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アクアディア聖国物語  作者: 中嶋千博
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ユーリ、自分の治癒魔法がいつもより威力があることに気づく

「少しやられました」


 アルベルトが声をあげる。アルベルトの両こぶしは赤くただれていた。さらに戦いの最中に、ポイズンケロンの毒をかわしきれず、右脇腹に当たってしまい、そのあたりは身に着けている衣類ごとただれていた。胴体を一度ポイズンケロンに舌に巻きつかれたが、無事だった。舌には毒液の分泌はなかったようだ。


 ユーリが前に出た。


「治癒魔法をかけるよ。ちょっと腕をあげて」

「ああ」


 アルベルトの怪我をしている箇所に、魔法杖かかげるユーリ。


「癒しの神キュアレスの加護を

 傷ついた者を

 汝の慈悲なる力をもって

 癒したまえ


 治癒せよ」


 ユーリが呪文を詠唱している途中から、アルベルトはみるみる自分のただれた皮膚が治っていくのが分かった。


 ユーリが最後の呪文の言葉「治癒せよ」と言うときには、すでにただれた皮膚の怪我は完治していた。


 今の今まで怪我をしていた証に、健康な皮膚の上に、血のにじんだボロボロの衣類が重なっている。


 ユーリは治癒魔法を発動しているときに、今までとは違う感覚を感じていた。

 魔力の消費スピードが早いのだ。

 自分がいきなり魔法レベルがあがったのではなく、今まで使用していた学生用の魔法杖と父が若いときに使用していたという実戦用の杖の違いだと、すぐに分かった。


 魔力の消費スピードが速いにも関わらず、安定した治癒魔法が出来るのは、右手首にはめたチャームについている緑の石のおかげだ。

 杖を持っているときには気づかなかったが、杖を握り締めたときに、手のひらのくぼみにちょうど位置するようにその緑の石は収まった。

 杖を左手に持ち替えて、右手の平を見てみると、トップの形に小さくくぼみができていた。

 緑の石には治癒魔法の魔力を少し高める効果がある。その効果を実感する。


 左手で緑の石を触ってみると、太陽の光を反射してきらりと輝いた。その輝きはユーリの脳裏にふと、母親の面影を思い出させた。母親をなくしたときの悲哀の感情がよみがえり、続いて母親のぬくもりを思い出して暖かい気持ちになる。


「今度はこぶしを治療するよ」


 ユーリはふたたび右手に杖を構えると、杖の先をアルベルトのこぶしにかざした。

 ほどなく赤くただれたアルベルトのこぶしも治った。


「ありがとう。助かった」

「僕はできることをしただけだよ」


 ユーリは言うと、エルダのほうを見た。


「姉さん、やっぱり実践用の杖は違うね。緑の石の効果も実感したよ」

「どこか違和感はない?」

「いつもより魔力をとられるスピードがはやいけど、これくらいならたぶん、大丈夫だよ」

「それならよかったわ」

「なるほどヒーラーがパーティにいると心強いな」


 シグルスがユーリの頭をごりごりとなでた。


「頼りない学生だと思っていたがなかなかやるじゃねえか」


「シグルスさん、痛いです」

「悪い悪い。思った以上におまえさんが役に立っているのでな。うれしくてよ」


 言って豪快に笑シグルス。ユーリは困ったような笑みを浮かべた。

 正直、本当に困っていた。自分は褒められるようなことては何一つしていない。

 自分の身だけを考えて、ポイズンケロンにこっちに来るなとまで思ったのだ。レイクやアルベルトはそういう思いを感じさせずに、自ら戦う態勢を取っていたのに。

 ユーリは自分自身の嫌な部分に気づいて落ち込んだ。


 エルダが控えめにレイクに声をかけた。


「レイク、まだ魔力に余裕はある?」

「はい。――三分の一くらいはあります」

「浄化を手伝ってくれる?」

「はい、もちろんです」


 生命に害を与える物質に干渉しその力を無効化、さらには生命の活性化を促す魔法である『浄化』を使えるのはこのパーティの中ではエルダとレイクだけなのだ。


 あたりには、八体のポイズンケロンの亡骸がところどころに転がっている。

 ポイズンケロンは亡骸になってもその表皮を覆う酸の体液は健在で、亡骸を中心に、草木が枯れ、池の水も一部が再び汚染されている。


 二人は一番近くにあったポイズンケロンの躯に、両手の平を向けて、呪文の詠唱を始めた。


「聖なる神ホーリーの加護を

 清き汝の光によりて

 穢れを霧消せん


 浄化せよ」


 ほのかな光が両手から放たれ、魔物の亡骸を包み込む。するとその亡骸と流れ出た毒液は白く輝き始めた。浄化されているのだ。ほどなくして、亡骸があった場所には、白い灰が残るだけとなった。それも風にふかれてどこかに飛んでいく。


 それを八体全部に施す。最後のほうはレイクは辛そうだった。途中でエルダはレイクに休むように言ったが、「ここまでやったから最後まで手伝わせてください」と聞かなかったのだ。


「これで、この池は本当に大丈夫ね」


 安堵の声を漏らし、エルダはみんなを振り返る。


「念のため、もう一度池を目視で確認してから戻りましょう」

「はい」

「分かりました」

「はいよ」

「分かったよ」


 それぞれが頷き、あたりに散る。

 ユーリはさきほどのように一人で行動したりはせず、エルダの後をついて行った。


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