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アクアディア聖国物語  作者: 中嶋千博
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ユーリ、アレットの村の宿でシグルスにアドバイスを乞う

 部屋割りはエルダが一人部屋で、二人部屋はユーリとシグルス。レイクとアルベルトで使うことになった。

 荷物を部屋に預けて宿屋の一階にある食事処に集まり、夕食となる。

 食事がくるのを待っている間に、エルダがシグルスに話しかけた。


「シグルス、今日はゆっくり休んでね。ポイズンケロンでの戦いでは、シグルスが一番のお手柄だったのだから、その分疲れているでしょう」

「俺は問題ない。物足りないくらいだぜ」

「そう言ってもらえると心強いわ。私たちは本格的な戦闘には慣れていないから」

「ちがいねぇ」

「やっぱりそう思う?」

「ああ、いろいろと甘い」


 ユーリ以外の一同が、身体を硬直させてシグルスに目線を向けた。それぞれ思い当たることがあるのだ。

 ユーリはそもそも戦というものを知らないため、エルダ達の様子にきょとんとする。


「……そうね。私もそのことは反省している」


 エルダが気落ちした感情を隠そうともせずに言った。


「今回はどんなところが甘かったかしら? 参考までに聞かせてちょうだい」

「俺は傭兵としてどこかの国に雇われても、隊長を務めることはない。たいがいは部隊の中の兵隊その一というポジションにいる。そんな俺が聖騎士様に説教なんざお門違いだろ?」

「それでも何度も戦に加わっていれば、見えてくるものがあるんじゃないかしら。どんな些細なことでもいいの。話して欲しいわ」

「そうだなぁ。そこまで言われれば言わせてもらおう。

 まず、相手の力量を分からないうちに、真っ先に出しゃばった奴がいたな」


 レイクがすまなそうに肩をすくめる。


「すみません」

「魔物を目の前にして、動けなくなった奴もいたな」


 ユーリは素直に頭を下げた。


「ごめんなさい。驚いてしまって」


 エルダがユーリをかばう。


「ユーリは普通の学生よ。魔物と出くわしたのだって今回が初めてなのだからしょうがないわ」

「ああ、しょうがないだろう。けれどしょうがないで済まないのが現実だ。だが今度また魔物に出くわした時には、今回と同じ反応にならないようにしろよ」

「はい」


 しょぼんとしたままユーリは頷いた。


「エルダの指示自体は的確だったと思うぜ。自分と俺を前面に出させて戦わせ、若者たちは後方へ下がらせた。それでも若者たちに向かった魔物がいたがな」

「レイクもアルベルトも、そしてユーリも頑張ってくれたわね」

「確かに頑張っただろう。だが倒せなかったから意味はない」


 アルベルトが眉根を吊り上げた。


「苦戦したのは、俺たちが武器を使って戦うことができなかったからです。武器が使用でかれば、俺たちだけでも倒せたかもしれません」

「かもしれない、だろう。実際のおまえは槍が使えないから素手で戦った。その意気込みは分かる。しかし、もしもあの毒が致死性のあるものだったら、今のおまえさんはここにいないぜ」


 アルベルトは口をつぐんだ。心なしか顔色が青くなっているのは、今更ながらに、シグルスの言葉が現実としてありえることを理解したからだ。それでもアルベルトは思うのだ。


「仲間が戦っているのに自分だけ戦わないなんてことはしたくありません」

「それなら、槍が駄目になろうと戦うべきだ」

「それが……」


 アルベルトは途端に申し訳なそうな表情を浮かべて頭をかいた。


「俺が使っている槍には愛着があって。酸でダメにしたくなかったんです。こういう考えもシグルスさんに言わせると甘いということなんですよね」

「ああ、甘い。が、自分の武器を大切にする気持ちは分かる。だから武器として剣を使う俺にも強くいえねぇ」


 にやりと笑うシグルス。


「石を投石して攻撃としたのは良い判断だったぜ」

「ありがとうございます」

「自分の実力を知るには良い機会だっただろう。悔しかったら強くなることだ。そして、再びこういう事態になったときどう対処するかを考えろ」


 レイクとアルベルトは神妙に頷いた。ユーリは唇を真一文字に結んでただうつむいた。

 アルベルトが口を開いた。


「やはり魔法の鍛錬もするべきですよね?」

「どうしてそう思う?」

「武器が使用できず、思うように戦えなかった自分が悔しいからです。レイクは氷の魔法でポイズンケロンと対抗していました。正直、うらやましかったよ」


 最後の言葉は、レイクにかけられる。レイクは目を丸くした。


「ええ? 普段は槍を木の棒みたいに振り回しながら、敵をやっつけるアルベルトのほうこそうらやましいと思っているのに、今回は逆になったんだね」

「攻撃系の魔法を覚えるのも一つの手だろう。だがな、今から魔力を高めるのは至難の業だぞ」

「はい……」

「今持っている特技を生かす方法もある。体術を好む武道家がよくやっているのは、防御を固めることだな。毒を防ぐ魔法防具や関電を防ぐ魔法防具を装備する。戦闘力を上げるために、肉体強化の魔法道具を使うやつも多い」

