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アクアディア聖国物語  作者: 中嶋千博
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ユーリ、中央からの指示を受ける

 風呂は三人入れば手狭になる広さだった。夜も遅いので手早く交代で入浴し、皆が再び集まったは一時間後。それぞれ、楽な服装に着替えている。

 水浴びをして、ネズミ色から元の白い羽毛になったキャットは女子たちから「かわいい」を連発され、いやがおうにも、なでなですりすりされた。


「俺は今、キャットになりたい……!」


 女子たちから心からの叫びのようにレイクが言い、ユーリは苦笑いを浮かべた。

 キャットは女子たちから被害を受けるのを嫌がり、今は電球の紐のところに逃れ、ユーリたちを見下ろしている。

 ユーリは、込み上げてきたあくびをかみ殺した。時刻は夜の一時に近い。いつもの学生生活なら、今頃はとっくの昔に夢の中の時間だ。


「指示はまだこないみたいね」


 エルダが確認すると、ソレイユは頷いた。


「ああ。みんな、休んでいていいぞ。指示が来たら大声で知らせるからよ」

「交代で見張りましょう。わたしも一つのパーティのリーダーなのよ。あなただけに責任を負わせるわけにはいかないわ」

「それならさきにエルダが休め。フルレの村でマンティコア退治をしたり、ユモレイクの森での魔物たちを退治したりしているわりにはゆっくり休めていないようじゃないか」

「お言葉に甘えてそうさせてもらうわ。三時になってら起こして」

「分かった」


 そんな会話をしているところへソレイユの持っているミラーホンが小刻みにふるえ、鈴が鳴るような音を発した。


「おお、来たぞ」


 ソレイユはつぶやくと、ミラーホンを開けた。


「ソレイユです」

「イザークだ。指示を伝える」

「はい」

「明日九時からアルデイル教会にて、ソレイユたち捜索隊のメンバーと情報交換する段取りとなった。この指示はセドリックには朝一に、アクアディア聖国の一大事のため、何事よりも優先することを伝える。

 このとき、セドリックから水の宝珠のことを聞き出してもらいたい。セドリックの反応次第では、強行にでることもいとわない。責任は中央が持つ。が、なるべく穏便に運んでくれ」

「はい」

「それから、神官セドリックの情報を伝えよう。彼がアルデイルに赴任したのは二年前。その後は神官としての任務は果たしており、特に問題を起こしたことはない。一年前に妻を病気で亡くしている」


