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シャーリー  作者: カメレオン
第一章
17/47

シャーリーと写真と少年⑫

ガーデックが久留和を襲う。その攻撃は主として下半身や腕部を狙った攻撃が多く幸いにも未だ重傷には至ってない。だけどその攻撃は的確なのも事実であり先ほどの浅羽の攻撃も相まって久留和の足は確実に少しづつ鈍くなっていた。

 元々はキャンプ場として利用されてきたのだろう。海沿いのバンガローのため遮蔽物も多く一時的に弾道から逃れることは可能だがそれも長くは続かない。

 このままシャーリーが移動手段として使った車まで逃げたとしても恐らく直ぐに追いつかれるのが関の山だと久留和は考えていた。

 一瞬でも囮があれば良いがそれすらも思いつかない。そんな状況がますます久留和を焦らせた。

(そもそもの話、こっちは指揮が専門で戦闘はからっきしなんだよ)

久留和も軍人のため戦闘訓練は十分に積んでいる。だが才能に恵まれなかったせいか射撃、格闘訓練のいずれも成績はよくなかった。

その代わりといっては何だが外国語、交渉、震災時など緊急事態における対応などは他者より優れていた。これは士官学校に入った同期の中でもトップの成績だった。

現場に出てからもそれは変わらなかった。彼女の生来の特技もあってかその巧みな能力を使い同期よりも素早く出世をしてきた。気づけば銃を握る機会よりも各省庁に挨拶をしたりすることの方が多くなっていた。そんな彼女の生き方が今の彼女を追い詰めていた。

(当てるだけなら出来るがアンドロイドなんて硬い物を貫く技術はないからな。シャーリー以外の捜索隊が来るまであと五分ってところか。それまでどうやって生き延びる?)

そんなことを考えている間にも敵の銃弾は来る。体を必死に走らせるがガーデックもタイミングを掴んで来たのか太ももや腕に銃弾がかすることが多くなってきた。体に貫通するほどの怪我ではないことから久留和も一々悲鳴を上げたりはしないが痛みは確実に次の動きを遅らせる。

(そうやって少しづつ追い込んで動けなくなったところを捕獲か。心理機能も積んでないアンドロイドのくせに賢しいこと考える。五分全力で走って持つ体力はない。なら勝ち手はひたすら撃つこと!)

敵の銃口が久留和の方向を向いた瞬間久留和は体をひねり横に飛びながら撃つ。銃弾を相手の銃口に吸い込ませるなんて曲芸はできない。だけどわずかにでも銃口が逸れれば生き延びるチャンスは広がると考えての射撃だった。

その久留和の考えは正しい。確かに銃を撃つガーデック自身の体が逸れれば久留和に銃弾が当たる危険性は減る。あくまでもガーデックの体が逸れればの話だが。

久留和の銃はあくまでもハンドガン。人間一人を殺すなら十分すぎる凶器だがアンドロイドそれも明らかに戦闘用の物を相手するには心もとない。恐らくハンドガンでは比較的耐久力に弱いシャーリー達Sシリーズすら破壊することは不可能だろう。

ましてやガーデックのような大型の兵器の弾道を逸らすにはそれこそアサルトライフルやサブマシンガンなどの比較的貫通力に優れた装備が必要になるだろう。

実際久留和の銃弾はガーデックの腕部を捉えたがガーデックは気にもしていない。それどころか久留和が倒れこむ先を狙い射撃した。

「あぶねぇ!」

幸いにも銃弾は久留和の足先を掠める程度で済んだ。だけど久留和のハンドガンが役に立たないことが証明された。

久留和はそのまま倒れこむという醜態を避けどうにか立て直しながら走るがやはり速度は落ちる。そしてそんな久留和を見逃すほど甘い敵ではない。

速度が落ちた久留和に対して確実に距離を詰めてくる。勿論銃弾のオマケつきだ。

「嫌な性格してるなぁ!」

ガーデックの速度は決して早い物ではない。それどころか普通のアンドロイドに比べればむしろその機動力は遅い。だけどその時速は20キロ程度なら問題なく出せる。それは久留和を捕まえるのには十分すぎる速度だ。

「簡単に捕まるかよっ」

役に立たないハンドガンをガーデックの足元に投げ捨てる。恐らく重量は三桁を軽く超えているであろうガーデックにとってはなんの障害にもならない。だけど一瞬足元に大きな障害物が入ったことによりその重心がわずかに乱れる。

 そのわずかな間で十分だった。久留和はシャーリーが乗ってきた軍用車に向かって走った。あばらが痛み傷だらけの顔に涙が染みて辛いがそれでも足は止まらなかった。

 体勢を立て直したガーデックが追いかけてくる。久留和は全力疾走。体は傷だらけだが一時的に走る分には問題ない。

 一時的とはいえガーデックの速度を超えて走る。それは軍用車に辿り着くには十分すぎるほどだ。

 久留和は戦闘能力こそ底辺も良いところだがその身体能力は軍人というだけあって他者の追随を許さない。久留和の走りはまさしく鍛え上げられた人間の走りだった。

 シャーリーが乗ってきた軍用車は荷台が付いている軽トラタイプの物だった。久留和が遠目で確認する限り荷台にも銃の他装備があることは分かっていた。

 「手榴弾発見!」

 素早く荷台に乗り移りまず目についたのは手榴弾。それも10個ほどがばらで置かれていた。素早くピンを抜き後方にいるガーデックに投げつける。そのまま久留和は車の荷台から正面に移動する。

