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貴族のお茶会 1

 ゼーネフェルダー侯爵邸は、俺の住む王城は勿論、レイナの住む王都の大公爵邸よりも小さいとはいえ、王都でもかなり大きい方なので庭がある。

 俺たちの乗る馬車は、馬車に付いた紋章により、顔パスならぬ馬車パスで門を抜け、正面玄関の前で止まった。


 先に従者である二人が下りて、左右に分かれて立つ。

 次に俺が下りて、レイナに対して手を差し伸べる。

 最後にレイナが俺の手を取って下車した。


「ようこそお越しくださいました、ヴァイス殿下、レイナ様。お茶会の会場まで、私がご案内いたします」


 俺たちが到着するよりも前から玄関の前で待っていた、ゼーネフェルダー家の執事が丁寧に一礼する。

 それに対して俺とレイナは略式の返礼を返す。


 執事が一声かけて扉が開き、ゼーネフェルダー家のエントランスが視界に入る。

 それは思い描く「豪邸」「洋館」といった風貌で、素晴らしいと言えるものであった。そこが家の顔であることを理解して、芸術品を惜しみなく使ったエントランスは、豪華という言葉に尽きるだろう。

 何よりも目を引くのは、真ん中で左右に分かれる階段の踊り場に飾られた絵画で、描かれた男性の服装から、王国神話の一節だと分かった。同じような人物が描かれた絵画が、王城にもあるのだ。

 俺はレイナをエスコートしつつ、護衛と女官に周りを固められ、執事の後ろについて建物の中に入る。


「わぁ……!」


 レイナが感嘆したように声を上げる。

 思えば、王都の大公爵邸は機能性重視という感じで、ここのような過剰な装飾はなかったかもしれない。過剰といっても、レイナの表情を見れば、それがもたらす貴族的アドバンテージは馬鹿に出来ないのだが。

 良く見ると装飾品だけではなく、扉や手すり、窓枠などにも細かな装飾が施してある。

 階段を上り、二階の廊下をしばらく歩くと、他と比べると僅かに大きな扉の前で執事は足を止めた。


 執事が扉をノックして、俺たちが来たことを告げると、扉は両開きに大きく開かれた。

 席を見る限り既に他のメンバーは(そろ)っているようで、誕生席に座る主催者を除いて、もっとも上座になる席と、その隣のみが空いている状態だった。


 空いている席の近くに行くと、女官の二人が椅子を引いてくれる。

 俺とレイナが椅子に座ると、護衛と女官の合計六人は俺たちの後ろに立ったまま控えた。

 俺たちの準備が整うと、今回の主催者である少女が、優しそうな笑みを浮かべて話し始めた。


「皆様、今日はようこそお越しくださいました。美味しいお茶とお菓子も用意いたしましたので、有意義な時間を過ごせたらと思いますわ。今日が初めての方もいらっしゃいますから、侍女たちに用意してもらっている間に、自己紹介と致しましょう。……では、私から挨拶させていただきますね。

 私は、従四位侯爵家第二女クラウディア・ヴェラ・フォン・ゼーネフェルダーと申します」


 そう言って、彼女は座ったままに、右手の平を左胸に添える、文官や女性がする略式の礼をした。ちなみに、武官のものは拳を添える。

 ウェーブのかかった、地球人の基準では可笑しいと思えるだろうが、しかし地毛だからであろう、彼女には似合っていて、自然な色に感じる紫髪(しはつ)が静かに揺れる。

 (みどり)がかった金眼(きんがん)には、貴族的な野心よりも、王爵家に対する親しみが透けて見えた。


 主催者が名乗った後は、下座の方から名乗ってゆく。

 今回のお茶会は、俺が一位、レイナが二位、それ以外は同位で四位なので、下座といっても身分が低いわけではない。上座よりに男子が多いので、当主との関係性によって、更に細分化された階級分けで並べられているのだと思われる。

 次に名乗ったのは、燃えるような炎髪(えんぱつ)の少女だった。俺の乗馬の教師であるフォクト少佐のものに似た色だ。

 

