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アクアディア聖国物語  作者: 中嶋千博
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ユーリ、美少女コンテストの結果を知る

 アクアディア聖国北部に位置する町アルデイルで開かれた、第一回美少女コンテストは大盛況のもと終了した。

 このとき、美少女コンテストを見るためにわざわざ遠くの地方からやってきた人たちがアルデイルの町に落としていった金額は少ない額ではなかった。

 これに味をしめたアルデイルの商工組合は、毎年美少女コンテストを開催するよう教会に要請し、教会が渋面をつくって良い顔をしないと、商工組合が主催になる、という交渉を持ちかけて、むりやり教会側を納得させた。

 以降、美少女コンテストは毎年行われることになり、アルデイルの町の春の風物詩となる。

 そしてアルデイルの住民たちは、アクアディア聖国の北東部に位置するアルデイルとほぼ同じ規模のヨルドの町と比較して、少しばかり自分たちの町が知名度が上がり、にぎわいを見せるようになったことをひそかに誇ることになるのだった。

 数年後、アルデイルの町の教会に女性の神官が赴任してきて


「美少女コンテストだけが開催されるのは不公平です。美少年コンテストも開催しなさい」


 と言い出し、美少女コンテストと追随して美少年コンテストも開催されることになる。

 このとき観光客が落としていった金額は、美少女コンテストだけ開催していた時と比較するとより多額なものだった。

 以降、美少女コンテストと美少年コンテストは毎年開催されることになる。

 そして毎年、ことしめやかにささやかれる噂話があった。


「初回の美少女コンテストのとき、参加者に男の人が紛れ込んでいたんだって」

「ええ? 見れば男か女かくらいわかるじゃない」

「それが女の子と見まごうばかりのきれいな男の子だったらしいわよ」

「へへぇ。だとしても男なのに美少女コンテストに参加するってどうなの? その人変態なの?」

「そうかも。水着審査もあったということだから、女の子の着替えを直接間近で見たかったのかも」

「きゃあ、きっもーい」

「だよね。きもいよね」

「へんたいだよ、へんたい」

「へんたーい」


 そう遠くない未来で、うら若き女子たちに、変態呼ばわりされることを知るよしのないレイクは、魔法契約している精霊リーフのリリーと、自分の魔力の共同作業でつくったミント茶を飲みながら、ほのぼのとくつろいでいた。

