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アクアディア聖国物語  作者: 中嶋千博
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ユーリ、ユモレイクの森の話を聞く

「ポイズンケロンってレベル高いの?」


 ユーリは他の魔物と戦ったことがないので比較対象がない。だからポイズンケロンがどれくらいのレベルの魔物なのか分からないのだ。


「一般人が簡単に倒せる相手ではないわね」

「そう、だよね」


 エルダの言い回しがよく分からないながらも相槌を打つユーリ。

 シグルスが口を挟む。


「魔物の中では、中の上というところだろう。この国には、あんなものが人里からたいして離れていない場所にごろごろいる、というわけじゃないよな?」

「もちろんよ。ユモレイクの森ならともかくね」

「ユモなんとかの森? なんだ、そりゃあ?」

「ユモレイクの森。ここから……そうねぇ、北に馬車だと半日も経たないところにあるわ。そこには多くの魔物達が住み着いているのよ」

「へえ。聖地と呼ばれるこの国にもそんな場所があるのか」

「百パーセント、ピュアな国なんてありえないわよ。人が生きているかぎり、汚いことも、苦しいこともある。それはわたしよりもシグルスのほうがよく知っていると思うけれど?」


 ひょいと肩をすくめて、シグルスに笑顔を向けるエルダ。


「ちがいねぇ」


 シグルスはエルダの言葉を、同じく笑顔で受ける。


 ユーリは先ほどの魔物を思い出し、今更ながらにぞわりと肌が泡だった。

 牛ほどの大きさで躊躇せずに人間に襲い掛かってきた。

 もし一人であのような生き物と出くわしていたら、自分は十秒も経たずにやられていただろう。


 それに、目の前で火だるまになったポイズンケロンの様子はあまりにも、おぞましく今日の夜あたり夢にでそうだ。


 級友のラクロスは将来探検家になりたいと嬉しそうに話していた。ユーリはラクロスに言いたい。「探検家」はやめておいたほうがいい。あんなのと毎回戦わなければならないのだ。


 そこまで考えてユーリはラクロスが去年の夏頃、キャンプに行ってそこで魔物と戦った、というようなことを喜々として話してしていたことを思い出した。

 つまり、ラクロスはすでに魔物と戦ったことがあるのだ。

 そのときユーリはマンガのことを考えていて適当にあいづちを打っていただけだったが、もっと詳しく聞いておくべきだった。


 それに、とさらに思い出す。フィリアもだいぶ前だが、別荘に行って魔物と出くわしたという話をしていた。そのときは、フィリアの父親が退治してくれたそうだ。フィリアも浄化の魔法を使って手助けをしたという。


 さいわいユーリはいままで魔物と出くわしたことはなかったが、それは遠出をしたことがないからということが大きな理由だ。

 一歩でも町の外に出れば、いつ魔物に出くわすか分からない。

 それがこの世界なのだ。

 中央から一日しか離れていない場所に、中の上レベルの魔物が出現するくらい、この世は危険に満ちている。


 とんでもないところに来たものだ、とユーリは改めて思った。

 早く、安全な我が家に帰ってマンガ三昧の日々を送りたい。ユーリは切に思った。


 昼休みを挟んで、次の御者はレイクとユーリがやることになった。エルダがみんなには交代で馬車を御してもらいたいから、ユーリも覚えておくように、と指示したのだ。


「御者台に乗るは初めてだよ」


 不安そうに言うユーリに、エルダからユーリに馬車の御し方を教えるように命じられたレイクも不安そうな表情を浮かべる。


「大丈夫かなぁ」


 最初こそユーリは手綱を握るのも馬を操るのもぎこちなかったが、レイクのアドバイスで次第に馬車を操られるようになってきた。

 慣れてくると、他のことにも気を向ける余裕が出てくる。御者台から見る景色は普段見る景色よりも視野が高くて、風が直接肌をなでていく感じは気持ちがいい。


「ここ、けっこう楽しいね」

「だよね。俺、御者役って結構好きなんだ」

「分かるよ。あっ、そういえば、馬車の揺れがひどいから、クッションを立ち寄った町で買おうと思っていたのに忘れてた」

「ははは。慣れだよね」


 その日は、立ち寄ったアレットという村に泊まることになった。魔物の酸で使い物にならなくなったシグルスの斧とレイクの剣を調達するため、村に一つしかないよろず屋に行くことになった。

 資金は任務中に起きたことだということで、エルダが教会からの支度金から出してくれた。


 エルダが会計している間、シグルスは悔しそうに顔をしかめた。


「なんだ、教会が払ってくれるなら、もっと値が張るものを選べばよかったな」

「そう言うと思って、会計が済むまで黙っていたのよ。二人とも武器を手に取って」

「あいよ」

「エルダさん、ありがとうございます」


 ユーリはシグルスに聞いた。


「その斧、投石用に使うんですね」

「遠くの敵をてっとりばやく倒すのに重宝するんだ。もちろん剣が駄目になったときの予備にもなる」


 シグルスはなんともなさそうに言うが、今まで傭兵をしてきたシグルスの知恵なのだろうとユーリは理解する。

 宿屋では、二人部屋を二部屋と、一人部屋を借りることになった。

 エルダが部屋割りについて言うよりも先に口を開いたのはシグルスだった。


「エルダが一人部屋を使え。ヤローと同じ部屋より気が楽だろう?」

「いいの?」

「もちろんですよ」

「はい」


 レイクが言い、アルベルトも頷いた。


「それじゃあ、お言葉に甘えてそうさせてもらうわね」


 エルダはにこりと微笑んだ。


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