そうだ、逃げよう2
ガタガタと馬車が揺れる。いつも乗り慣れている公爵家の馬車と違い、揺れが激しい。だが今はそんなことを言っていられない。
「ねぇ、母さま。いったいどこへ向かうの?」
「隣国よ。そこなら母さまのお友達がいるの。いつでも頼ってと言ってくれていたから、良くしてくれるはず」
「そう……」
「王都から出たら、宿に泊まって、朝、別の馬車に乗り換えましょう。大丈夫、母さまはあなたの母さま。ずっと味方よ」
母さまは向かいに座る私の手を取り、言った。目を合わせ、母に微笑みを返す。あんなことがあった後ではあるし、現在逃亡中ではあるが、安心する瞬間だった。
しかしなんだろう、ずっと違和感、というか変な感じがする。何かがおかしいような。母さまが部屋に入ってきた時から。
――部屋に入ってきた?
「母さま。さっき、どうやって私の部屋に入ってきたの? 鍵がかかっていたはず」
「鍵なんてかかっていなかったわよ?」
なぜ? ノエルは確実に鍵をかけて行ったはず。逃げるな、と言い残して。……おかしい。よく考えるとおかしいことだらけだ。
なぜ逃げるまでに誰ともすれ違わなかった?
なぜ一般の馬車がうちの裏口に来た?
なぜ鍵がかかっていなかった?
全てがまるで逃げてくださいと言わんかのような……。
その時、馬車の外で馬が激しくいなないた。