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アクアディア聖国物語  作者: 中嶋千博
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ユーリ、エルダたちと再会する

 レイクがあわててエルダとソレイユに向き直った。


「挨拶が遅れました。申しわけありません。ただいま、戻りました」

「お二人ともお元気そうでなによりですぅ」

「姉さん、ソレイユさん、久しぶりです」

「堅苦しい挨拶はなしよ、レイク。それにあなたたちが返ってくることはミラーフォンで逐一報告をもらっていたから気にしないで」


 エルダは嬉しそうにユーリたちを見つめた。


「みんなが無事に水の宝珠を持ってきてくれて安心したわ。

 水の宝珠を狙う者たちはわたしたちが引き受けていたけれど、どこから情報がもれるか分からないからね、気が気じゃなかったわ。

 水の宝珠目的ではなく、普通に追剥に狙われることだってありえたのだし」

「大変な役をエルダさんやソレイユさんたちが担ってくれたから、俺たちは気楽な旅行みたいな気分で戻ってこれたんです。心から感謝しています」


 ラナも言った。


「あたしもいろんなものが見れて楽しかったわ」

「学生旅行みたいでしたよ。久しぶりに若いころの自分を思い出しましたぁ」

「何を言っているのよ、ルリカ。あなたは充分若いじゃない」

「そうですかぁ、えへへ」


 ルリカは肩をすくめて笑った。

 ユーリとレイクは改めて心の中で誓った。絶対に、エルダにルリカの歳を伝えてはならないと。

 童顔で、その顔に似合わず胸だけは充分に成熟しているルリカ。見た目は十代半ばの少女。間違っても二十歳を過ぎた女性には見えない。エルダはルリカのことをその見た目のままだと思っている。

 しかし年齢は二十三歳。二十四歳のエルダとは一歳しか違わないのである。


 意図的に、ユーリは話を切り替えた。


「アンナは今、どこに泊まっているの?」

「ミスティと同じ宿よ。ミスティは事の次第を見届けたいといってね、中央に逗留しているのよ」


 レイクは思い出したようにアンナに聞いた。


「そうだ、任務中、アルベルトは大丈夫そうだった? 大きな怪我とかは?」

「大きな怪我はしなかったと思うわ。それより彼、任務の後半なんて、ミスティと良い感じになっていたわね」


 アンナの言葉に食らいついたのはルリカだ。


「なになになに、アルベルトとミスティができたんですかぁ」

「どこまでの関係になったかは分からないけれど……」

「ルリカ、人の恋路に興味本位でつっこんじゃ駄目よ」


 エルダが嗜める。


「はーい」


 ルリカはぺろりと舌を出した。

 その横で、ソレイユがぼそりと口の中でつぶやいた。


「人の恋路に興味を示すなんて、若いなぁ」


 そういえば、とユーリは思い、エルダ、ソレイユ、どちらにする質問ともなしに、質問した。


「シグルスさんやエイジさんは、まだ中央にいるの?」


 ユーリの質問に、ソレイユが答えた。


「エイジは報酬をもらうと同時に出て行ったぜ。本物の水の宝珠が安置された礼拝堂を見たいが、おまかたちが戻ってくるまでまだ時間がありそうだから、その間に観光地で有名なルイカワサを見てくるんだと」


 レイクが思い出したというように口を開く。


「そういえば、エイジさんはこの国に観光に来たって言ってましたね」

「ああ」 ソレイユは頷いてから話を続ける。


「シグルスはまだ中央にいるぞ。しばらくこの町でゆっくりするそうだ」

「それならまた、近いうちにまたみんなで会えるかもしれませんね」

「ご苦労さま会とかしたいですぅ」


 ソレイユは苦笑いを浮かべた。


「できたらいいたろうな」


 グランデが近づいてきた。

 グランデはユーリたちの前で立ち止まると、ふかぶかと頭をさげた。


「みなさん、この度はお疲れさまでした。あなたたちのおかげでこの国は救われました」

 ユーリは「国を救った」だなんて大げさな気がして、身体がむずむずした。

 レイクがきりりとした口調で答えた。


「無事に任務遂行できて安堵しています」

「任務は完了しました。聖職者のレイクさん、ルリカさんには特別報酬を。ユーリ君にはほかの協力者の方々と同じ額だけの報酬を出させていただきます」

「特別報酬をいただけるんですね。ありがとうございます」

「ありがとうございます。うれしいです」


 レイクとルリカは顔を輝かせた。戸惑ったのはユーリだ。


「僕ももらえるんですか?」

「もちろんですよ。捜索隊の一員して、教会に協力をしてくださったのですからね」


 グランデは自分のやや後ろに控えていたイザークに目配せした。イザークはささっとグランデに三通の封筒を差し出した。グランデはイザークからその封筒を取ると、レイク、ルリカ、ユーリの順に手渡した。

