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アクアディア聖国物語  作者: 中嶋千博
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ユーリ、魔物とのバトルに参加する

 エルダが剣と魔法を駆使して戦っていたが、シグルスは大剣一本で戦っていた。

 シグルスの持つ大剣は両刀で、剣自体の重みがあるため、斬るという役目のほかに、打撃としての攻撃力もある。

 そこにシグルスの剣技が加わり、ポイズンケロンたちは、あっけなくシグルスの手に落ちていった。


「シグルスさん、やっぱりすごい人だったんだな」

「あんなに大剣を振り回して、疲れないものだろうか」


 自分の剣技では、ポイズンケロンの皮膚を少ししか傷つけることができなかったレイクはシグルスの剣の腕がどれほどのものなのか理解できた。

 槍を得意とするアルベルトは、それこそ槍のように大剣を振り回すシグルスの馬力に瞠目していた。


「姉さんたちが倒してくれそうだね。安心したよ」


 ユーリは心から安堵した。この調子なら、ポイズンケロンたちを一掃するのも時間の問題だろう。

 と、シグルスと戦っていた一体のポイズンケロンが、厄介な相手から逃げるためか、それとも今戦っている相手よりも弱いと判断したのか、こちらに一気にジャンプしてやってきた。


「うわあぁ」


 二人の騎士が自分達の武器を向けて構える。レイクは剣を、アルベルトは槍を。

 自然とユーリを後ろにかばうように、二人の騎士が前にでる陣形になる。


「ユーリ、加速の魔法をお願いするよ」


 レイクに言われて、ユーリはエルダに同じ指示を出されていたことを思い出した。


「え、あ、うん、そうだった」


 ポイズンケロンはすぐに襲うことはせず、三人のうち、誰から襲おうか品定めをするようにこちらを見ている。


 ユーリが魔法の詠唱を始める。


「時の神クロノスの加護を


 彼の者の時の流れを

 変えよ」


 詠唱は続いていて、加速の魔法が発動しないうちにポイズンケロンが動いた。身を沈めジャンプの体制をとる。

 自分たちを飛び越え、ユーリを襲うつもりだと判断したレイクは、ぼろぼろの刀身を脇がまえにし、剣先を突き刺すような体制で飛び出した。

 ポイズンケロンの頭を狙う。ポイズンケロンは身体ごと移動して、剣の突きの狙いを頭からそらし、わざと背中をみせる。

 レイクの剣はその背中を突き刺そうとし、皮膚の奥まで入る前に、刀身が折れた。


「なんだって?」


 いくら刀身がぼろぼろになっているからといって、突きの攻撃で剣が折れるとは思わなかった。

 ポイズンケロンが身体ごと倒れるようにレイクに迫る。レイクはぎりぎりのところで、その攻撃を避けて、再びポイズンケロンと対峙した。

 


