シャーリーと写真と少年16 4月29日編集→文量増量
前話を2000字ほど増やしてます。この話も増量する予定ですのでお気をつけください。
浅羽の攻撃が速度とキレを増すようにシャーリーの動きもそれに適した動きに変わってくる。
シャーリーの動きは大きさを増す浅羽の攻撃とは対照的で小さくなる。それは一般的に人が想像する紙一重という言葉よりもさらに繊細だった。
浅羽の攻撃にギリギリを見極めて避ける。浅羽とシャーリーの体の距離は1センチも開いてないようにすら見えた。普通の人間なら間違いなく出来ない見極め。それが出来るのはシャーリーがアンドロイドであるが故のことだった。
敵との距離、安全な位置、次の動きのための領域占拠普通の人間が一生を掛けて極めるそれを彼女達はいとも簡単に習得する。それでも戦場でアンドロイドが破壊されることは多い。それは戦場が彼女たちの処理能力をはるかに上回る情報量を含んでいるからだ。物理的に避けられないことも多い。
だけどシャーリーはそんな戦場で生き延びてきた。他のアンドロイドが役に立たない戦場でも結果を出してきた。それは幸運と彼女の実力両方が生み出した奇跡だ。その結果彼女は力を得た。人知を超えた化物と戦うことすら可能になるほどの。
「っ!うっとおしい!」
浅羽はそんなシャーリーに怒声と共に掴みかかる。両手を大きく使った体格差を意識した面積の広い攻撃だ。
(膝か)
だけどシャーリーは攻撃を仕掛ける両腕ではなく浅羽の体全体を把握する。重心の位置、筋肉の張り方など視界で手に入る情報を全て照合してそこから最も可能性の高い攻撃を演算するのだ。そしてそれはシャーリーに視覚情報として表示される。
シャーリーはあえて浅羽の両腕の内側に侵入する。掴みかかっての飛び膝がくると考えたからだ。だからこそ距離をさらに詰めた。膝が出しにくい位置に移動するために。
シャーリーの行動は終わらない。浅羽の左腕を根元から掴み腰を浅羽の体に密着させる。
「ほっ!」
そして浅羽を自らを軸にして地面に叩きつけた。
「かはっ!」
投げ飛ばされた浅羽の肺から呼吸が漏れる。受け身を取れなかったのだ。
銃弾は浅羽の体を通さない。衝撃は通じているはずだが耐えているのか一見効いてないようにも見えた。
シャーリーの打撃も強力だが銃弾が通じない以上隙が大きくなりやすい打撃技の多用は避けたかった。だからこそシャーリーは内臓を狙った。特に肺だ。
人間は肺に攻撃を受けると体の制御を奪われる。
現状なら肺の空気を出すためには投げ技が一番手っ取り早く内臓全般にダメージを与えられると考えたのだ。
たとえ内蔵が変化を遂げていてもその機能までも変えてないだろうとシャーリーは考えた。仮に通じなくても相手の体勢を変えられることはシャーリーにとって無限の可能性を内包していた。
浅羽にとっては一瞬の衝撃だ。ただ肺から空気が出ただけ。少し体勢を崩しただけ。ここから逆転する手段は今の強化された体にはいくつもあつた。現に肺は最初の一呼吸だけ異常を見せたが次の呼吸では通常の状態に戻ろうとしていた。
浅羽は体を起こそうと手のひらを意識する。自然と腕全体の筋肉が動く。だがその動作を許すほどシャーリーは甘くはない。
素早く体勢を立て直そうとする浅羽に対し顔面に蹴りを撃つ。かかとを使って体を捻りながら打つ体重移動を意識した動きだ。
パンッという破裂音に近い打撃音が響く。自然と浅羽の体はもう一度地面に戻される。だが化物となった浅羽はこれではひるむことはない。それどころか反動を利用してそのままシャーリーに対して飛び掛かってくる。
シャーリーが放った蹴りは人間なら脳震盪を起こすか顔面の部位を骨折するほどの蹴りだ。そんなシャーリーの攻撃を受けてなお浅羽は平然と戦いを継続する。
桁外れの耐久力と攻撃力を持つ化物と圧倒的な演算能力で戦局を操るアンドロイド。両者の戦闘スタイルは対極と言ってもいい。だからこそ決着がつかない。
そんな状況に浅羽は焦りを感じていた。
(クソっなんで当たらねぇ!)
浅羽が一回攻撃を放つごとにシャーリーは打撃に投げさらにはアサルトライフルやハンドガンを使った巧みな攻撃を何度も浴びせる。現在の浅羽にとっては蚊のような攻撃でしかない。だが自分の攻撃が当たらないという事実がもどかしく腹が立つのだ。
だけどシャーリーも浅羽とは異なる次元で焦りを覚えていた。
(やっぱり打たれ強いな。原理は分からないが普通の手段で倒すのは無理か。てか少佐達はなにをしている!?捜索隊の連中も早く対象を連れて逃げろよ!)
