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アクアディア聖国物語  作者: 中嶋千博
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ユーリ、アウネイロスと戦う

 上空からこちに向かって近づいてくる者がいた。コウモリのような皮膜のついた翼に大型の猫科のような胴体で、後ろ足は鷹、前足は大型猫といった姿をしている。

 ユーリの背後から近付いてきているため、ユーリは気付かない。しかし、ラナにはその姿がはっきりと見えていた。ユモレイクの森で待ち伏せしていた魔物の軍勢の中にいた二体のアウネイロスの中の一体だとラナは判断した。

 もう一体はあの男に屠られたのだろう。しかし、もう一体のアウネイロスは悪運強く逃れ、水の宝珠を奪う契機を狙い、このあたりを張っていたのだろう。

 ユモレイクの森を走る道をさかのぼるより、森の中を西に突き進んだほうが短い距離で森を抜けられることは、自分でなくても、少し頭を働かせれば考えつくことができる。

 さきほど川に落ちて騒ぎを起こしたため、音に連れられこちら側に移動し、自分たちを発見したのだ。今、あのアウネイロスは自分の知恵と幸運に心躍っていることだろう。

 アウネイロスを迎え撃つため、ラナは両手で剣を握り、気合を込めた。

 その間にユーリは呪文を唱えていた。ユーリは自分の任務を充分に承知している。水の宝珠を守ることとラナを捕らえること。そして二つの任務を同時進行で成すことが難しい場合、水の宝珠だけでも守ること。

 ラナと真っ向から対峙しても自分ではかなわない。これはどうしようもない事実だ。だったら、逃げる。加速を使ってこの場から逃げ、再び川を泳いで向こう岸にたどり着けば、泳げないラナは自分を追いかけてはこられない。川の向こう側はユモレイクの森で、いつ魔物と出くわすか心配だが、今はラナから逃れることのほうが優先だ。

 キャットの翼を使用してこちら側に来ようとしたら、キャットに減速の魔法をかけよう。そうしたら空を移動するスピードも遅くなり、その間に自分は森の奥に逃げたと見せかけて、加速の続くかぎり川に沿って逃げる。ラナは自分がエルダと合流するために森の奥に逃げたと判断し、森の奥に進むだろう。

 頃合いを見て、自分は再び川を泳いでこちら側に戻るのだ。

 ユーリが頭の中でこうした計画を立てていると、突然、ラナが剣を振り下ろした。


「……っ!」


 剣を振るうには距離がありすぎる。しかしラナが意味のないことをするはすがない。疑問に思いながらも、ただならぬ危機感を感じて、ユーリは身体を緊張させた。

 と、ユーリの頭上を、突風が突き抜けた。

 あまりに強い風にユーリは杖を顔の前に構えて、目をつぶる。


「ギャアッ!」


 それほど離れていない場所から人間でない叫び声が聞こえて、そちらに目を向けると、空中でバランスを取ろうとコウモリの皮膜ににた翼を必死にはためかせている魔物の姿が目に入った。


「うわっ!」


 自分よりも大きな身体に、普通ではない体躯をした魔物の姿を目にしてユーリは思わず悲鳴を上げた。

 悲鳴をあげながら、ユーリもラナと同様に理解する。この魔物はユモレイクの森の中で待ち構えていた魔物の軍勢の中にいた二体のアウネイロスのうちの一体だと。

 そして、ラナが放った技も理解する。ラナは、シグルスの奥義「風斬」を模倣したのだ。

 ユーリはラナの技の直撃を受けていないから突風ですんだが、まともに食らっていれば体が真っ二つになっていたかもしれない。

 アウネイロスは不意にやってきた目に見えない攻撃を空を操る者の直観でかろうじて避けたが、空中でバランスをくずしくるくると踊るようにしながら、高度を上げ、ようやくバランスを整えた。

 再び二人の人間を見下ろす。

 ユーリは自分に加速をかけていた。ここは逃げるにかぎる。ラナからも魔物からも。


「逃がさない!」


 ラナが追ってくる。足の速さにさほど自信のないユーリだが、加速で速度が上がっているため、ラナもなかなか追いつかない。

 キャットがラナより先に追いついてきて、ユーリの目の前をぱたぱたと飛ぶ。ユーリはそんなキャットを振り払うように手を何度も払った。


「キャット、ごめん。それでも僕は……」

「キュキュウ!」


 キャットもラナのために一生懸命だ。今度はユーリの頭をつついてきた。


「い、いたい。本当に痛いよ。つつくのは止めて!」


 そんなユーリを上空からアウネイロスが襲ってきた。急いでキャットが離れる。

 アウネイロスの爪には体を麻痺させる毒がある。獲物を麻痺させて、動けなくなってから、ゆっくりと味わいながら食べるのを好むという。麻痺して痛みを感じないのに、自分の身体が食われていくところを見ることしかできない状況というものは、考えるだけでぞっとする。アウネイロスの爪がユーリを狙う。


