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アクアディア聖国物語  作者: 中嶋千博
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ユーリ、ラナとアンナの再会を喜ぶ

「みなさん、落ち着いてください」


 グランデは声をあげた。

 しかし、すぐには静かにならなかった。

 女神アクアミスティアと会うことができて、水の宝珠を盗んだ罪人がその罪を許され、さらにはアクアミスティアの力を一部授けられるのを見たのだ。これで興奮しないはずがない。


 グランデは声を張り上げた。


「静かにしてください」


 ようやく口を閉ざし、聖書者たちはそれぞれ最初の位置に移動した。


「アクアミスティア様のご意向により、罪人の罪は許されました。反論がある方はいますか?」


 グランデはその場にいる人々に視線を動かした。


 誰も何も言わなかった。反論があったとしても、神様の意向に意見を申し立てることなど、できるわけがない。そのことをもちろんグランデも知っているが、人間社会で手続きをすんなりと通すために、聞かなければならないことだった。


「反論はないようですね」


 グランデは言葉を切り、ラナに視線を映した。


「ラナさん、あなたは自由です」


 罪を許された本人こそが一番戸惑っている。


「本当にいいの?」


 グランデは頷いた。


「アクアミスティア様に感謝の祈りを捧げなさい」


 それからグランデは、この場にいる全員に、水の宝珠が盗まれていたことを秘密にしていたように、ここに水の宝珠が戻ってきたことも秘密にするようにと指示を出した。

 それからイザークに柱のように高い台座を低くするように指示を出した。


「それでは解散します」


 グランデの言葉に、この場に集まっていた聖職者たちがぞろぞろと礼拝堂を出ていく。


「ラナ!」


 アンナが駈け出してきて、ラナに抱きついた。


「アンナ!」


 ラナもアンナの背中に腕を回して抱きしめた。

 アンナはラナと背丈も同じくらいで、髪型も同じようにしているため、ラナとアンナが一緒にいると、本当に姉妹のように見える。


 ラナはアンナから体を離してから、聞いた。


「元気そうね。道中、大丈夫だった? 心配していたのよ」

「大丈夫よ。いろんなことがあったわ。話したいことがたくさんあって時間が足りないくらい。あら、ラナ、あなた、瞳の色が……」

「瞳って?」


 ラナは聞き返した。アンナは答えようとしたが、その前に、レイクとユーリが声をかけてきた。


「アンナ、久しぶりだね」

「元気そうでよかった」


 アンナは二人に笑顔を向けた。


「二人とも元気そうね。よかったわ」


「アンナさん、今までお疲れさまでしたぁ」

「いえいえ、ルリカたちのほうこそ、大役だったでしょう。わたしはただ、馬車に乗っていれはいいだけだったけれど、ルリカたちは自分の足でここまで来たんだもの。乗合馬車の乗り継ぎだって大変でしょう」


 ルリカは泣き顔になって、アンナの両手を取った。


「そうなんです、そうなんです、分かりますぅ? 乗合馬車の乗り継ぎに失敗して、歩いたこともあったんですよぅ。わたし、歩くの嫌なんですよぅ」

「そ、そうよね。女の足だときついよね」


 アンナは同情しながらあいづちを打った。

 レイクが申し訳ない表情を浮かべた。


「そんなに嫌だったのかぁ。ごめん、ルリカ」

「あなた騎士なら、辛そうなルリカをおぶるぐらいの懐の広さを示したらよかったのに」

「言ったさ、言った。おぶってあげるよって。けれどルリカはしぶったんだ」

「あら、そうなの」


 ルリカとレイクを見比べ、


「まあ、分からなくもない」


 と一言。


「何が分からなくもないだよ。どういう意味だよ、それ」

「女たる者、簡単には殿方の背には乗らないのです」

「そういうことです」


 アンナの説明に、ルリカがうんうんと頷いて合いの手を出す。


「乗ってもらってよかったんだけどなぁ。それで減るものがあるわけじゃあなんいだし」

「減ります。見えない女の醸し出す格式が!」

「なんだ、そりゃ」


 呆れたようにレイクは言うと、あらためてアンナをしげしげと見つめた。


「アンナ、少し太ったんじゃない?」

「あら、そう? 最近ごはんをたくさん食べているからかしら。いつもおなかが空いているのは嫌だけれど、ごはんをたべすぎて太るのも嫌ねぇ」


 アンナは自分の太り加減を確認するように頬に手を当てた。

 ユーリは言った。


「健康的でいいんじゃないかな」

「そうよね。何事も健康一番よね」


 言ってからアンナはユーリを見つめてにやにやした。


「エルダがいつもユーリこと話してくれたわ。ユーリの話ばっかりするから、話だけでユーリのこと、好きになっちゃったわ」

「ええ?」


 ユーリはどきりとした。


「話の中のユーリのことよ。だから気にしないで」

「そ、そう」


 相槌を打ちながら、ユーリは安堵するような残念のような複雑な心境になった。

 アンナはラナを見た。


「ラナ、どうしてそんな目でわたしを見るの?」

「アンナが誰を好きになるかはアンナの自由よ。けれど、今、なんだか、心がざわついたのよ」

「どうしてかしらね」

「分からないわ」


 本当に分からないというようにラナは小首をかしげた。

 そこに、エルダとソレイユが、ユーリたちに話しかけてきた。


「みんな、おかえりなさい」

「元気そうだな」


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