クラッシュ
「..........車が一台前方に確認できるね。」
(十中八九、お母さんたちだ。この速度を保ってぶち抜く。私はこの日の為にチューンしてきたんだ。)
橘京並びに鴉羽一が乗車するfcを視認できる位置まで近付いている。距離にして一キロメートルを切る。
「いくよ、いっちゃん______」
アクセルを強く踏み、速度を加速させる。
「あぁ、京ちゃんのために最高に仕上げた車体だ。完全勝利を見せてくれると嬉しいよ。」
「もちろんだよ、いっちゃん!最高のハネムーンを見せて上げる!」
ベールの下に見える自信に満ちた表情。光悦とした表情で京を助手席から見つめる。
「うん、見せて」
(あぁ京ちゃん、凛々しすぎてますます惚れちゃうなぁ///)
最高速のスピードを出す夜桜雅操る911はそのまま京達を追い越し先頭へと走る。
(...........後は突き放すだけ)
「勝つのは私、夜桜雅だぁああああ!!!」
びくりと身体を揺らす鴉羽。いきなり叫ぶ雅に驚いてしまう。
「び、びっくりしたぁ......」
(雅の奴、アドレナリン上がりすぎだろ、)
バックミラーを確認すると、後ろへとぴったりとくっつく母親たちの姿が映った。そして運悪いことに京さんと目が合う。
『今日は寝かさないから』
「ひっ」と小さな悲鳴を上げてしまう。
(よし、雅を応援しよう)
雅を応援しようと目を向けると、舌打ちをする彼女が目にうつった。
「なんで!!なんで離せないの!!!」
(こんなところで負けたくないのに.....まだ私は!)
あぁ、雅が敗れるのも時間の問題かと内心に感じてしまう。
(そもそも湾岸線を封鎖出きる時点で勝ち目は薄い......)
どうすれば俺はこの状況から逃げ出せる?どうすれば自分は自由になれる?いくら考えても打開策が浮かばない。
(負けられない.....負けられないよ)
「封鎖......突破すれば.......いいんだ.......そう....楽園.....いくんだ.....二人で.....いくんだ」ボソ
ボソボソと呟きはじめる雅。鳥肌が立つ。このような状態の夜桜雅は無茶をする。そう、無茶をするんだ。そしてこの状態の無茶は命に関わってくる。
「み、雅!落ち着け!!」
「二人で楽園に.........いくんだぁあああ!!!」
このスピードのまま封鎖されている舞浜入口を突っ切ろうと言うのか!?
「京ちゃん、少しプレッシャー掛けすぎたみたいだね。ふふ、後部に車体をぶつけて横転させよう。大丈夫、私がちゃんと雅ちゃんの車に『細工』したから死にはしないよ。」
京は少し躊躇った表情を見せるが、直ぐに首を縦に振りアクセルへと更に力を入れる。
(悪く思わないでね、雅ちゃん)
「彼は京ちゃんのものなの_______」
だから誰にも渡さない。渡させない。渡してなるものか。
(う、うそだろ.....ぶつける気かよっ!!?)
この速度で体勢を崩せば車は横転するのは必然。
「どんなチューニングをしたらそんな馬力が出るの......邪魔しないでよ」
にもかかわらず車を近付けて来ている。
「お願いだから............」
正気の沙汰ではない。
「.........殺す気でくるんだ、お母さん」
雅も雅で追い付かれないように必死に逃げようとしている。
「あははははっははははは.......上等だよ!!!」
けれど距離は縮まる一方。そしてとうとう車体同士が接触する。
「これで詰みね」
「えぇ」
刹那、衝撃が襲う。
「そんなっ、いやっ、まだ」
(まだ始まってないのに______)
雅の言葉を最後に車はスライドするように何度も回る。そして横転し、何度も回転すると遮音壁に衝突した。