「させない!」


 再びラナが走りながら、「風斬」を繰り出す。アウネイロスは飛んでくる見えない剣技を避けるため、いったんユーリの元から離れた。ラナの風斬はあらぬ上空に飛んでいった。

 アウネイロスは標的をユーリからラナ移した。自分を攻撃していくる人間を先に倒そうと考えたのだ。

 自分に向かってきたアウネイロスに対抗するため、ラナは立ち止まり、自分の身体などひょいとつかむことができるほどの大きさがある魔物に向かって剣を構えた。

 アウネイロスはすぐに襲ってはこなかった。いったん上空に待機し、ラナの様子を伺う。地上にいるラナはアウネイロスが近くにこなければ攻撃を与えることができない。ラナは剣先をアウネイロスに向けたまま、相手の攻撃に備えた。

 アウネイロスが急降下する。前足でラナの剣を払い、鷹のような大きな爪をラナの身体に立てようとする。その時には、ラナは剣を払われた反動を利用してその場から円を描くようにアウネイロスの右横に移動し、剣技を右肩に当てようとする。そこにコウモリのような翼がラナの全身を打ちすえた。体を襲った痛みで、剣を手放しそうになるのをこらえ、地面を転がるようにしてその場から離れて間合いを取る。

 そのときには、すでに愛ロスネスは上空に移動していた。


「ラナ!」


 ラナから逃げているのに、ラナのことが心配になり、思わずその場に立ち止まるユーリ。キャットはすでにラナの近くに移動していた。


 逃げるなら今がチャンスだ。ラナは強い。ファングレオを簡単に倒すことができるし、上位魔物のサンダーマンティコアとも健闘していた。

 ラナは強いからきっと勝つはずだ。

 そう思うのに、ユーリはその場から逃げ去ることができない。

 もし、ラナがやられることになったら自分はきっと後悔する。ラナを見捨てて自分だけ助かったという行為を後悔する。

 それにもしラナがやられたら、次に襲われるのは自分だ。自分は単独ではアウネイロスには勝てない。

 ラナのためというよりも自分のために、ユーリはラナのところに戻る。そう自分自身に言い聞かせる。

 アウネイロスは翼があるため、空中を味方につけることができるが、なんといってもアウネイロスの最大の武器は麻痺の毒をもっている爪だ。

 ラナはアウネイロスの爪の攻撃をあるいは避け、あるいは受け流しながら、戦っていた。そのうち、剣の隙間をぬって、アウネイロスの爪が右肩をかすった。最初はなんとも思わなかったのに、そのうち右腕の感覚がなくなり、力が入らなくなってきた。

 目の前にアウネイロスの攻撃が迫る。それをバックステップで避けようとして、


「っえ?」


 ラナはその場に後ろから尻もちをつくように倒れた。体が自由に動かない。


「減速せよ」


 ユーリの魔法が飛んできた。それはアウネイロスにかかり、アウネイロスの動きが遅くなった。それでも体の動かないラナにアウネイロスの攻撃がやってくるのは時間の問題だ。キャットがアウネイロスの頭に体当たりして、アウネイロスの攻撃の軌道を変えた。


「ギルルル」


 ラナのすぐ近くの地面を鋭い爪でえぐりながら着地する。


「ラナ、口を開いて」


 え? 何? 目だけで訴える。


「解毒剤だよ。僕が使えるのは治癒魔法だけなんだ。麻痺や毒を浄化することはできない。だから」


 ラナは頷くと、口元に当てられた木の筒から液体を飲み込んだ。体の中がぽうっと温かくなっていく。その間に、アウネイロスは体制を取り戻していた。

 対峙するユーリとキャット。その後ろに倒れこんだラナがいる。そのラナが起き上がった。


「ギギ……!」


 アウネイロスは喉の奥でうなった。自分の毒に当てられた人間が、こんなに早く復活するとは思わなかったのだ。

 そんなアウネイロスに遠くから弓矢が飛んできた。粗末なもので、アウネイロス自慢の翼に穴をあける威力はない。

 矢が飛んできたほうに目線を移すと、数人の人間たちがこちらに向かってやってきた。

 ユモレイクの森にいた人間たちほどではないだろうが、万が一ということもある。アウネイロスはいったん引くことにした。

 翼を広げ、その場からアウネイロスは立ち去った。


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