表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アクアディア聖国物語  作者: 中嶋千博
17/415

ユーリ、魔物とのバトルに戸惑う

 シグルスは炎をまとった大剣を振り上げて、一番近くにいたポイズンケロンに躍りかかった。


 そのポイズンケロンはシグルスの動きに反応できないうちに、正面から左右に真っ二つにされた。



 自分の身体が左右に別れたことに気づかずに、歩みを進めようとして思うように進まず、


「ゲロッ?」


 と疑問の声を上げたのがそのポイズンケロンの最後の声となった。


 エルダに向かって一体のポイズンケロンが襲ってきた。そのポイズンケロンは三十メートルもの距離を一息にジャンプしてエルダの元までやってきたのだった。


 エルダは自分に向かってやってきたポイズンケロンに向けて、詠唱を省略して火球を放つ。


「火よ!」


 通常、魔法を発動させるためには、詠唱が必要だ。

 詠唱の最初の言葉で、魔法契約をしている神や精霊に自分の声を聞きいれてもらい、その後に続く詠唱を紡ぐ間に、心の中で魔法を構築していく。


 魔法のレベルが低いと詠唱の言葉が神や精霊の元で届かなかったり、心の中で魔法の構築がうまくできなかったりする。

 それらが未完成のまま魔法を発動した場合、不発に終わるか、発動してもその威力は弱いものになる。


 魔法レベルを高めたければ、練習をひたすら繰り返すしかない。

 詠唱を省略し、即座に発動したい魔法を発動するには、その一言で神や精霊に自分の声を届け聞き入れてもらい、その一言を発する間に、心の中で魔法を構築できるということなのだ。

 さらに今回エルダが発動した「火球」は「炎塊」よりも魔法構成が簡単だ。

 ポイズンケロンは空中にいるため火球を避けることができない。火球をくらったポイズンケロンは火球で軌道を若干ずらしながらも、エルダのすぐ目の前に着地する。

 火球が当たった左腕の皮膚は焼けただれているが、ポイズンケロンに痛みを感じている気配はない。


「わたしの火球をくらってすずしい顔をしているなんて、なかなかやるわね」


 もしかしたら、ポイズンケロンはポイズンケロンで、やけどの痛みで顔をしかめているのかもしれないが、人間のエルダにはただの巨大なカエルの顔にしかみえない。


「けれど、これならどうかしら? はぁっ!」


 エルダはポイズンケロンに一気に踏み込み、炎をまとわせた剣で袈裟切りする。

 ポイズンケロンはそれを見切って避けるが、避けたところに今度は、水平に剣を振るう。

 そのエルダの攻撃をポイズンケロンは、エルダを飛び越えて避けた。

 すぐさま後ろを向いて剣を構えるエルダ。

 エルダの背後から、後ろから別のポイズンケロンが長い舌を鞭のように飛ばしてきた。

 それを気配だけで悟り、エルダは振り返りざま、剣を振るう。

 刀身にポイズンケロンの舌が幾重にも巻き付いた。ポイズンケロンの舌は、そのぴんと伸ばされた状態の舌を横から断ち切ることは簡単だが、巻き付いた場合は切断するのが難しいようだ。


「力比べになりそうね」


 エルダは勝ち気な笑みを浮かべた。


 レイクとアルベルトがエルダ達が戦う場所から下がりながら、ユーリと合流するべく移動していた。ユーリも二人の元に向かう。

 と、ユーリの目の前に、いきなりポイズンケロンが現れた。ユーリの目からはそう見えたが、ユーリの死角から大きくジャンプしてきたのだ。


「うわあっ!」


 ユーリは蛇に睨まれた蛙のようにその場で固まった。

 剣の自由を対戦相手のポイズンケロンに奪われていたエルダの視界の端に、今にも別のポイズンケロンに襲われそうなユーリの姿が映る。

 弟の危機に、エルダは再び詠唱を省略して魔法を発動させる。


「炎よ」


 発動させた魔法は「火球」ではなく、「炎塊」。

 命中すれば、さきほどのように一発でポイズンケロンを火だるまにすることができる。

 不意打ちを食らったポイズンケロンはまともに、背中に炎の魔法攻撃を受け、その場で身もだえした。

 背中についた火を消そうと必死に地面に背中をこすりつける。


 ユーリは火だるまになるポイズンケロンを、一歩も動けず、見つめていることしかできなかった。


 火に焼かれ、苦し気に鳴くポイズンケロン。いくら魔物とはいえ、なんと残虐な光景なのだろう。この世の地獄を見ているようだ。目をそらしたいのに、恐くてそらすことができない。

 まばたきもできないユーリの眼球から地獄絵図が脳内に記憶されていく。


「ユーリ、早くこの場を離れるんだ」


 駆けつけたアルベルトがユーリの手を取って起き上がらせた。


「う、うん……」


 余計な事に気を回す暇はないぞとばかりに、エルダの剣を自分の長い舌で巻き付けたポイズンケロンが、舌を退く力で思いっきりエルダを引き寄せた。


「っく……」


 エルダは両足を踏ん張って耐える。それでも両足が地面を三十センチほどするように引っ張られる方向へと引きずられる。


「はあぁぁぁっ!」


 気合の声をあげ、その場で剣に巻き付いたポイズンケロンの舌ごと、ぐるんと大きく振り回した。

 遠心力で舌とつながっているポイズンケロンの身体も振り回され、近くにいた別のポイズンケロンに勢いよくぶつかる。


 二体のポイズンケロンが立て直すより先に、エルダが呪文を唱える。


「火の神イフリータに願う

 我が声を聞き

 言葉を具現化せよ


 すべてを焼き尽くし

 白き灰とする

 紅蓮の炎


 炎塊」


 略式魔法でなく、魔法の詠唱からの発動。その分、威力も大きい。それは二体のポイズンケロンに飛んでいった。


「グエエエェ!」


 火だるまになる二体のポイズンケロン。


「さて、次の相手はあなたね」


 エルダは次の獲物となるポイズンケロンに向き合った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