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アクアディア聖国物語  作者: 中嶋千博
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ユーリ、牢屋で男と4人の少女に出会う

 なにがどうなってこういう状況になったのだろう。

 はっと目が覚めると、飛び込んできたのは鉄格子だった。鉄格子のある場所でぱっと思い浮かぶのは、牢屋だった

 今まで見ていたのは全部夢で、まだアクアディア教会の牢屋に捕らわれているのかと思った。それくらいアクアディア教会の牢屋にいられたことはユーリの中でトラウマになっていた。

 あたりを見回すと、先客がいた。近くに男が一人。少し離れたところに、転々と誰かがいるようだ。

 ユーリは周りの様子をもっと見ようと上半身を起こした。


「目が覚めたか?」


 近くにいた男が話しかけてきた。

 男の髪はほとんどが白髪で背中まで伸ばしており、一つにうなじのあたりでくくっていた。もともとそういう長さというわけではなく、その髪のぼさぼさ具合から、伸ばし放題にしたまま髪を切っていないだけのようだ。長い間ここに入れられているのを物語るように、気力のない目をしている。

 顔には皺が刻まれ、歳の頃は五十から六十歳程に見える。

 着ている服は粗末なもので、カーテンか何かを体に巻き付けているようにしか見えない。牢屋の向こうから入り込んでくる燭台の光の下では、灰色にしか見えないが、もともとの色は灰色ではないだろう。

 ここが牢屋のように感じるのは薄暗いからだということに気づいた。ここを照らしている光は、金属の格子の向こうにあるランタンだけなのだ。


「ここはどこですか?」

「セドリック邸の地下にある牢獄だよ」


 男は説明してくれた。セドリックはいままでたくさんの美少女を屋敷につれこんできたが、セドリックの意に沿わない少女や、飽きた少女は一緒くたにこの牢獄に押し込んでいるのだそうだ。


「ここはどこですか? どうやって僕はここへ?」

「覚えていないのかい?」

「セドリックと食事をしたことまでは覚えているんですが……」

「その食事の中に何かしこまれていたんだな」

「そんな……」


 ユーリは唖然とした。あの時、前菜が終わると、次の料理が運ばれてきて、それもユーリとルリカは警戒したが、マリーナがなんの躊躇もなく口に運んでおいしそうな表情を浮かべるので、ついつい自分たちも食べたのだ。マリーナの様子に変化がないことで警戒心が薄れた。

 不覚だった。その後も、簡単には手に入らない珍しい食材で調理された見た目もきれいな料理が次から次へと運ばれてきて、途中からなんの警戒心もなく、料理に舌つづみを打っていた自分が情けない。


「何か頭痛やめまいのようなものは感じないか?」

「とくに感じません」

「それはよかった」


 男は安堵するように頷くと、ユーリの質問に答えた。


「君をここまで運んできたのは、セドリックが屋敷に雇っている護衛士だった」

「屋敷の外にも見張りの人がいるのに、屋敷の中にもそんな人がいるんですか?」

「あの男は、極度の心配性だからな」

「僕のほかに二人女の子がいたんです。その子たちがどうなったか知りませんか?」

「ほかの女の子はここには連れてこれていない。君は女の子の服装をしているけれど、男だね。そのことがセドリックにばれて、ここに押し込まれたんだと思うよ」


 男に言われる通り、今のユーリの恰好は女性の服装だ。


「僕がここに連れられてきて、どれくらい時間は経っていますか?」

「二時間から三時間くらいか」

「そんなに? ラナたちを助けなきゃ」


 ユーリは急いで、ジャケットのボタンをはずし、ワイシャツのボタンも外してさっさと胸の詰め物を取り出す。

 髪には白いカチューシャをはめていたはずだが、ここに運ばれてこられるときに落としたのかなくなっていた。プリーツのスカートは腰の部分で折り返しベルトをしめ、膝より上の長さにしてたため、ベルトを緩めて、膝よりも長い丈の元の長さにする。それでも足元が落ち着かなかった。


