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アクアディア聖国物語  作者: 中嶋千博
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ラナ、魔王と戦う

 魔王がラナに躍りかかる。左腕も剣に変化させ、双剣だ。


「神々は我を倒すべく赤毛の勇者を派遣したが、勇者も万全ではない。現に五百年前、勇者は我を倒すことができず、封印するにとどまった。

 今回は確実に殺す」


 言うと、魔王は背中から二本の腕を新たに出現させた。その腕も剣となっている。


 まずい。ラナは焦りを感じた。防御するにも四本の剣をすべて防御するのは至難の業だ。

 二人の前に突如光が生じた。魔王が光に目をつぶったその隙に、キャットがラナを魔王のもとから遠ざけた。


 キャットの翼をその背にいだいたラナはキャットに礼を言った。


「キャット、ありがとう」

「キュルル!」


 キャットは二対の翼を地面に立つ魔王に向けた。翼からさきほどと同じ光が出現し、魔王を照らす。


 魔王の周りにあったバリアが霧散した。


 イッサが嬉しそうに言った。


「これで俺たちも戦えるぞ」


 一気に、魔王めがけて、イッサが、イカロスが、ブレイカーが攻撃を仕掛ける。

 魔王は四本の剣で対抗する。


 闇の帳は一本ずつ、確実にアルカが魔法で消していく。


「魔王!」


 ラナが上空から剣を振り降ろした。それを四本の腕で受け止める。魔王の足元の地面が衝撃で円形にくぼむ。


「今だ」


 イッサとイカロス、ブレイカーが魔王の胴体をねらって襲いかかる。


「させるか」


 魔王を中心に爆発が起き、ラナたちは吹き飛ばされた。

 魔王が再び闇の帳を出現させるために、呪文を唱え始めた。



「有は無を

 無は有を生む

 形有るものは形無き者に

 形無きものは形有るものに」


「させない!」


 ルリカが光の矢を放った。それは魔王にとっては微々たる攻撃だったが、詠唱を中断させるのには役立った。

 魔王の背後からスバルが剣を一閃させた。しかし、それは先に気配を感じた魔王が一本の剣で防いだ。


「死角から襲ってくるとは」

「卑怯でもなんでも、あんたを倒せればそれでいい」


 立て続けに打ち込んでくるスバルの攻撃を余裕気に受け流しながら、魔王は言う。


「その力は人間ごときが自身で持ち合わせるものではないな」

「俺も一国を守る力があるくらいには神の加護を受けているもんでね」

「その髪の色、ジャスティスとは違う神だな」

「ステルスタイトだ」

「ほう。一国を守る神の加護を受けた人間がなぜここにいる?」

「まあ、成り行きでね」

「ふん。成り行きか。神々も自分の願望を満たすために、どれほどの人間の人生を狂わせるものだか。我も同じようなものだがな」

「何意味不明なことを言っている?」

「答える義理はないな」


 ルリカの治癒魔法で回復したラナが加わった。


「スバル、参戦するわ」


 他の者たちも、ブリジットの治癒魔法を受けている。


「治癒させても治癒させても、すぐまた致命傷を負うんだからたまったもんじゃないね。もっとしっかり戦いなさいな」


 治癒しながら、小言を言うブリジットに、治癒魔法を受けているイッサは情けない表情を浮かべる。


「治癒してもらっててなんだが、これでも俺、しっかり戦っているつもりなんですけどね」

「相手が悪すぎるかね」

「そうなんです。でも二回も殺されるわけにはいかない。ブリジット様、治癒してくれてありがとうございます。

 おかげでまた戦える」


 イッサは起き上がった。


「あんたが戦う前にそろそろフィニッシュだろうさ」


 ブリジットは目線を移した。そこには戦うラナと魔王の姿があった。


「あたしはあんたを嫌いになれない。あんたにはあんたの信念があると分かったから」

「ほう?」

「けれどあたしはあんたを倒さなければならない。あたしが勇者だからだけじゃない。あんたは人間を殺しすぎた。あたしは人間の一人として、敵を討たなきゃいけない」

「我は願望のままに行動するのみ」


 魔王の目が光った。スバルが背後から剣を振り上げる。


「させるか」


 気配で気づいた魔王が振り向きもせず、四本のうちの一本の剣をスバルに向けた。



 次の瞬間、スバルは吹き飛ばされる。どこに攻撃を食らったのか、まったく分からない。


「スバル君」


 アルカがすぐさま駆けつける。


「スバル、スバル、スバル」


 精霊の姿のグレイがスバルに抱きついた。


「俺、どうなっている?」

「地面を何度も転がったから擦り傷とかたくさんある。あとは見た目は大丈夫そう。骨が折れているのかも」

「はは。そうか。あれ、グレイ、魔力がだいぶ減ってないか?」

「へええ。ちょっと無理しちゃったからね」


 スバルは上半身を起こした。確かに大きなダメージは受けていないようだ。魔王の攻撃をまともに受けたのにも関わらずだ。

 その理由はグレイの様子で理解した。


「おまえ、あの時、鋼鉄の壁で俺を守ったのか」


 グレイはスバルの両手の中で、笑った。答える力ももうないのだ。


「ありがとう。しばらく俺の中で休んでいろ」


 グレイはこくりと頷くと、その姿を指輪に変えて、スバルの親指に収まった。いつも腕輪に変化するのに、それよりも小さな指輪に変化したことが、グレイの疲労ぶりを表している。


 その間にも、ラナは魔王と交戦を続けていた。


 そして世界の命運を別ける時は訪れる。


 ラナの勇者の剣が魔王の胸を突き刺した。魔王の四本の腕が再び二本になり、剣となっていた腕は普通の腕となった。


「勇者よ、なぜ泣いている?」

「あなたの憎しみが分かるから。こうなるのはあなたでなくてもよかったのに」

「さだめだ。それに、我がこの世から消えても第二の我、第三の我が現れる」

「そのたびにあたしのような人間も現れるのね」


 二人の言葉がはもる。


『それが世界を動かす糧になるから』


 魔王アミュラスは静かに倒れた。

 強大な魔力が拡散し、それに伴い、魔王の亡骸が風化するように崩れていく。

 それに並行するように、ラナの赤い髪の色が、根本から本来の色になっていった。

 それは代々引き継がれてきた勇者としての役割を終えることを意味していた。


 イッサがラナの肩に手を置いた。


「ラナ、やったな」

「ええ」


 ブレイカーが言う。


「勝利の声をあげて、人間の勝利を知らしめせ」

「それは将軍の役目でしょう?」

「勇者の役目だ」


 ラナは頷いた。

 大きく息を吸い込み、大声で叫ぶ。


「魔王を討ち取った。あたしたちは勝ったのよ!」


 ラナの言葉は、拡声器で各陣に告げられた。

 次の瞬間、勝鬨の声が鳴り響いた。


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