シャーリーと写真と少年20
「また派手に壊れたなぁ」
「関節部分を増やすとどうしても強度は落ちますからね。しばらくは予備の素体で我慢しますよ」
少佐が病院で治療を受けているころシャーリーは基地の中で素体交換を行っていた。浅羽に殴られたパーツは大きく歪んでおりとりあえずは代替品で済ませようとしたのだ。
「頭の部分入れ替えたら大体の機体は動かせるんだろ?」
「えぇ。それでも以前の素体とは重心も身体制御の感覚もだいぶ違うのでまたプログラムを弄る必要があるんですが…てか捜査の方はどうなったんです?」
シャーリーが新しい素体の動きを確かめるように体を動かす。元々基地に備え付けていた素体のためシャーリー専用のチューニングも施されていない。そのため体の操作に違和感をシャーリーは感じていた。
「とりあえずのところは保留だ。身柄拘束もなし」
「逃亡する危険とか考慮しないんですかねぇ」
「首輪付きのアンドロイドとおっさんくらいならどうとでもなるって判断だろ」
「チンピラの侵入は防げないのに?」
「あれは合理派が絡んでるからノーカンだ」
実際のところはシャーリーの首輪にGPSが仕込まれておりそこから場所が分かるため無理をして身柄を拘束する必要性がないのが理由だ。
坂本将軍も一度は身柄を拘束する必要性があるとの意見が出たが不思議なことに裁判所は警察、検察両方に逮捕令状を出すことはしなかった。その代わり報告義務違反などの責任について軍の方から後日改めて話があるということで監視付きの身分となっている。
「ドローンで監視が可能って考えてる辺り温いねぇ」
「人間が監視したら色々と不正があるってことでしょうね」
「お前ならどうする?」
「手足打ち抜いてとりあえず懲罰房に叩き込みます」
「…ここ一応非戦闘地域なんだが?」
「本当に逃がさないようにするならそれくらいするべきですよ。私なんか一時期頭だけにされましたし」
「そりゃ人殺しの容疑がかかったからな」
「まぁ実際やりましたしね。仕方がないですよ」
シャーリーに掛かっていた逮捕令状は一時取り下げとなった。シャーリー達が少佐の捜索を行っている頃坂本将軍が裁判所含む警察組織に圧力を掛けたからだ。勿論古川含む検察一派はそのことに抗議したが後日正式に取り調べに応じることを約束する形で一時解散となった。
この一連の騒ぎにより軍内部でも独自にシャーリーを調べようとしているが浅羽含む合理派の首都進攻によりうやむやとなっている。
「今後どうなると思う?」
坂本将軍が缶コーヒーを片手にシャーリーに聞く。
「良くて凍結、悪くて解体ってところでしょうね。戦闘データだけ抜き取られて研究所に新作作れって圧力かけられる可能性も高いです。私が裏切ってようがいまいが壊せばどうとでもなるのがアンドロイドの使いやすさってやつですから」
シャーリー達心理機能付きのアンドロイドは内戦勃発前から人間と似通った部分が多分に含まれているとして人権が保障されてきた。だがそれはあくまで人に危害を加えないことを前提としていた。
一度人に危害を加えた瞬間シャーリー達アンドロイドを守る価値は一気に落ちる。どれだけ人と似ていようが、人と会話をすることができようが、人に危害を加えた時点でアンドロイドは隣人ではなく壊れたジャンクとして見られるのだ。一応裁判も行われるがあくまでもそれは形式的なものであり実際は問題点を洗い出すただの検査のような機能にしかなっていなかった。
「すまんなぁ。こんなことにするために後方に呼んだわけじゃないんだが」
「分かってますよ。隊長の無茶ぶりでしょ?」
シャーリーは近くにあった椅子に腰かけながら笑った。二人の間に独特な間が生まれる。それはゆったりとしていて、また同時にしんみりともしていた。
「どうなるにしろここにはいられません。それにここで仕事して思ったんです。やっぱり後方勤務は合わないって」
シャーリーは笑いながら言う。
「隊長や坂本さんが何を思っていたかは知りませんが…やっぱり私は戦闘用です。今回少佐が攫われたときもつい思いましたよ。前線なら何も心配しないでいいのにって」
「心配?」
「前線なら…私が今まで生きていた所なら私だけが暴れていれば解決しました。何も考えず銃を握って、暴れて、壊していればそれで十分でした。でもここは違う。皆平和で…弱くて…幸せそうで…なにより優しい」
シャーリーの目が細くなる。それは遠くを見ていた。ここではないどこか遠く。
「戦ってるときに彼らが目に入る度につい考えます。流れ弾に当たったら?敵の攻撃が向こうに向いたら?って。戦闘中に余計な事をつい考えちゃいます。そしてこのざまです」
そう言ってシャーリーは自分の体を見せる。その素体は今までの物に比べてずっとシンプルだ。余計な機能一つ付いていないその素体はシャーリーにとってか弱い乙女のように見える。
「今回来た合理派も少佐を理由にしてましたが本音は私でしょう。私に対して嫌がらせがしたかったのか他に目的があったのかは分かりませんがアイツが出張ってきていることを考えるとやっぱり私も目的の一つなんでしょうね」
「それでも俺はお前を前線に戻したくはないよ」
「分かってます。それがあなたの隊長に対する思いだと言うことも。でも…今回だけでも二人死にました。私が理由で二人死んだんです。ねぇ坂本さん?それでも私がここに居る意味って何ですか?それは他の真っ当な人間の人生を捨てることになっても必要なものなんですか?」
シャーリーから紡ぎだされる言葉はゆっくりとしたものだ。だけどそれはガラスのように脆く危険な言葉であることをシャーリーの目は物語っていた。




