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アクアディア聖国物語  作者: 中嶋千博
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ユーリ、アルデイルの町に向かう

「さて、アウネイロスが向かった場所についてだが」


 言ってソレイユは地図に目を戻す。


「ここが怪しいと見た」


 それは、この場所から見て北に位置するアルデイルという町だった。アルデイルには地方教会があることしかユーリは知らない。


「どうしてここが怪しいんですか?」

「感だ」

「はぁ……」

「というのは冗談だ。根拠はある。アウネイロスはこざかしい魔物だ。力を手にしたらまずは試したくなるはずだ。で、進む先に人間の町があったらそこで試そうと思うだろうさ」

「なるほど」


 ユーリは感心した。伊達に神官ではないらしい。


「アルデイルとの距離は馬の脚で五時間程度。ルリカ、アルデイルの情報はわかるか?」

 ルリカに問うソレイユ。ルリカはそれに答えるように大きく頷く。


「はい。アルデイルは最北端にある地区を管理している教会がある町です。管理している土地は広いですが、住民の数は少ないです。土地は中央の三十倍。人口は五分の一ほどです」


 すらすらと教科書でも読むかのようにそらんじるルリカ。


「すごいね」


 ユーリが感嘆すると、ルリカてへっと笑ってみせた。


「つい最近、勉強したのところなんですぅ」

「僕はまだ習っていないな。これから習うのかな」

「学生は習いませんよ、そんなこと」

「ええ? そうなの?」

「一般の人が知らなくていい情報ですからね。余計な情報をいろんな人が知っていると、何かとまずいことになるみたいで」

「まずい? それって教会側にとって?」

「あ、いえ、それは……」


 言葉をにごすルリカ。ちらりとソレイユに目線を向ける。ソレイユはその目線に気付かないふりをして、ルリカに質問した。


「ルリカ、このあたりにでる魔物はどんなものがいるんだ?」

「えっと、一番はワイルドウルフです。徒党を組んで襲ってきますから」


 ユーリが口を挟んだ。


「ワイルドウルフはフルレの村に向かうときにも出くわしました」


「やつらのレベルは?」

「僕はワイルドウルフと戦うのは今回が初めてだったので、ほかに比べるものがないのですが」


 前置きをしてから、


「姉さんとシグルスさんは余裕で戦えていました。シグルスさんというのは旅の傭兵です。若手の騎士のレイクとアルベルトは二人で協力してという感じでしたが、それほど苦労せずに倒せていました」

「エルダが余裕ね……。そのシグルスという人はどれくらいの腕前なんだ? 使う武器は?」

「使うのは大剣です。魔法は使いません。いろんな国でその腕を振るってきたそうです。姉さんが、もし剣だけで戦ったら、自分でも勝てないと言っていました。詳しい歳は聞いていませんが、三十代後半くらいです」

「ほう。エルダの剣より強いのか。ユモレイクの森から抜けることができたのは、そのシグルスという男の功績も大きいだろうな」

「もちろんです」


 ユーリは頷いた。

 ソレイユはルリカに目線を移した。


「ほかに気を付ける魔物はいるか?」

「今の時間からだと、ダークウルフもでてきます。ダークウルフはワイルドウルフよりも体が一回り大きくて強いです。けれど恐れるのはそれくらいです」

「キラーベアはいないよね?」


 自分が苦戦した魔物の名を上げるユーリ。


「キラーベアなんて恐ろしい魔物はこのあたりにはいませんよ」


 ソレイユが仲間に伺う。


「みな、まだ行けるか?」


 みんなは頷いた。もちろんユーリもだ。


「馬を駆れば夜の十時頃にはアルデイルにたどり着く。行くぞ」


 ソレイユは地図を折りたたんで袋にしまうと、立ち上がった。

 いまだ空中に浮かんでいる光の玉に向かって杖を一振りすると、光の玉は宙に溶けるように消える。

 ソレイユのパーティの移動手段は全員騎馬だ。馬車は最初のうちにさっさと売り払ったという。馬車は荷馬車が大きくなり、車輪を必要とするため、どうしても通る道を選ばなければならない。それに比べて騎馬は身軽だ。

 騎馬のデメリットとしては、馬車の中で休むことはできないし、雨が降ったら待機しなければならないことだ。

 そして、何より大量の荷物を持つことができない。どちらを選ぶかはパーティの考え方と、目的の内容で変わる。

 エルダとソレイユは、目的は同じだ。ただエルダは安全面を優先し、ソレイユは動きやすさを優先した。

 先頭をソレイユ。やや後方の右をミスティ。左をエイジ。最後尾にルリカという陣形で、馬を進める。ユーリはルリカの馬に便乗した。ルリカが四人の中で一番小柄で馬への負担が少ないからだ。

