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遺跡の調査 1

 ヴァインガルトナーを出発して三日、俺達は目的の「遺跡」にたどり着いた。地図上は。

 実際には森があり、生い茂る木々しか見ることが出来ない。

 馬たちに遠くへ行かないように指示を出して、森の中に分け入っていった。


 そしてさらに歩くこと体感で五分。

 森が開けて、明らかに人工物と思われる、整った石が積まれた場所に出た。

 イメージとしては、古代ギリシャや古代ローマのそれである。


 中心部には大きな建物――といっても森の木々よりも低いのだが――があり、その入り口と思われるところの前は、開けていて広場のようになっていた。その広場を囲むように小さな建物や、或いは柱だけが建っていたりするのだが、柱を残して壊れたものなのか、意図的に柱だけなのかは俺には判断が付かない。

 その周りには腰までの高さの石造りの柵があり、これは全ての建物を囲むように四角く一周していた。入り口は二か所で、広場の正面と、そのちょうど反対側である。


 柵の一つの角に、ボロボロではあるが旗のようなものが乱雑に置いてあって、それが依頼に書いてあった「証拠の旗」であろう。

 傍を良く見ると「フィーニ遺跡調査隊」と書いてある。公的な名かはともかくとして、少なくともこの遺跡は「フィーニ」と呼称される場所であるようだ。


 改めてフィーニを見回して、思わず、ほぅ、と息を吐き出す。

 予め分かっていた情報通り、地脈の類はなく魔物はいないし、人が住んでいるというわけでもない。植物と虫、僅かばかりの動物が居るだけの、何の変哲もない場所だ。

 けれども、遺跡の歴史を感じて、何かを感じずにはいられない。それはある種の感傷であろうし、古いものに無意識の敬意を払っているだけなのだろうが。


「凄いな、これは」


「そうですね。凄いです」


 一言二言感想を交わしつつ、柵の外縁をぐるりと回って、広場正面の入り口から中に入る。

 そうして広場の中に入ると、改めてため息が漏れる。

 知的好奇心を激しく刺激される。ここが何の場所であったのか、分からないのだから、それも仕方ないというものだ。


 そう考えると、あの依頼書にも、最低限分かっていることくらい、予備知識として書いておいてくれても構わなそうなものなのに、少しばかり不親切かもしれない。

 調べてこい、どころか、見たままを教えろ、という依頼内容は中々に困るものだ。いや、クエストとは関係ない欲を出さなければ、今の時点で依頼達成が可能でもあるのか。

 儲けたいだけならば、美味しすぎるクエストかもしれないな。何と言っても、これで終わりなら楽だ。


 もっとも、俺達には関係のないことだ。世界一の国の頂点に君臨する家系は伊達(だて)ではなく、予算に関しては一切困ることはない。

 本当は金銭に関しても、困窮を味わうべきなのではないかと思わなくもないが、この国で困窮している人は殆どいないし、使うべき時に躊躇(ちゅうちょ)しては困るとかなんとか。正直な所、野営するときの黒パンの不味さだけで充分だとは思う。遠征しなければ、平民でも基本は白パンだし。

