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アクアディア聖国物語  作者: 中嶋千博
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ユーリ、現在位置を確かめる

 ラナが言った。


「もうすぐ中央なのよね」

「もうすぐというか明日か明後日かってところだよ」


 レイクが荷物をかき回して、地図を取り出した。


 窓際にある机の上に広げる。ユーリたちは地図の周りに集まった。


「ここが俺たちのいるアレットの町。で、ここが中央だ。明日はまずここ、アクティの町に向かう。アクティはここから馬車だと三時間くらいの距離だよ。

 アクティの町は東西と来たに伸びる街道沿いにあるから、人の出入れも多い。ここで中央に向かう乗合馬車に乗り換えて、レイトの町まで向かう。アクティからレイトだと六時間くらいか。レイトの町から中央までは馬車で四時間くらいの距離だ。だから、明日はレイトの町に泊まって、次の日、中央に到着って感じかな」


 ルリカがしみじみと言った。


「ということは、みんなと一緒に旅をするのは、あと二日ということですねぇ」

「そうだね」


 ユーリたちはしんみりとした心境になった。

 そんな雰囲気を変えるようにレイクが明るい声で言った。


「よし、食事にいこう」

「少し早いけれど、そうしましょうか」

「ここに来る途中に屋台が並んでいる通りを見つけたんだ。そこに行ってみない?」

「いいですね。屋台って見て回るだけでも楽しいですし」

「この町ではどんな料理があるんだろう。楽しみだよ」

「料理がおいしければどこでもいいわ」


 ユーリたちは宿の外に出た。

 そこは中央通りから、細い道に別れる通りにあった。

 たくさんの屋台が道をはさむように並んでいる。そして、時間的に仕事を終えた人たちで、賑わっていた。


「レイク、よくこんなところ見つけていたね」


 ユーリはこの町に着いたとき、宿屋を探すのに目が行っていて、こういう狭い道は、眼下に入っていなかったため、レイクの目の付け所に驚いた。


「見たときから気になってたんだよね」


 レイクは自慢げに笑った。


「うわあ、おいしそうな匂いがしますぅ」


 人びとがひしめく細い通りを歩きながら、屋台を冷やかし、ユーリたちはそれぞれ自が気になった食べ物を手にいれた。

 ユーリは野菜とベーコンをはさんだサンドイッチ。ラナは鳥のもも肉を揚げたものとパン。レイクは牛の串焼きと、ユーリとは違う具がはさんであるサンドイッチ。ルリカはフルーツジュースとふわふわのパンだった。

