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聖女の故郷 4

 早速購入したダマスカス鋼の片手半剣を腰に下げ、今まで使っていた剣は邪魔になるので売り払った。

 王国で最も普及した剣であるし、量産品なので、大した金額にはならなかったが、運ぶ手間を考えれば金になっただけ幸いだ。

 俺たちは馬車を使っているわけではなく、馬に直接乗っているので、余剰する荷物は極力少ない方が良い。


 市場での買い物を再開した俺達が次に立ち止まったのは、硝子製品が売っている店であった。

 硝子とは、なんとも珍しい。地球では毎日のように、どこでも見ることが出来たが、この世界では希少な品だ。水晶ほどの価値はないが、そもそも水晶の価値も高いので、やはり硝子は高額な品だ。

 安いものでも銀貨数枚と、貴族か大商人しか買えないような価格設定である。


 そんな店に悠然と声をかけにいったのは、カリンであった。

 彼女はフランツィスカを伴って、店員の男に声をかけた。


「こんにちは、クラサの売れ行きはどうですか?」


「芳しくはないね。……んん? お嬢ちゃん達、もしかして、前々回の闘技大会で会ったか?」


「ええ、良い買い物でした」


 後ろ姿なので表情は見えないが、気持ち声が明るいので、実際に良い買い物だったのであろう。

 その弾むような声を聴いた店員は、表情を少しだけフレンドリーなものに変えた。友人とはいかないが、知り合いに会ったというような顔だ。


「しかし、一度会っただけなのに覚えていてくれたのですか」


「即金で金貨は衝撃的だったからな。しかし、記憶と変わらないな。茶髪のお嬢ちゃんは大人っぽくなっているのに」


「あ、ありがとうございます。本当、リューネは変わらないのですよ」


「褒められたと思っておきますよ」


「そうだ、外見にせよ内面にせよ、若いのは良いことだからな」


 店員の男がカラカラと笑う。商人らしくはないが、気持ちの良い笑いであった。

 しかし、店員の指摘通り、カリンの見た目は本当に変わらない。ずっと十代後半と言った外見のままで、もうすぐ三十になるはずなのだが、しわの一つもないどころか、幼さが残るレベルだ。

 美魔女とでもいうべきなのだろうか。


 店員の言葉を聞いて、カリンは肩を竦めた。オレンジ色の、ポニーテールに括られた髪が揺れる。

 どんな表情をしていたのか、店員が笑うのを止め、こっそりとクスクス笑っていたフランツィスカも背筋を正した。

 店員は真面目な基調で問いかける。


「しかし、お嬢ちゃん達のその格好は冒険者か? 後ろの兄さん達と銀髪のお嬢ちゃんはお仲間かい?」


「ええ、色々ありまして。ねえ、フランツィスカ」


「はい。それで、今は色々と情報を集めているところなのです。店としては冷やかしになりますが、情報料は払えますし、何かありませんか?」


 店員は暫し考え、


「ユグドーラ商人のネットワークでは幾つか引っ掛かっているな。しかし、冒険者向きではない」


「構いません」


 カリンは数枚の銀貨を手渡す。

 店員は愚痴を言いながら、三本の指を立てた。


「情報料ではなく、クラサではなくても良いから買ったついでにして欲しいんだが、まあ、うちのは主に壊れ物だから仕方ないか……。

 (レイン)、獣人の国リオーネ王国で少しばかり情勢が乱れている。武器を売る準備をしておけ。

 (トヴァ)、今年は大麦が豊作らしい。麦酒などを売るなら今すぐだ。

 (クライ)、美人の娼婦がいるが裏の糸が複雑で追えない。間違っても抱くな。

 ……以上だ」


 数えながら薬指、中指、人差し指、と指を曲げていく。三本とも曲げた時点で、店員はもうないといって笑った。

 そして、一つ目の情報については、より詳しい奴がいる、と場所を教えてくれた。

 カリンは追加で一枚渡そうとしたが、それは謝絶された。


「お嬢ちゃん達は暫くこの街に居るのだろう? なら、今度は買いに来てくれると嬉しい」


「ええ、必要なものがあれば是非」


 カリンはそう言って、軽く礼をしてその場から離れた。

 次にフランツィスカ、俺たち四人と続く。


「リューネ、あの方とはいつ知り合ったのですか? 親しかったようですが」


「あちらが言っていた通り、前々回の闘技大会で、私が彼の店で購入したのですよ。金貨だったので印象が強かったようで、お互いに覚えていたのです」


 レイナの問いかけに、カリンは微笑を浮かべながら答えた。

 そして、表情を一転させる。


「しかし、商人のネットワークは国境を超えるため、貴族のそれより優れている場合があります。中々に重要な情報である可能性が高いですよ」


 その言葉に、大人たちが頷いた。

 一拍遅れて、俺達も頷く。

 商人から聞いた情報で、三つ目は一先ず保留でも良いもの、二つ目は概ね良い情報である。

 しかしながら、一つ目の情報が本当ならば中々に面倒臭いことになる可能性もなくはないのだ。


 リオーネ王国は、ローラレンス王国と国境が接する国の一つである。

 そこがゴタゴタするということは、多少なりとも経済的な損失があるだろうし、それ以外でも飛び火しないとは限らない。まあ、すぐにとは限らないが。

 まだ短い期間ではあるが、今までの旅で出会った国民たちは誰もがなんだかんだで幸せそうだった。不満らしい不満も聞かない。


「少なくとも今は、この国はいいところらしいからな」


 口に出して言うと、皆頷いた。

 この国を大きな意味で守ることになる、後に活かすためにも、しっかりこの情報は集めていこう。

 俺たちは、クラサ等を売っていた店員の言葉の通りに、()()()()のところへ向かった。

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