 爆音が響いた。あのまま荷台に留まっていたら確実に今の久留和に余計なダメージを与えることは明白だった。

 車自体も爆発を受けて大きく揺れる。それは後方の爆発がいかに大きいのか表す物だった。

 「死んだか?」

 久留和は車の前方から回り込みガーデックを確認する。だけど煙で見えない。この海沿いのキャンプ場には芝が張られており芝ごと巻き上げるように爆発したせいであたりは一時的に煙が立ち込めていた。

 「しかし煙がひどいな。なにも見えん」

 そうやって久留和は無防備に荷台側に回り込む。金属音が聞こえないことからガーデックが活動してないことは確実だったためだ。

 土煙が晴れた瞬間そこには手榴弾の爆発で開いたであろう穴だけがあった。

 「消えた?でも音はしなかったぞ」

 あまりに不思議な出来事だった。本来人間が動いても音というのは鳴る。それは土を蹴り飛ばす音もそうだし階段を歩くときでさえ床の軋みなどから音というのは絶対に鳴るのだ。

 無音で歩ける人間などというのは創作上の生き物であり、ましてやガーデックのようないかにも全身金属で出来ているアンドロイドならなおさらだった。

 だけど目の前にあるのは穴。それだけだ。そこにはアンドロイドおろかミミズすらいなかった。

 「…なにか変だな。とりあえずシャーリーと合流するか」

 久留和は振り向いてバンガローの方に向かった。銃声が聞こえないことから恐らくバンガローでの戦いは決着したと思ったのだ。何より今は自分より強いシャーリーが恋しかった。傷のせいなのかそれとも消えたガーデックのせいなのかはわからない。どうしようもない不安感が久留和を支配した。

 不思議と嫌な予感がしていた久留和は急いだ。何かに急かされるように走ったのだ。

 そして久留和がバンガローの手前に着いた頃それは起きた。

 「かはっ」

 久留和の肺に痛みが走った。空気が押し出されて呼吸が出来なくなる。久留和は首をわずかに回し右目で相手を捉えるがそこにはなにもいない。

 久留和は思わず膝から崩れ落ちた。口から唾液が漏れ地面に落ちる。それは自然と頭を垂れる姿になった。

 姿は見えないが恐らくガーデックの仕業だと久留和は予測を立てていた。だけど目に見えない。その事実が久留和を焦らせる。だけど体が動かない。動かそうと思っても足に力が入らないのだ。

 カシッという金属特有の音が急に久留和に聞こえてきた。恐らく何か特殊な装備を用いて音と姿を消していたのだろう。

 (やばい…動かないと)

 だけど体は言うことを効かない。それどころか思考すらも定まらない。

 「さっきは良くもやってくれたねぇ。昔のガーデックならともかく今のタイプだと手榴弾を受け止めるのは厳しいんだよ?」

 (…喋ってる?)

 「さて…と今のうちにちょっと移動しようか。ちょうどナイトも来たみたいだしねぇ?」

 ガーデックがそう言った瞬間バンガローの扉が開いた。それと同時にガーデックの姿があらわになる。手榴弾を受け止めたせいか全身にへこみや傷が見られるがその動きに支障はなさそうだった。

 「やぁ久しぶり。埼玉で会ったきりだね」

 「少佐!」

 シャーリーはそんなガーデックの言葉を無視して久留和の元に走ろうとする。だけどガーデックがそれをさせない。久留和の首に足を置く。いつでも殺せるぞという意思表示だろう。シャーリーもそれを理解したのか動きを止める。だけどその目は今にもガーデックを破壊しようと怒りに満ちていた。

 「久しぶりに会ったのに怖い顔するなぁ」

 「お前のことなんて知らねぇよクズ!その足をどけろ!」

 「悲しいなぁ。君のことを思ってわざわざ東京から機体を運んできたのに。本当に覚えてない?千葉で会ったことも埼玉で戦ったことも?」

 ガーデックはわざとらしく大げさな動きをしてシャーリーにアピールする。まるでメスにアピールする孔雀のようだった。だけどシャーリーの言葉に覚えがない。いや覚えはあったが思い出さないようにしていた。それはシャーリーにとって向き合わないといけない記憶であると同時に極力触りたくない記憶だったからだ。

「だめかぁ…千葉の時みたいにこの人を殺したら君は思い出してくれるのかな?」

ガーデックの足に力が入るのをシャーリーの目は捉えた。

 「やめろ!」

 思わず叫ぶシャーリー。それに反応して動きを止めるガーデック。

 「…思い出してくれた?」

 「あぁ思い出したよ。忘れたこともない。今回は随分と姿が違うんだな」

 「好きな子に会うんだ。お洒落しないと」

 そう言いながらガーデックは久留和を軍用車の荷台に向けて軽く投げる。それは傷つけるためのものではなく移動させるためのものだ。

 シャーリーもそれが分かっていたからこそ久留和の元に走らなかった。いや走れなかった。今目の前にいるアンドロイドがずっとシャーリーを追っているからだ。むしろシャーリーがこれを無視して久留和に走ればその瞬間久留和ごと蜂の巣にされる。

 「相変わらず気色悪いなラスボス」

 「ひどいなぁ折角会いに来たのに」

 それは千葉での初遭遇から数えて三度目の邂逅だった。


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