ユーリ、キャットと再会する
ユーリたちがアルデイルの町にたどり着いたのは、もうすぐ夜の十時という時間帯だが、町の中はいたるところに明かりが灯され、まだまだにぎわいを見せていた。
城壁の出入り口の門の前には、二人の見張りの騎士が立っていた。彼らは教会から派遣されている騎士のようだ。簡易的な騎士の装備をしている。
門の前で馬から降り、馬を引きながら門に向かう。
「遅い時間までお疲れさまです」
ソレイユがほがらかに見張りの騎士に声をかけた。見張りの騎士は町に入ろうとするパーティの中に神官と司祭、そしてアクアディア学院の学生がいることを目にとめながら、笑みを返す。
「こんばんは。アルデイルの町にようこそ」
「時間が時間だから、もう門は閉まっているかもしれないと心配していたんだ。開いていてよかった」
「今週いっぱい春祭りでこの町はにぎわっているんです。お祭り好きの人たちが地方から集まってきているんですよ。だからこの時期だけは夜遅くまで開門しているのです」
「春祭りとは景気がいいね」
「こんな地方だと、祭りぐらいしか騒ぐことがないですからね」
ひょいと肩をすくめてみせる。
「俺たちは中央から来た。教会の神官か司祭に会いたいんだが」
「今からだと無理ですね。さすがに教会は閉まっていますよ」
「そうだよなぁ」
「明日には教会は開きますから、今日は適当に宿をとってゆっくり休またらいかかでしょう」
「そうするのがよさそうだ」
ソレイユの横からルリカが顔をのぞかせた。
「教会からお触れが回っていたと思いますが、状況はどうような様子か、ご存じですか?」
「あの盗人の件ですね。確かに触れは回っていますが、その後の進捗は我々下っ端にはうかがい知ることはできません。なあ、そうだよな」
門を真ん中にして反対側に待機していた仲間の騎士に同意を求める騎士。
「そうだな。いちおう、この門を通る人間で、砂色の髪をした少年という人相には目を光らせているのですが、俺たちのところには発見したという情報はまだないですね」
「そうかぁ」
「ここ、城壁が立派ですね。空から魔物が襲ってきても、ちょっとやそっとじゃ、陥落されないでしょうね。住民にとっては安心ですよね」
「そうなんですよ。どうしてこんなに城壁が立派かというとですね、ここから東にあるヨルドという間と昔、小競り合いをしていたことがあって、その名残なんです」
「そんなことがあったんですね。何時頃ですか?」
「俺もこの土地の人間に聞いた話ですけど、百年ほど前だったらしいですよ」
「どうして小競り合いをしていたんでしょう?」
「はあ、どっちの町が大きいかで争っていたようです」
「まあ、そんな理由で?」
「ルリカ、お前の歴史好きは分かるが、それらの質問をまた後にしてくれ。今はそれよりも優先するものがあるだろう?」
「あ、そうでした。すみません」
ソレイユに指摘され、ルリカはチロリと舌を出して肩をすくめた。
「町の中に入るぞ」
「アルデイルの町を楽しんでください」
番兵たちに歓迎されながらアルデイルの町の門をくぐる。
賑わっている通りを移動して、まず向かうのは教会だ。たどり着くと、見張りの騎士が言っていた通り、教会の門は閉まっていた。
「だよなぁ。そりゃあ、閉まっているよなぁ。番兵の兄ちゃんもそう言っていたし。
アウネイロスが襲ってきたということもなさそうだな」
「直接、神官か司祭の家を訪ねてみてはいかがてしょう?」
「そうだな」
さっそく、近くを歩いている人に聖職者の住処を聞くと、この近くに神官が住んでいる屋敷があるということだった。
神官の名はセドリックというそうだ。その屋敷を尋ねることにする。
たどり着くとその建物は、まるで城のようだった。
門番の兵が門の両脇にいて、三メートルはある城壁のような壁の上を、見張りのが外を警戒している影が見える。ソレイユが門番の男に話しかけた。
「俺たちは教会の者だ。神官のセドリックに会いたい」
「セドリック様はすでにお休みになれている」
「こんな時間に訪ねてきて申し訳ないが、緊急に話をしたいことがあるんだ」
「セドリック様はすでにお休みになれている。緊急な話があろうとなかろうと、通すわけにはいかない。無理やり通るというのなら、不法侵入で訴えることになるぞ」
「ここはひきましょう」
ルリカが気づかわしげにソレイユに言った。
屋敷を離れてから、ソレイユは地団駄を踏んだ。
「石あたまの門番め」
「神官の屋敷とは思えないほど、警備が厳重でしたね」
エイジが言うと、ルリカもつんけんして言う。
「そういう家って、家の人が何かやましいことをしていることが多いんですよねぇ」
「考えていても始まらない。それにしても腹が減ったな」
「キュルキュルキュルルルルル!」
どこからか変な音が聞こえてきて、
「誰だ! 変な腹の音を鳴らしたのは?」
ソレイユがあたりを見回した。
それは腹の音ではなく、キャットの鳴きだった。キャットがどこからか飛んできてユーリに抱きついてきた。ユーリは両手を広げてキャットを受け止めた。
「キャット!」
「キュルル」
ユーリの胸の中で再び鳴くキャット。何年も会っていなかった恋人に巡り合えたような喜びぶりだ。白い羽毛のキャットは数時間見ないうちに、全身汚れて、ネズミ色になっている。
「キャット、どうしてここに? ラナも一緒なの?」
キャットは身振り手振りでセドリックの屋敷を示した。
「あそこにラナがいるの?」
キャットは人がそうするように何度も頷く。
「もしかして水の宝珠も?」
ユーリの言葉を肯定するようにキュルキュル鳴きながら首を縦に振るキャット。ソレイユがユーリに質問してきた。
「ユーリ、その鳥みたいなやつはなんだ?」
「キャットといって、ラナの友達なんです」
「ラナの?」
ソレイユは眉間の皺を深くした。
「ともかくメシにしよう。腹が減ってはなんとやらだ」
ソレイユが言った。腹が減っているのはユーリも同じなので、大きく頷いた。