シャーリーはそう思いながら一瞬少佐を投げ込んだ荷台を見る。そこには数人の捜索隊のメンバーと少佐が居た。逃走準備は一応出来ているようだが戦闘準備もしていた。軍人の正義感なのだろうか。
シャーリーからしてみれば現在浅羽という化物と戦っている現場において少佐含む人間の存在は邪魔でしかなかった。
浅羽は早い。銃弾ほどではないが人間が反応できる速度の外にいる化物だ。シャーリーもアンドロイドだ。浅羽の身体能力に食らいつくことは出来る。人間を超えた膂力を最初から備えているからだ。
だからといって全てを守りながら戦えるほど器用ではない。現に浅羽の視線が一瞬だが少佐を捉えた。
(まずっ!)
浅羽の脚部が異常な盛り上がりを見せる。瞬間爆発音のような音共に地面が爆ぜた。
シャーリーの体を土砂が襲う。一瞬視覚と聴力を奪われる。これは生活能力のほとんどを視覚と聴力に頼っているアンドロイドにとって暗闇の世界に投げ入れられたにも等しかった。
そしてシャーリーの体が浮かび上がる。浅羽の拳がシャーリーの体を捉えていた。
(しくじったっ!)
シャーリーが着ているダウンジャケットにはシャーリーの動きを阻害しない程度の量に抑えられた鉄砂が仕込まれている。特に敵の銃弾を受ける可能性が高い面積の大きい胴体部分は関節を除いて隙なく仕込まれていた。
(左足の接続部分がやられた!)
だがいくら鉄と言えども衝撃は通す。ましてや砂状に成型された物なら尚更だ。
これまでシャーリーに対して打撃でダメージを与えた人間はいない。シャーリーはまがりなりにもアンドロイド。金属だからだ。人間の拳で倒せる範疇を超えた存在だ。時には同族であるアンドロイドの打撃によって思わぬ苦戦を強いられることもあるがそれは相手がアンドロイドというステージに立っているからこそだ。少なくとも人間には出来ない。
(左足を切り離した状態でどれだけ戦える!?こいつ相手にどんな戦闘が出来る!?)
思考に耽るシャーリーに着実に浅羽は迫る。その歩みはゆったりとしたものだ。確実にシャーリーを仕留められると考えているのだろう。その顔には勝者特有の恍惚とした笑みがある。
当然シャーリーもそれに気づく。
「ちっ!」
左手に残っていたアサルトライフルで浅羽を撃つ。浅羽の膂力で吹っ飛ばされることがあっても銃だけは手放さなかった。だけどそんなシャーリーの執念は浅羽には通じない。脚部の制御を失ったせいか銃弾にもバラつきが見られる。
(くそっ相手はどれだけ見た目が変わろうが人間だ!人間なんだ!必ず倒せるんだ!考えろ!考えろ!)
シャーリーは地面に座り込みながら銃弾を撃ち続ける。だがシャーリーの抵抗もアサルトライフルの弾と同時に途切れた。
「とりあえず…お疲れとでも言おうか?」
シャーリーのすぐ目の前にまで迫った浅羽がそう言った。言葉の意味とは裏腹にその声には敬意は籠ってなかった。
「なにがお疲れだよ。まだ終わってねぇよ」
「そうだろうね。やろうと思えば戦えるだろうね君は…だけどね?」
浅羽がシャーリーの首を無造作に掴む。
「時間が足りない。失った体をどう使って僕を倒すかまだ演算出来てないんでしょ?それにさっき撃った弾も雑だし体の制御も狂ったでしょ?その修正にも時間が必要だよね?その状態でどうやって続けるのさ?」
浅羽の右手に力が入る。首はアンドロイドの中でも胴体との接続部分であると同時に頭部が得た情報を流す重要なパーツだ。そのため頭部と首はアンドロイドのパーツの中でも特に頑丈に作られている。だがその首が今から壊されることをシャーリーは感じていた
人工皮膚の表面に浅羽の爪が刺さる。
(これは本格的にやばいな。アサルトライフルは弾切れ。残ってるのは使えないことが決まってるハンドガンとナイフのみ。だけど近接戦闘は脚部故障につき不可能…控えめに言って詰みかなこれは)
シャーリーの頭部に入っている戦局分析用のコンピューターは先ほどから何度も現状の戦力とシャーリーの状態で浅羽を倒すことは出来ないかシミュレートしていた。だが未だに芳しい結果は出ていない。シャーリーの頭に流れる機会音声がその事実を淡々と告げる。
「じゃあね。さよならアンドロイド」
浅羽の右手に特別強い力がかかろうとした瞬間発砲音がした。それと同時に浅羽の頭部を衝撃が襲う。
シャーリーと浅羽の時が止まった。シャーリーの首を掴んでいた手も自然と力を失ってシャーリーを地面に降ろしていた。
「何やってんすかあんた…」
そんな声がポツリとどこからか漏れた。
シャーリーと浅羽が振り向いた先にはハンドガンを構えた少佐が立っていた。
「ほんっと何やってんだろうね私は…」




