これが噂の異世界てん・・・
さっさと異世界召喚してしまった一話のフォローに必死です。
物語進めれば、勝手にキャラが動いてくれる・・・とかそんなに甘くないですよねw
白い光が徐々に柔らかなものに成っていくのを感じました。
チュン、チュン
朝独特の清々しい空気に、お手本のような小鳥のさえずりが聴こえてきます。
閉じたままの瞼には暖かな日の光を感じました。
ああ、目を開けたくないなぁ・・・
椅子に座った姿勢のまま、私は細やかな抵抗を試みていました。
開いた目の前が見慣れた自分の部屋なら、真っ直ぐにベッドに向かってやろうと決意を固めます。
先ほどまでの痛々しい中二病的なやり取りはきっと夢なのだから、後でいくらでも悶えてあげますとも。
ふーっと息を吐き、いざ瞼を開いきます。
さて、辺りの景色は・・・
さらさらと草が風に凪いでいます。
朝露に濡れた緑は日の光を反射してキラキラと輝いていました。
座っていた椅子のすぐ隣には一本の木が生えており、その傘が私の頭上を覆っていました。
・・・どうみても、私の部屋じゃないし。
という部屋ですらありませんね。外ですね。
少し踏み出して辺りを見渡します。
一面の草原でしたが、10mほど前方に踏み固められた土の道が左右に続いていました。
道の左手にはまだ低い太陽を背に高い山々が見えました。
地球基準ではありますがあちらが東ですね。
他に近くにはなにもないので途方にくれて元の木の位置に戻ります。
すると椅子の下、土に直接木の棒で描いた様な魔方陣が見えました。
それを見て、やはり昨晩のやり取りは夢ではなかったようだと改めて確信しました。
自称魔神?の可哀想なサラリーマンさんとの会話からすると、
ここは異世界という訳ですが、自分の格好を確かめて唖然としました。
寝る前の上下ジャージに部屋履きのスリッパ・・・
「・・・雑、装備そのままってひどいなぁ。」
文字通り身一つでどことも分からない草原に投げ出されたことに愕然とします。
滅多なことでは怒らない私ですが、これは怒ってもいいのでは?
とか思って恨み気に椅子の下の魔方陣を睨んみました。
すると・・・
ポワーン
魔方陣が薄っすらと白く光ました。
呆気に囚われていた一瞬で光は消えてしまいましたが、その跡には・・・
椅子の上に見覚えのある大きめのリュックと見覚えのない麻の小袋が
椅子の下にはスニーカーが置いてありました。
今、目の前で起こった現象でファンタジー決定ですね。
俗に言う、異世界転生?この場合は異世界転送かな?
急いで椅子に駆け寄ります。
リュック(学校の通学用に使ってるもの)とスニーカーは私の私物ですね。
麻の小袋の下には手紙が置いてありました。
いそいそと手紙の確認を行います。
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拝啓
魔王様、ついテンションが上がり過ぎてしまい
そちらの世界の詳しい説明の前に、ご転送してしまった件お詫び申し上げます。
その補填と致しまして、一筆したためさせて頂きます。
ええ、現在、魔王様が居られる周辺がわが社のダンジョン設営予定地です。
ダンジョンの設営につきましてはご聡明な魔王様に一任致します。
どうぞご自由にご設営下さい。
ちなみに、そこから西に二時間ほど歩かれましたらレアル王国の街【ビファーレン】に到着致します。
この世界の足掛かりの拠点として、ご活用されては如何でしょう。
また、旅支度につきましては
魔王様の私物より必要なものを召喚の聖霊が纏めましたのご送付致します。
そちらの通貨と【聖霊の宝玉】を同封致しましたのでご活用下さい。
詳しい話はいずれまた、どうぞよろしくお願い致します。
敬具
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うう、勝手に異世界に転送されたうえに、もう魔王ってことにされてる・・・
どうしてこうなった!?
ええ、確かに私はファンタジーとか大好き人間ですよ。
魔神?さんとの会話でも魔法やらダンジョンという単語にワクワクもしてましたとも・・・
異世界召喚?
はい、大好物ですけど何か?
そんな漫画や小説もたくさん読みました。
でも、これは違います。
一方的過ぎますし、いきなり魔王とか・・・
そもそも、魔王って云われてもなんにも変わってないのですけど、
普通の上下ジャージの女子中学生のままなんですけど!!!