 そこに、美少女コンテストを終えてエルダたちが戻ってきた。


「あら、いい香りね」


 まっさきにエルダはお茶の香りに気付き、台所のテーブルでお茶を堪能しているレイクとユーリのほうを見た。

 レイクがものすごい勢いで椅子から立ち上がった。


「おかえりなさい。漂ってる香は俺とリリーで作ったお茶の香りです」

「おいしそうね。わたしももらえるかしら?」

「もちろんです、エルダさん」


 話を聞いたミスティが声をあげた。


「あたしにもちょうだい。ちょうどのどが渇いていたのよ」


 追随するようにルリカも言う。


「わたしも欲しいですぅ。美少女コンテストに出場してすごーく緊張したからのどがからからですぅ」


 女性陣に引き続いて、シグルス、ソレイユ、アルベルト、エイジも一時の休息に、暗にお茶を所望してきた。


 シグルス曰く、「飲むなら酒がいいが、ないならなんでもいいぞ」。

 ソレイユ曰く、「気分をリフレッシュするためにハーブティーは最適だぜ」。

 アルベルト曰く、「とにかく一息つければ、助かる」

 エイジ曰く、「みなさんに追随します」


 そんなわけで、レイクとリリーは再びミントとレモングラスの葉を出現させ、お茶タイムとなった。

 狭い台所で、それぞれ形大きさの違うコップを手に取りながら、お茶を味わう。

 その間にユーリとレイクはエルダから美少女コンテストの結果を聞いた。

 優勝者はラナ、準優勝はユーリたちの知らない少女。そして三位が我らがルリカだった。


 レイクがルリカに祝いの言葉をあげた。


「ルリカ、おめでとう。ルリカならいけると思っていたさ」

「ありがとう、レイク」


 ユーリもレイクに続いて祝いの言葉を言う。


「おめでとう、ルリカ。ルリカが入賞してくれて安心したよ」

「ユーリもありがとう。そう言ってくれるとうれしいですぅ」


 はずかしげにうつむき加減に頬を染めて礼を言うルリカの横で、ミスティが暗い表情を浮かべ、うらやましげにルリカを見つめた。


「どうしてルリカが入賞しあたしが落ちたのよ。あたし、女子の魅力がなのかしら……?」


 そんなミスティの肩に隣にいたアルベルトがそっと手を置いた。


「君はスレンダーで品がある。審査員の好みとは少し違ったのかもしれない」


 ミスティはうるうるした瞳でアルベルトを見つめた。


「やさしいことを言ってくれるわね」

「ほんとうのことをいったまでだ」

「アルベルト、あなたって人は……」


 そんな会話を聞いていたレイクが、ユーリにひそひそとささやいた。


「アルベルトってやっぱりたらしだね」


 ユーリもしっかりと頷く。


「うん、たらしだね」


 普段は無口なアルベルトは、言うときはきちんと言うタイプの男なのだ。女の心のつぼを押さえている。それは天性というものなのか。

 男としてうらやましいと思うユーリとレイクだった。


「そういうわけでルリカがディナーに呼ばれたわけだけど、ルリカはここで抜け目ない交渉をセドリックとしたのよ」


 美少女コンテストの表彰式で、ルリカはセドリックにディナーに一人で参加するのは心細いので友達と一緒に参加したいと懇願したのだ。

 セドリックは最初、難色をしめした。それをすぐさま察したルリカは、友達というのは、水着審査で体調不良で棄権した、特技でユニークな歌を披露した子で、その子にはまだ公にはできない秘密がある。ディナーで一緒にこれたら、その秘密をセドリックだけに教えてあげてもいい、と語ったのだった。

 ルリカはセドリックの目に好色の光を宿るのを見てとり、自分の交渉が成功したことを悟った。ルリカが想像した通り、セドリックは二つ返事で承諾した。


「へえ」


 他人事のように相槌を打ちながら手にもっていたお茶の入ったグラスを仰ぐユーリに、エルダがしごく当然というように声をかけた。


「というわけでユーリ、また女装してちょうだい」


 ユーリは思わず、飲みかけていたお茶を吹き出しそうになり、その場でむせた。


「ゲホゲホ。どういうこと?」


 涙目になりながら姉を見つめるユーリ。その涙には、お茶でむせた以外の理由があった。


「ルリカの言う友達というのがユリナちゃんだからよ」

「え……?」


 現実逃避しながら聞き返すユーリに、エルダの隣にいたルリカが、にこりと笑みを浮かべる。


「『わたしの友達は、特技でユニークな歌を披露した子で、その子にはまだ公にはできない秘密があるんですよ』とセドリックに話したら、セドリックは『ああ、あの娘か。あの娘ならオーケー―』と二つ返事で了承くれたんですぅ」

「ええ~!」


 ユーリが避難の声をあげると、エルダがその非難の声にかぶせるように言った。


「一位になったラナはセドリックと一緒に会場を後にしたわ。今頃、セドリックの屋敷で、ディナーに参加するために、着替えているころかもね」


 ラナとセドリックが一緒にいるところを想像しただけで、ユーリは胸がむかむかしてきた。

 残っていたお茶をひと仰ぎすると、テーブルの上に置いて立ち上がる。


「分かった。着替えるよ」


 つい先ほど、「もう一生、女装はしたくない」とつぶやいたのにも関わらず、自らその言葉を撤回するユーリ。


「ルリカの交渉力には敬服したわ。ユーリ、ルリカと協力して、水の宝珠を探すのよ」

「もちろんです」

「……うん」


 すぐさま返事をしたルリカと違い、ユーリの返事が遅れたのは、ラナのことが気がかりすぎて、水の宝珠のことを失念していたからだ。それで、ふと気になったことを質問する。


「姉さんたちは、セドリックと話はできたの?」


 エルダは重いため息をついた。


「コンテストの後、屋敷に戻ろうとするセドリックに半ばむりやり近づいて話をしたわ」


 エルダは中央から盗人の捜索隊としてやってきたという役柄をセドリックに伝え、セドリックにアルデイルの状況を詳しく聞いた。しかし、セドリックの回答はそっけないものだった。


「今朝やってきた男とは別のパーティの方ですかな。今朝の男には説明したが、盗人は探しているが、このあたりの地にはそういう人相の者を見かけたという話はあがっていない。捜索隊は中央を中枢として情報共有ができているのではないのかね」

「今朝の話は共有しています。今の時間は夕方です。その間に何か情報があがっていないかと思いまして」

「とくにない。話は終わりだね。私はこれから接待があるから、失礼するよ」


 そつなくセドリックは答えると、その場を去って行った。


「接待っていったって、美少女コンテストの入賞者たちとディナーをとることでしょうに」


 エルダは悔しそうに顔をゆがめた。その隣でルリカが気持ち悪いものを見たかのように自分の両肩に腕を巻き付けて、眉根をひそめる。


「それでラナにやったみたいに変な薬か何か飲ませて、意識を失わせて変なことをしようという魂胆なんですよぅ」


 レイクが顔をしかめる。


「まさか、そこまではいないでしょ?」

「セドリックがわたしに言ったんです。『夜、宴が興じて遅くなった場合は、屋敷に泊まってもかまわない。部屋数はあるからね。家の人には、泊まる可能性があると伝えておきなさい』って」

