シャーリーと写真と少年⑦
お待たせしやした!今日は少し長めです!
太陽が真上にあると流石に北海道でも夏は暑い。そんな中で元気なのは子供くらいだった。
「お母さん!お姉ちゃん!」
シャーリーの目の前で咲が元気にはしゃいでいる。どうやら彼女にはこの真夏の暑さは関係ないようだ。
「転ぶなよー」
そう言った少佐はどこか元気がない。テンションが高い時間は終わりを告げたのか今はどこか死んだ目をしている。
「…なんで遊園地に行こうとしたんだっけ?」
「その年で認知症ですか?」
そう現在シャーリー達は遊園地に来ている。遊園地と言ってもそこまで広い物じゃない。いくら広大な北海道でも東京含む本島の人間が移住してきている以上は広大な遊園地のスペースを確保するのは難しい。それでも国民にストレスの捌け口を用意する目的で作られたのがここである。なお資金は民間との折半だった模様。
真夏日であっても人は多い。シャーリー自身が機械である以上、この暑さは流石にきついものがあった。
だが横にもっと辛そうな人間がいる以上泣き言は言えない。というよりも言う気が起きないというのが正しい。
「いや、寝ずに仕事終わらせたせいか頭がぼーっとしてさ。とりあえず今日非番だから咲と遊ばなきゃとは思ったんだけど…思ったより辛いわ」
「馬鹿なんですか?別に後日でもいい話でしょう。咲さんは良い子なんですから大人しく待ってくれますよ。」
「分かってないなぁ。とりあえず子供に良い顔してあげるのが親なんだよ」
「そのセリフはもっと健康な時に言って欲しいですね」
少佐は笑いながら話をごまかす。
今回遊園地に来たのは少佐の希望だった。どうやら仕事で優先チケットを貰ったはいいが使う機会もないため持て余していたらしい。休暇で使おうにもどうにもタイミングが合わなかったようだ。
「会議…そんなにつらい内容だったのですか?」
シャーリーは尋ねる。元々最前線に居たシャーリーからすれば今回の上層部の会議は軍の今後の行動指針を決める重要な物だ。気になるのも当然だ。
「うーん?まっそれなりにね」
少佐ははぐらかした。本当のことを言うことが出来ないのもあるが、それ以上に機密の関係で言えないことの方が多い。シャーリーは兵器、それも基本運用は遊撃である。指揮系統などの重要なことはほとんど教えられない。護衛となった現在ならなおさらだ。
「…そうですか」
シャーリーもそのことには気づいている。だけどそれでも知りたいと思っていた。それが前線に対する望郷のような執着心なのかはたまた別の感情なのかそれは本人にすらわからない。
「悪いね…」
その言葉はいつものような軽さではなかった。いつもの軽薄さを捨てた本心からの謝罪だった。そこにはきっとシャーリーに対する謝罪が含まれているのだろう。ただそれを知らないシャーリーは違和感を感じることはあってもその正体にまでは気がつけなかった。
「お母さん!遊ぼう!」
そんなシャーリー達に飽きたのか、それとも気を使ったのか咲が少佐の手を引く。
「はいよ!どこ行く?」
「あっち!」
シャーリーはそんな親子を微笑ましく見ていた。それは戦場にはない平和な場所にしかない光景だった。
(ここの空気は苦手だけど、これだけは見てて気持ちがいいよ)
そんなシャーリーの手を少佐が引っ張る。
「何他人事のフリをしてんだ?付き合えって言っただろ!」
「ちょっと!私は良いですって!?」
「お姉ちゃん?今日は皆で遊ぶんだよ?」
にたりと笑うその顔には子供ながらの純粋な悪意があった。悪ノリだ。
「ほらお姫様もお望みだ。ちゃんと付き合いな!」
親分も同じ顔をする。いつまで経ってもガキ大将なのだろうか。シャーリーはそんな二人に引きずられながら真夏の遊園地を遊ぶことになった。
遊園地も回ってみればシャーリーにとってそこまで悪い物でもなかった。乗り物は演出が凝っていることもあって多少動きが地味でも十分に楽しめる物に仕上がっていた。
着ぐるみから辛そうなうめき声が聞こえたときには流石に心に来るものがあったがそれでも皆楽しそう楽しそうだった。
「そういえば何か食べなくてもいいんですか?」
シャーリーは二人に聞く。この二人飲み物を飲むことはあっても売店のお菓子などには手をつけない。咲はともかく少佐は何かと口に物を放り込むタイプだ。燃費が悪いのだろう。
「あぁ…いや私は良い咲はどうする?」
「咲も大丈夫!ちょっとトイレ行ってくるね?」
そう言って咲は離れていった。咲が心配な二人はゆっくりと追いかけ視界から外さないようにする。
「実はな?」
「はい?」
少佐が突然話し出す。
「あの子、お前が飯を食べれないことを気遣って自分は今日食べずに遊園地を回るんだと。これ内緒な」
シャーリーは驚いた。咲がそんな気を回したことにも驚いたが何よりそれを少佐が許したことにもだ。
「よく許しましたね」
少佐は苦笑いする。
「本当はそうやって気を使うことが余計な負担になるとは言ったんだが…あの子なりにお前を気遣いたい気持ちなんだろうな。わが娘ながら出来た娘だ」
「親バカですか?」
「何が悪い?」
何も。シャーリーは横を向いた。気遣いをされたことが嬉しくて顔がにやけている。それを気づかれないように横に向いた。
そのときだった。
(なんだ…あのトラック?)