ああ、せめてこれがまだ夢の続きなら、良かったのですが・・・
自分のほっぺを軽くつねりました、
うう、やっぱり痛い・・・
はぁ、せめて上下ジャージ装備から変更してから、とりあえず街に行ってみましょう。
えっと、たしか【ビファーレン】だっけ?
リュックの中身と麻の袋の中身を確認します。
どうか、リュックにそのまま、教科書とか詰まっていませんように・・・
リュックには、ラフで動きやすい私物の普段着と替えの下着、タオル数枚、それに筆記用具一式が入っていました。
あれ? 意外と気が利いていますね。
麻の袋の方には、見たことのないない金貨と銀貨と銅貨が詰まっていました。
おお、価値は分からないけど金貨なんて初めて見ました!
獅子の横顔が描かれています。
と、袋の中に紅い宝石を見つけました。
これ換金アイテムじゃないですよね?
なんか重要なアイテムの気がします。これが【聖霊の宝玉】かな?
袋から取りだそうとして、自分の格好を思い出しました。
異世界ファンタジーなんて素敵・・・
こほん!
もとい、冒険の開幕に上下ジャージ姿ってどうなのかな?
と思い至り、こんな重要?アイテムとの対面にはまだ早いかなと思い至ります。
先に着替えましょう。
さて、人影は見えませんが、前方に広がる道から見えない用に木の影に移動して早速着替えました。
フォーマルな黒のブラウスに、動きやすいジーンズを履いてスニーカーの紐をきつめに結び直します。
入ってた服の中でも特にお気に入りを選んだのは、始めての場所にはちょっとでもお洒落して行きたいという私の性だったりします。
ジャージとついでに部屋用のスリッパをリュックに詰めこんで背負い、麻の袋をジーンズのベルトに結び着けました。
と、ここでようやく準備も整ったので、もうひとつの送り物【聖霊の宝玉】を手に取ります。
「キレーな宝石だなぁ。なんのアイテムなんだろう?」
朝日にかざしてみます。
キラキラ反射して素敵です。
宝石なんて高価なもの持ったことありませんから、なんだか気が昂りますね!
紅い光が反射して辺りを照らします。
キレーだなぁ・・・
って!さっきの召喚?の白い光より辺りが輝いてるんですけど!!
手にした宝石が心なしか温かく感じられました。
凄い演出です。
これは、あれですね。
聖なる力に目覚めた!とか、伝説の武器を手に入れた!とか。
武器・・・
もし、本当にここがファンタジーな世界だとしたら必要なんでしょうね。
(・・・武器がいいの?)
えっと、魔法使いにも憧れるけど
まずは手に納まる使い易い刃物とか、直接攻撃できる方が安定しそうですね。
(・・・剣とかがいい感じ?)
うーん、私みたいな初心者が背伸びするのはいけないですね。
剣とか格好いいけど筋力足りなくて使いこなすのは、難しいでしょう。
(・・・軽い方がいい?)
そうですね。
扱い易さは重要だと思います。
(・・・わかった、サイカが望む姿に!)
一瞬大きく光った紅い光はすぐにが収束しており、手にはいつの間にか、
皮の鞘に納った、所謂ダガーナイフが握られていました。
焦げ茶色の木の柄には紅い宝石が嵌め込まれていました。
意を決して、丈夫そうな皮の鞘から刀身を抜くと15cmほどの左右対称の刃が現れます。
予想していた銀色ではなく黄金色の刃でしたが、これ切れるのでしょうか?
『そりゃ、切れ味抜群だよ!
何より丈夫なのさ、刃こぼれなんてあり得ない。
なんたってオリハルコン製の刀身だかんね!』
っ!
突然近くで、声をかけられビクッとなります。
っと慌てた拍子に手からダガーを落としてしまいました。
その刀身はたまたま下を向いて落ちた様ですが・・・
スッとその刀身を根元まで地面に突き刺さっていました。
「・・・」
『ね、切れ味抜群でしょ。危ないから次からはしっかり握ってね?』
また、どこからともなく声をかけられました。
はっ、として辺りを警戒します。
誰もいないのに声だけ聞こえるなんて恐すぎです。
そっと足元に落としたダガーに手をかけて引き抜き、右手に構え直しました。
『おっ、いいじゃん!様に成ってるよ!!