 それはともかく。


 俺たちは自らの知的好奇心に基づいてこの遺跡を調べることにした。

 特に何も見つからなくても、初めての場所なので退屈するということはないし、何かが見つかれば間違いなく楽しい。

 念の為に全員で行動する。


 最初からいきなり、一番大きい建物を調べることにした。

 入る前に壁や柱などを触ってみるが、しっかりとしていて崩落などの危険はなさそうだ。

 建物の中は開けていて、しかし複数の階層に分かれていた。その様をあえて形容するならば、神殿だろうか。


「どう思う?」


「旧時代の七神教――つまりは創世神話の偉大なる神々――のに関係する神殿ですね」


「そうだな。少なくともローラレンス王国成立後の施設であれば『遺跡』ではなく『廃墟(はいきょ)』と言われる。そう考えれば七神教関連だろうな」


 順にカリンとウォルフガングが答えた。

 フランツィスカが首を傾げる。


「何故、七神教であると断言できるのですか? 他もあり得ると思うのですが」


「アーデムの指摘もヒントにはなりますが、旧時代の言語で思いっきり書いてありますよ」


 カリンの指さす方を見ると、線と点を垂直に組み合わせたような文字で、単語らしきものが七つ書いてあった。

 そして、その単語の最後の文字だけは統一であった。――つまりは、その文字が「神」を表すのだろうか。

 七神教とはこの世界の生み出した創造主と、その子供である七人の管理者たる神を信仰する宗教だ。


 そして、この世界に「間違いなく存在していた本物の神」である。

 仮にそうでなかったとしても、最低でも、「旧時代が一切の痕跡なく消滅した直後の天才で不老長寿の統治者かつ戦士かつ魔術師」ではある。それが神と何が違うのかは分からないし、この世界の人は全員が、世界は神に作られたと信じている。兎に角、神といえば神なのだ。

 カリンが右から順に読み上げる。


 鬼角族の統治者、鬼神。

 妖精族の統治者、妖神。

 龍鱗族の統治者、龍神。

 人間族の統治者、人神。

 獣人族の統治者、獣神。

 天翼族の統治者、天神。

 海守族の統治者、海神。


「人神が真ん中なのは、ここを建てたのが人間族である証拠ですね。ローラレンス王国は、基よりの人間族の領地と、悪逆な魔王の領地を合わせて、勇者が建てた国ですから、王国神話の伝承にもあっています」


 ちなみに、ここでいう魔王とは「魔物の王」であって、「魔族の王」とは根本的に違うものである。

 諸説あるが、有力なのは、龍脈を取り込んだ巨大な邪竜だとか。


 ところで、相変わらずカリンの有能さが圧倒的過ぎる。

 まさか旧時代の言葉まで読めるとは思わなかった。ちなみに俺は読めない。

 しかし、そんなカリンでもこの施設が七神教関係であるというところまでしか理解できなかったようだ。


 何のための施設なのか。

 素人の俺たちが見ても分かるとは思えないが、可能性は零ではないので、色々と見て回ってみる。

 二階に昇って、その中心に祭壇のようなものがある。


「読めないです。読める言葉は二つだけ――『これらを写し、そして広げよ』『祭壇も仕組みごと写せ』」


 祭壇の近くには色々と書いてあるのだが、旧時代の言葉が読めるカリンでも殆ど読むことが出来なかった。

 すると、読むことは不可能と言っても良いだろう。

 なんとなく落胆せざるを得ない。


 恐らくは、失伝してしまった神話時代の言語か、そもそも意味のない模様でしかなかったのか。

 よく考えてみれば、国が主導して調べていない時点で、大した遺跡ではないのかもしれない。――ああ、いや、その考え方は危険だ。後に調べなおしたら、とても重要な遺跡であった、ということもよくあるのだ。


 いや、流石に早計に過ぎる。

 「これらを写し、そして広げよ」ということは、確かにオリジナルではない可能性が高いが、内容自体は重要である可能性が高い。

 俺がごちゃごちゃと考えていると、ふとレイナが読み上げだした。


「……は……。この……の……。すでに……の……を……て……りなお……である」


 とぎれとぎれで、まるで呪文のようでもあったが、確かに聞こえた。

 「すでに」「である」――日本語である。レイナは、ひらがなだけは読めたはずだ。

 レイナの指がなぞる場所を見る。 



【私はロア。

 この世界原初の転生者。

 すでに十の世界を見て回りなお人間である。

 神に非ず。

 この世界の偉大な七神に劣る者。

 精霊と会う方法を記す。

 呼び出す方法を記す。

 その仕組みは祭壇に組み込んである。

 魔力を流せば精霊は現れる。

 ロアの系譜の魔力を流せば精霊は現れる。

 しかしロアの系譜は精霊に懐かれず。

 嫌われることはなくとも懐かれず。

 懐かれるのはリアの系譜。

 リアは癒しの力を有する者。

 これらはこの世界の創造主の代筆なり】



 ――それは間違いなく、信じられないことに、日本語であった。

 また、他の言語と思われるものは、どれも読むことが出来ないどころか、見たこともない。それはまるで、十の世界を見た人間だと裏付けるようで。

 突然の思わぬことに、俺は言葉を失わざるを得なかった。

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