「どうにかしてここを出なくちゃ」


 ユーリは牢屋の中を確認した。

 大きさは牢屋にしては広いほうだ。しかも雰囲気が牢屋という感じではない。二人掛けのソファがあったり、本棚があったり、テーブルがあったりする。薄暗い光に目が慣れてきたので、ここにいる人物たちも確認できた。

 四人の少女たちだった。少女たちは各々自分の好きな場所で自分の好きなことをやっていた。

 奥の左手側に木製の扉があり、中をのぞいてみると、トイレと風呂場があった。こちらの明かりは、天井から魔法の明かりが照らしている。

 牢屋自体は壁四方に囲まれていて、一面だけ鉄格子がはめられ、向こうは廊下となっていた。金属製の鍵は頑丈で、とても自力で解除できる代物ではない。壁を叩いてみると、重い衝撃が返ってきて、薄い壁ではないことが伺える。

 壁に穴を掘るにしても、地面に穴を掘るにしても時間がかかりそうだ。

 魔法でどうにかならないかと思い、自分が使える魔法を頭の中に思い浮かべてみる。治癒魔法と、加速と減速。そして浮遊だ。どれも支援系魔法で、鉄格子を斬ったり、壁に穴をあける魔法ではない。

 その前にここで魔法が使えるか試してみようと思い、感嘆な治癒魔法を発動させる。しかし魔法は発現しなかった。


「やっぱり……。そうだよね」


 魔法封印結界がこの牢屋には成されている。魔法封印結界とはその文字のごどく、魔法使用不可とする結界だ。魔法を発動させるためには、言葉で神に加護や願いを発現しなければならない。言葉で神へ繋がりを結ぶのだ。繋がりが結ばれれば、加護や願いを得ることができる。魔法封印決壊はこの繋がりを遮断する。繋がりを遮断された空間では、呪文を唱えても魔法は発動しない。言葉が神に届かないからだ。

 太い鉄格子を自力で曲げて、間からすり抜けられないかと思い、鉄格子に手をかけた。

顔を真っ赤にして鉄の棒を曲げようとするが、びくともしなかった。


「風呂の通気口にあった鉄格子はこれよりも細いからなんとかなるかもしれない」


 ユーリは再び風呂場に行き、天井にある通気口のふたを開けてみた。

 確かに鉄格子は細いが、その分、目が細かい。素手で曲げようとするかできなかった。 鉄格子自体もしっかりと天井にはまっていて、ご丁寧に金属を溶かして留められている。


「どうすれば……」


 ユーリはうろうろと牢屋の中を彷徨った。こうしていても時間だけは過ぎていく。ユーリは鉄格子の間から廊下の左右を見てみた。左側はすぐに壁になっている。右側は奥のほうまで廊下は続いていて、先が見えなかった。そちらに向かって声を張り上げる。


