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精霊アルーヴ 2

 俺は呆然としていた。

 いや、俺達は呆然としていた。

 覚悟をしていたのにもかかわらず、それでもなお理解が追い付かずに、目の前の女性の言った言葉を飲み込むのに時間がかかってしまった。


 いや、だってそうだろう。

 何と言っても精霊だ。来る、と予感することが出来たのは数分前で、覚悟が定まるはずもない。

 それに加えて、目の前にいる彼女は、あまりにも人型に過ぎた。精霊と言われて納得のいく美しさだが、実感が湧くフォルムではない。


「ねえ、ちょっと、今代のロア? 私のことは見えているわよね? 私の声は聞こえているわよね? 実体を持つのは久しぶりだから、そうも沈黙されると不安になるわ……」


 不安そうに、目の前の彼女はこちらのことをじっと見つめてきた。

 口が乾いて上手くしゃべれないが、つばを飲み込んで、何とか声にする。


「ああ、大丈夫だ。君は、精霊なのか?」


「良かった、聞こえているのね。そうよ、でも、アルーヴと呼んで。貴方も『人類種』とか『人間族』みたいに呼ばれたらいい気はしないでしょう? 同じことよ」


「分かった、アルーヴ」


 アルーヴは満足そうに微笑んだ。

 それにしても、表情豊かな精霊だ。浮いているし、美しいし、圧力すらも感じるから高位の存在であることは確信できるが、あまり「精霊」というイメージとは一致しない。

 どちらかというと、多神教の神々に近いような印象を受ける。自由奔放で無邪気な高位存在だからな。


 俺がアルーヴと会話をしている間に、徐々に他の皆も再起動を果たしていたが、それでもどう対応するかは測りかねているようであった。

 もっとも、俺も例外ではない。アルーヴの出方待ちだ。未知の存在過ぎて、対応法が分からない。

 杞憂ではあったようだが。アルーヴは俺の方を向いたまま口を開く。


「それで、今代のロア、とりあえず名前を教えなさい。これもカテゴリ呼びになるでしょう」


「ジーク・ローレンツだ」


「――偽名ね、それ。言い方で分かるわ」


「……ヴァイス・ジーク・フォーラル・ローラレンスだ」


「――本名ね。……うっそ、それ、この土地の今の王族の名前じゃない!」


 精霊ならば人間の王よりもよっぽど身分が高そうなものだが、彼女は狼狽したように口元を手で覆った。

 なんというか、あまりにも俺の想像する精霊像からかけ離れているとヒシヒシと感じる。彼女が特殊なのか、この世界の精霊のデフォルトなのかは判断が付かない。

 アルーヴは胸に手を当てて、三秒ほど目を閉じると、目を開いて話を再開した。


「失礼、取り乱したわ。気を付けないと、王族は影響力が大きすぎるのよね……。

 閑話休題よ、閑話休題!

 それでヴァイス、私を呼び出した理由は何? 何を解決してほしいのかしら?」


 どう答えるべきか。

 正直に言うしかないだろう。嘘を言っても見破られるのは分かっている。


「……呼び出す方法だけ書いていたので実践したんだ」


「はぁ!?」


 理解出来ないと、アルーヴの表情が語っていた。

 殺意や害意こそ感じないものの、急速に風が強まって、彼女の周りの風は光を纏いだした。

 怒っているということなのだろう。


 ウォルフガングとフリッツが、戦闘体制に移行した。

 といっても、棒立ちの状態から、構えた状態になっただけであるが。

 アルーヴはそれを見て、ハッとしたように表情を変え、力を弱めつつ自分の頬を叩いた。


「ああ、これだからやりにくいの。平民や奴隷がロアならば、多少の怪我をさせたところで問題ないのに、貴方が怪我をしたら国中が混乱するじゃないの」


 アルーヴは自然の摂理などの次元ではなく、人類の平和までを考えているような様子であった。

 ウォルフガングとフリッツも警戒は解かないものの、困惑したように、一瞬力が抜けたように見えた。

 申し訳ない気持ちになったので、謝罪を口にする。


「ごめん、アルーヴ。精霊自体をあまり分かっていなくて……」


「ごめんなさい、私も見たかったので、止めなかったのです……」


 何故か、レイナまでも謝罪していた。

 提案も実行も俺なので、基本的には俺以外悪くないのだが、しかしレイナが頭を下げたことは大きな効果があった。


「そう、仕方ないといえば仕方ないのだけど。……え、貴女、今代のリアじゃない!?

 ああ、リア、貴女は悪くないのよ。たとえ提案したとしてもロアが悪いわ。私を呼び出せるのはロアだけだもの、実行も企画も彼しか出来ないわ――納得いかないのだけれど!」


 アルーヴは手のひらを返したように優しくなった。

 俺には辛辣な言葉が飛んできているのだけれど。

 グサグサ刺さってくるぞ、美人に言われても嬉しくないとはこのことだ。


 先程のラフな口調すらも、外見からも偏見からも似合わないものであったのに、今はデレているような状態だからさらに似合わない。

 アルーヴは嬉しそうにレイナの正面まで、浮いたままで移動してきた。足を動かさないものだから、ホバー移動というか、リニアモーターカーというか、そんな感じの動きである。


「リア、あなたの名前は?」


「レイナ・マリーナ・フォーガス・ユグドーラです」


「――本名ね。……うっそ、リアもロアと同じでお偉いさんじゃないの。まあ、リアに危害を加えるなんてありえないから関係ないけれど」


 アルーヴは微妙な表情で笑った後、レイナの頭を撫でながら、反対の手で自分の髪を触りながら純粋に微笑んだ。


「綺麗な長い銀髪ね……ふふ、お揃いね」


 ……()()ってそういう?

 いや、流石に違うだろう。

 それは意味も理屈も分からなすぎるしな。

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