ループタイ
次の日、学校に行ったが俺が変人部に入った事は誰も知らないみたいだ。心を含めて誰も言っていないのだろう。
まぁどうせその内バレるだろうけど、出来るだけ長くバレない事を祈っていよう。
そして放課後になり俺は部室の扉を開いた。
部室には、ゆとり、それに下ネタツインテールがいた。絵麻はどうやら来ていないみたいだ。
「希望君! 昨日ぶり!」
ゆとりが笑顔で声をかけてきたので、それに手をあげて挨拶を返し、俺は本を読んでる下ネタツインテールの元に行った。
「華香院様。ご機嫌麗しゅう」
俺が真顔で挨拶をすると、一瞬眉をピクッと動かす。しかしすぐに表情を戻した。
「あれぇ〜? 私の名前誰に聞いたの? 私の事が気になって調べちゃったの? もう仕方ないなぁ。ん……いいよ」
そう言うと下ネタツインテールは俺の頬を両手で掴み、ん〜っと唇を近づけて来た。
「やめろ気持ち悪い‼︎」
俺はすぐさま両手を振りほどいた。しかし俺が手を振りほどかなかったらコイツはどうしたのだろうか?
相手がボケるから礼儀として突っ込みはしたが。何もしないで様子を伺うという手もあったのではないだろうか?
「妹から聞いたんだよ! それにしても名前はまぁ……仕方ないけど、お前のキャラの違いは何だ? 他ではクールなキャラらしいな」
「え? あ〜! だって面倒くさいんだも〜ん! 私つまらない人間とは話したくないんだよね〜! まだこけしと話してた方がいいよ〜!」
「お前こけしと喋れんの⁉︎ ん……? そうなると俺は面白いのか? お前、俺と話してるけど」
「いやいや〜だって、同じ部活に入ったらどうせその内キャラなんてバレるんだしさ〜」
俺が面白いとは言わなかった。
「まぁいいや。読書の邪魔して悪かったな。もし呼ぶ機会があったら楓って呼んでいいか?」
「ん〜? いいよいいよ〜! 夜な夜なハァハァしながら楓って呼ぶって事でしょ? 希望はイケメンだから特別に許してあ・げ・る!」
きもちわるっ‼︎ こいつ見てると女は顔だ! という俺の信念がブレそうだ!
「ゆとりさん! 今日絵麻は?」
俺は楓の元を離れゆとりに声をかける。
「先輩? 来るとは思うよ? それより、ゆとりで良いよ。私だけ、さん付けなんて何か偉そうじゃない」
「そうか? 分かった……じゃあゆとり。皆はいつもこの部で何をしてるんだ?」
「う〜ん。明美先生が今考えてるらしいから、今は特に何もしてないかなぁ」
「明美? 顧問の名前?」
「そうだよ! 篠宮 明美先生! 希望君はどうしてこの部に入ったの?」
椅子に座り上目遣いで入部理由を聞いてくるゆとり。
綺麗な顔なのに上目遣いであざとさを感じないのは性格の良さが滲み出ているからなのだろうか?
俺は隣に座り質問に正直な答えを返した。
「へぇ。じゃあ本当は入部する気はなかったんだ?」
妹に言われた事などあらかた話したけど、彼女はそれでも嫌な顔もせずにそう言った。
「そうだな。ここなら断られて心も諦めてくれると思ったんだけどな……考えが甘かった。だけどまだ2日目だけど入ってみたら悪くなかったよ。俺面白い人見てるの好きだし」
「え? 華香院さんと、九条先輩は面白いの分かるけど。私も面白いかな?」
「ゆとりは正直分かんないな。何処が変人なのかも甚だ疑問だ!」
「私は……特に変な所とか無いと思うんだけど、先生にお願いされちゃって……特に入りたい部もなかったしOKしちゃったって感じかな。ところで希望君はどうして心さんの言う事を聞くの?」
「ヒモだから」
「え?」
「ほら、心モデルやってるだろ? それで俺の学費も生活費も全部心が出してくれてるんだよ」
本当の理由はそれじゃない。
「そうなんだ。でも……言う事聞くのが嫌だったらバイトとかはしないの?」
心を悲しませたくない。
「うーん。まぁ妹の言う事を聞くのは兄の役目だしな!」
中学2年の時……俺は選択を誤った。
「ふーん! 優しいのか、だらしのない事の言い訳なのか、どっちなんでしょうか?」
ゆとりは笑いながらそう言った。
「お? 聖母のような人だと思ってたけど意外に言うねぇ!」
……俺はただ見ていた。俺に告白し、俺がフッた女性が夜の海に浮かぶ月に向って歩いて行くのを……助けもせずにただ……じっと見ていた。