 今すぐにも中身を確認したそうなレイクとルリカだが、最高神官を目の前にしてどうにか自重していた。

 ユーリは思いがけないお小遣いを得て、ますます戸惑うばかりだ。


 そんな三人の様子に気づかないふりをしてグランデは言った。


「騎士のレイク、司祭のルリカは明日、一日休暇をとったのち、明後日九時に出社するように。今後の予定を伝えします」


 レイクとルリカは頷いた。


「はい」

「分かりましたぁ」


 グランデはユーリに目線を移した。


「ユーリ君は、このまま家に帰ってかまいません」

「あ、はい」


 次にグランデはラナに声をかけた。


「ラナさん」


 ラナはグランデに目線を向けた。グランデはラナの水色の瞳と目が合うと、少したじろいだように身を引いたが、すぐに再び前にでた。


「先ほどは申しわけありませんでした。わたしの思い違いで聖職者を愚弄されたと思い、言い過ぎてしまいました」

「思い違いは誰にでもあることよ」


 それに、とラナは言葉を続ける。


「あたしが馬鹿なのは本当のことだもの。今まで学校に行ったことがないのだし。それから、田舎者だということも本当のことよ」


 グランデは顔をあげると、にこりと微笑んだ。


「知識はこれからでも得ることができますよ」


 ラナは頷いた。


「そうね。いろんな勉強をしたいものだわ」

「わたしはラナさんに協力することができます。

 すでに知っているでしょうが、わたしはアクアディア教会の最高神官という立場です。同時にアクアディア学院の校長でもあるのですよ」


「それがどうかしたの?」


 何が言いたいのか分からないというように、不思議そうな表情を浮かべるラナに、グランデは分かりやすく説明した。


「最高神官とは教会の行事に対する大きな決定権を持っている役職です。

 学院の校長というのは、文字通りの学院で働く職員の中では、一番権限の強い立場なんですよ」

「そうなの。そんな人があたしに協力するというのは、なぜ?」

「今回のことで、ラナさんにいろいろと聴きたいことがあるのです」

「それなら、あたしもあなたのような立場の人に聞きたいことが沢山あるわ」

「それでは、ゆっくり話せる場所に案内しましょう」


 グランデはエルダとソレイユのほうをみた。


「あなたたちも自分の任務に戻ってかまいません」


 エルダとソレイユは答えた。


「はい」

「かしこまりました」


 グランデは二人に頷き返すとラナを促した。


「さあ、ラナさん」


 ラナはユーリたちのほうを見た。何かもの問いたげなユーリの目線と自分のそれが重なる。そんなユーリを安心させるようにラナは微笑んだ。


「じゃあ、ちょっと行ってくるわね」


 言って、自分に背を向けるラナを見て、ユーリは急に不安にかられた。このままラナと会えなくなりそうな気がしたのだ。

 待って、ラナ。行かないで。


 ユーリはグランデに質問した。


「グランデ校長、ラナをどこに連れて行くんですか?」

「座ってゆっくり話ができる場所、つまり会議室です」

「僕も一緒に行っていいですか? ラナ一人だけだと、校長先生に失礼なことを言うかもしれないし、言葉が足りないこともあると思うので」


 ラナがきっとユーリをにらみつけた。


「失礼とはなによ。そういうユーリのほうがあたしに失礼よ」

「あ、そんなつもりはなんいだけど。ごめん。ラナ」


 ユーリはラナに謝ると、再びグランデに言いつのった。


「僕はラナと一緒に旅をしてきたので、ラナの言いたいことを具体的に補完することができると思います。僕が一緒にいたほうが話はスムーズに運ぶと思いますよ」

「ユーリ君はラナさんのことが心配なんですね。しかし心配は無用です。何も取って食おうというのではない。ただ、お話がしたいのです。ラナさんの言葉で、ラナさんの思っていることを。だから、あなたは一緒についてこなくていいですよ」


 そこまで言われは引き下がるしかない。


「そうですか……」


 まだ納得できていない表情を浮かべるユーリに、グランデは追い打ちをかけた。


「ユーリ君も、早く家に帰ったほうがいい。家の人も心配しているでしょう。早く元気な顔を見せてあげなさい。

 さあ、ラナさん」

「ええ」


 再び立ち去ろうとするラナとグランデ。


「ちょ、ちょっと待って、ラナ」


 再びユーリはラナを引き留めた。


「何?」


「ラナは今日、どこで休むの?」


 外はすでに暗い。ラナのこの後が気になった。


 すかさずグランデが答える。


「こちらで休む場所は用意するから心配しなくていいですよ」

「そう、ですか……」

「心配しないで。またね、ユーリ」


 グランデに連れられて礼拝堂を出ていくラナを、ユーリはただ黙って見送ることしかできなかった。


 エルダがユーリの肩にぽんと手を置いた。


「そんなに心配しなくても大丈夫よ」

「うん……」

「ユーリは先に家に帰りなさい。わたしはこれからまだやることがあるから。父さんも今日はまだ仕事をしていると思うわ。夜ご飯は作っておいたから、食べ終わったらお皿だけは洗っておいてね」

「うん、わかった」


 ユーリは返事をして、礼拝堂を出て家に足を向けた。


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