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王都に帰還す

 プレヴィンから王都までは一月ほどの道のりであった。

 最短ルートを通ったわけではなく、西に進んでから南下する、少し遠回りで雪も残っているルートを選んだため、実際に交易路として使われる道は、半分以下の時間で着くことだろう。

 春の心地好い陽気の中で、俺達は故郷である王都を見た。


 久しぶりに見る王都は非常に大きかった。

 雄大で、壮大で、堂々とした威厳に満ちていた。

 巨大な都は俺達を正面から迎え入れてくれて、頼もしさと力強さを感じた。


 初めての感覚だ。

 俺の中で故郷というものは、そんなに大きかったというのだろうか。いや、そうではないだろう。

 旅に出たことで俺の中の常識が、いくらか崩れて、この世界に調整されたというところだろう。


 俺の基準は、どうしても現代日本である。ローラレンス王国に生まれてローラレンス語を用いても、頭の中の言語は日本語が中心なのだから、染み付いたものというのは強い。

 現代日本と比べて王都は()()()。東京-川崎-横浜の、無限に続くようにも思える広大なメトロポリスで生まれ育ったために、比較対象はそれであった。

 しかし、今回の旅で俺は様々な街や村を見た。どれも王都よりも小さくて、意外にも不自由はないのだけれど、それでも比較すると色々心許ない。


 その点、王都は大きかった。

 俺がなんだかんだでこの世界に順応できたのは、あまりにも不自由が少ない王都であったからではなかろうか。

 確かに、娯楽に関しては、日本と比べてあまりにも種類が少ない。けれども、読書には困らなかったし、衣食住は充実していた。


 それは全部王都であったからだ。

 確かに、第二王子として第二の生を享けたことは、俺にとってこれ以上ない程の僥倖であったかもしれないが、そうだとしても王都以外で暮らす可能性がないわけではないのだ。

 レイナは大公都ではなく王都に住んでいる。俺は長男ではなく次男なのだから、これが逆の立場でも、条件次第では可笑しくはないのだ。他にも、アルトリウスが正妻を溺愛して単婚主義状態でなければ、いくらでも可能性は広がったわけで。


 まさか、漠然とした「故郷」に感謝するとは、旅の前には思いもしなかったな。

 俺が今回の旅に受けた影響は思ったよりも大きいらしくて、庶民の気持ちに慣れたかは分からないけれど、旅の前よりはずっと近いと思う。

 巨大な建物に、整然と敷き詰められた石畳、多くの人が営む活気ある都市の息吹を感じながら、俺は王都に帰還した。




 帰還したその日はすでに夕方であったので、俺たちは宿屋に一泊した。

 このメンバーで同じ部屋で寝ることはもうないだろうと思い、出発した時よりも二人増えたメンバーも含めて、夜遅くになっても話し続けていた。


「本当にいろいろあったなぁ……」


 出発した時には(アイズン)であった冒険者ランクは、特に気にしていなかったけれど、いつの間にか(ジルバ)にまでなっていた。

 感慨深げに呟くと、「いろいろ」の含むところの最大が楽しげに笑った。


「確かにそうね、人間の真似をするのも悪くはないと知れたし、今代のリアにも会うことが出来たのは僥倖だったわ」


「そうですね、私もアルーヴと会えて良かったですよ」


 レイナがそう言うとアルーヴは嬉しそうに笑って、同時にフリッツが苦い顔をした。彼はどうにも、アルーヴの余波を受けやすかったから仕方ないかもしれない。


「暗い話をするのもあれだが、ユグドーラ大公都での件も気になるな」


「その件に関しては上申したのでご安心を。それに私も調べますし、頼もしい仲間も得ましたので」


「情報収集でしたら、頑張らせていただきます」


「セリア、気楽にしてください」


 カリンが微笑むと、セリアは硬い表情で神妙そうに言った。

 まだ慣れないのだろう。

 フランツィスカがそれに優しく声をかけた。


 二人は最初は牽制しあっていたが、今ではカリンを中心に纏まっている。

 思うとカリンのカリスマ性も中々のもので、組織的に付けられた部下ではなく、自分を慕う者を二人も連れているわけだから。


「なんにせよ、得たものの多い旅だったよな」


「ああ、そうだな」


 ウォルフガングが小さいけれどハッキリといった。

 俺が得たものが経験や成長であったとするならば、ウォルフガングが得たものは「嫁」だ。コリンナ・ラングハイムーー違法な奴隷にされて、救われた少女。

 コリンナは救ってくれたウォルフガングに惚れて、ウォルフガングもそれを受け入れた。


 今はミハイルの家にいるはずだ。

 真面目なウォルフガングが任務を放り出すはずもなく、信頼できる相手となれば、ミハイルがそうであったのだ。


「さて、そろそろ寝ましょう。帰るときに隈があるようでは、心配させてしまいますよ」


「ああ、そうだな。……おやすみ」


「おやすみなさい」


 夜も更けて、カリンの言葉は本当にその通りで、俺たちは眠りについた。




 翌朝。


「ただいま」


 俺たちは王城の門をくぐった。

 これにて、第四章は終了です。

 次回からは第五章――時系列は継続。ヴァイスとレイナの結婚の話です。


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