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精霊に関する些事

 見慣れない銀髪水眼の女性がいる。

 彼女は非常に美しく、王爵家の方々に勝る程の高貴さがある。王爵家の方々に無礼な口調で話し掛けるが、あまりにも自然であって、それを咎めようと思うことも出来ない。

 正体は不明であり、喜びに満ちた忙しさで沸く城内を、ただ一人優美に歩き回っている。目的も分からないのだが、王爵家の客人であるということは確かである。


 ……まあ、アルーヴのことだろうな。

 人間のふりをするのは面倒臭いと言いつつも、プレヴィンでの生活で慣れたのか、アルーヴは当然の如く王城に溶け込んだ。と本人は思っている。現実としては、問題が出ない程度に浮いている。

 見た目に関しては、王城に居れば目が肥えるので問題はない。服装も、リリアの服を借りているので、どこぞの高貴な出に見えることだろう。ただ、やっぱりオーラが人間のそれではない。


 なんでそうなっているかというと、帰宅した日のことだ。

 俺達は国家元首としてのアルトリウスに、帰還したことを伝えることになっていた。そこでは、旅の間に得たものを色々と簡潔に述べる必要があるのだが、さて、精霊のことを隠蔽できるはずもない。

 入城した時には実体を消していたアルーヴが、出会いのときよろしく顕現したために、アルトリウスも驚きを隠せないようであった。


 とはいってもアルーヴだ。

 なんだかんだと話しているうちに、彼女のペースに持っていかれて、客人としての待遇ということになった。

 精霊に対してそれでよいのかという意見もあったのだが、そこは本人……本精霊の意見であったので、すんなりと解決された。


 そんなわけで今現在、アルーヴは俺達にちょっかいをかけたりしながら、自由に活動している。

 なんの心変わりか、常にレイナについていくというわけでもなく、本当にランダムに王城で色々としている。

 とはいえ、あくまでも常ではないというわけで、多くの場合は俺達のところにいた。


「昨日、この街の地下を見て来たの。風が通らないから相性は悪いし、下流になると汚物だらけで美しくないけれど、水の流れ自体は一級品ね。流石は人間の言うところの勇者王の仕事ね」


 突然、そんな精霊らしいことを言い出したアルーヴは、あまりにも自由であった。

 昨日は俺達は結婚式の衣装を作りに行っていたのだが、アルーヴが全くもって絡んでこなかったのは、そんなところに居たからであったのか。予想外である。

 誰が魔術的な作品ではあるとはいえ、下水道の中に踏み込むと思うだろうか。


 或いはスラムの人間が移動に使うとかなら、物語などではよくある話である。現実には分からないが。

 しかし、高貴な立場にある者が、態々そんなところにまで踏み込むだろうか。城の汚物すら流していない、本当の最上流の部分に入ることはあっても、下流まで行くものか。

 もっとも、精霊に人間の基準を押し付けるのが間違いというものなのだろう。


 現に、アルーヴは下水道まで入って行ったというのに、一切の不潔さが無い。

 服を身にまとえば流石に汚れるだろうが、服から彼女の「実体」であれば、物理的な影響を受けるはずもないということだろう。

 自問自答で納得した俺は、そんな理不尽な存在に対して言葉を返す。


「勇者王というと、勇者だったという初代ローラレンス王爵か?」


「多分、あっているわ。まあ、魔術具だから、魔導公の仕事かもしれないけれど」


「魔導公……大魔導師であった初代ロマーナ大公のことですか?」


 二回目にはレイナが応じた。アルーヴは同じように「多分、あっているわ」と微笑んだ。

 しかし、何故突然そんなことを言い出したのか、首を傾げざるを得ない。

 アルーヴが自由なのは今更であるし、疑問に思うだけ無駄なのかもしれないけれど。

 レイナはそう思わなかった、首を実際に傾げつつアルーヴに問いを投げた。


「アルーヴは何でそんなところに行ったのですか? 地下であることも、汚いことも、分かっていたはずですよね?」


 アルーヴは何故分からないのかとばかりに目を瞬いたが、優しい声で答えた。


「魔術具と呼ばれるものの中には、地脈の魔力を使っているものがあることは知っているわよね? あれだけの水量を生み出す魔道具なのだから、人間族個人の魔力で足りる訳が無いし、当然王都の下水もそれなの」


「そうだな、実際にそう言われている」


「はい、そう教わりました」


「じゃあ、そこまでは大丈夫ね。私は風の精霊だから風を自由に操れるし、それは無意識のうちに最適化されているわ。むしろ、私は風そのものと言ってもいい。

 けれど、他のものはそうではないの。精霊の魔力量に任せて、無理矢理動かせなくはないけれど、あまり良いものではないわ。そこで、人類によってプロセス化された魔術具が参考になるの」


 成る程見えてきた。

 となると、魔術具の中でも、王都の地下のそれは一級品だろう。けれど、疑問も残る。


「しかし、それなら一番上の()()だけで良かったのではないか?」


「最初はそう思ったし、確かに充分に素晴らしい動きをするのだけど、細かいところを補うように、下水道全体の形が魔術陣になっていたの」


 それは初めて知ることだった。

 本当に、今日のアルーヴはどうしたのかと思うくらいに、精霊として魔術について語っている。

 レイナが笑みをアルーヴに向けた。


「良く分かりましたね、アルーヴ、凄いです!」


「ふふ、精霊なら見れば分かるわ。それに、なにも実体だけが私の視界ではないしね」


 ああ、それは失念していたな。

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