わからない
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仲がいいと思っていたのは、私だけだったのかもしれない。殿下の隣に並び立つノエルの姿を見てからそう思っていた。
けれどノエルは殿下の手から私を助けてくれた。
私と殿下を引き離した時に掴んだ手が私のそれをきつく握る。ノエルの手は温かかった。あの時と変わらず。
「……なんの真似だ、ノエル」
「これでも僕の姉なのであまり乱暴にされると困ります」
「……ふん、お綺麗な姉弟愛だな」
「婚約破棄も無事終わったことですし、姉を退場させます。御前、失礼致します」
ノエルが私の腕を掴み立たせ、出口まで引くように連れていく。きっとノエルは怒っているのだろう。家門に泥をつけた、バカなことをしたと。さっきから目も合わせないもの。でも正直、この場から連れ出してくれてホッとしていた。あまりにも周りの目が痛かったから。
ノエルは無言のままズンズンと馬車の止まる場所まで歩いていく。手は離す気はないというほど私の腕を強く握られたまま。
「……ノエル、痛いわ。離して……」
「……」
無言。離したって別に逃げたりしないのに。だって私に逃げられる場所なんてない。でもこのまま屋敷に帰ったとして、私はどうなるのだろう。私だけじゃない、母だって……。
しかし無情なその手は考えている間も無いかの様に急ぎ屋敷へと向かっていた。
「逃げようなんて思わないように」
屋敷へついても無言のまま部屋に連れてこられ、やっと口を開いたと思ったらこの一言。そのまま鍵を閉めて出て行った。部屋までの道すがらで使用人のみんな、驚いた顔をしていた。それもそうだ。卒業パーティー中なのに、すごい顔して帰ってくるんだもの。
ここ数時間でどっと疲れた私は、お行儀が悪いと思いながらもベッドに寝転んだ。本当は着替えたいところだけど、一人じゃ着替えられないし。人を呼ぼうにも鍵がかけられているし。
「ああー、もう」
なんなのだ、一体。殿下といいノエルといい。……ジルも。殿下とジルはまだいい。馬鹿なことをしたなとは思うが。問題はノエルだ。断罪するならすればいい。殿下側にいたようだし、普段から側近としてそばにいたし。なのに、なぜ彼はあの場で私を庇った? 姉弟だからといっても、なおさら逆に許されないと思う。
色々と考えてみるが、何はともあれ、
「……つかれた」
いい子でいるのも楽じゃない。