果をあげたら会える?
「今あの人、北海道についたばかりだからね。今は忙しいけど戦果をあげたら上に行く機会も出てくるわ。そしたら会えるわよ」
そっか…姉さんに北海道、私は戦場に行かなきゃいけないんだ。
「S12。そろそろ訓練をしようか。今まで教えたことをやってみよう」
そう言って連れ出されたのは射撃場だった。目の前には一丁の銃が。
「さぁ撃ってみて」
マガジンの弾を確認して引き金を引く。当たらない。
「もう一回。ずれたところを確認して」
右にずれてるから左に直す。当たる。
「繰り返して」
同じところにあたる。ただひたすらに同じ穴を弾が通っていく。なんの意味があるのだろう。私はそんなことを思いながらマガジンが空っぽになるまで撃ち続けた。
「訓練の意味?そうねぇ。私は心理士だから詳しいことは知らないけど…実戦になると思ったところに弾が当たらないなんて話はよく聞くわね。そんなことを無くすために練習させてるんだと思うわよ」
訓練じゃ当たっても実戦じゃ当たらない。そんなことがあるのだろうか。
「あるのよ。実戦は怖いからね。緊張で当たらなかったり、怖くて動けなかったり人によって理由は違うけどね」
桜の言うことは実戦に出たことがない私には分からなかった。
「そろそろ戦場に出そう」
ある日の朝、突然そんなことを言われた。私の手元にあったのはアサルトライフルと拳銃、そして軍の制服だった。
それを着るやいなや私はトラックに運ばれて前線に送り出された。前線は千葉と東京の境目だった。
どうやら話に聞くところ私の姉は埼玉で戦っているらしい。しばらくは会えないだろうとのことだ。
前線につくとおびただしいほどの血があった。嗅覚がない私でも明確にその存在を感じられるほどそれは濃かった。私は自分の体が強張るのを感じた。
前線のキャンプに連れていかれた。そこには偉そうにふんぞり返る男が一人いた。
「そいつか。例のポンコツは」
ポンコツと呼ばれたことに少しムッとする感情はあったけど事実なので何も言わないことにした。
「大丈夫です。学習能力は他の姉たちと同様に備えてます。能力もここに来るまでに鍛えてあります。きっと役に立つこと間違いないですよ」
白衣の男(ここでは白衣ではないが)がペコペコと頭を下げる。なぜこれに頭を下げるのかが分からなかった。
「まぁ良い。とりあえずこれから敵の部隊を叩く。お前も来い。」
そう言って私が連れて来られた部隊は年配に人が多かった。年は40から上は50はいるだろうか。
「年は食ってるがそいつらは何故か前線に出てもよく生きる。高い金を出したんだ。しばらくは死ぬなよ」
そう言って男は去っていった。
「まぁあんな言い方をしなくてもいいのになぁ。お嬢さん名前は?」
部隊のメンバーが話しかけてくる。この中では一番若い。
「S12です」
「S12?変わった名前だな。とりあえずよろしく。ここは老いぼれの墓場なんて呼ばれているが俺らはグレイブなんて言ってる。」
こうして私はグレイブでしばらくの間生活することになった。
そんなことをしているうちに作戦が開始された。私の仕事は敵のアンドロイドを叩くことだった。一応追加装備として手榴弾を渡してもらえた。流石にアサルトライフル一丁で敵を叩くのは怖かった。
茂みに隠れて息をひそめる。敵のトラックが前に来た時それは始まった。最初の戦闘は乱戦だった。敵味方入り乱れての戦いだった。
気を抜けば銃が頭に当たる。私はヘルメットを深く被って敵のアンドロイドに突っ込んだ。
「うおぉぉ!」
手が震えていた。気づけば私は訓練で教わったことなんてすっかり忘れて相手の前に飛び出していた。トリガーを引く、だけど当たらない。桜の言った通りのことになった。
敵のアンドロイドがナイフを持って襲ってくる。いつもなら躱せる。だけど今日に限って体が思うように動かなかった。
瞬間横から銃声がした。撃たれたと思ったら味方の援護だった。
「大丈夫かお嬢ちゃん」
そう言って助けに来たのはグレイブの一人だった。彼らは三人で固まって助け合いながら戦闘をしていた。その光景を見て私はもう一度銃を構える覚悟をした。
幸いにもその日の戦闘で部隊で死者は出なかった。
敵から奪った物資を積んでトラックが動き出す。私は思わずその場に座り込んだ。体が震えている。
「仕方ない初めての戦闘だもんな。そりゃ怖いさ。」
部隊の仲間がそう言って私を抱きしめる。そうか…私は怖かったのか。
その日私は出ないはずの涙の存在を感じた。