「なるほど、魔法防具で対抗するんですね。熟考します」


 アルベルトは思案気に頷いた。その表情はさきほどと比べて明るいのは、自分の戦い方について、見えてきたものがあるからだ。


 レイクがシグルスにせがむように言った。


「ねえねえシグルスさん、俺は俺は?」

「おまえさんは、そうだなぁ……そういうところだ」

「そういうところってどういうところですか?」

「周りの状況を考えずに、自分の思いだけで突き進むところがある。今回も、エルダの指示を待たずに突き進んで剣を一つ駄目にしただろう」


 レイクは罰の悪そうな顔をした。


「そうでした」

「けれどまあ、思いのまま突き進むことができるのは今のうちだけだから、どしどし突き進んでもてもいいかもしれねぇ。若さの特権だからな」

「ですよね?」

「調子に乗るな」


 シグルスはポカリとレイクの頭を軽く叩いた。


「い、痛いです、シグルスさん」

「強く叩いてねぇぜ」

「だからって叩くことないじゃないですか?」

「叩こうと思ったときに、叩きやすいところに金髪の頭があったから、しようがないだろう?」

「ひどい……」


 ユーリは自分にも声をかけてもらえると思って、期待のこもった目でシグルスを見つめた。しかし、シグルスはそんなユーリの気持ちを知ってか知らずかユーリに目線を向けない。

 自分から聞かなければシグルスは教えてくれないかもしれない。

 機会を逃がしたくない。自分の倍以上も生きているシグルスなら、自分が心の中に抱える今の現状のやりきれなさを消化できるアドバイスをしてくれるかもしれないのだ。

 ユーリはシグルスに向かって口を開いた。


「あ、あの……」

「なんだ、学生?」

「僕にも何かアドバイスをもらえますか?」

「すげえ悩んでいる表情をしているな。その悩みは俺の一言で解消できるものかもしれねぇ」

「それならぜひ教えてください」

「嫌だね。俺の言葉で納得したとしても、それはただ納得したつもりになるだけかもしれない。本質的に悩んでいることは実は違うことだったかもしれない。そのことに気づかずにずっと生きることになるかもしれない。

 そんな大役はごめんだ。それにな」


 シグルスはにやりと意地悪な笑みを浮かべた。


「いろいろ悩むのも若者の特権てやつさ」

「そんなぁ」


 情けない表情を浮かべるユーリに再びシグルスは笑みを浮かべると、今度はみんなを見回した。


「ここにいる全員にな言えることは、自分の実力を把握しその時その時に、自分がどう動けばいいのか判断できるようになればいいということだ。もちろんリーダーの指示に従うのは前提としてな。しかしリーダーも時には間違えることがある。それも念頭に入れておくことだな」


 シグルスの言葉を補う様にエルダが口を開く。


「シグルスは私たちの中の誰よりも経験を積んでいて、腕も立つわ。これからもいろいろと勉強させてちょうだいね」

「おいおい、俺をもちあわげても何もでないぞ」


 おちゃらけたように言うシグルスに、エルダが言葉を重ねる。


「そのつもりはないわ。本当のことを言っているのよ」


 エルダの言葉に肩をすくめてみせるシグルス。


「みんなもシグルスから盗めるとこは盗むように。こんなベテランの人と一緒に活動するのは良い経験になるわよ」

「はい」

「はい」

「わかったよ」


 レイクとアルベルトは返事をすると、二人同時に椅子から立ち上がって背筋を伸ばした。ユーリも慌てて二人に倣って立ち上がる。


「シグルスさん、改めてよろしくお願いします」

「ご指導、よろしくお願いします」

「……よろしくお願いします」


 三人そろってシグルスに頭をさげる。


「やれやれ」


 シグルスはやっかいごとを押し付けられたというように、あからさまにため息をついた。


「座ってくれ。俺が居心地悪い」

「はい」

「それではお言葉に甘えて」

「……」


 三人は着席した。


「いきなり態度を変えるなんてことはするなよ」


 三人はなんと答えればいいのか、複雑な表情を浮かべる。

 そこに料理が運ばれてきた。


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