でも、もうちょい肩の力を抜いて・・・ そうそう自然体でね。』
ん?
すっと警戒を解いてみて、手にしたダガーを、正確にはその柄の紅い宝石を見つめました。
なぜか確信があります。
「・・・あなた、聖霊さん?」
紅い宝石に話しかけます。
すると宝石が僅かに明滅しました。
『んー!正確!!!
すぐに気がついてくれて嬉しいよ、
あたいの名前は【リン】。よろしくね♪』
「あっ、うん。
よろしく・・・お願いします。
えっと、リンさん?」
『硬いなぁ。
もっと気楽に、リンでいいよ♪』
「・・・わかった。
よろしくね。リン。」
『はい、よろしくー。サイカ!』
「・・・えっと、リンはあの宝石
【聖霊の宝玉】に宿った聖霊さん?なのかな。」
『そうだよ~
まぁ【聖霊の宝玉】に宿ったのは、ついさっきだけどね!
サイカの役に立つためにね!!
私が見つけた魔王候補だからね♪
「・・・私が見つけた?」
『そうそう、【地球】でサイカのことを見つけたのはあたい。
つまり、魔神の言ってた召喚の聖霊ってば、あたいな訳!』
あっ・・・
共犯者見つけてしまいました。
大好きとはいっても、いきなりファンタジーな世界に連行されて怖かった方のこの気持ち・・・
一体どうしてくれましょう。
とりあえずその場にしゃがみ込みます。
『って、サイカ?
ちょっと、目が怖いんだけど。
なんか、ハイライトが消えて濁ってきてるんだけど・・・
ああ、なんか魔王様っぽい目だね、それ。
って、ちょっと聞いてる?
なんで、刀身使って穴なんか掘ってるのさ!!!』
ザック、ザック
ザック、ザック
「ん?
・・・とりあえず、埋まっとく?」
『・・・イヤイヤイヤ、ちょっと待って!
ストップ! スコップ!! ストップ!!!
ちょっと、待って!
いや、待って下さい、サイカ様!!
いきなり神装備を捨てないで!! ちょっとお話しよう?
ねえ、話せば分かるから!!!』
「・・・」
ザック、ザック
『イヤー!
ごめんなさい。
急に魔王候補とか、召喚とかごめんなさい!!
でもあれ、あれは無能な魔神が悪いんだよ!!!』
「・・・ん。」
ザック、ザック
『いや、ほんと待って!待ってって!
目が怖い、無言怖いって!!
いや、サイカが急に異世界に転送されて怖かったのは分かったから!!
ほんとは魔法とかちょっとワクワクしてるけど、
それ以上にいきなり異世界に放り出されて困ってるの分かってますから!!
だから、このあたいが、こうやってガイドとしてついてきたんだよ!!
だから、
無言で穴掘るのヤメテー!!!』
ピタリ
「・・・そう、良かった。さすがに丸投げ過ぎて。
いっそ、こっちに住み着いて徹底的にダンジョン作成の邪魔でもしてみようかな?
とか思ってたところだったよ。」
『う、うん。
あたいの眼に狂いはなかったみたいで安心したよ・・・汗
なんで、もうそこまで割りきれてるの!?』
「・・・魔王、だから?」
『いや、そんないい笑顔で答えないで!!
なんか魔王候補選んだつもりだったけど、たぶん大魔王連れてきちゃったみたいなんだけど!?』
「・・・大魔王からは逃げられない?」
『あっ、はい!
この世界やダンジョンについて詳しく説明させて頂きますね。
今後とも宜しくお願い致します・・・泣』
「・・・うん、よろしくね。 リン。」
ふーっ、なんとか放置プレイは免れたみたいですね。
とりあえず、冗談はこのくらいでいいでしょうか?
まぁ後で主犯(魔神)さんとは、おはなししないといけないようですが、
とりあえず、この子? リンも麻の小袋と同じようにジーンズのベルトに固定します。
えっと、確か西に二時間ほど歩いた場所でしたね。
頼もしい?パートナーも出来たことですし、せっかくの異世界召喚です!
では、異世界での始まりの街でも目指してみましょう。
なんか、二話書き始めた時には想定すらしていなかった相棒が生まれていました・・・汗
リン頑張れ!