「求める速さは

 太陽、月、太陽


 加速せよ」


 ユーリの魔法の呪文が完成し、レイクに向かって杖を振るう。杖の先から魔法の光が出現して、その光がレイクを包み込む。


 魔法の光を浴びたレイクの身体が内側からほのかに光りはじめた。


「レイクの速さは通常の一.五倍になっている。一分は持つよ」

「ありがとう、ユーリ。

 とはいえ、武器が本当に使えなくなってしまったよ。まあ、他にも戦う方法はあるけどね」


 言っている先に、ポイズンケロンがレイクに体当たりをしてきた。


 加速の魔法がかけられたレイクはそれを簡単に避け、避けざま、右手をポイズンケロンの脇腹に向かって一閃した。

 ユーリにはその手に何か武器らしいものをもっているように見えた。


「やっぱり、これじゃあ、傷の一つもつけられないか」


 悔しそうに右手に持っている小刀の形をしたものに目を当て、次にはそれをポイズンケロンに投げつけた。


「ゲロ」


 まったくダメージがないことを笑うように一声鳴くポイズンケロン。


「レイク、今のは?」

「略式魔法で造った氷の小刀だよ。略式魔法じゃ、やっぱり厳しいね。はやくエルダさんとシグルスさんがこっちに来てくれないかなぁ」


 レイクはいまだ向こうで戦っている二人の様子を一瞬だけ目を向けて確認した。向こうは後、三体だった。


「二人がここにやってきてくれる時間だけ稼げればいいんだけどね」


 レイクは自分達がポイズンケロンを必ずも倒せるとは思っていない。そもそも武器が使用できない時点で勝算は一気に激減する。


 自分は氷の魔法を使えるから、それを使用することはできるが、相手が火の魔法に弱いということは、水の魔法には強い、と考えたほうがいい。


 突然、どこからか飛んできた握りこぶしよりも大きい石がポイズンケロンの右肩のあたりにあたった。


「ゲロ……」


 思わぬところから思わぬ攻撃を受け、ポイズンケロンはうめいた。

 石を投げつけたのはアルベルトだった。


「時間を稼いでやる。自慢の氷の剣を出せ」

「ありがとう、アルベルト」


 レイクはアルベルトに向かってにかりと笑った。


 アルベルトはエルダから武器の使用を控えるように指示を受けたが、仲間が魔物と戦っているのを黙ってい見ているだけの性分ではなかった。

 幸い、自分は重い盾や槍を振るうために、体力をつける稽古は人一倍してきたつもりだ。

 だから体力には自信があった。

 自分の手のひらよりも大きい石を次から次へと投げつけていく。


「加速せよ」


 ユーリの加速魔法がアルベルトにもかかった。

 それはアルベルトにとって絶好のタイミングだった。


「グェ!」


 ポイズンケロンは斬撃よりも打撃が苦手だった。人間の石の投石の攻撃は、ポイズンケロンにとては蚊に刺されるようなわずかなダメージだが、地味に痛い。だから、そんなダメージを与える人間を先に倒すことにした。


 アルベルトは背後を取られた瞬間嫌な予感がし、その場から横飛びに逃げた。

 今の今でアルベルトがいたとこに、ポイズンケロンは人間でいう耳があるあたりから何か液体みたいなものをシュッと放出していた。


 それはあてるべき対象物を失い、そのまま地面に飛び散る。

 すると液体を浴びた草木がみるみる枯れる。避けていなければ自分の身体がこのようになっていたのだ。


「あぶなかったな。加速の効果がなかったらやられていた」


 ポイズンケロンの戦い方がだんだん分かってきた。遠くからのジャンプしてその重さを利用しての攻撃。接近戦では、その場からの体当たり。少し離れた相手には、舌を絡めて引き付ける。