「……」


 その場にいた男全員が同じことを想像をし、言葉を失った。


「危険な任務を任せることになるわね。ルリカ、ユーリ、何か危ない目に合いそうになったら、任務よりも自分のことを優先して。とくにルリカ、あなたは女の子なのだから、充分に気を付けるのよ」

「はーい」

「ユーリ、あなたは男の子なのだから、いざという時には、ルリカを守りなさい」

「う、うん」

「ディナーというからには、いろんな料理がでるでしょうけど、食べるふりをして口に入れないようにしなさい。何が入っているか分かったものじゃないわ。そうだ、食べるふりをするために、何か袋をもっていったほうがいいわね」

「袋は持っていきますね。あと、わたしは解毒の魔法使えるんです。ちょっとやそっとの薬なら、解毒魔法で解除しちゃいますよ」

「それは心強いわね」


 ディナーに呼ばれた時間は五時。ディナーと呼ぶには早い時間だが、呼ばれる側が美少女ということで、年齢層でいえばまだ子供だ。セドリックも建前上、遅い時間だといろいろと面倒なのだろう。


 エルダは懐中時計を取り出して時刻を確認した。


「五時まであと一時間あるわ。さあ、ユーリ、着替えて」

「うん」


 ユーリは急いで二階に上がっていった。

 そんなユーリの後ろ姿を見ながら、ミスティは口の中で気づかわし気につぶやいた。


「ユーリ、へんな分野にめざめていなければいいけど……」


 ミスティの独り言は誰の耳にも届かず、ユーリは自分のあてがわれた部屋に行き、みずから進んで女の子の服装に着替えた。

 その後ユーリたちは、いかにして、セドリックの屋敷から、水の宝珠を見つけ取り返すかという案を練った。

 ユーリはぐだぐだととりとめのない話し合いが続く中で、ラナの身を案じているのは自分だけかもしれなという思いにかられてくる。

 捜索隊の目的は何より水の宝珠を取り戻すことなのだ。そして、水の宝珠は今、セドリックがもっている可能性が高い。

 セドリックの屋敷でディナーに入ったら、ユーリは早い段階で、トイレを所望し、トイレに行くふりをして、水の宝珠を探す役目を担うことになった。

 ユーリが席をはずしている間、セドリックの相手はルリカが行う。

 セドリックの屋敷に行く前に、ルリカが自分とユーリに毒や催眠効果を解除する魔法「ヒーリング」をかけておく。「ヒーリング」には毒薬や催眠効果のある薬や魔法を無効化する効果がある。ルリカの「ヒーリング」の効果は半日と長い。

 あまりにも強い毒や催眠ならば、「ヒーリング」の力は破られてしまうため、気は抜けない。

 あのラナが自我を封印されているくらいなのだから、なおさらだ。

 十七時五分前。エルダ達の期待と不安を受けながら、ルリカとユーリはセドリックの屋敷の前にたどり着いた。

 美少女コンテントに参加した服装、すなわち、足がすーすーする、ひざ丈よりも身近いプリーツスカートをはいてセドリックの屋敷の前に立つユーリ。


「さあ、いきますよ」

「うん」


 ルリカの言葉にユーリは頷き、ごくりとつばを飲み込んだ。

 セドリックの屋敷の前で美少女コンテスト二位の少女とばったり出くわした。

 ツインテールにした髪の結び目には、ピンク色の花で飾られ、茶色を帯びた黒髪の先がくるくると巻かれている。

 最初に口を開いたのは、少女のほうだった。


「あら、あなたは……」


 名前を思い出そうするようにわずかに目線をさまよわせる少女に先手を打つように、ルリカが先に挨拶をする。


「こんばんは。マリーナさん、だったわよね」

「ええ、三位のルリカさんですね。おめでとうございます。お隣の方はあの歌の方ですね」


 マリーナはユーリに目線を移すと、ユーリの歌を思い出したのかくすりと笑った。それに連動して、ツインテールのくるくる巻かれた黒髪の先が小さく跳ね踊る。


「マリーナさん、こんばんは、ユリナです。入賞したわけではないのに、厚かましくも友達のルリカの言葉に甘えてついてきちゃいました。嫌な顔をせずに、仲良くしてくれたらうれしいです」

「嫌な顔なんかするもんですか。お友達のおかげでディナーに参加できてよかったわね。こちらこそよろしく」


 つんとすましてマリーナは答えた。


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