 ルリカが先頭と最後に光の玉を出現させてあたりを灯した。

 移動中、ソレイユは片手で馬の手綱を操り、もう片方でミラーホンを持ち、中央へ状況を報告した。

 一時間ほど駆けると、


「来たわ」


 ミスティが緊張した声で叫んだ。視力が良いミスティは、エイジから夜目が効く魔法をかけてもらっているのだ。

 ユーリは闇に目を凝らした。魔法の光りを反射して赤く光る目がちらちらと見える。


「ワイルドウルフよ。けっこうな数よ。十匹はいるわね」

「いいねえ」


 なぜかうれしそうに笑うソレイユ。その表情はシグルスのそれと似ている。

 ソレイユのパーティは皆、馬の速度は落とさない。

 馬上から弓を構えるミスティ。弓を放す瞬間、ソレイユが矢に向けて魔法を放った。


「理の神プロビディアとの契約において

 かの定義を変更す


 一つは八重とし、二重とす


 重複せよ」


 ミスティの指から放たれた一本の矢は空中で十六本に増え、五体以上のワルイドウルフを貫き、戦闘不能と化した。


「時空干渉魔法だ」


 ユーリは目の前で展開された上位魔法に目を真開いた。そこに存在する物の定義を魔法でむりやり変換させる魔法。

 今、ソレイユが使用したのは、一本しかない弓の矢を時空干渉魔法で十六本に増やしたのだった。誰にでも使える魔法ではない。

 ユーリの使用する加速や減速の魔法も、「時空干渉魔法」の一種に入るが、使用する難易度には大きな幅がある。

 魔法を使う者として、ユーリはソレイユをいままでとは違う目で見らざるをえなかった。向こう見ずなところがあるが、どこか憎めない男だと感じていたが、これほどの上位魔法が使えるのだ。さすがは神官である。


「私も行きます」


 エイジが言い、懐から先端がやじりになった太い釘状のものを取り出した。それを指の間にそれぞれ合計三本挟み、予備動作もなくそれはワイルドウルフがいるほうに投げられる。


「重複せよ」


 エイジが投げたそれにもソレイユが魔法をかけ、四十八本の凶器となってワイルドウルフを攻撃した。その場に倒れたワイルドウルフは十にくだらない。たった二回の攻撃で二十匹は戦闘不能にしたということになる。


「前から来ます。ダークウルフです」


 ミスティが叫ぶ。

 ソレイユは口早に呪文を唱え、前方に向かって杖を振るった。


「聖なる神ホーリーに願う


 闇を照らす

 清き光

 悪しき者を貫く矢となれ


 光の矢」


 浄化の光をはらんだその矢は前方から襲おうとしていたダークウルフを貫き、それでも勢いは衰えず地面を滑走し、掻き消えた。

 最初、メルレの町てそれを見たときは、なんの魔法だろうと思っただけだったが、その原理が浄化の魔法だったということにユーリは瞠目した。


「すごい……」


 思わずつぶやくユーリ。

 これで、襲ってきた魔物たちは全部、倒した。生き残った魔物たちも、追討する気力は失せたようだ。追いかけてくるものはいない。


「わたし、何もしてませーん」


 残念そうに言うのはルリカだ。


「夜道を照らしてくれている。すごく助かっているぞ」


 ソレイユが言った。


「明かりがなければこんなにスムーズにたたえないからな」


 とエイジもフォローする。


 何もしてないのは僕だ。ソレイユのパーティの実力を知ってユーリは驚いていた。

 今まではエルダのパーティが最高の組み合わせだと思っていた。そのパーティしか知らないのに、問答無用でそう思っていた。

 けれど、ソレイユのパーティも強い。自分が知らないだけで、こんなパーティがこの世にはたくさんあるのだろう。

 そしてパーティに所属する誰もがきっとユーリと同じことを思うはずだ。

 自分のパーティが最強だと。


「エイジさん、さっき投げた武器はなんというんですか?」


 ユーリが質問すると、


「クナイといいます。便利な飛び道具ですよ」


 言って微笑む。エイジの笑みは夜に慣れたユーリの目でもとらえることができた。

 途中、魔物との戦いがあったが、それでも予定通り、五時間でアルデイルの町にたどり着いた。

 城壁で囲まれたアルデイルの町を見上げながらソレイユは言った。


「さて、情報収集といくか」


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