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アクアディア聖国物語  作者: 中嶋千博
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ユーリ、マンティコアとの死闘に加わる

「……姉さん、どうしてここに?」

「話は後よ」


 エルダがユーリを介抱している間に、シグルス、レイク、アルベルトがラナに加勢する。


「おまえさん、いくらなんでも一人であれを倒すのは無謀と言うものだぜ」


 ラナの横についたシグルスが言った。


「無謀じゃないわ。勝算はあるもの」


 目の前にいるマンティコアを見据えたまま言うラナ。電撃に身体はかなりやられているはずなのに、しっかりとした口調だ。

 シグルスは思わずラナを見つめた。実力はあるとはいえ、すでにぼろぼろで苦戦しているように見えるにも拘わらず、確信のこもったラナの口調に、疑念を抱いたのだ。

 これはじょうちゃん、何か奥の手をもっているのかもしれねえな、シグルスは心の奥でつぶやいた。

 そこにレイクの声があがる。


「俺の魔法で一気に凍りつかせてやる」


 レイクが魔法を唱え始めた。呪文を唱えている間にレイクに襲い掛かる尾を、アルベルトが叩き斬る。


 レイクの呪文が完成したのを見計らってアルベルトは離れた。


「氷の神アイスレイナに願う


 それは巨大な柱

 己が中に取り込み

 動きを封じるもの


 我は創造する

 氷柱」


 マンティコアの体をすっぽりと取り込むように氷の柱が出現した。


「やったか」


 次の瞬間、内側から電撃によって氷の柱は破壊された。


「なんだって? 俺の最高魔法なのに!」


 思わずシグルスが突っ込む。


「この前、ポイズンケロンと戦ったときに出した氷の礫のときも同じようなことをいっていなかったか?」


 レイクが真面目な顔で叫んだ。


「あれよりも今のほうが最高魔法なんです!」


「ギャオーン!」


 マンティコアは再び空に向かって咆哮した。

 再び幾筋もの電撃が空から飛来する。ラナは大きく横飛びして避け、シグルスは「風斬り」で、自分に落ちる前に、雷を切断した。

 アルベルトは槍を振り回して壁をつくり、雷の襲撃を飛散させた。

 エルダはまだ回復しきっていないユーリを守りながら炎をまとわせた剣で電撃をはじく。

 とエルダが対峙している電撃とは逆の方向から電撃がエルダを落ちてきた。エルダの背中側だ。正面の電撃と対峙しているエルダには背後まで手が回らない。


「エルダさん、あぶない!」


 レイクが飛び出した。身体全体に電撃を受け、レイクはその場に倒れた。


「レイク! なんてこということを」


 エルダは自分の攻撃をはじくとすぐさま、我が身を犠牲にして自分を守ってくれたレイクを心配げな目線を向け、すぐさまレイクに駆けつけようとするが、今度は雷の鞭の攻撃がやってきて、その攻撃を倒れたレイクと、攻撃力の少ないユーリから守るので精一杯になる。だからこそ、エルダはユーリに言うのだ。


「ユーリ、レイクを診て。心臓が止まっているかもしれない」

「……うん」


 ユーリは気弱に頷いた。自分の魔力がそろそろ限界であることを感じていた。

 数時間前に、魔力が枯渇しかけ、上位の月見草と、しばしの休息、そしておいしい食事のおかげで、保有する魔力の半分は回復したと感覚的にはわかるが、それでも半分しか回復できていない。

 そして、この戦いで、加速魔法や治癒魔法を立て続けに使用している。

 レイクの状態が、今の自分の魔力量で治癒できなかったら、と悪い予想が頭の中で頭をもたげる。

 レイクの元に向かうと、レイクは気を失っていて、顔色は青白くなっていて死人のようだ。そんなレイクの様子を見てしまったら、ユーリはレイクを回復できないなどと弱音は吐けない気持ちになった。

 ユーリは意を決して、ユーリはレイクに魔法杖を向けた。


「癒しの神キュアレスの加護を


 傷ついた者を

 汝の慈悲なる力をもって

 癒したまえ


 治癒せよ」


 杖の先から薄緑色の光が出現し、レイクの身体全体を包みこむ。しかし、それだけだった。ユーリは通常の治癒魔法では効かない状態にレイクは陥っているのだと悟る。

 レイクの首筋に指を添えてみた。心臓が動いている様子がない。改めてレイクの青白い顔を確認する。息をしている様子もない。

 止まった心臓を再び動かさなければならない。それができる魔法をユーリは知っている。学校の魔法の授業で学んでいるからだ。

 しかし、ユーリは今までその魔法は使ったことがない。心臓が止まった相手を目の当たりにすることなど今までなかったからだ。

 そしてその魔法を使用する魔力量は、通常の治癒魔法よりも大幅に魔力量が必要だということも知識としては知っていた。

 ユーリは手早く腰に下げた革袋から月見薬の丸薬が入った瓶を取り出し、二つとも飲み込んだ。これは捜索隊として加わったとき支給されたものだった。

 自分の魔力が回復する間に、レイクの口をこじ開け、回復薬の丸薬を二つ飲み込ませ、別の革袋の水筒の水を注ぎこみ、無理やり飲みこませる。

 レイクはその間、ずっと意識を失いっぱなしでされるがままだった。

 ただの気休めになるかもしれない。それでも、少しでも希望があるならば、今持っている道具と能力を駆使して、レイクを回復させたい。

 ユーリは自分の中の魔力がさきほどよりも少しだけ回復していることを確認し、母親の形見の緑の石ごと、父親の魔法杖を握り締めた。


「癒しの神キュアレスの加護を


 汝の慈悲なる力をもって

 心の臓を打て

 高鳴れ鼓動


 治癒せよ」


 トクン、と止まっていたレイクの心臓が動き出す。

 ユーリはほっとした。これでレイクは大丈夫だ。

 通常の治癒魔法の上位魔法。癒しの神キュアレスの力のほかに、対象者本人の持っている体力を使用して治療する。

 本人の体力が消耗していれば成功するのは難しいが、レイクの場合は強い雷攻撃をうけて心臓が麻痺してとまっているだけだろう。体力自体はまだありそうだったため、ユーリはこの魔法を使用した。

 と、ユーリの目の前が暗くなり、平衡感覚を失ってその場に崩れ落ちる。

 二つの月見草の丸薬でもって魔力は少しは回復したが、今の魔法を使い、再び少なくってしまったのだ。

 周りに目を向ければ、ラナ達が戦っている。

 ユーリのすぐ近くで、アルベルトがしぼりだすように言った。

 ユーリがレイクの治療をしている間にアルベルトは戦闘不能になったようだ。かろうじて槍を握ってはいるものの、体力が限界に近そうだ。

 アルベルトの傍らに革袋が転がり、スタミナドリンクの空き瓶と、回復薬の丸薬が入っていた瓶が転がっている。

 起き上がる力もないのだろう。その場にうつぶせになってエルダ達の戦いぶりを見つめている。


「くやしいな……」


 ユーリも同じ気持ちだ。声にはださず、頷くことで同意の意を示す。

 アルベルトは誰にきかせるでもなくつぶやいた。


「強くなりたい――」

「僕もだよ……」


 これ以上魔力は使用できない状況で、仲間たちが敵と戦っている。

 それなのに、自分は彼らが戦うのをただ、とみているしかできない。

 ユーリは自分の未熟さに歯がゆさを感じた。


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