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面白いクエスト

「いただきます」


「いただきます」


 一晩寝たら肉もイケそうな感じになったので、今日は朝食から肉である。といっても、肉そのままではなくヴルストだ。特段珍しいことではない。

 日本が誇る万能の祈りを俺が口ずさみ、それをレイナが復唱した。彼女の日本語発音は中々にネイティヴなものになってきていて、意味もそれなりに理解しているので、もしかしたら暗号として使えるかもしれない。そんな暗号を使う機会なんて思いつかないけどさ。

 ヴルストに噛みつくと、肉汁が口いっぱいに広がった。美味しい。主食である、フワフワとは言えないが硬くもないパンによく合う。


 最初の頃は戸惑ったものだが、流石に十四年以上――この世界(ウィズラ=ハダル)は一年が四百日なので地球基準で言えばもっと――も暮らしていれば、量の多い朝食にも慣れるというものだ。

 しっかりと朝食を取って、今日の活動を始めた。


 今日は、ヴァインガルトナー男爵領を出発する日だ。

 というのも、そもそもここに長期滞在する予定はないからである。基本的に、大きい街は除いて、殆どの街は一泊するだけだ。

 クラネルトのようなことは例外中の例外なのである。もともと余裕をもって組んであるから問題はないが、一応の予定が狂ったこともまた確かである。


 ある程度の準備を整えた俺たちは、冒険者ギルドへ向かった。

 目的はというと、受注場所と報告場所が違っても問題ないクエストもあって、それらを受注するためである。

 ちょっとした小銭稼ぎや、受付の人や関係者とのコミュニケーションが取れる他、純粋な討伐や採集などではない、面白いクエストがあることも多い。面白いと言っても、英語で言うところの Interesting であって、皮肉的な意味が含まれるが。


 まあ、見つからないことも多い。

 仮に見つかっても「とりあえず依頼だしとこ」みたいな雰囲気が出まくっている、解決方法の不明なクエストもそれなりにあり、そんなものはないのも同然であるし。

 しかし、今日は見つかった。真面と言い切れるかは兎も角、興味がそそられるクエストだ。


「遺跡の調査、ですか?」


「そう、遺跡の調査。場所はこの街ヴァインガルトナー男爵領ヴァインガルトナーから、次の小目的地であるイェーガー辺境伯領バールバーレまでの間にある。報告はそちらのギルドでも良いみたいだな」


「達成条件はどうなっているのでしょうか? 調査、などと曖昧なものですが」


「実際に見たままを報告すればいいらしい。実際に言った証拠は、依頼者が昔は遺跡に行っていたらしく、旗のようなものを隅に複数残しているから、そのうち一本を持ちかえればいいとか」


「悪くはなさそうですね。それに、クエスト抜きで遺跡に興味があります」


 レイナはそう言って、手を合わせて微笑んだ。


「俺もそうだな。本はたくさん読んだけれど、遺跡っていうのは興味深い」


 なんといっても遺跡だ。考古学者や歴史家には怒られてしまうだろうが、視点を変えれば観光地である。

 もっとも、何の遺跡かは分かっていないし、事前知識がないと楽しみも減るだろうが、それでも雰囲気を感じるだけでも魅力的であると思う。

 それに加えてクエスト報酬が貰えるならば、一石二鳥というところである。


 さて、この遺跡がある場所であるが、おおよその場所は先程言った通りだ。

 環境としては、魔力の濃いところではない。つまり、いるとしても魔物ではなく普通の動物だ。この世界の動物で強いのは馬くらいのものなので、危険性もあまりないだろう。

 他の危険だが、壊れそうな洞窟とかであったら入らなければ良いのだ。人災は流石に考慮できないが、こればかりは優秀な護衛がいるし、逆説的には何処でも一定の危険はあるので同じことである。


 このクエストを受注しても良いものか、他の皆に聞いてみると、ウォルフガングもフリッツも問題がないと言った。護衛の二人が問題ないというのならば、少なくとも危険は少ないのだろう。

 いつも通りにクエストを受注して、各々の名馬に乗り、俺達はヴァインガルトナーを後にした。


 遺跡は、イェーガー辺境伯領の隅にある。

 マツカゼたちを最大速度で飛ばせば一日も経たずにつくのだが、ハッキリ言ってそれは騎手である俺達の身体が持たないため、そこそこのペースで三日ほどかけていくことにした。

 秋も深まってきた頃であるが、どこぞの国と違って台風に襲われることもないので、三日とも快適な晴天のもとに大地を駆け抜ける。


 しかし、この時期になってくると少しばかり風が冷たい。

 日光はまぶしく輝いているが、それでも頂点とは言い難い傾いた角度になる時期であり、空気自体の冷え込みが勝ってきているような印象だ。

 一応は、本気で寒いと思えば火属性魔術で温度を変えたり、風属性魔術で魔術のウィンドブレーカーを纏ったりも出来るのだが、如何せん俺の魔力量は然程多くはない。一日中となると不可能なのである。


 例えば魔力量の突き抜けているアネモネならば、一日どころか三日でも平気で出来るだろうし、レイナやカリンの魔力量も俺より多い。

 もっとも、魔力というものは「人間が動くための本来のエネルギー」を生成する効率が悪いほど多く作られるものであるので、多いほど良いかというとそういうわけでもないのだが。

 逆説的で限定的な話になるのだが、魔力量が多い――正確に言うならば魔力生成量の多い――人間ほど、魔力を使いきってしまった時に動けなくなるわけである。


 そんな負け惜しみはともかくとしてだ、バールバーレに着いたらマントでも購入しよう。

 馬をとばしながら、また、夜、焚火(たきび)に当たりながら、そんなことを思った。


 街で食べるものと比べると、野宿で食べる飯は美味しいとは言えない。硬いパンに干し肉といった具合であるから、満天の星空の下で食べることを考慮しても、温かい飯の方がより好ましいと思わされるのだ。

 ライ麦で出来た所謂黒パンを食べながら、小麦で出来た白パンに思いを()せてしまう。まあ、保存性に加えて、栄養価の問題もあるから仕方ないのだろうが。

 食べ終わった後は、草の上に布を敷いて、その上で横になる。


「予定通りなら明日の昼までには遺跡に着くのですよね。楽しみです」


「だね。遺跡と言っても色々あるだろうけど、どんなのだろう」


 満天の星を見上げながら、夜の番は大人たちに任せて、まだまだ成長期の俺たちは眠りについた。

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