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シャーリー  作者: カメレオン
第一章
2/47

シャーリー

(勘弁してよもぉ…)

 シャーリーが少年と初めてコミュニケーションを取ってから一時間、シャーリーは消沈していた。

 (二か月だよ?メンテナンスポッドから出て二か月。起きたら誰もいない基地を一人歩き回ってようやく見つけたのが会話できない子供ってどういうことだよぉ。)

 「しゃーりぃ」

 プロテインゼリーをすすりながら少年が寄ってくる。元々の知能は高いのかシャーリーの言葉を追いシャーリーの名前を呼べるようになっていた。

 少年はプロテインゼリーを最後まですすり。空の袋を振り回している。追加要求である。もうこれで三個目だ。

 「四個目は駄目!食べ過ぎです!」

 (とりあえず親が見つかるまで一緒に暮らすしかないよなぁ。この子一人で生きていけるわけないし。近くにいるといいんだけど。)

 シャーリーはこの二か月の基地周辺の探索で今の現在地の環境がシャーリーが眠る前と比べて大きく変化していることに気付いていた。

 以前も野生動物が豊富な山ではあったが流石に狼と白昼堂々出くわすほど人の手が入っていないわけではなかった。

 そんな人が暮らすのに適さない環境でこの子供が一人で生きていけているわけがないとシャーリーは判断したのだ。どこかに育ての親がいるはずだとシャーリーは考えた。

 (でも親がいて言葉が喋れないのはおかしいよなぁ。あれから何年経ってるのか分からないけど原始人みたいになってるとか?まさかなぁ。)

 思案にふけるシャーリーの目を盗み少年は足音を消し机を開く。シャーリーがプロテインゼリーを出している場所を覚えているのだ。

 「パキッ」

 「あぁぁ!」

 少年はシャーリーの目を盗みプロテインゼリーを持ち出す。

 追いかけてくるシャーリーから逃げる。勿論プロテインゼリーは口に含んだままである。

 「まてぇ!」

 待てと言っても少年は止まらない。少年は部屋を飛び出し廊下に出る。後ろから追いかけてくるシャーリーを撒くために緩急をつけた動きをしながら廊下を曲がる。T字路ではフェイントもかける。

 今までの山での生活は普通の9歳児の身体能力を遥に超えるものを身に着けさせたのかまたしてもシャーリーの現実が一つ崩れる。

 (なんでアンドロイドと張り合える身体能力してんのよ!本当に人間?あの子!?)

 少年が一際大きな扉を開ける。

 「よっしゃあ!」

 少年が空けた先は行き止まり。そこなら容易に捕まえられるとシャーリーは考えたのだ。

 「捕まえた!」

 シャーリーは後ろから少年に抱き着いた。

 「逃がさないわよぉ」

 シャーリーはプロテインゼリーを取り上げようと口元に手を伸ばす。

 (あれ?)

 逃げたわりに少年はプロテインゼリーを反抗することなく手放した。

 「どうかした?」

 シャーリーが後ろから少年の顔を覗き込む。少年は目の前の景色に興味を奪われていた。

 (メンテナンスポッド見て固まってる?そんな珍しい物でもないでしょうに。)

 少年が逃げ込んだ部屋はメンテナンスルーム。シャーリー達アンドロイドがメンテナンスを行われるための部屋だ。もっともシャーリー自身は人の手よりもメンテナンスポッド含む機械式のメンテナンスが多かった。

 そしてシャーリーにとっては珍しくない物でも少年にとっては珍しいものだった。今までの人生で一度も見たことがない物だった。

 それは何故か少年の胸を、心を締め付けて離さなかった。

 (そっか…この子は…)

 シャーリーは少年の目を見て悟った。少年が自分と同じで一人であることを。そして自分の状況が昔と比べて大きく変わっていることを実感したのだ。

 

 

 シャーリーと少年との追いかけっこから数分後。シャーリー達は自室に帰っていた。少年が狼との死闘を終えてからまだ一日も経っていないのだ。包帯からは血が滲んでいる。

 シャーリーは包帯を変えるために少年を寝かしつけていた医務室兼自室に戻ったのだ。

 (やっぱり…おかしい。これだけの傷で動けるなんて。)

 少年が戦ったのは狼である。人間一人は軽く転がせるほどの狼である。そんな狼に噛まれたのだ。傷口一つに対し多くの縫合手術が必要になるほどの傷を負っている。

 だが先の追いかけっこにしろ、狼との戦いにしろ少年は怪我人とは思えない動きをした。シャーリーはそのことに強い疑問を感じた。

 「沁みるよ。我慢して。」

 シャーリーはガーゼに消毒液を染み込ませ傷を消毒していく。

 「あぅっ!いぃ!」

 シャーリーがガーゼを使い傷口を軽く叩くたびに少年は小さく悲鳴をあげる。

 「こら!動くな!」

 シャーリーが動くなと言ったところで痛い物は痛いのだ。少年にとっては苦痛以外何物でもない。

 (少年といい、狼といい多分膨大な時間が経っている。どれもこれも今までの生き物の常識から外れてる。こりゃ調査がいるな。)

