催眠術でヤっちゃった♪
学校の放課後、俺は忘れ物を撮りに教室へと戻っていた。扉を開けると、そこには1人の少女がいた。
同じクラスの小鳥遊雪菜だ。小さい身長とその大人しい性格から、あまり他の人との交流はないと認識している。
俺も密かに交流を重ねたいのだが、いかんせん接点というものが存在しない。
彼女は財布や系、あとなんか散らかってるけど紙とかを机の上に並べていた。扉の開く音に気づいたのだろう。凄まじい速度で顔をこちらに向けてくる。
「み、南君!? な、なんでここに? あ、いやこれはね、なんでもないよっ!!」
小鳥遊さんは俺を見つけると同時に顔を赤らめ動揺していた。そして慌てて机の上に置いてある物を隠すようにして仕舞い込んでいく。
「……今のなに?」
「な、なんでもないよ?」
いや嘘つけぇ!? 思いっきり目線逸らしたじゃねぇか!?
「それより南君こそどうしてここに?」
露骨に話変えようとしてくるな……。
「ちょっと教科書の忘れ物ね。で、それより小鳥遊さんこそ、教室に一人でなにしてたのかな?」
ふっ、この俺を誤魔化そうなど100年早いわ!
「ひ、一人……ふふ、一人……ですか」
地雷だったぁぁぁぁぁっ!? ごめんそこ傷つくとは思わなかったよ!
「……ふぅ、見られてしまっては仕方がないですね」
なにが? あとキャラ変わったね。
「私がやっていたのはそう、催眠じゅちゅです! ……催眠術です」
小鳥遊さんが涙目で赤い顔を押さえて悶絶している。さ、催眠じゅちゅだってー!? ……ん?
「催眠術って……一人で?」
「…………」
小鳥遊さんが目線を横に逸らした。
「あ、ごめん……」
……ちょう気まずい! もう帰ろう!
「あ、あの……その、実験台になってくれないかな?」
「え?」
小鳥遊さんがそんなお願いをしてきた。確かに一人だと出来ないよな。だからってなんで俺? ……そうかなるほど、俺も共犯者にしてしまうつもりだな。
まぁ良いだろう。こう言うのってなんかテンション上がるし!
「まぁ、ちょっとぐらいなら構わないよ」
「本当? やたっ!」
小鳥遊さんの笑顔を見て、ニヤけた顔を見られないように俺は思わず顔を逸らしてしまった。
……普段からこれぐらい明るくしゃべったりしてればモテると思うのにな。
「あ、南君こっちこっち! そこ座って」
「お、おう」
小鳥遊さん、よっぽど催眠術が楽しみなんだろうな。
「それでなにをするの?」
「えっとね〜、これ! 一回やってみたかったんだ!」
彼女がそう言って取り出したのは五円玉の穴に紐を通した奴だった。つまりあれか、本当にベタベタな催眠術だな。
さらに言うならこれ、俺にかけようとして自分がかかっちゃうパターンと予想しとこう。
「それじゃあいくよっ? あなたはだんだん私の言うことをなんでも聞くようにな〜る〜」
なんてお願いしてんだこの人!? …………うん、かかんねぇなこれ。
チラリと小鳥遊さんの方を見ると、不安そうな表情をしてこちらをみていた。向こうはかかってない……。仕方がない、かかったフリしてやるか。
「なんでも言ってください」
「ふぇ!?」
ふ、不自然だったか? でもあぁ言わないといつまで経ってもやりそうだったから……。
「ほ、本当にかかっちゃった……?」
俺はコクリと頷く。さぁ、一体なにを言われるんだ? やるだけやるができないことはできないぞ?
「えっと、じゃあ……右手上げてみて。自分から見て」
俺はすっと右手を上げる。
「じゃじゃ! 右手を掲げて『我が右手の封印が……っ!』って言ってみて!」
「……我が右手の封印が……っ!」
恥ずかしいぃぃぃぃっ! 恥ずかしいんだけどっ!?