「誰か来てください。ここをあけてくださーい!」


 本を読んでいた少女が本から顔を上げてユーリをにらんだ。


「うるさいわね、静かにしてよ」

「ご、ごめん。でも……」

「ここにいたほうが楽でいいじゃん。三食食事はでるし」


 長椅子にだるそうに横たわっていた少女が、乱れた服装で、はすっぱな口調で言った。


「あんたはまだここにきたばかりだから、この状態に違和感を感じるかもしれないけど、そのうち慣れるよ」

「そんな時間はないよ」


 ユーリは即座に反論する。無意識に切羽詰まった口調になった。

 男が静かに質問した。


「何か事情があるようだね」


 ユーリは説明した。アクアディア聖国の宝である水の宝珠が盗まれたこと。盗人を追って教会が捜索隊を設立したこと。そこに自分も参加していること。

 盗人を捕らえ、水の宝珠を取り返したが、今度はアウネイロスという魔物に盗人とともに、水の宝珠を持っていかれたこと。

 そして、今、セドリックが水の宝珠を持っている可能性が高いということと、盗人というのがラナという女の子でセドリックに操り人形のようにされていることを語った。

 ユーリがすべてを語り終えると、男は口を開いた。


「君の話を聞いてると、確かにセドリックが水の宝珠を持っている可能性が高い。というよりも、持っていると断言していいだろう。

 明日にはティミスのジャッチを受けてもいいと豪語するなら、水の宝珠を使って今夜、何かをするつもりなのかもしれない」

「何かって、何ですか?」

「それは私にも分からない」

「そうですよね……」

「それにしても、水の宝珠を盗むとは、その女の子は思い切ったことをする子ですな」

「ラナはむこうみずすぎるんです。いくら強くてもあれじゃあほっとけない」

「君の目的は水の宝珠を取り返し、ラナを助けることなんだね」

「はい」

「それから、セドリックを倒すことも含まれているのかね?」

「顔面にげんこつをぶちかましたいです」


 ユーリはラナの肩に腕をからませるようにして置いたセドリックの様子を思い出して、怒りがこみあげてきた。

 そんな様子のユーリを見つめていた男は一つ頷いた。


「君に協力しよう」

「ほんとうですか?」

「ああ。しかしそれを実行するためには、ここにいるみんなの協力が必要不可欠だ」


 ユーリは少女たちに声をかけた。


「みんな協力して欲しい。そして一緒にここから出よう。ここにいたらどんな嫌な目に合うか分からないよ」


 ユーリの言葉に、少女たちの反応はユーリの予想外の反応を見せた。まず、長椅子に寝そべっている少女が声をあげた。


「外にでたら働かなくちゃいけないし、めんどうくさいわ。あたしはずっとここにいて楽な生活を送るの。あんたに協力してあげる義理はないわ」

「なんだって?」


 ユーリは思いがけない言葉を聞いて目を見開いた。

 続いて、クッションを胸の前に抱きかかえた少女が抑揚のない声で言った。


「わたしもここにいる。ここにいれば食べることに困らないから。あんたに協力してここを追い出されたら嫌だから協力しない」

「えっ?」


 ユーリは再び驚きながらも、クッションを胸の前に抱きかかえた少女の近くにいる別の少女に目線を向けると、その目線に気づいたのか、少女はちらりと本から目線をあげてユーリを一瞥すると言った。


「わたしも協力はお断りよ。この本まだ半分も読んでいないし」

「そんなぁ」


 四人目の少女はこちらの会話はおかまいなしに、水たばこを吸っている。返答がないということは、答えは他の少女たちと同じで牢屋から出たくないのだろうとユーリは思った。

 少女たちが牢屋にいることを望んでいるなら、協力してもらうのは無理のようだ。牢屋にいることを望む理由も聞いた。

 けれど、とユーリは思う。男が言うように、ここにいる全員の協力があれば、牢屋からでることができるなら、牢屋から一刻でも早く出たい。でなければならない。自分にはやらなければならないことがあるから。

 そのためには、彼女たちを説得しなければならないのだ。


いつも読んでくださってありがとうございます。


年末が近くなり仕事が忙しくなって、なかなか文字をつづる時間が作れず少し間が開いてしまいました。

更新が遅れてごめんなさい。


久しぶりの更新のついでに、気づいた誤字脱字を直しました。

そして、治癒の神様の名前「キュアデート」を「キュアレス」に変更しました。


そして、なんと! いやこの後の文章はほんとに中嶋の気持ちなので、わざわざお目に止めなくてもかまいません……。

なんとなんと。中嶋のつたない文章に評価をつけてくださった方がいらっしゃいました。

ありがとうございます!

以前、「お気に入り」、いやいやここで言う「ブックマーク」ですね。それに登録してくださった方がいて、「ありがとうわーいわーい」と喜んでいたのですが、そのブックマークがいつの間にか外されていて、内心、落ち込んでいたんですよね。


一人でもこの物語を読んでくださる方がいるのなら、それは中嶋の励みになります。

これからもお手すきの時にでも、読んでいただけると嬉しいです。


どうぞよろしくお願いいたします。


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