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シャーリー  作者: カメレオン
第一章
24/47

シャーリーと写真と少年19

「…浮かんでこないな」

 「終わったか?」

 「誰か確認して来いよ」

 「潜水装備もないのに潜ってこいってか?ふざけろ」

 浅羽が海に沈んでから二分程度キャンプ場ではどこか弛緩した空気が漂っていた。

 「ぐだぐだ言ってないで援軍来るまで警戒態勢維持しろ。もう弾薬もほとんど残ってないだろ」

 そんな弛緩した空気を締めるために捜索隊のリーダーが声をかける。皆鍛え上げられた軍人とあってその一言で顔つきに変化が出る。だけども彼らの空気がすでに事が終わった様相なのはこれ以上戦いたくないという気持ちの表れなのだろう。

 (まぁ仕方ないか。あれだけ暴れた後だとなぁ)

 そう思いながらリーダーは辺りを見回す。そこには最初に殺された部下の頭と体、手榴弾で穴の開いた地面、シャーリーと浅羽が戦っていた痕跡が残っている抉れた地面、他にも銃の乱射による銃痕などたった一体の相手にも関わらずまるで中隊を相手にしたような戦場の傷跡が広がっていた。

 (しかし…この後方でここまでの事件が起きるか。軽い暗殺事件ならしょっちゅうだがなんで今回はまた誘拐なんて手段に出た?)

 リーダーが後ろを振り向くとそこには今この場にいる誰よりも神経を尖らせている少佐がいた。その目は疲労と痛みに耐えているのか普段よりも鋭い物になっている。すぐ傍にはシャーリーが壊れた脚部を動かしながらどうにか立とうと悪戦苦闘していた。

 (確かに久留和少佐は優秀な人だ。でもそれは軍人としてではなくあくまでも組織の立ち回りだ。わざわざ攫う必要があるとまでは思えん。)

 「おいシャーリー、どうだ動けるか?」

 「関節部分がやられたので正直厳しいですね。立つだけなら出来なくもないとは思うんですがっと!」

 そう言いながらシャーリーは車を支えにしながら立ち上がる。しばらくふらふらとするが片方の足と上手にバランスを取りながら立ち上がる。

 (いやいやあり得ないだろう。なんで関節部分やられてそんなに器用に立てるんだよ。俺が知ってるアンドロイドはそこまで器用じゃないぞ。普通手足関係のパーツやられたらバランス制御が難しくなるって昔聞いたぞ!?どんな精巧なプログラム組んでるんだ?)

 そんなリーダーの困惑を無視してシャーリーはそのまま動こうとするがその動きは老婆のそれだ。

 「うーん…やっぱりいつもみたいに動くのは難しいです。警戒行動だけはしたいので少佐に渡したハンドガンください」

 シャーリーの要望に応じてハンドガンを渡す少佐。

 「どうもです」

 少佐から受け取ったハンドガンのマガジンを抜きスライドを開けるその手つきは熟練の兵士の動きそのものだった。素早く銃の調子を確認したシャーリーはハンドガンを下に向け視線を忙しなく動かしている。

 (あいつがいなきゃこれ以上の被害者が出たんだよなぁ。…情けない話だけど今回ばかりは俺たち軍人の立つ瀬がないな。正直少佐が囮になってくれなかったら俺たちはアンドロイドに頼っただけの情けない軍人で終わったのかと思うと…)

 彼らは後方勤務。前線から離れた兵士ばかりで構成されている。中には一度も前線に出てない兵士もいる。そんな彼らだが人並のプライドはあった。自分たちがこの国を守っているのだというプライドが確かに存在しているのだ。

 だが浅羽という未知の恐怖、それと互角に戦う前線帰りのアンドロイド、そして自ら的になった捜索対象と敵と心中した部下。そんな諸々の事情がリーダーだけでなくこの場にいた皆の心を圧迫していた。

 (気が抜けてましたではすまねぇよなぁ。治安的にも上司としても)

 そう思い頭と体が離れた部下を見る。綺麗に一撃で絶命したそれをどのように家族に説明したものかとリーダーは頭を抱えた。


 

 そんなリーダーの傍らシャーリーと少佐は二人で車に寄りかかっていた。

 「しかしお前…何も伝えてないのによく手榴弾の意図がわかったな」

 「生憎とその場限りの無茶な作戦はよく巻き込まれたことがありまして。あれくらいならなんとなくは分かりますよ。そのあとの車は分かりませんでしたが…あれ何時から練ってたんです?」

 そのシャーリーの問いに少佐は少しばかり不機嫌な様子で答えた。

 「ほとんどは出たとこ勝負だよ。でも最後のとどめだけはあいつに取らせるつもりだったお前が馬鹿みたいにこっちを気にしているのは分かってたからな。そのうち倒されるだろうと思って先に数人にだけ作戦を伝えたのさ。」

 正確には少佐はシャーリーが勝っても負けても最後のとどめをシャーリーに譲るつもりはなかった。だからシャーリーが勝った場合、負けた場合両方のプランを練ってスタンバイしていた。

 「浅羽も言ってましたけど私が囮になっている間に逃げるって選択肢をしてくれたほうが私としては楽に戦えたんですが」

 馬鹿と言われたのが頭に来たのかシャーリーも少しだけ言い返す。

 「馬鹿かお前。ここで私達が逃げたところでお前が勝つ保証はないしむしろ負けたらどれだけの人間が死んだ?自分は人間とは違うから邪魔さえなければ勝てるってか?思い上がりも大概にしろポンコツ」