 そして、今の隠し技のような毒液の噴射。

 アルベルトはそれらを頭の中で分析しつつ、体当たりをしてきたポイズンケロンの攻撃をかわす。

 武器がなくとも、俺は戦える。


「攻撃が単調すぎるんだよ」


 こちらを向いたポイズンケロンの顎におもいっきりアッパーをかけた。ポイズンケロンの顎は脂肪なのか強い弾力性があり、アッパーの威力が四方に分散していくのがわかった。

 予想通り、巨体はびくともしない。

 かわりにアルベルトの拳の表面の皮膚がひりひりしていた。打撃の痛みよりはポイズンケロンの表皮の体液によるものだろう。

 もっと悲惨な状況をイメージしてため、この程度ならしばらくは体術で戦っていけそうだと判断する。


 ポイズンケロンの舌がアルベルトに伸びる。頭をかばうために、掌底を突き出す。しかし、間に合わず、身体に舌を巻きつけられた。


 加速の魔法をかけられるというのに、それでも追いつけなかった。ものすごい速さだ。


「くそっ」


 どうにか振りほどこうとするが、身体に幹付いた舌はぴくりとも動かない。


「はぁっ!」


 レイクの氷の剣がポイズンケロンの舌を断ち切った。アルベルトはすぐさま自分の体に巻き付いている舌をふりほどいた。


「遅いぞ」

「ごめん。アルベルト、大丈夫?」

「ああ、すこしひりひりするけどな」


 レイクが氷の剣をふりあげ、ポイズンケロンに立ち向かっていった。

 アルベルトもファイティングポーズをとると、その後を追う。


 レイクの剣技は加速魔法をかけられているため、ポイズンケロンに攻撃を許さない。

 アルベルトの拳はポイズンケロンに大きなダメージは与えないが、微々たるものではあっても確実にポイズンケロンの体力を奪っている。


 そのうち目が慣れてきたかの、さきほどは見切れなかった舌の攻撃も、受け返すことはできないが、避けることはできるようになった。

 と、レイクにかかっていた加速の魔法が切れ、レイクがまとっていたほのかな光も消えた。

 レイクは後ろに下がり、呪文を唱え始めた。

 ユーリがレイクに追加で加速の魔法をかけようとするのを、レイクは手の仕草で止める。

 どうして加速の魔法を遠慮するのかユーリには分からなかったが、黙って様子をみることにした。


 ポイズンケロンはレイクに注意を払おうとするが、アルベルトがそれを許さない。両こぶしを振り上げ、蹴りもくわえて、ポイズンケロンを引き付ける。

 レイクの魔法が完成した。

 それを気配で感じたアルベルトがポイズンケロンから離れる。


「氷の神アイスレイナに願う


 それは数多の氷

 拳よりも固き塊


 我は創造する

 氷の礫」


 先のとがった氷の塊が数十個と出現し、ポイズンケロンに降りかかる。

 いくつのもの氷の塊が積み重なってできた小さな氷の山ができた。


「やった?」


 レイクが誰にともなくつぶやく。氷の塊が動いた。そして、中からポイズンケロンが姿を現した。


「効いていない? 俺の最高魔法なのに!」


 呆気にとられるユーリ達をあざ笑うように、ポイズンケロンは鳴いた。


「ゲロゲロ」


 レイクとアルベルトはすぐさま戦闘態勢に入った。レイクは手に氷の剣を出現させ、アルベルトは赤く炎症している両こぶしを構える。

 ユーリだけは何もできなかった。目の前にたたきつけられた「勝てない」という事実に呆然としていた。


 ポイズンケロンが一歩、歩みを進める。

 お願いだから僕のところにはこないで! ユーリは心の中で必死に訴えた。


 ヒュン、と風を切る音が聞こえたかと思うと、ポイズンケロンの脇腹に斧が突き刺さっていた。さきほどシグルスが別のポイズンケロンに投げつけた斧だった。

 ユーリたちが斧が投げつけられてきた方向をみると、肩に大剣を担いだシグルスが散歩でもするかのように余裕気な足取りでこちらにむかってきていた。


 シグルスの大剣はすでに炎をまとっていない。最初の戦いから三分以上が経過しているのだ。


 ポイズンケロンはわき腹に刺さった斧を足を使って払い落すとシグルスに向き直った。斧は最初の攻撃ですでに刃先がやられていたが、今回のことでますます使い物にならない状態になった。


 ポイズンケロンは得意のジャンプでシグルスに襲い掛かる。その距離は二十メートルほど。シグルスはポイズンケロンの飛躍する軌道を見切ると、ポイズンケロンがまだ宙にいる間に、肩に担いでいた剣を上段に構えた。


「はっ!」


 シグルスの剣が、剣先が届かないところにいるポイズンケロンに向かって切り下される。

 剣先から一陣の目の見えぬ刃が飛び出し、空中にいるポイズンケロンを襲う。

 ポイズンケロンは地面に着地すると同時に、左右に真っ二つに別れ、絶命した。


 レイクはシグルスの剣技に驚きと尊敬の声をあげた。


「す、すごい……」


 アルベルトも短く頷いた。


「さすがだな」


 二人の若者の騎士は、シグルスという傭兵の実力を目の当たりにして驚き、同様に感銘を受けていた。

 そこに自分が戦っていたポイズンケロンを倒したエルダがやってきた。


「シグルス、見事だわ。さっきのは奥義の一つよね」

「そうだ。『風斬』というんだ。剣の間合いでは届かない相手を倒す技だ。それに剣を傷めなくてすむという利点もある」

「そうね。それが使えるならわたしの炎の加護もいらなかったわね。余計なことをしちゃったかしら」

「通常は剣の間合いで戦うのが定石だ。エルダの炎の加護は助かったぜ。今のは、炎の加護も斬れたし、ちょうどいい間合いだったから出したんだ。

 簡単にあっちでもこっちでも出していたら、奥義でもなんでもなくなってしまうだろ」

「それもそうね」


 肩をすくめて小さく笑いながらエルダは相槌を打つ。シグルスは自分の大剣の刃の様子を確認してから、鞘に納めた。


 その動作をぼんやりとみていたユーリはようやく戦いが終わったことを実感する。エルダが仲間に問う。


「みんな、怪我はない?」


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