それは一台のトラックだった。ごく普通の食肉メーカーのトラックだ。ただそれはメーカーの食品輸送トラックにしては大きかった。8トンはある。
(商社のトラックじゃなくメーカーのトラックにしてはやけに大きい。それになんで食肉?)
「少佐」
「気づいてるよ。シャーリー、咲を見に行ってくれ。軍の応援を呼ぶ」
東京テロ以降、テロ組織、またはそれに準ずる者を見つけた場合にはすぐに軍の応援を仰ぐのが北海道のルールだった。警察も当然いる。だがいざというときの対応力が違うのだ。
瞬間、悲鳴が聞こえた。それは咲のものだった。
少佐は走った。持っていた通信機器を捨ててトイレに向かった。
「シャーリー!咲!」
少佐は叫ぶ。周囲のざわめきを無視して走る。
「のけ!のいてくれ!」
人の海を割きながら走る。着ぐるみを押しのけ逆流する人の海に抗いながら走る。
やっとの思いで空いたスペースに出た瞬間一際大きな発砲音がした。
「ご苦労様」
撃たれたのは少佐だった。
一方そのころトイレ、シャーリーは戦っていた。
相手は大柄で体重は80はあろうか。顔を覆面を被っておりその顔を拝むことは出来ない。
(ボクシング?)
相手はステップを踏みながらシャーリーとの距離を詰める。ジャブを刻みながら的確に戦う。
(上手ですが…アンドロイド相手に打撃は効きませんよ。)
シャーリーは右のジャブを捌き、そのまま流れるように放たれる左のストレートを掴み腕を力づくで折る。アンドロイドだからこそ可能な荒業だった。
「痛ぇ!痛ぇ!」
地面に転がり叫ぶ巨漢の男。
「うるさい」
シャーリーはそんな男の頭を踏み潰した。
「ひっ」
咲が小さく悲鳴をあげる。当然だ。先ほどまで自分に対して掴みかかった男がそれ以上の暴力で潰されているのだから。
シャーリーは足についた血を払いながら咲に近づく。
(やっぱり怖いか)
理解はしているが寂しさを感じずにはいられなかった。
「落ち着いてください。もう大丈夫ですよ。」
シャーリーは血がつかないようにそっと抱きしめる
(ボクシングということはただの犯罪者か?犯人も一人だけ…ただの変態なのか?)
シャーリーが思考に耽っているときだった。それは聞こえた。銃声だ。
「ごめんなさい!」
シャーリーは咲を抱きしめた状態から肩に担ぎ上げる体勢をとって外に出た。
「きゃっ」
小さく悲鳴をあげる咲。構っている余裕はなかった。
シャーリーが外に出た瞬間見たものは意識を失った少佐と猟銃を片手に持つ男と人型のアンドロイドだった。
「少佐!」
シャーリーは咲をトイレの壁に隠し発砲した。狙いは猟銃を持つ男だった。だがそれが当たることはなかった。男は銃弾を避けたのだ。シャーリーが持つ銃は戦争時以外は小型の物である。当然弾速も遅い。だが人に避けられるものではない。
アンドロイドが少佐を掴みトラックに運ぶ。
シャーリーはそれを止めようと発砲する。射線上に男が割って入る。
(なっ)
シャーリーが驚くのも無理はなかった。男は銃弾を掴んだのだ。手からは血が滲んでいる。確かに当たっているのだ。
男は手を開きこちらに見せてくる。そこには捲れた皮膚と骨、それに阻まれた弾があった。
「バイバイ」
傷ついた手を振りながら男は去ろうとした。ハッとしてシャーリーは追撃する。だが当たらない。戦場では外さないシャーリーの弾がことごとく阻まれる。その度に男に鮮血がつく。だけどそれを無視して少佐を攫おうとする。
男が傷ついた手で猟銃を掴み発砲した。それはトイレの壁に阻まれた。
(追いかけたらその子を殺す)
声を発せずとも男とシャーリーの間には確かな意思の疎通があった。
シャーリーは動くことが出来なかった。目の前で少佐が攫われるのを見ていることしか出来なかった。
「っう!」
声にならない悲鳴が遊園地を満たした。




