キス
「ご馳走様でした。美味しかった〜心は料理上手なんだね〜」
「それは良かったよ、楓こそ意外に綺麗な食べ方をするんだな」
「ウチはママがそういうのうるさいからね〜」
「そうなのか、バランスはとれてるんだな。洗い物してくるから適当に寛いでてくれ」
「え? それくらい私やってみたい!」
「お嬢様丸出しの言葉だな……そんな奴にやらせるつもりは無い! おとなしくしてろ」
そして俺が洗い物をしている間、部屋を見渡したりはしていたが、楓は意外におとなしくしていた。
「……」
「……」
話す事が無い……普段は心が話しかけてくるか、俺は部屋でPCで作業したり調べ物したりだもんなー
「楓は普段は何してんだ?」
「なになに? 私に興味が出てきたのかなー?」
「まぁ確かに金持ちのプライベートとかは興味あるな」
「えー? 別に変わらないんじゃないの? 家では小説読んでるか、ママと話してるかかなー」
「プライベート=家ではないんだけどな。この学校じゃないにしても友達とかいないのか?」
「友達? いるように見える?」
「別に見えるけど? お前は人懐っこいし……でも顔も可愛いくて金持ちで頭も良いって嫉妬とかも凄いだろうからなー」
「……」
楓が仲間になりたそうにこちらを見ている。
「なんだよ?」
「よくそんな平気な顔して人の事褒めれるね! ま……まさかこの勢いでベッドまで持って行こうとしてるの?」
「別に褒めてねーよ……全部事実だろう。 まぁ顔が可愛いってのは主観か? いや、客観的に見ても可愛いだろうから事実だろ?」
「……お父さんお母さん私は今日女になります!」
「ならんでいい‼︎ でも実際、楓も絵麻もゆとりも皆魅力的だと思うよ」
「……ゆとりんと絵麻ちゃんの話し今いる?」
「そりゃいるだろ俺は事実を言っているだけなんだから」
「彼女の前で他の女を褒めるなんて喧嘩売ってるの同じだよ?」
「だから事実を言っているだけで褒めている訳じゃあない!」
「ノアは女心がわかってないな〜人間は事実なんて求めてないんだよ!」
「そうだな、じゃあ俺は中学の時に人間をやめたんだ」
楓の言う事は俺にとっての真理だった。
それが馬鹿らしく、面倒になったからこそ俺は事実を言う。
「中学の時? 何かあったの?」
「まぁ周りとの価値観の違い? とかそういうのが色々分かるようになったってだけだよ」
「何が原因で?」
原因か……アレが本当に原因だったのか? いや、多分アレはきっかけであって原因では無いだろう。
しかしこの質問に答えるのも正直微妙だな。楓はおそらく否定しないだろうけど、俺は結果的に間違っていた……というか俺は間違ってばっかだったな。
「原因は俺かな? 俺が人と関わるならこれからもそれは変わらないんだと思う」
「理由は話したくないの? 意外とセンチメンタル?」
理由は話したくない? 俺は理由を話したくないのか? いや、別に話してもいいのだが、話してどうなる問題でもないし、面白い話でも無い。
センチメンタルかと聞かれればむしろその逆だろう。
俺は俺の内側の話を他人に話したいとは思わない、他人を理解したいとは思うけど、俺の事を理解してもらいたいなどとは決して思っていないのだから。
しかし変人部の奴等と関わって日は浅いけど、昔考えた答えを出したつもりの事をまた考える事が増えた気がするな。
「俺は楓の話が聞きたいかな」
「もっと聞きたそうな顔してもらってもいい?」
「俺は楓の話が聞きたいな‼︎‼︎」
「気持ち悪いよ?」
ご要望の通りに聞きたそうな顔してやったらこの反応……ん〜人間というのは難しい生き物だな。
「まぁでも聞きたいのは別に嘘じゃないけど、俺も人とあまり関わらいけど、楓も学校では人と関わらないだろ? そういう人間がどういう考えをしているのかは素直に知りたいと思う」
「自分の話はしないのに? 私だって聞きたいんだけど」
「俺の話は明日心にでも聞いてくれ、自分で自分の話をするのは何となく気持ち悪い」
「ノアは照れ屋なんだねー! 仕方ないなぁ、私の何が聞きたい?」
絵麻は楓を自己中だと言っていたが、こいつは結構俺に譲っていると思う。
「楓が人と関わらない理由は?」
「つまらない人と関わる理由が私には無いもん! 私の反応一つで一喜一憂する愚鈍な人間は見ているだけが面白いの」
無茶苦茶言うなこいつ、何処の帝王だよ?
「でも俺とは関わってるだろ」
「初めは同じ部だから自分を隠すのが面倒くさいって理由で関わったけど、ノアは見ているだけじゃ何もしないじゃん? そんなの面白くないもん」
「でもお前、本当は人と関わりたかったりするんじゃないの?」
「何言ってんの? 本当はも何も私は面白い人とは関わりたいよ」
まぁそうだろうな、でなければ勧誘されても変人部なんかには入らないだろう。
「お前から見て、あの2人は面白いか?」
「ゆとりんと絵麻ちゃんかー絵麻ちゃんは面白いね! 色々と他の人とは違うし、ゆとりんは……うーん……あの子はわからない」
「わからない?」
「うん、ノアだって不思議じゃない? ゆとりんは別に変人じゃないよね?」
「俺はまぁ……変人には見えてないけど、それを言ったら俺だって変人では無いだろ? ゆとりも俺みたいに何かしらの理由があったんじゃないのか?」
俺はゆとりに理由は聞いたが、聞いた事を楓に話すのも違うし、何より俺はゆとりが本当の事を言っている気が何故か全くしなかった。
「ノアは変人でしょ」
「まぁ少数派が変人という意味では変人だろうな」
「そういう問題じゃないから、ノアは私から見れば変人部で断トツの変人だよ! むしろノアこそが変人部だよ!」
「それはちょっと何言ってるかわからないけど、まぁ別に変人でもいいけどさ」
「だってさー変人部って皆可愛いじゃん! それなのに全く意識せずに平然としてるし、妹がいたからってさすがに他人の下着姿見たら何かあるでしょ‼︎」
「ご馳走様でした」
「面白くない……ノアは他人に全く興味を持っていないんじゃない?」
何か勝手な厨二設定を追加された……俺ほど人に興味を持ってる人間はそういない。だけど別に勘違いされても問題はないか。
「そんな事もないと思うけど、そう思われるなら仕方ないな」
「……キスしようか」
この脈絡の無さにはさすがに驚いた。
楓の顔は堂々たるものだ、俺の反応を見たいのだろうが俺もお前の反応を見たい……さて俺はどう答えたらいいか?
人を知りたい欲求と道徳的に説教をしたい気持ちが入り混じる……こういう時に俺が選ぶのは俺が求めて無い方なんだ。