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アクアディア聖国物語  作者: 中嶋千博
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ユーリ、ミラーホンを使用する姉を見ていたらシグルスに勘違いをされる

 エルダは懐から小さな箱を取り出した。女性の美容必須アイテム、白粉のケース、のようなもの。

 手のひらサイズで平たい円形状の形をしている。それをぱかっと開くと、上の部分には鏡がはめ込まれ、エルダの顔を映す。

 遠距離にいる人間と通話ができるミラーホンだ。


 ユーリは礼拝堂で水の宝珠が盗まれて隔離されたときに、ミラーホンを使おうとして、神官に注意されていた女性のことを思い出した。


 鏡がはめ込められた面と向かい合わせになったパネルに、はめ込まれた一つ一つの魔法石。それぞれが個々の通信相手とつながるようになっている。


 魔法石はミラーホン専用に、魔法石製造専門技術者が作ったもので、ペアになっている。一つづつ、通信したい同士のミラーホンに装着して使用するのだ。


 受信側のミラーホンは通信がくると小刻みに震える。そして持ち主がミラーホンを開くと会話ができる仕組みになっている。

 会話ができない場合には、ミラーホンを開けなければいいのだ。後でミラーホンを開くと、送信側の石がほのかに点滅していていて着信があったことが分かるようになっている。そして、その魔法石を軽く押すと相手側に通信が飛ぶ。


 エルダがもっているミラーホンは、下の部分は、横三列、縦三列で合計九個のくぼみがあり、そのうち、上段三つのくぼみに石がはめ込まれている。

 エルダはその石のうち、一番左の石を軽く指で押した。


 鏡に映っていた自分の姿が消え、白いもやのようなものが鏡面に映し出される。そのもやは、呼吸するようにその明るさを明暗させた。五秒ほどでもやが晴れ、そこに神官の服装をした壮年の男の姿が映し出された。


「北西の方角に向かっているエルダです」


 エルダが鏡に向かって言うと、男も返事を返した。


「捜索本部のイザークだ。何かあったか?」

「はい。捜索とは別件ですが、気になる事象を発見したので報告します」


 ユーリはミラーホンで遠隔会話をするエルダの姿を見つめながら、マンガの世界のスマートホンみたいだよなぁ、と思う。

 スマートホンはユーリが愛読するマンガの科学世界での通信道具の名前だ。

 機能はミラーホンとよく似ている。くぼみにはめ込んだ魔法石を使用するのではなく、あちらの世界のものは、十数桁の番号を組み合わせて、その番号と一致した識別を持つスマートホンと通話ができるというものだ。


 魔法石だとくぼみにはめ込める数だけしか通話相手は選べないが、数十桁の数字を組み合わせたものなら、友達が百人いても余裕の数になる。


 そういえば、とユーリは思う。自分が住んでいるエルファメラの世界と、マンガの世界である科学世界では、道具の呼び名が似ているものが多い。それどころか食べ物の名前や長さの単位はまったく同じだ。


 おかげでマンガを読んでいて例えば、『オムライス』という食べ物が出てきたら、「ああ、卵をつかったあの料理だな」とすぐに理解できるし、『オムライス』の味を思い出して、無性にオムライスを食べたくなることがあったりする。


「うらやましそうに見てるな、学生」


 シグルスが話しかけてきた。


「ええ、まあ」


 ミラーホンを持っている姉がうらやましいのは事実だが、今はオムライスの味を想像して喉を鳴らしたタイミングだったので、ユーリはあいまいに頷いた。


「ミラーホンは学生には高値の花だからな」

「そうなんです」


 学生でもミラーホンを持っている生徒はいるが、高い品物であり、学生に持たせるのはまだ早計、という考えが強いため、持っている生徒は少数派だ。それに授業中はミラーホンの使用は禁止されている。

 だからこそ、ミラーホンを持っている生徒はみんなにうらやましがられる存在でもある。

 とはいえ、


「ミラーホンを持っていても友達の誰もミラーホンを持っていないので、通話する相手がいないというのが現実なんですけどね」

「まあ、そういうもんだろうな」


 そんな会話していてたらエルダが報告を終えてミラーホンを閉じた。ほっとため息を付き、背もたれに背中を預けるエルダにユーリは質問した。


「中央は何か言っていた?」

「魔物を半年も放置していたアクティの教会は、近いうちに中央からなんらかの処罰がくだることになったわ」


 ユーリはアクティの教会の横柄な態度だった司祭を思い出した。

 シグルスがわざとらしく身を引いて言う。


「おお、怖いねぇ」

「私たち聖職者は赴任した土地を守る義務があるの。それを怠ったなら、処罰されるのは当然のことよ」


 そういう姉の姿はいつもの姉とは違い、ユーリに、聖職者であることの誇りと威厳を感じさせた。普段の生活ではみることのできない姉の一面だ。


「それに、中央から一日しか距離のない土地に、ポイズンケロンなんて魔物が住み着いていたことを懸念していたわ」


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