別に泳げない訳でも無い……助けようと思えばすぐに助けられる位置にもいた。
でも俺は助けなかった……俺はそういう人間だから……結果論だけど選択としては間違っていた。
「――希望君? どうしたの? 気分でも悪い?」
「いや……可愛いなぁって思って見惚れてただけ」
「もう馬鹿言わないの!」
可愛いと言われても微塵も動揺を見せないゆとりは流石に言われ慣れているのだろう……つまらんな。
「ねぇノア〜!」
見上げるとそこには悪い顔をした楓が立っていた。
「なんだ? 悪い顔になってるぞ?」
「私とループタイ交換しない?」
この学校の制服のネクタイはループタイになっていて、男子は青で女子はピンクだ。
「何? 楓は青が好きなのか?」
「ん? まぁそうだね〜! そんなとこ!」
「まぁ別に良いけど? 俺、別にピンク嫌いじゃないし、顔も女顔だからそんなに変では無いだろうし」
俺がそう言いループタイを取ろうとすると、ゆとりがそれを制止した……とても柔らかい手だった。
「ちょっと待って希望君! 希望君はこの学校の風習を知っているのかな?」
「いや知らないけど? ループタイに何かあるのか?」
ゆとりが俺を止めると楓が明らかに不愉快そうな顔した。
「この学校では付き合った2人はお互いのループタイを交換するの!」
なんだその下らない風習は……馬鹿な奴が好きそうな風習だな。
「なんだ楓お前俺が好きだったのか?」
俺がニヤけながらそう聞くと楓は唇を舐め色っぽさを出しながら答えた。
「そうよ。初めて会った日からノアが……好・き」
外見が幼いので色気は0だった。
「気持ち悪いぞお前」
「気持ち悪くて結構だよ〜良いからループタイを寄越しな!」
お願いが命令に変わった。しかし何か理由があるのだろう。
「理由を言え! そうしたら考えてやっても良いぞ」
「私可愛いからさ……男子に告られんのが面倒くさいんだよね〜」
なるほど実に単純だ……俺も無愛想にしているのに未だに、たまにだが告白されたりする。この交換は双方にとって特になるのでは無かろうか?
「実際に楓と俺が付き合うという訳では無いんだよな?」
一応念の為に確認はする。
「え〜? ノアがどうしてもって言うなら付き合っても良いけど? 私もそんなに暇じゃないからデートは週8ね?」
「聞き方を変えるわ。実際にお前みたいな変態と付き合わなくても良いんだよな?」
「え⁉︎ ちょっと希望君⁉︎ 駄目だよそんな人を騙す様な真似をしたら」
ゆとりが俺に倫理を説くが合理性こそが俺の中の正義!
「まぁ彼氏のフリしろだとか面倒な事は言わないからさ〜! もし無理なら諦めて明日ノアのクラスに行って皆の前でノアに告白するよ!」
「おーエゲツないな楓! 格好良いよお前! 是非とも俺のループタイを貰ってくれ!」
「良いノリだね〜! 決断力のある男はモテるぞ〜!」
「モテたくないから交換するんだけどな!」
「だから2人共‼︎ 皆を騙すなんてよくないよ!」
お堅い! お堅いぞゆとり! すまないがお前の言う事を聞くつもりは無いんだ!
「いや何も騙す訳じゃあないよ! 俺はね? そもそも俺は基本人に話しかけられないしさ! 俺はね? 楓は知らないけどさ!」
俺は即座に楓を売却した。
「じゃあ希望君は、もし彼女いるのって言われたらどうするの? 騙したりしないんだよね?」
「うん? それはまぁ……か、彼女? い、いや彼女なんて……まぁ良いじゃん俺の事なんてさ! って言うよ!」
「そんなのは嘘と同じです! 騙す気があるじゃない!」
ふむ……やかましいなゆとり。名前の割に余裕が無いぞ!
「も〜うるさいな〜ゆとりんは〜……⁉︎ あ、じゃあノア本当に付き合おうよ?」
「「え」」
ゆとりと俺の初コラボだった。
「本当に付き合う? 俺と楓が?」
「うん!」
ゆとりは唖然としていた。俺としては女子と付き合う事に照れも抵抗も無いが、面倒くさいのは勘弁だ。
「一応言っておくけどデートとかしないよ?」
「おっけーおっけー! 付き合っとけば面倒事を避けられるじゃん!」
「え? え?」
ゆとりの動揺はピークに達しているようだった。
しかし楓の策は悪くない。正義マンのゆとりの前ではこれが最善の答えなのだろう。
「ノッた‼︎」
「理解の早い男は魅力的だぞ!」
そう言って俺と楓はループタイを交換したのだった。