 「誰がポンコツですか!?そのポンコツに拉致現場から救出された間抜けがなに言ってんですか!大体あんたが拉致されなきゃこんなことになってないだろ!少しは自分の責任も認めろよこの年増!」

 ただの愚痴が喧嘩に切り替わるまでそう時間はかからなかった。互いにこの戦闘で相当にストレスが溜まってたのかその言い合いは益々熱を帯びてくる。

 「大体明らかに危険なやつがいるのにぼーっとするってなんですか!?馬鹿ですか?走れよ!精々肋骨と顔面の骨が多少折れてるだけでしょうが!これだから戦場に出てないボンボンは!」

 「お前らアンドロイドと一緒にすんな!普通の人間は骨折れただけでもすっげぇ辛いんだよ!血も足りなきゃ冷静になる時間もない中であんな化物見たら誰だって固まるわ!」

 「あれより質の悪いの見ても笑いながら突撃する人間もいましたが!?」

 「知るか!」

 「…あのお二人さん…部隊の士気にも関わるのでそろそろ落ち着いて貰っても構いませんかね?」

 二人の喧嘩を見かねたリーダーが止めに入るが二人の目には彼は映っていないのか彼を無視して言い争いは続く。結局このあ言い争いは援軍部隊が来るまで続けられることになった。



 援軍部隊がシャーリー達を回収してしばらく経った後、真っ白な部屋でそれは聞こえた。

 「先生…すっげぇ痛いんだけど…」

 そう呟いたのは白い包帯で覆われてハロウィンのコスプレ状態になっている少佐である。彼女は現在病院の診察台の上で仰向けになっている。

 「そりゃ頬骨折れてるし肋骨も折れてる。加えて体には無数の擦り傷に裂傷。それで痛くなかったら軍人辞めてプロレスラーに転職すると良い。チケット買いに行くよ」

 少佐の愚痴に対して軽口で返したのはこれまた妙齢の美女だ。長いストレートヘアと細いフレーム眼鏡が似合うその姿は軍医という職業を感じさせなかった。

 「死に物狂いで戦場に立った人間に言うセリフかよそれ」

 「あんたじゃなきゃ言わないし、あんたより前線に出ている兵士は大勢いるからその言葉に価値はないよ」

 あの後援軍部隊によって少佐達が運ばれたのは基地内部に併設された軍事病院。ここは民間人にも開放されており日中多くの人が詰めかける。その中でも軍事関係者しか入れない病棟がありその中でも機密保護の観点から士官以外入ることの出来ないエリアがある。少佐はそこに運び込まれていた。

 「ちっ!」

 「舌打ちしない。てか頬骨折れてるから喋ると余計痛いよ。まぁ普通は喋るのも辛いはずなんだけど」

 「体が興奮しててさ。気が高ぶってそれどころじゃないのよ。痛いけど」

 「アンドロイドと喧嘩したのもそれが原因ってわけだ」

 軍医の言葉に少佐は黙りこむ。包帯の上からでも分かるほどその顔は不機嫌に歪んでいた。それを見て面白そうに笑う軍医の顔はこれまた幸せそうだ。

 「そんなに痛いなら痛み止めだすけど?」

 「お願っ…ねぇそれ錠剤?」

 突如喋ってた言葉を切り急に質問をしてくる少佐に疑問を持ったのか軍医の顔が僅かに懸念の表情を醸し出した。

 「なに?急にそんな質問して」

 「いや…詳しいことはまだ話せないんだけどさ、人の姿を大きく変えて化物みたいな力を与える薬ってある?」

 「抽象的すぎて良く分からないけど…映画に出てくるみたいなやつのこと?」

 「先生がどんな想像しているか知らないけど概ね想像通りだと思う。極端に傷の治りが早くなったり、痛みに強くなったり、筋肉が膨張して人間以上の力を与えたりするそんな薬」

 「あるわけないでしょそんな薬」

 少佐の質問をさっぱりと切り捨てた軍医はそのまま話を続ける。

 「仮にあったとして人間の体を短時間で治そうにも大量の栄養が必要になるわ。筋肉の膨張もそう。もしあなたの言うその薬があったとしてもそれだけの栄養を短時間で摂取できる人間はいないし、その薬が無理やりそう言った作用をもたらすのならそれを服薬した人は間違いなく死ぬわ」

 「…そう」

 少佐は軍医の考察を聞いた後そう言葉を返して考え込んだ。

 「何を見たかは知らないけどそろそろ娘に顔でも出して来たら?」

 少佐の考え事が長くなりそうな気配を感じた軍医が遠回しに病室からの退室を促す。その言葉にはハッキリと出て行けという意思が込められていた。

 「…そうするよ。また明日顔を出す」

 少佐がそう言った瞬間病室のドアが開き看護型のアンドロイドが二体部屋に入ってくる。

 「それでは久留和様。只今から車椅子への移乗の補助をさせていただきます」

 「よろしく頼むよ」

 「…うちの子たち見てて思い出したけどあんたのところのアンドロイドどうなったの?」

 「起きた事が事だからとりあえずは経過観察。近いうちに私含めて呼び出しでしょうね」

 アンドロイドに支えられながら車椅子に乗る少佐。途中何度か痛みを覚えたが流石看護専用アンドロイド。その技術は素晴らしいものだ。

 「…あいつもこれくらい優秀だと私としても嬉しいんですけどねぇ」

 「一級品のアンドロイド捕まえておいてなに言ってんだか」

 (色々と地雷付きですがねぇ)

 声に出そうな気持をぐっと喉奥に押し込み少佐は病室を後にした。


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