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謎の少女 3

 なんだかんだあって、獣人族の青年は語り終わった後、俺に詰め寄ろうとした結果、フリッツに胸倉をつかまれて退散した。

 しかし、次の日以降も何故か何度も俺達のもとに現れる。そして、同じ要求をするのだ。

 また、謎の娼婦ことエマ自身も俺の前に現れるのだが、彼女はレイナが俺の腕に絡みつくと、頬を膨らませて退散してくれるので面倒ではない。

 さて、しかし、エマを幸せにしろと言われても難しい。


 第一に、俺が今のところレイナしか愛せる気がしないからだ。幼い頃はアルトリウスを反面教師に、上級貴族らしい適切なハーレムを作ろうと息巻いていたものだが、今となっては一人への愛が大きくなり過ぎた。

 もちろんこれは悪いことではない、俺が王爵家でなければ、だが。自分で言うのもなんだが、レイナとは相思相愛である自信があるし、これ自体は真に素晴らしいことであるのだが、他への余裕が皆無である。


 第二に、エマがどういった状況なのかが適切に把握しきれないからだ。祖国(ローラレンス王国)への感情や忠誠はどうなっているのか、母国(彼女をさらった国)への感情や忠誠はどうなっているのか、それすらも不明である。

 更に正確に言うならば、これはエマが十一年前の事件の被害者であると仮定したうえでの問題であり、そもそもからして現状の情報では彼女がただのスパイである可能性は否めない。

 どちらにせよ、彼女が怪しいと疑っている商人たちのネットワークには、感服するばかりである。


 第三に、俺達もそろそろユグドーラを出発する時期であるということだ。まさか、ついてこさせられるわけがない。

 かといって、ことは中々に重大で、完全放置という訳にもいかない。監視と情報収集が必要だと思われる。この辺りについては、クラネルトの時と同じように本名で上に掛け合いに行く。今回は地元民であるフリッツに、ユグドーラ大公爵――レイナの父親――に直訴してきてもらうことにした。


 なんにせよ、この問題は俺の掌に収まるものではない。国家で対応すべき事案だ。俺自身に降りかかる火の粉は祓うことが出来ても、これはそれだけにとどまらないだろうから。

 フリッツに対応の尖兵を任せた後、俺達は十一年前の事件について振り返ることにした。と言っても、俺達自身については無事脱出したし、実行犯は死んでしまったので、そういったところではない。後処理や、行方不明の者など、そういったあたりの話だ。

 情報のデータベースは主にカリンであるが、今回は兵士であるウォルフガングの方が多くのことを知っていた。


「一回言っただけでは覚えられないだろうからな。簡単に紙に書いてきた。十一年前の事件の、未だ行方不明の被害者だ」


 ・従五位伯爵家第三女エマ・リュナ・フォン・リーゼス

 ・従五位伯爵家第三女コルネリア・ドロテー・フォン・リンデンベルク

 ・従七位子爵家第二子エドヴィン・イーヴォ・フォン・ベットリヒ

 ・従七位子爵家第一女ペトラ・レナータ・フォン・ザイツ


 ウォルフガングは、被害者の名前を書いた紙を広げた。

 それを見た瞬間に思った。

 流石に偶然にしてはおかしいと。

 エマ・リュナ・フォン・リーゼス――名前が一致している。


 思い出してみれば、俺はエマという名前を聞いたことがあったかもしれない。それは事件が終幕したのち、偶然にリーゼス伯爵に会った時のことだ。

 リーゼス伯爵は語った。――エマは娘の中では唯一私に近い髪色をしていてとても可愛いのだ、と。

 謎の娼婦エマの髪色は黒であるが、さて、リーゼス伯爵の髪色は思い出せない。王都に帰ったら、確認してみる必要があるだろうか。


「さて、次に主犯が誰かという事なのだが、少なくともローラレンス王国国内のものではない。ただの金稼ぎでやるには、貴族を襲うというのはリスクが高すぎる」


 ・アルヴァー森精皇国(ヘイム)

 ○リオーネ王国

 〇竜聖ドラグナー帝国

 ・魔王マグガレグラ支配域

 〇シャルル独立国


 次にウォルフガングは、ローラレンス王国の隣国を書いた紙を広げた。特に陸で接している国は点ではなく丸で示されている。

 これに関してはなかなか難しいが、まあ、リオーネ王国かシャルル独立国であろう。

 理由は国の構造にある。


 アルヴァーヘイムは、シルフィア大陸にある妖精族の国だ。

 彼らとは一度も武力衝突を起こしたことはなく、また経済的な国交が断絶したこともない。貿易によってお互いに仲良くしている、いうなれば友好国だ。利益がない。

 また、開いている港はプレヴィン港のみで、彼らの国から工作員を送るとなると、プレヴィン辺境伯家を出し抜くか裏切らせるかしかない。しかし、唯一の港を任されるような辺境伯が、そのような無能であるはずがない。


 竜聖ドラグナー帝国は、龍鱗族の国だ。

 龍鱗族は長寿であり、誇り高い種族である。誘拐や洗脳をするような行いをすれば、仲間から殺されてしまうこと間違いない。例え、皇帝であってもそれは例外ではない。

 もっとも、ドラグナー帝国はローラレンス王国よりも長い歴史を持つが、皇帝は未だに一代目である。彼の国において文武ともに最強であることは間違いないが、それでも複数対一ならば死ぬだろう。彼らは人類と闘う時は一対一を好むが、「人類未満のクズ」を殺すのに方法は問わない。


 魔王マグガレグラ支配域は、北の魔大陸ことシニスア大陸にある国だ。

 一応の国交はあるが、たまに使節が来て、それに返事を渡すだけである。腐れ縁のようなものだ。魔大陸は南北共に紛争状態にあるので、セントラシア大陸のローラレンス王国に悪質なちょっかいを出す余裕はないはずだ。


 さて、リオーネ王国は知っての通りだ。

 また、シャルル独立国は、実質的にはリオーネ王国と同じである。規模が小さい、同じ制度の別の国だ。


「つまるところ、獣人族の国で暴走したのがいたってところかね」


「そう考えるのが一番自然かと思います。個人か、国かは、また別の問題ですが」


 俺が総括するように纏めると、カリンが補足を加えた。

 レイナがなんとも言えない、苦しそうな表情を浮かべながら言う。


「何にしても、この件はお父様たちを信じましょう」


 俺たちは強く頷いた。

 もっとも、まだ、十一年前の事件とエマの繋がりが確実というわけではないのだけれどね。


 暫くすると、フリッツが帰ってきた。どうやらユグドーラ大公爵にまで話は通ったようである。

 話をもう少しする必要があるから、フリッツはまた何回か招集されるようであるが、一先ずは良かったと言った感じか。

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