「ほ、本当……なんだね」
やはり試していたのか。恥ずかしがらずにやっておいて良かった良かった。もうそろそろ終わっても良いよ? いやはやく終わってくださいお願いします。
「えへ、じゃあ……」
小鳥遊さんが笑みを浮かべてこちらを見ている。な、なにを言うつもりだ? 怖い怖い怖い!
「……ハグしてほしい、かな」
……? …………?
「あれ? 言うこと聞かない? えっとね、ギュッとして欲しいの」
小鳥遊さんがそう言って両手を広げる。…………まじで? なんで? いや、それよりも早くしないと怪しまれる!
俺はゆっくりと立ち上がり、椅子に座っている小鳥遊さんの元へと歩いていく。小鳥遊さんの顔は多分、今まで見た中で一番真っ赤だった。そして俺の方も同様に……。
微かな震えを抑え付け、ゆっくりと彼女へと手を伸ばし……ギュッと抱きしめた。
「ふぁっ……」
っ!? ちょっ、そんな声出すなよっ。顔見られなくて良かった〜。
「えへへ〜、暖かいな〜」
うわぁぁぁぁぁぁっっっ! 死ぬ! 小鳥遊さんが予想外に可愛すぎて尊死してしまう!
「ねぇ南君、私の心臓の鼓動がすっごく速いの分かるかな? ……実はね、ずっとずっと南君のこと、好きだったんだよ?」
うわぁぁぁぁぁぁ……って、え? ……え?
「……ふふっ、なんでもお願い聞いてくれるんだし……キス、して……?」
……待って、ちょい脳の処理速度が追いつかないんだけど!? 小鳥遊さんは俺のことが好きで、今からキスをしないといけないってこと?
「…………(コクリ)」
俺は無言で頷いた。ハグをやめ、小鳥遊さんの両肩に手を置く。ゆっくりと顔を近づけていき、そしてほんの10cmほどまで近づいたところで……。
「や、やっぱりダメです!」
小鳥遊さんに止められた。……あ、危なかった。つい彼女の許可が得られて雰囲気に飲まれそうになっていた。
「こ、こういうのはやっぱり、ちゃんと意識がある時に、相手の同意を得てからじゃないとダメなんです……」
小鳥遊さんは『はぁ……はぁ』と軽く息を切らせながらもそう言った。
「だから、その……これが最後のお願いです。今あった記憶を忘れてください。そして今度こそは、自分から告白してみせますので!」
「(コクン)」
俺はそう頷き、目を閉じた。そしてしばらくしてから、何事もなかったかのように目を開ける。
「あ、南君、目が覚めました?」
「……うん」
小鳥遊さんは先ほどまでの出来事が嘘かのように振る舞う。
「俺記憶ないんだけど、なに言ったの?」
「うぇっ? ……べ、別になにも言ってないですよっ? 本当です本当っ!」
小鳥遊さんは目を泳がせ、両手をパタパタ動かして食い気味に答える。へぇ、何もなかったのか……。
「本当なんですっ! 何もなくてですね……あの、南君? ちょっと顔が近いような気がして……んっ……!?」
なんか無性に腹が立ったので小鳥遊さんにキスをした。
「……んっ。な、なななななっ! い、いきなり何をっ!?」
「別に? 俺は小鳥遊さんと違って気持ち誤魔化すの嫌いなだけだし?」
「ふぇぇっ!? ま、まさか……催眠術って記憶を消すことは出来なかったんですか!?」
「いや、あれ全部俺の自演だけど?」
「えぇぇぇぇぇぇぇっ!?!?!?」
何この子可愛いな。
「……あれ? 気持ちを誤魔化すのが嫌いなだけ……ってことはつまり……!」
小鳥遊さんが俺の発言の意味を考えて顔赤くしてる。
「それで、あの記憶って消した方が良い?」
「むぅ…………南君は、いじわるです。……でも、それはやめてください」
「あはは……じゃあ一生忘れないよ」
「……それは、私もです。今日は一緒に帰っても良いですか?」
「うん」