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閉港祭二日目

 閉港祭二日目の午前、商人ギルド主催の大食い大会が開催された。

 三つの余興の中で唯一理由がある大会で、曰く、在庫処理。

 実際にはそれだけでは足りない為に追加で出資されるらしいが、それでも完全に余興というわけではないあたり、商人たちの強かさを感じざるを得ない。


 しかもこれ、先の二つの余興と違って、「食べる以上は参加費くらいは貰うぞ」というスタンスである。

 もっとも、大声を出したり殴り合ったりするのと違って、食べることが出来るというのだから、そうでないと出場するだけでプラス支出だ。

 やる気はなく、ただ食いしたい人によって無駄に消費されないためには、必要な処置であろう。


 さて、この大会にも、俺達の中から参加する者がいた。

 軍所属であって活動量が多い、ウォルフガングやフリッツが出る――訳ではない。

 レイナである。


 まあ、確かに、あまりにもイメージに合わない。

 レイナは成長期であるとはいえ女性であるし、そのうえ小柄で、スレンダーだ。

 可愛らしい女の子が大食いチャンピオンになるなんてのは、前世のテレビ番組なんかでもたまに取り上げられることではあるが、レイナが特段大食らいではないことは俺自身よく知っている。


 では何故か、この大会にはこういった部門があった。甘味部門。

 甘味が大好きなレイナは、その部門があることを知ると、折角の祭りだからと出場を決めた。

 ぶっちゃけノリなのであるが、カリン曰く「甘味部門なら或いは……」とのことで、そういえば大量の甘味は中々に苦痛であることを思いだした。


 この世界の甘味は中々に貴重なはずなのだが、なんで大会を開けるほどにあるんだろうな……。

 細かいことは気にしてはいけないのだろう、なんといっても祭だ、貿易港だ。

 通常部門よりも参加費が高いし、こんなもんといえばこんなもんなのかもしれない。


 さて、そんなわけで通常部門も観たけれど、そちらはあまり興味ないので結果だけ。

 身長2メートルくらいある、鬼角族の男性が優勝していった。

 プレヴィンで鬼角族とは珍しいと思ったが、どうやら旅人らしく、今日の最終便でシルフィア大陸に渡るらしい。


 港町だけあって、街の住人以外が多いことを、あらためて実感する。

 通常部門のあとは甘味部門が始まる。レイナも含め、全員が席に着くと、果物からクッキーのようなものまで雑多に乗せられた皿が出て来た。量は大したことはないが、全てが甘味だとおもうと中々だ。

 審判が声をかける。


「それでは、甘味部門、開始です!」


 皆が一斉に食べ始める。物凄い勢いで口にかき込んでいる者もいれば、ゆっくりと口に運んでいる者もいる。また、食べ方が粗雑な者もいれば、気品がある食べ方をしている者もいた。

 レイナは当然、ゆっくりで気品のある食べ方だ。こういった場であるから、正式なマナーに則ることはないが、フォーク一本でも動作に染み付いた気品を隠し切れない。

 一口食べると、レイナは嬉しそうに表情を崩した。


 ところで、レイナが半皿ほど食べる間に、一皿食べ終わった妖精族の女性がいる。しかも、気品のある食べ方で。

 大食い選手権の優勝候補って、意外なほどに綺麗に食べるけど、そういうことかな。

 ともかく、最初の段階ではレイナは最下位に等しいペースであった。


 それが中盤になると変わった。三皿目あたりになると、カトラリーがとまる者が続出し、場外に消えた者までいた。理由は察する。

 なるほど、甘味部門は恐ろしい。

 にも関わらずレイナは五皿目あたりでも笑顔で食べていた。なお、彼女の名誉のために、純粋な量でいえば、まだ一食分にも満たないことは明記しておく。


 そんな訳で、最終場面においては、レイナは上位ですらあった。

 しかし、独走者もいた。最初期から早かった女性は、未だにその速度も衰えず、気品のある動作で甘味を口に運んでいた。

 そして、そのまま首位を譲らぬままに、時間制限と相成った。


 結果として、レイナは5位であった。参加者は30人ほどいたので、文句なしに上位である。

 ただし、4位以上の者は、レイナと隔絶したほど多く食べていた。

 逆に、6位以下の者は、甘味であるが故にあまり多く食べられなかったらしい。何故甘味の方にエントリーしたし。


「やっぱり甘いものは美味しいですね。皆と一緒に食べたらもっと美味しいですが」


 レイナは笑いながら、可愛らしいことを言った。

 あ、ちなみに、優勝者の女性はアリシアという名前らしい。







 午後には、閉港式が開催された。

 祭の混沌とした雰囲気は収まって、どちらかというと、しんみりとした空気へと変化してきている。

 一番近いのは卒業式のそれだが、来年になれば会えるために、そこまでの深刻さはない。


 ただ、それでも感傷に浸る余地はあるようで、幼い子供であれば泣いていたりする。

 幼稚園のときには、夏休みの前にすら泣いている子が僅かながらいたものである。小学校にもなると楽しみでたまらないわけだが。

 だからこの雰囲気は、年少の者が作り出した空気と言えるだろう。見るが良い、商人たちは余裕綽々だ。


 ローラレンス王国側と、アルヴァー森精皇国側と、それぞれの商人の代表が挨拶をしたのち、プレヴィン辺境伯が閉港を宣言する。

 そうして、閉港祭は終わりを告げた。

 偶然にも雪が降り始めて、本格的な冬の始まりを実感した。

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