 空いている席を探すのに右往左往して、ようやく席に座るユーリたち。


「食事処でゆっくり食事をするのもいいでけれど、たまにはこんなふうに屋台で食事をするのにも、楽しいですね」

「そうだね。それに目の前で作ってくれるとおいしく感じるなぁ」

「この肉、おいしいわ」

「ルリカ、そんなんで足りるの? 肉がないじゃないか」

「今日は一日中、馬車に乗っていて体を動かさなかったんですから、これくらいでいいんです」

「いざという時、身が持たないわよ」

「街道を乗合馬車で移動して中央に向かっているだけなんですよ。魔物と戦うことがあるわけではないので、いざというときはそうそうありません」


 隣りの席に座っていた男二人組がビールをひとあおぎして言った。


「ふはぁ、仕事の後の一杯はうめぇなぁ」

「この時のためだけに一日頑張って仕事をしているようなものだしな」


 そんな大人の会話を聞いたレイクが言った。


「俺もビールが飲みたくなってきた」

「えっ? やめとおいたほうがいいよ」


 ユーリはあわてて止めた。


「なんだよ、たまにはいいじゃないか」


 ルリカがほわんと聞いてきた。


「レイクは飲める人なんですかぁ?」

「まあ、ほどほどにね」

「ほどほどどころじゃないよ。レイクは飲むと、くどくなるじゃないか」


 シグルスとレイクとアルベルトが酒を飲んだときのことを思い出してユーリは、なんとしてでもレイクが酒を飲むのを止めなければと思った。


「へええ。レイクはくどくなるんですかぁ」


 レイクは心外だとばかりに口をへの字にした。


「そんなことはないぞ。俺は飲んでも変わらないよ」

「ふーん」

「そういうルリカは飲んだらどうなるのさ」

「わたしはお酒は飲めるけど好きこのんで、飲むわけじゃないんですよねぇ」

「飲めるなら一緒に飲もうよ」


 ラナが質問した。


「そんなにお酒っておいしいの?」

「ラナは飲んだことないの?――ていうか未成年だから無理か」

「興味はあるわ」

「よし、未知なる冒険だ。飲もう」

「いいの?」

「ばれなければいい!」


 ルリカが怒りをこらえる声で言った。


「レイク、それくらいにしておきなさい」

「うわっ。今の口調、エルダみたいだった」

「こんな感じだから忘れがちですけど、わたしたちは任務の最中なんですよ」

「ルリカの言う通りだ。酒はお預けにする。その分、中央に着いたら思う存分飲むぞ」


 腹も満たされ、宿屋に戻る。戻りがてら、乗合馬車の停留所で、出発時刻を確認する。

 アクティの町に向かう乗合馬車は、早い時間では六時から出ていた。


「さすが中間都市アクティですね。本数も多いしですし、ここから仕事でアクティに通っている人もいるんでしょうね」


 ユーリは納得した。


「なるほど」


 ラナがルリカに質問した。


「八時以降になると、本数が減るのは利用する人が少なくなるから?」

「そういうことです」

「混雑するのは時は七時から八時の間くらいだろう。混雑する時間をずらして八時十五分の馬車にしない?」

「いいと思います。混んでいる馬車に乗るのは疲れますし」

「僕もそれでいいよ」

「任せるわ」

「よし、八時十五分で決まりだね。八時だったら、明日の朝はゆっくりできるよ」


 宿屋に戻ると、その後はお互いに好きなことを過ごした。レイクとラナは自分の武器の手入れ。ルリカは肌の手入れ。ユーリは姉のへ報告にとりかかった。

 懐からミラーフォンを取り出す。ミラーフォンの扱いも慣れたものだ。


「順調に移動はできているみたいね」

「うん。明日はレイトの町に泊まって明後日の午後には中央に戻れると思う」

「分かったわ」


 簡単な報告と短い会話。

 ここでも旅が終わりに近づていることをここでも実感する。

 話したいことはたくさんあるが、何もミラーフォンごしに話すものではない。もうすぐ会えるのだから、直接会って話せばよいという気持ちが働いたのだ。


 この日はみんな、早めに就寝した。

 次の日の朝、朝食を食べて身支度をし、ゆっくりと停留所に向かったら、乗合馬車が定刻に出ていた。

 次の乗合馬車が来るのは、三時間後の昼の時刻だ。


 ルリカが困った表情を浮かべた。


「考えが甘かったですぅ。ここはもう都会の感覚なんですねぇ」


 レイクも頷く。


「時間厳守なんだもんな」


 ラナが言った。


「次の町まで歩きましょう。今歩いても、昼にでる馬車を待っても、アクティの町に着くのは同じくらいの時間になるもの」

「俺はそれでもいいよ」

「僕も」


 レイクが頷き、ユーリも賛同した。


 ルリカが少し嫌な顔になったが、すぐに表情を取り繕った。


「みんなの意見に賛成しますよぅ」


 が、一時間も歩いた時に、


「馬が欲しいですぅ」


 ルリカが弱音をはいた。

 ユーリが言った。


「あと二時間くらいだよ」

「そんなに歩けません」


 レイクが気づかわし気な表情を浮かべる。


「俺がおぶってあげようか?」

「ええ?」


 ルリカは驚いてレイクを見つめ、動揺するように目線を左右に揺らした。


「うう……」


 ルリカの中で何かと何かが葛藤しているらしい。


 そこに、商人の馬車が通りかかった。向かう方向は自分たちと同じだ。


「ちょっと待ってて」


 素早くラナは馬車に近づいた。近づてきたラナに気づいて、馬車がとまる。


 ラナは御者に話しかけ、御者は馬車ののぞき窓を開けて、馬車に乗っている主人に何やら説明する。

 馬車の窓があき、そこから恰幅のいい男が顔を出した。


 ほどなくしてラナが戻ってきた。


「護衛をするかわりにただで乗せてもらえることになったわ」

「ラナ、そんな交渉をしていたの?」

「クランシェから中央に向かう時にも使った手よ」


 そして馬車の上の人になったユーリたち。


「アレットとアクティの間の距離とはいえ、護衛がいるのとないのとでは心配の度合いが違うから助かるよ」


 がははははと気さくに笑う商人の男。シルクスタという機織りで有名な町で絹製品を仕入れ、南部にあるルイカワサの町に卸しに行く途中だという。

 護衛役として馬車乗り込んだが、魔物にも、賊にも襲われることなく昼時、アクティの町にたどり着いた。


「短い間だったが、話し相手ができて楽しかったよ。良い旅をな」

「ありがとうございました。おじさんも良い旅を」


 すぐさまレイトの町に向かう停留所を探すユーリたち。アクティの町は中間都市ということもあり、停留所もたくさんあった。ようやくレイト行の停留所を見つける。


 ルリカが懐中時計を取り出した。


「十二時半の馬車はもう行ってしまいましたね。次の馬車は十四時です。これに乗るとレイトの町には十九時に着くことになりますね」


 ユーリが言った。


「夜の十九時だなんて、中央から離れたところなら、移動を控えるところだよね」

「都会に近づいているってことさ。それに乗るしかないな」

「そうだね」


 切符売り場で切符を購入する。


「さあ、昼めしでも食べるか」

「わたしは、池の様子を見に行きたいから、ここで待ち合わせということでお願いいたいわ」

「それは俺も興味があるな。ポイズンケロンが再び出現していないか気になるし」

「僕も行くよ」


 ルリカが質問した。


「池とか、ポイズンケロンっていうのはなんですか?」


 レイクがルリカに説明すると、ルリカはぱっと目を輝かせた。


「わたしも水の宝珠の力できれいなったその池を見てみたいです」

「問題は時間だよなぁ」

「池まではどれくらいかかるんですか?」

「二十分くらいよ。往復だと一時間をみたほうがいいわ」

「それなら大丈夫ですよ。まだ一時間以上余裕がありますし。昼ごはんは馬車の中で食べてもいいですしね」


 話は決まり、ユーリたちは池に向かった。


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