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♥3

嘉代子のファンに彼女のトレードマークを聞いたら、「チョーカー」と答えるだろう。


 首輪でもなく、ネックレスでもなく、チョーカー。彼女の首をぐるりと彩るそれは、嘉代子以上に似合う人間などいないという錯覚に陥らせる。

 今回の仕事でも、白いビジューのついた黒いニットワンピースとタイツ、そして真っ黒なレースのチョーカーが衣装だった。バナナといったら黄色、みたいな感じで、「嘉代子といったらチョーカー」なのだ。


 対談相手の脚本家と、藍々社の編集者が二人。計四人の空間で対談は始まった。

 赤い丸テーブルと椅子。壁は真っ白。極めてシンプルなセットで美女が向かい合う。編集者はセット外でカメラの調整やタイムテーブルの管理をしていた。


「嘉代子さん、お久しぶりです。『バビルサの涙』以来ですね」


「そうですね! その節はお世話になりました」


「こちらこそ。やっぱり主演は嘉代子さんにやってもらいたかったんです。また一緒にお仕事しましょう」


 Q.創作で一番大事にしていることは何ですか?


「休養。コレ、絶対。寝たり遊んだりしないと全部の仕事が詰む。あ、そういうのではない? (笑)」


「休むのは大事ですよね。ホント。あとは、書く目的を常に考えることでしょうか」


 Q.物語の主人公と自分を重ね合わせることはありますか?


「ない」


「うん、ないです」


 Q.お二人ともきっぱりと「ない」なんですね。その理由は?


「脚本は、言ってしまえば景色と台詞の羅列なので。そこに自己を投影するのはとてもじゃないけどできませんね。ただでさえ、嘉代子さんみたいに描写で勝負できないし」


「脚本と小説の大きな違いですよね。物語には変わりないけど、伝え方がね。その『伝える』っていうのも、自分の表現したいことは決して『自分自身』ではないんです」


「そうそう!」


 質問をベースに対談していき、最後は二人で綺麗に占めた。


 創作観の共通点も相違点も多数あったため、この記事がどう書かれるかは、原稿が配布されないとわからない。

 編集者のほくほく顔から察するに、収穫は大きかったのだろう。なにしろ、美女同士の会話は映える。


 インタビューが終わった頃には陽が完全に落ちていた。藍色の空がビルの窓越しに見えた。対談した彼女と一緒にディナーでもどうかと思ったが、彼女はまだ別の会社での打ち合わせをしないといけないらしい。

 独りラーメンでも貪るかと思いながら、藍々社を出た。


 そのとき嘉代子が自分を見詰めていた一人の影に気づくことはなかった。

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