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悠然な対策会議 3

 こちらに来た二人は、レイナたちと同じように俺の耳打ちを受けると、さも当然という表情で言った。


「殿下の気持ちは分からなくないが、何よりも彼の気持ちが大切でしょう。なあ、アリア?」


「そうですね、ミハイル。彼女の方の気持ちが分からない以上、なんとも言い切れないですが、人を好きになるのは素敵なことで、感情や理性で抑えられるものではありません」


 二人はこの貴族社会において、恋愛をしている破天荒だ。

 その考え方は非常に近現代的で、俺の理性に近い意見でもあった。俺は感情的にアネモネを好きになれないのであって、現代日本人的な感性としては、自由恋愛を強く肯定していた。

 段々と問題点と解決策は(まと)まってきた。


 思ったよりシンプルだ。

 一つ、ハインツ兄様はアネモネと直接話したわけではないので、そうしたら考えが変わる可能性も否定できないこと。

 二つ、アネモネの気持ちは、こちら側は一切誰も分かっていないということ。実際は権力で無視することもできるが、ハインツ兄様はそれを望まないだろう。


 つまり、ハインツ兄様とアネモネが直接話す場所を作ればいいのだ。

 勿論、一対一ではなく、アルトリウスや俺、大公爵たち、アネモネの親なども含めてだ。

 シンプルイズベストだ。余計な小細工はしないに限る。


「俺も、ミュラー辺境伯に認められる為に、頑張らなければな」


「大丈夫です。貴方ならきっと勝てますよ」


「ああ、そうだな。ウォルフガングを初め強敵はいるが、必ず優勝して見せる!」


 俺が一人納得居ている間に、ミハイルとアリアがイチャイチャし始めた。少々目の毒だが、貴族である以上プラトニックなものなので、多少は目をつぶろう。

 お互いの肩をひしと掴んで抱き合う。

 アリアは女性としては背が高い方で、しかしミハイルも背が高いので、見た目としては非常にお似合いだ。家柄も辺境伯家と侯爵家で、実のところ障害はないように見える。


 不意にレイナが、アリアに問いかける。


「必ず優勝とは、武闘大会のことですか? 確かにミハイルが勝つのは私も嬉しいですが、何故そこまで気合が入っているのでしょう?」


 アリアは、とても楽しそうな表情で笑う。

 半分は夢が叶ったとでも報告したそうな顔で、半分はミハイルへの信頼だろうか。


「お父様にミハイルを紹介したら、お父様がこう言ったのです。

 『そんなに本気ならば、武闘大会で優勝して見せろ。そうしたら、娘との結婚を認めてやろう』と。

 まるで、恋愛小説の一場面のようでした。条件付きとはいえ、それさえ叶えばミハイルと一緒になることが出来るのです! ミハイルの実力ならば、高い壁ではあるかもしれませんが、超えることが出来ると私は信じています」


 アリアは、恋に恋しているところがある。

 かといってミハイルとのこういった関係も本気ではあって、仮にこれで負けたからといって冷めるようなことは……ないと信じたい。女心と秋の空は俺の専門外なんだ。

 とにかく、そういった展開が多少嬉しかったのであろう。


 ミハイルの方はというと、今までに見たことがない程の本気さを感じた。

 その気合だけを見たならば、こいつが優勝で間違いないと思わせるほどであった。

 勿論、実際の実力としても、ミハイルはかなり上位にあるであろう。武闘大会は然程よく見ることが出来ていないが、それでも見た記憶の中で、あの日の護衛二人を凌ぐ実力者はいない。


 そう考えると、俺は相当に強力な護衛に、身辺警護されているということになるのか。

 ミハイルは我流のオリジナリティーの高いものが、ウォルフガングは教本通りの動きが得意だが、その反対が出来ないかというと否で、どちらも最高水準の剣技を持っている。

 皮肉かどうかは微妙なところだが、二人の恋路を邪魔する最大の壁は、普段の仕事仲間の可能性がある。


 なんとも都合のいいことだが、その最大の壁候補が見えたので、声をかけてみた。

 すると彼は俺に軽く手で挨拶をすると、他のところへ行った。

 それは真面目なウォルフガングらしくない行為だった。どうしたのかと疑問に思っていると、彼は予想外の人物を連れて、俺の前に再び現れた。


「ありがとう、ウォルフガング。ヴァイス、良い報告だ」


 アルトリウスだった。

 視界の端で、先程のアリアたちの発言で混乱していたフランツィスカが、ふらついたように見えた。カリンが受け止めたのも見えたので、多分大丈夫だろう。

 良い報告という言葉から、俺にとって良いものを感じ取れないのは何故だろう。


「ウォルフガング、なんで父上を……?」


「殿下を探していらしたようだったので、ご案内いたしました」


 成る程、純粋な厚意か。


「それで父上、良い報告とは何でしょうか?」


 改めてアルトリウスに向き直って、問いかけると彼は楽しそうに、声を出さずに笑った。

 いやらしさは全くないのだが、どうにも俺の不安を煽る。

 大公爵たちと話し合って決めたのだが、と前振りをしてからアルトリウスは報告をした。


「準決闘の日取りが決まった。

 明日、通常の大会の試合が終わった後、コロシアムが空く。そこを貴族だけで貸し切ってやる」


 明日は四日目なので、武闘大会は八試合。

 微妙な試合数の為、弓や魔法の大会も行われず、武闘大会中で最も長くコロシアムが空く日らしい。もっと早く分からなかったのかと、文句を言いたくなったが、これでも担当者に確認を取った中では最速・最優先らしい。

 国家規模の祭りなので、権力で蹂躙(じゅうりん)は出来ないのだ。もっとも、国民の反感を買うだけなので、余程のことがなければ、強権の行使などしないのだが。


 それらは、予想通り、嬉しい知らせではなかった。

 二日間音沙汰がなかったから、忘れられたかもと思っていたのだが、四大貴族家のトップは真面目に頑張っていたらしい。こんなことを頑張らなくて結構だ。

 だけれど、喉に引っかかった小骨が取れたような気分であるのも事実だ。

 やるからには、本気でやろう。


「分かりました」


 短くそう告げると、アルトリウスは満足そうに頷いて、上座の方に戻っていった。

 ウォルフガングはここに残ったが、今、ハインツ兄様の件を聞く気にはならなかった。


 さて、ミハイルじゃないけれど、必ず勝利してやろうじゃないか!

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