 シャーリーは包帯を巻きなおしながら今後のプランを練る。

 (取り合えずもうすぐ夜だ。少年が寝静まったら外に行って狼たちの調査だ。雪に埋もれてなかったら血痕が残ってるはず。それを探れば少年の生活圏も見えてくるだろう。)

 「はい!これで終わり!」

 シャーリーは少年を抱きかかえベッドに運んだ。

 「しゃーりぃ?」

 だがベッドに運んでも少年は寝ない。食料を貰ってシャーリーに気を許してはいてもシャーリーの目の前では眠らない。それは警戒心と傷が誘発させる興奮が引き起こしたものだった。

 (これは長くなりそうだな。)

 シャーリーは長くなる夜を感じながら少年を寝かしつけようとするのだった。



 結局少年が眠ったのはシャーリー基準で深夜三時頃。念のため部屋に鍵とチェーンロックをしてから基地を離れる。服装はさっきと同じく赤いダウンに黒いズボンだ。

 「さぁてどこにあるかなぁ♪」

 シャーリーはリズムを取りながら歩く。口ではどこにあるかなどと言ってもシャーリーの足取りが迷うことは無い。アンドロイドに搭載されているコンピューターは雪降る山の中でも正確に過去に通った場所を記憶しているのだ。

 シャーリーはそうして少年を拾った位置にまでたどり着く。

 (さすがに血は残ってないかぁ。残ってたら今後の探索が楽になるのに)

 シャーリーは少年の足の凍傷を見て少年が歩いた後には血が残っているだろうと考えた。だけど降り積もる雪はシャーリーの目論見をたやすく打ち破る。

 「グルルッ!」

 シャーリーの後ろで動物が喉を鳴らす。

 「しかも面倒なのがいるなぁ!」

 シャーリーの後ろに居たのは熊。体重はおよそ200キロは超えようか。冬眠から中途半端に目覚めた熊は狼の死骸を漁ろうと血の匂いを嗅ぎ分けシャーリーの元まで来ていた。

 「帰りな熊。今私は機嫌が悪いんだ。」

 シャーリーは熊相手に睨み倒す。当然言葉は通じない。だが気迫は伝わる。シャーリーの凄みを感じ取り熊は後ろに下がる。だがそれは逃げるためではない。戦うために距離をとったのだ。

 「死にたいんだな?」

 「グオォォ!」

 シャーリーの言葉に対し熊は咆哮を以て返す。結局のところ熊も狼と同じなのだ。この長い冬。腹を空かしている。普段なら余計な争いを避けたであろう。だが空腹は熊をも狂わせた。

 熊の長い爪がシャーリーに降りかかる。200キロの体重が乗った一撃だ。普通の人間なら首が折れて一瞬で悲惨な光景になる。

 だけどシャーリーは違った。シャーリーはアンドロイドだ。

 「攻撃したな?」

 シャーリーの声が一段低くなった。

 「F―3020型アンドロイドシャーリー。覚えてあの世に行きな。」

 「パンッ!」

 瞬間熊の顔に大きな穴が開いた。それは戦闘にもならなかった。一方的な虐殺だった。

 「パンッ!」

 熊の腹に穴が開く。臓物が巻き散らかされる。

 「パンッ!」

 熊ののどが取れる。頭が完全に胴から離れた。

 こうして虐殺は終わった。

「一から探しなおしかよ。めんどくせぇ!」

 F―3020型アンドロイドシャーリー。そのFの意味はファイター。戦闘型アンドロイドそれがシャーリーの正体だった。

 

 朝。雪も止み木の上をリスなどの小動物が走っている。少年が目を覚ますとシャーリーはいなかった。部屋を探し回ってもシャーリーの姿はない。

 昨日のように扉を開けようとするが扉は固く開かない。

 「らぁ!」

 裂帛の気合を以て扉を蹴るが扉が開くことは無い。元々は軍事施設の医務室。気が動転した患者などに備えて特別強固に作られてる。

 「くぅ」

 だが少年が諦めることはない。何度も扉をたたく。蹴る。だけども扉が少年に答えることはない。

 「しゃーりぃ!しゃーりぃ!」

 少年は叫ぶ。声を上げる。だけども待ち人は来ない。

 たまらず少年は泣く。舌足らずな言葉で何度もシャーリーを呼びながら。

 やがて泣きつかれたころシャーリーは帰ってきた。

 「うわ!どうしたのそんなに目元を腫らして」

 少年は走った。シャーリーの体を抱きしめる。

 「ちょっと!なに?」

 「うわぁぁ、あぁぁ。」

 嗚咽を漏らしながら泣いた。その涙は少年がシャーリーを必要としている証だった。

 (随分懐かれたなぁどうしよっか…)

 シャーリーは自分の腰にしがみつく少年を抱えながら頭を悩ませるのだった。

 「スンッ」

 シャーリーが頭を悩ませる一方少年の鼻はシャーリーの体に微かに残る血の匂いを感じ取っていた。


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