 「従四位侯爵家第三女孫(だいさんじょそん)ヴァルトラウデ・レーベッカ・フォン・キルヒアイゼンと申します。第一子の第二女です」


 炎髪の少女が流麗な動作で礼をすると、次の少女が名乗った。

 不自然さのない、艶のある青髪の少女である。


「私は、従四位侯爵家第一姪(だいいってつ)ヒルデガルド・ナターリエ・フォン・ヴォーヴェライトです。第一弟第一女です」


 次に、その対面の少女が名乗る。


「従四位侯爵家第七女ブリュンヒルデ・ロジーナ・フォン・シュヴァルツシルトです」


 貴族らしさの少ない、人好きのする笑みを浮かべて、女性にしては短い髪が揺れる。可愛らしい少女ではあるのだが、成る程ミハイルの妹だと分かる、表情と仕草である。

 顔立ちはかなり違うが、半分の血も違うらしいので、母方の遺伝が強いのかもしれない。

 彼女がミハイルの方に視線を向けることはなかったが、席順的に明らかに可笑しい挙動になってしまうので、それも仕方ないだろう。


「従四位侯爵家第二男孫(だいにだんそん)ニコラウス・アドルフ・フォン・ヴォーヴェライトです。第二子第一子になります」


 次に名乗ったのはブリュンヒルデの隣の少年だった。

 同じ姓を持つ少女よりも濃い色の、紺色と言えるほどの青髪と、同じ色の瞳をしている。

 席順的にはヒルデガルドの隣の少女の方が下座なのだが、その理由は直ぐに分かった。


「従四位侯爵家第一女孫レギンレイヴ・ローゼマリー・フォン・レーヴェンガルドと申します。第一子第一女です」


「私は、従四位侯爵家第五子ジークハルト・カルスロット・フォン・シュヴァルツシルト。レギンレイヴとは同じ乳を飲んで育った間柄になります」


 隣り合う二人が連続して名乗る。

 同じ乳を飲んで育ったということは乳兄弟であり、つまり、この国の伝統から考えて婚約者ということである。俺とレイナのものと同じ関係性だ。


 レギンレイヴは蜂蜜色の髪に銀色の瞳で、ウォルフガングよりも全体的に色素が薄い印象だ。

 ジークハルトは金髪黒髪で、顔立ちもミハイルによく似ていた。ブリュンヒルデと同胞らしいのだが、そちらとはあまり似ていない。

 ともすると、ミハイルもジークハルトも、父親に似ているのだろうなと思う。シュヴァルツシルト家当主にはあったことはあるが、その時は意識して見ていなかったので、顔を思いだすことは叶わなかったが。


「従四位侯爵家第三子ヴィルフリート・フォルカー・フォン・キルヒアイゼンです。」


 俺たちを除いて最後に名乗ったのは、俺の正面に座る、赤髪の少年だった。

 ヴァルトラウデやフォクト少佐のもののように鮮烈な色ではなく、落ち着いた色合いの赤い髪は、俺と同年代の割には背が高い彼に良く似合っていた。


「私は、従二位大公爵家第一女レイナ・マリーナ・フォーガス・ユグドーラです。よろしくね」


「俺は、従一位王爵家第二子ヴァイス・ジーク・フォーラル・ローラレンスだ。よろしく頼む」


 全員名乗り終わったので、レイナ、俺の順で名乗る。

 思えば、敬語でないのも、一人称が「私」以外なのも俺だけである。なんとなくイキってるような気分になったが、身分が伴っているので、威厳の方が大切ということで良しとした。

 使おうと思えば使えるしね、敬語。


 名乗り終わったので改めて全員の顔を見る。

 黒髪一択の日本では考えられないカラフルな髪色の彼らであるが、誰もが美男美女であるということでは共通している。思えば、今まで俺の周りにいる人も、皆優れた容姿であり、同時に上級貴族であった。例外はアネモネとフランツィスカだが、これは突然変異みたいなものだろう、特に前者は。

 上級貴族というものは、整った容姿の女性を妻に出来るものだから、整った容姿の者ばかり生まれるようになるのだ。


 皮肉気味な言い方になってしまったが、それが特段悪いことだとは思わない。

 前世では羨ましいとは思ったが悪いとは思わなかったし、今世に至っては自分はその中の最上位であるのだから、不満などあるはずがない。

 こう言っては何だが、この部屋の中で一番の美男は俺だし、一番の美女はレイナだ。


 さて、皆が美男美女といっても、系統が違う上に、印象が強いので顔を覚えて帰れる自信がある。

 問題はこれだけの人数の顔と名前を一致させることが出来るかどうかだ。ローラレンス王国貴族の名前は、本家ならば「名・名・称号・氏」と四つ、分家ならば「名・名・称号・氏・氏」と五つで構成されるうえ、それぞれも長いのだ。

 思えば、最初は自分の名前も長いと思ったが、これは短い方だったのだ。


 正直なところ、シュヴァルツシルト家とレーヴェンガルド家の子は、ミハイルやウォルフガングから連想して一致させられそうだが、それ以外は覚えて帰れないかもしれない。今こそ短期記憶で覚えられても、寝たら忘れる可能性もそれなりにあるのだ。

 カリンがフォローしてくれるだろうが、人間関係を他人任せは良くないので、出来るだけ頑張ろうとは思う。

席順(先頭三文字で表記)


    ヴァイ レイナ ニコラ ブリュ

クラウ                 ヴァル

    ヴィル ジーク レギン ヒルデ

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