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甘味を求めて 2

 「紅い宝石亭(ルビン・ユヴェル)」は大通りを中ほどまで進んで、一本道を曲がった先にある店であった。

 大通りか港に面する場所を一等地と考えると、二等地といったところだろうか。

 しかし、アクセスは良く、比較的開放的な店構えで、初めてでも入りやすい店であった。


「二人か? 相席かカウンターだ。好きな所に座ってくれ」


 店内に足を踏み入れると、調理場で肉を焼いていた料理人が、ガタイに似合った大きな声でそう言った。

 案内されるわけではなく自分で席を探すのも慣れたもので、しかし相席を積極的にする気も起きなかったため、カウンター席の端から二番目に腰掛けた。

 腰掛けたといっても、カウンターの椅子は高く、軽く身体強化して腰から飛び乗るような形になったが。


 左手で一番端の席を指し示し、右手をレイナに差し出すと、彼女は右手で俺の手を掴んだ。

 レイナも俺と同じように飛び乗る形になった。俺よりも身長の低いレイナは、さながら猫のように軽やかであった。

 背の高い椅子にも無事座れたので、躰をカウンターの方へ向けた。


「若いのに身体強化に慣れているな。見慣れない顔だし、冒険者(そっちのプロ)か」


「まあ、一応は」


「そうか。俺も若い頃はそうだった。さて、メニューはそこの木板だ。読めなきゃ聞いてくれ」


 肉を焼いていた男が、感心するような眼をしつつ、口角を上げて笑った。

 俺も会釈を返しつつ、レイナと一緒にメニュー表を覗き込んだ。

 本来は肉料理の店とは言われていたが、思った以上に肉に特化したラインナップがそこにはあった。


 牛肉、豚肉、羊肉、鹿肉、兎肉……。

 様々な肉のステーキがこの店の売りであって、逆に言えばそれしかない。

 その中でもオススメされているのは、値段こそ安くはないが、「雪鹿(スニーク・ハーセル)」の肉であった。


 雪鹿は動物ではなく魔物である。王都よりも北の地域で、地脈が通っている場所に生息する。

 戦闘能力は低めで、ガイエスの森で戦った一角兎の図体をデカくした程度らしい。

 使う魔術も似ていて、弾丸のようなものを打ち出すが、これが氷柱(つらら)らしい。また、戦闘では殆ど使われないが、純粋に水属性や火属性も使えるという話だ。


 純白の美しい毛皮を時期に関わらず持っていて、メインの狩猟理由はこちらとなる。

 しかし、肉も美味しく、半ば珍味でありながら、この店では最もオススメの素材であるとか。

 中々に興味深い。


「腹が減ってきたな」


 店内の臭いも合わさって、そう思わされる。

 けれども、レイナの甘味への意志は、俺が思っている以上に硬かったらしい。

 全くもってブレることなく、彼女は肉を焼く店員に問いかけた。


「肉だけでなく甘味もあり、美味しいと聞いたのですけれど、ありますか?」


「ん、ああ、メニューには載せてないがな。俺は肉専門なのでな、配膳担当に聞いてくれ」


 レイナが配膳担当の女性店員に声をかけると、彼女は配膳を済ませるとこちらへやってきた。

 先程と同じように質問すると、彼女は手を打って応えた。

 ああ、この人も甘いものが好きなのかな、と思える口調だ。


「雪で冷やした果物がありますよ。甘いながらもスッキリしていて、肉の後に食べると美味しいです。また、追加料金になりますし、スッキリさは減りますが、蜂蜜がけにすることも出来ます」


 レイナは表情を明るくして、女性店員に言葉を返した。


「では、私はそれを。蜂蜜ありで」


「料金は、銀貨一枚ですが、大丈夫ですか?」


「はい、大丈夫です」


 銀貨一枚というと1万ロルク、一般的な食事ならば10~20食はとれる金額であったが、レイナはためらいもなく頷いた。

 何といっても目的であったから引き下がるわけもなく、金銭的にもやはり余裕があった。

 王爵家や大公爵家から貰っている分で普段の宿代や食事代は出しているので、冒険者として稼いだ分の「自分で得た金」でも問題なく払うことが出来る。


「あの身のこなしようだしな、若いのにやり手か」


「仲間が強いだけさ。……俺には雪鹿のステーキを、焼き加減はオススメで」


 嘘は言っていない。

 しかし、そのままでは受け取られなかったようで、店員は肉を熱された鉄板に乗せながら口を歪めた。


「強い奴はそういうのさ。まあ、良い、どんな凄腕もうちの料理には敵わんぞ」


 言葉には自信が溢れていたが、確かに匂いは凄く美味しそうだ。

 彼の「焼き」の腕に期待しよう。

 自前のコップに水属性魔術で作った水を注ぎ、レイナのものにも同じようにする。


「ありがとうございます」


「どういたしまして。しかし、楽しみだな」


「はい、とても」

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