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実戦で示すのみ 1

 それは、王都のどこか。日当たり悪い建物の中。

 三人の男たちが集まっていた。身に着けている装備はそこそこ上等と言えるが、彼らの表情は実力のある兵士や冒険者のそれではない。彼らの中に具体的な上下関係はなく、そのうち一人がなんとなく口を開く。


「最近、貴族の子供たちが外出するときの警備が厳重だ」


 他二人も首を縦に振ることで肯定を示す。


「しかし、このままでは、おまんまの食い上げだ。多少強引でもやるしかないだろうな」


「裏路地であれば俺たちのホームグラウンドだ。余程でなければ近衛にも負けることはないだろう?」


 一人一言ずつ、僅かにそれだけ話して、互いに顔を見合わせ頷き合う。

 建物から出て、どこか同じ場所を目指して散会した。裏路地は大人数で移動すると目立つ故の配慮である。


 男たちは陰を駆けていく――。







 絶賛継続中で、俺がレイナに婚約を願ったとか噂が立っているわけであるが、あんまり気にしても仕方がないので、開き直って堂々とデートする。

 もっともデートと聞いてイメージするような二人きりではなく、護衛の兵士が沢山くっついてきている訳だが、身分的にも年齢的にも仕方のないことだと思う。彼らはスポーツの審判よろしく石と同等扱いなので、俺が二人きりだと思えば二人きりなのだ。多分、そういうことだと思う。

 半径数十センチだけを自分の空間だとすれば立派に二人っきりである。こじつけであるが。

 ネックレスをあげたからだろうか、レイナが以前より密着してくるように感じる。少々恥ずかしいが、それは贅沢(ぜいたく)な悩みだろう。役得であるのだから、大人しく喜んでおこうと自戒する。


 今日は何をする予定かというと、露店を冷やかしつつ、美味しそうなものを見つけたら買い食いするつもりだ。

 確かに最初に外出は自由に出来るとは言われたが、買い物に限らず食事までしてきても良いというのだ。庶民派なイメージが付くのは、政治戦略的にも好ましいらしい。称号持ちで、婚約者でと、何かと話題が尽きない俺たちは、良い客寄せパンダらしい。

 理由はともかく、王城の飯は味は濃いが上品だ。久しぶりにジャンクな味を堪能させていただこうと思うのだ。レイナの口にも合えばよいのだが。


 露天は様々な店があるが、やはりその中でも食べ物の店はダントツで多い。冷やかすのに面白いのは掘り出し物を並べている店だが、こういった店は売り上げが不安定だし、あえて出す人は少ないのだ。

 ふと香ばしい匂いが鼻腔(びこう)を刺激する。ソースと香辛料に、肉が焼ける、とにかく食欲を誘う香り。出所と思わしき店で銀貨を一枚提示する。


「二本欲しいのだが、これで足りるかい?」


「余裕でおつりが出るよ坊ちゃん。ウチはぼったくり店じゃねぇんだからさ」


 むしろ銅貨はないのかと店主の男は笑う。

 この前買ったものの値段から考えるに、銀貨は千円くらいの価値かと思っていたのだが、この店が特別安いわけでもなさそうなので、俺は通貨の価値を勘違いしていたのかもしれない。


「すまない、銅貨は持っていなくてな……」


「じゃあ仕方ないな。釣銭の大半がなくなっちまうが、ほれ、94枚あるか確認しな」


 銅貨の袋を渡される。ズシリと重みが伝わる――三歳児に持たせていい重さじゃないなこれ。


「大丈夫、信用しておくよ。それよりも肉を、腹が減っているんだ」


「商人冥利に尽きるが、人を信用しすぎるのは良くないぞ。特に露天は、手品まで使って(だま)す奴もいるからな」


「肝に銘じておくよ」


「大人相手にそこまで堂々と話せる坊ちゃんは、肝は座っていそうだがな。ほら、焼けたぞ。今度来る時があったら感想くれよ、そっちの彼女さんもな?」


 なんかちょっと上手いこと言われた。これでレバーだったりしたら完璧なんだけど、買ったものは生憎と普通の肉である。

 肉屋の店長に話しかけた時から、俺の腕に絡まったままニコニコと笑っていた彼女どころか婚約者である少女に、二つの肉の内一つを差し出す。


「レイナ、少し離れて。食べる時にそれは行儀が悪いからな」


「そうですね、わかりました」


 レイナは俺の腕から離れると、左手で俺が差し出した肉を受け取ると、右手は俺の左手を握りしめる。デートだからこれでいいのかもしれないが、やはり恥ずかしいし、それ以上にこの少女のことがどんどんと好きになってしまう。三歳で中身が二十歳を超えている俺を動揺させるあたり、魔性の女かもしれない。


 二人で同時に肉にかぶりつく。焼き鳥のように串にささっているのだが、肉は一口で食べきれない程に大きく、香ばしいタレと肉汁が口の中で踊る。タレはバーベキューソースのような味だ。あまり食べたことがないので確信は持てないが、肉は鹿だろうか。

 結論としては美味しいというところに帰結するのだが、B級グルメのジャンクな美味しさであった。王城で出てくる、味が濃いわりに、上品さを捨てきれていないソーセージやベーコンとは違う。


 思わず笑みが漏れる。

 彼女はどうだろうと思い左を見ると、やはり彼女も笑顔であった。こちらに気が付くとその笑みを深いものにする。

 言葉で会話することなく、お互いに笑みだけを向けて、肉を完食した。串は店主に言ったら回収してくれた。


「美味しかったよ」


「私も、美味しかったです」


 ついでに感想を端的に述べると、店主は嬉しそうに笑った。

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