 一年くらい前から様子がおかしくなったと、食堂で昨日出会ったギルバートが言っていたことをユーリは思い出した。

 ソレイユが質問する。


「アルデイル教会には聖職者は何人いるんですか?」

「神官はセドリックが一人に、司祭が一人。聖騎士が一人と騎士が五人だ」

「明日は、司祭や聖騎士たちにもセドリックの様子を伺ってみます」

「頼む。明日七時には彼らの居住地の場所を伝えられるだろう」

「お願いします」

「健闘を祈る」


 通話は切れた。

 ソレイユはミラーホンをしまいながら、やれやれというように頭を振った。


「責任は中央が持つといいながら、『なるべく穏便に』だとよ。信用できないよなぁ」


 言ってから言いすぎたというように顔をしかめた。ここにラナがいたら、「これだから教会のやつらは!」とののしるだろうなぁとユーリは思った。

 ルリカがのほほんと言った。


「こうしている間にもセドリックが水の宝珠の力で悪さをしてかもしれないですよねぇ」

「アクアディア聖国の一大事のため必ず出席するようにと言われたらセドリックも俺たちと会わざるを得ないだろう。明日のセドリックの様子が楽しみだ」

「今からでも屋敷にこっそりと忍び込みましょうか」


 物騒なことを言いだしたのはエイジだ。

 ソレイユは眉根をひそめた。


「セドリックの屋敷を見ただろう。警備が厳重で、忍び込む隙はなさそうだったぞ」

「私ならできると思います」

「なに?」

「もちろん、別途報酬はいただきますが」

「それでも屋敷の中に入って確認ができるなら、それはそれでいいか……」

「駄目よ」


 エルダが反対の声をあげた。


「エイジ、あなたは今、教会が形成した捜索隊のパーティに所属しているのよ」

「それがなにか?」

「教会の人間が、人選して集められたパーティなんだから、そんな違法なことをしては駄目」

「エルダは潔癖だなぁ」


 感心するように言うソレイユの近くで、人間の話し合いに飽きたキャットが、電球の紐のところから降りてきて、床で何かの紙切れをくちばしでつまんでは宙放り投げ、重力に従って落ちてきたものをまたくちばしで投げる、という遊びを繰り返していた。


「キャットは気楽でいいよね」


 レイクがうらやましそうにキャットを見た。その目にチラシの文字が飛び込んでくる。

『美少女コン』


 最後のほうの文字は紙が折れて見切れているが、レイクには続きの文字が想像できた。


「キャット、ちょっとそれ見せて」


 興味津々にキャットからチラシをとりあげるレイク。


「キュキュウ」


 キャットが不満げな声を上げた。ユーリがキャットを抱き上げ背中をなでる。

 チラシにはレイクが想像した通り「美少女コンテスト」という大きな文字と、五人の美少女がおのおのポーズをとっている絵が描かれていた。

 下のほうには小さな文字で出場条件などが書かれているが、もちろんそれは読まないで、にやにやしながら、美少女の絵を眺める。


「ほほう、これは目の保養になりますなぁ」


 エルダもチラシをのぞき込んだ。


「こんなときに不謹慎ね」


 レイクは近くにエルダの匂いを感じてドキドキした。

 と、きらりとエルダの目が光る。


「これよ!」


 突然大きな声を上げたエルダに、側にいたユーリが質問する。


「ど、どうしたの? 姉さん」


 エルダはレイクからチラシを取り上げると、みんなに見えるようにたかだかに掲げた。


「『優勝者には賞品、歳を十歳は若返らせるプレミアムアイテム桃源郷の桃を進呈! さらに副賞として、上位入賞者三名は神官の屋敷にて豪華ディナーご招待!』ですって」


 『歳を十歳は若返らせる』と言うところのエルダの声がやたらと熱が入っている。


「それがどうしたの?」

「美少女コンテストで入賞したらセドリックの屋敷に正面から入れるわ」

「そうだね」

「作戦としてはこうよ。わたしたちのうち誰かが美少女コンテストに三位以内に入賞するの。そうしたらセドリックの屋敷に招かれるでよ。内側から水の宝珠を奪還して、屋敷内に捕らわれているかもしれないラナも連れ帰ることができる」


 ソレイユが感心するように言った。


「なるほどそれは名案だ」


 ソレイユは教会の人間として外側から屋敷に入るのが難しいならば、教会の人間とはまったくむ関係の人間に化けて、内側に入る策を思いついたエルダの発想力に、ジェラシーを感じながらも感心した。

 男の身であるため美少女コンテストに参加できない自分は、観客側の視点でしかチラシを見ていなかった。しかし女性であるエルダは参加する側の視点としてもチラシを見ることができたのだ。だからそのような策を考えることができたのだ。けして自分の頭脳がエルダより劣っているわけではない。

 エルダの提案はすばらしい案のように思えるたが、すぐに大きな不安要素があることに気づいた。

 

「うちのメンバーが美少女コンテストに参加したとして三位以内に入れるかどうかは分からんぞ」


 その場にいる人間の多くがソレイユの言葉に賛同とするように頷く。


「なに言っているの。ここには美少女がひい、ふう、みい、よう、五人もいるじゃない」

「ちょっと待て。誰をもって五人なんだ。うちのルリカとミスティを入れるとして。ほかの三人は誰だ?」

「ユーリとレイク、そしてわたしよ」

「ええーっ!」


 突っ込みどころ満載なエルダの言葉に誰もが声を上げた。


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